ニュース

東北大ら、大型高純度な窒化ガリウム単結晶基板の生成技術

GaNを用いた縦型パワートランジスタの模式図

 東北大学多元物質科学研究所は6月1日、株式会社日本製鋼所および三菱ケミカル株式会社との協力で、2インチ以上の高純度な窒化ガリウム(GaN)単結晶基板を量産可能な結晶作製法「低圧酸性アモノサーマル法」を開発した。

 電力を動力に変換したり、高周波の電波を増幅するなど、電力の変換効率を向上させる技術が求められている。これに対して、電力制御を行なうパワートランジスタの半導体材料として従来のケイ素ではなく、炭化ケイ素やGaN、ダイヤモンドなどを利用する手法が注目されている。

 なかでもGaNは、禁制帯幅(バンドギャップ)が3.4eVと広いことに加え、高い絶縁破壊電界や速い飽和電子速度を持つため、高出力かつ高周波で動作する縦型パワートランジスタへの応用が期待されている。一方で、GaNトランジスタの土台となるGaN単結晶基板が入手しづらいため、リーク電流が少なく信頼性の高いパワートランジスタの作製が困難だった。

LPAAT法を用いて2種類のGaN種結晶(HVPE、SCAAT)上に作製された2インチサイズのGaN単結晶基板(左)と、結晶構造特性およびフォトルミネセンススペクトル(右)

 研究グループでは、GaN単結晶基板を作製する手法として新たに「低圧酸性アモノサーマル法(LPAAT: Low-pressure acidic ammonothermal)」を開発した。すでに実用化されている高圧の超臨界流体アンモニアを用いた酸性アモノサーマル法(SCAAT)と比べて、低圧で結晶が成長させられるため、比較的小さな結晶成長炉を利用した大型結晶の量産が可能となる。

 SCAATによるGaN種結晶上にLPAAT法を用いて長さ2インチのGaN単結晶基板を作製したところ、対称/非対称面のX線ロッキングカーブの半値全幅が28秒以内と結晶モザイク性が低く、曲面半径が約1.5kmと基板の反りがほとんどない良好な結晶構造特性が確認された。

 加えて、結晶成長炉に使われる銀やニッケルが混入するのを防ぐため、炉の内壁を銀でコーティングし、不純物の低減を図った。低温フォトルミネセンス測定を行なったところ、GaNの励起子遷移の発光が確認できる程度の優れた結晶性と高い純度が実現されていることもわかった。

 今回開発されたLPAATを利用すれば、大口径で反りが少なく、かつ高純度なGaN単結晶基板が作製可能となるため、信頼性の高いGaN縦型パワートランジスタの実用化が期待される。研究グループでは、内径120mm以上の大型炉に本手法を適用し、4インチ以上の大口径で優れたGaN基板の実現に向けて研究を進めるほか、LPAAT法で作製したGaN単結晶の電気的な特性を東北大学や筑波大学の持つ特殊計測技術で定量化し、性能の向上を目指すとしている。