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Microsoft、Win32とUWPの2つのAPIを再統合する「Project Reunion」

~WinUI 3に統合され、開発者は新しいアプリケーションを開発可能。EdgeやTeamsも機能強化

新しいWinUI 3で作られたアラーム/時計アプリ

 米Microsoftは、5月19日午前8時(米国時間、日本時間5月20日午前0時)から5月20日にかけて、同社の開発者向けイベント「Build 2020」を開催している。本来であれば本社がある米国ワシントン州シアトルなどで開催される予定だったが、COVID-19の世界的な感染拡大によりデジタルイベントとしてかたちを変更。午前0時からはMicrosoft CEO サティヤ・ナデラ氏などの同社幹部が登壇した基調講演が行なわれている。

 それに先立ってMicrosoftは報道発表やブログを公開し、Build 2020の発表内容を明らかにした。そのなかでMicrosoftはWin 32、UWP(Universal Windows Platfrom)という2つのAPIが併存していたWindowsの開発環境を統合する「Project Reunion」(プロジェクトリユニオン)の構想を明らかにした。開発者は「WinUI 3」という新しいAPIを利用し、従来のWin32、UWPのコードを利用して、容易にWinUI 3対応アプリケーションを開発できる。

 このほかにも、Chromiumベースの新しいMicrosoft Edgeの機能拡張、テレワークへの活用で注目が集まっているTeamsなどのMicrosoft 365の拡張などについても説明されている。

Win32とUWPという2つの併存するAPIをまとめる「Project Reunion」を発表

 Microsoft コミュニケーション(PR担当)執行役員 フランク・ショー氏は「Windows 10の利用率の向上、ユーザーがWindows 10をビジネスや学習、コンサートなどに使う時間が1カ月につき4兆分に達した。これは1年前の同時期に比べて75%の向上を実現している」と述べ、MicrosoftのPC用OSである「Windows 10」の利用率が、COVID-19の自宅待機などにより大幅に向上したことを明らかにした。

 現在PC業界はある種の特需のような状態にあり、とくにテレワークに対処する必要のある企業を中心に需要が増加している。それと同時に、実際にユーザーがWindows PCをオンにしている時間が増えており、それが昨年(2019年)同時期よりも75%増加しているというのだ。

 そうしたテレワークへの注目が集まるなかで、Windowsアプリを開発する開発者向けの新しいAPIを導入する取り組みとなる「Project Reunion」を発表した。現在のWindows 10では、従来よりWindowsで利用されてきたAPIとなる「Win32」と、Windows 8世代で導入されWindows 10からはUWPと呼ばれるようになったAPIが併存している。ユーザーからは前者は従来型のインストールプログラムで導入されるアプリ、後者はMicrosoft Storeから導入されるアプリとして見えている。

 こうした2つのAPIが併存してきたことに、Microsoftはさまざまな取り組みを行なってきた。代表的なものは「Desktop Bridge」と呼ばれる取り組みで、Win32や.NETなどにより構築されているアプリを、UWPのように変換(実際にはパッケージング化)して、Microsoft Storeで配布できるようにしている。たとえば、Microsoft Storeで配布されているAppleのiTunesや、AdobeのLightroom CCなどのアプリは、このDesktop Bridgeを利用してUWP化されているものだ。

 Project Reunionはそうした.NETなども含むWin32 API、UWP APIを1つに融合する取り組みだ。Win32やUWPのコードとの後方互換性を実現しており、Project Reunionを利用すると、NuGet(.NETのパッケージマネージャ)のような開発ツールを使わなくても、従来のコードを利用してアプリケーションを構築できる。

 MicrosoftはこのProject Reunionで導入する新しいAPIをWinUI 3と呼んでおり、今回のBuildでそのプレビュー1が公開された。WinUI 3に対応したアプリは、UWPと同じようにモダンUIを持ち、複数のタイプのデバイス(PC/HoloLens/Xbox/Surface Hub)などに対応できるようになる(つまりWindows Storeで配布可能になる)という。また、同時にWinUI 3のアプリにWebサービスの機能をより容易に実装するための仕組みである「WebView 2」に関してもプレビュー版の提供を開始する。

 開発者の開発プレビュー版へのアクセスはGitHubで行なわれる計画で、詳しくは以下のサイトなどを参照していただきたい。

WinUI 3 Preview 1
Project Reunion GitHub

Windows Terminal 1.0、WSLの強化、Microsoft Edgeの拡張なども発表

 MicrosoftはMicrosoft Search and the Microsoft GraphなどのMicrosoft 365のサービス統合機能をオープン化し、外部の開発者に公開することを明らかにした。開発者が自分のアプリにそうした機能を組み込むことができる。

 これまでこうした機能は、Microsoftのファーストパーティアプリケーション(たとえばOfficeやWindows本体など)にしか組み込むことができなかったが、今度はサードパーティのアプリケーションでもそうしたMicrosoft 365が提供する各種サービスを統合可能になる。

 このほか、Windows 10関連の拡張ではWindows Terminal 1.0の搭載やWindows Subsystem for Linux(WSL)の拡張などが明らかにされた。Windows Terminal 1.0は、コマンドプロンプトやPowerShellなどの代わりとして使える実行環境で、コマンドラインの実行ファイルや、Azure(Microsoftのクラウドサービス)のコマンドなどが実行できる。

 標準でUTF-8に対応しており、テキストレンダリングにGPUアクセラレーションが使えるなどの特徴を備えている。Microsoft Storeからダウンロードできるほか、GitHubからもダウンロードできる。

Windows Terminal 1.0
Terminal GitHub repo

 Windows Subsystem for Linux (WSL)の拡張では、GPUによるハードウェアアクセラレーション、Linux GUIのサポート、コマンドラインからの簡単なアプリのインストールなどの拡張が行なわれる。

 Microsoft PowerToysもバージョンアップされ、これまで公開されていた0.17のアップデート版となる0.18が公開される。0.18ではキーボードにキーの割り当て(Keyboard Remapper)機能が追加されるほか、「PowerToys Run」と呼ばれるランチャー機能が用意される。

 Microsoft Edgeにも機能追加が行なわれる。すでにMicrosoftは1月にChromiumベースの新しいMicrosoft Edgeの自動アップデート(ただしEnterpriseとEducationは除く)を発表していたが、これまでのところはまだ実施されていなかったが、今後数週間のうちにそれが実施に移される計画であることが明らかにされた(手動での導入はMicrosoftのWebサイトなどから可能)。

 今後のMicrosoft Edgeのアップデートとしては、Microsoft Edgeのアドオンサイトの改善(高速化、新しい検索機能やレイアウトなど)、Progressive Web Apps(PWAs、HTMLやJavaScriptなどの業界標準Web技術を利用して構築されているWebアプリ)の導入、新しいWeb技術を公開するテストドライブの取り組みとなる「Origin Trials」などがサポートされる予定。PWAsの導入では、WindowsのスタートメニューからPWAsのWebアプリを呼び出して実行可能。Origin Trialsでは、Windows InsiderとCanaryビルドのMicrosoft Edgeでflags(テスト機能を有効にするフラグのこと)で有効にすると利用できる。

コレクション機能にPinterestの統合
サイドバーサーチの高速化
同期機能の拡張

 このほか、コレクション機能にPinterestの統合、サイドバーサーチの高速化、Microsoft 365の「職場または学校アカウント」(Azure ADアカウント)を利用してMicrosoft Edgeにログインしているユーザー向けにオンプレミス環境でブックマークなどの同期を行なう機能、さらには個人用アカウント(Microsoftアカウント)とそうしたビジネスアカウント(職場または学校アカウント)の間で、URLに応じてアカウントを切り替える機能、Bing検索機能の強化などが追加される。

Teamsはカスタマイズ可能なテンプレートやNDIに対応した放送機能などによりさらなる拡張

 同時にMicrosoftは、同社の生産向上ツール「Microsoft 365」に関するアップデートを行なった。とくにテレワーク向けには、ビデオ会議やチャットなどの機能を統合しているTeams(チームズ)が注目を集めており、今回のBuildでもTeams関連のアップデートが多数明らかにされた。

 Teamsの機能拡張は、3月にも発表が行なわれており(Microsoft、「Teams」に会議中食事をしても咀しゃく音を消せる機能などを搭載参照)、今回はその得意に発表に加えて、新しい機能が追加されている。最大の拡張はチーム(Slackで言うところのチャネル)向けのカスタマイズ可能なテンプレートの提供が開始されることだ。

 たとえば病院向けのテンプレート、銀行向けのテンプレート……というかたちで産業別のカスタマイズ可能なテンプレートが用意されており、自分のニーズに近いテンプレートを利用してこれまでよりも容易にチームを構築できる。また、チャットボットもこれまでよりも容易に作れるようになり、チームに参加しているメンバーのサポートを容易に行なうことができる。

 オートメーション機能の追加も発表されており、PowerPlatformを利用したオートメーション機能、さらにはカスタムアプリやオートメーションワークフローなどの機能が追加される。こうしたオートメーション機能は、すでにSlackなどに実装されていたもので、同じような機能をTeamsでも利用可能になる。また、TeamsでPowerBIのレポートを簡単に共有することもできる。

 また、ビデオ会議関連の大きなアップデートとしては、スタジオ品質のオーディオやビデオを利用して、デジタルイベントを広範囲に配信できるようになる。具体的には新しいNetwork Device Interface(NDI、ロイヤリティフリーのIPベースの映像伝送インターフェイス)、Skype TX互換機能などがTeamsに実装される予定で、Teamsを利用してより高品質な映像や音声を配信することが可能になる。Microsoftによればこの機能は今後数カ月のうちにTeamsに実装される予定だ。

 このほか、昨年(2019年)対応が明らかにされたFluid Frameworkの実装Web版Outlookには新しいテキスト予測入力機能が実装されるなどの強化が行なわれる予定だ。