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全国高校eスポーツ選手権運営の舞台裏。大会成功のための取り組みを訊いてきた
2019年12月30日 11:00
株式会社サードウェーブと株式会社毎日新聞社は、12月28日~29日にかけて「第2回全国高校eスポーツ選手権」の決勝大会を開催した。
競技内容は「ロケットリーグ」と「League of Legends(以下LoL)」の2部門。4月から7月にかけて出場校の募集を行ない、両部門合わせて約140校、200チーム近くが参加している。8月に実施されたオンライン予選大会を経て、各部門で勝ち残った4チーム、計8チームがオフラインの決勝大会に進出した。12月28日にロケットリーグ部門、29日にLoL部門の決勝がそれぞれ行なわれている。
主催社の一社であるサードウェーブは、ゲーミングPCブランド「GALLERIA(ガレリア)」を軸として、さまざまなeスポーツ大会や各種イベントへ積極的に協賛している。では自社が主催する全国高校eスポーツ選手権において、高校生選手たちの華々しい活躍の裏方として、どのような取り組みを行なっているのか。ここでは、株式会社サードウェープのマーケティング統括本部 eスポーツマーケティング部の加藤祥一氏にお時間をいただき、大会運営の舞台裏や工夫しているポイント、また、サードウェーブが実施している「eスポーツ部 発足支援プログラム」についてお話をうかがった。なお、大会の様子は僚誌GAME Watchにて取材を行なっているので、そちらをご覧いただきたい。
――まず「eスポーツマーケティング部」とは、どういった部署なのでしょうか。加藤さんの簡単な自己紹介もお聞きできればと思います。
加藤氏(以下敬称略) ひとことで言えば、「eスポーツを通して、サードウェーブとGALLERIAを世の中に浸透させていく」部署です。僕がこの部署に入ったのは2年くらい前なのですが、その前はeスポーツの企画運営会社「RIZeST」に所属していました。おもな仕事はLJL(日本のLoLプロリーグ)運営のとりまとめですね。
一例を挙げれば選手やチームとのやりとり、ルールの設定、審判などです。その後、僕のなかでよりゲーマーのコミュニティに寄与できる活動をやりたい、という思いが強くなって、サードウェーブに転職しました。
――PCメーカーの立場から、コミュニティに寄与する活動をしたかったということですか?
加藤 eスポーツの選手って、多くはゲーマーコミュニティ出身なんですよ。僕が転職したころは、気がついたらプロになってた、みたいな子がまだまだ多くて。その子たちとイベントや試合で一緒に活動していくうちに、「この子たちがいるから、ゲームやPCの業界が成り立ってるんだな」ということを強く感じたんです。僕ももともとコミュニティでイベントに参加するのは好きだったので、メーカーならではのかたちでコミュニティにいる子たちを後押ししたかった。
ただ、普通は企業がコミュニティに直で奉仕することのメリットを説明するのは難しくて、それが売り上げにどうつながっていくのかを説明しなくてはならない。
でも、コミュニティ活動というのは、やればやるほど、コミュニティにいる人たちは「いろいろやってくれる〇〇社さんっていいよね」という評判が広まっていくので、そういうところをうまく攻めていきたいと思ったのが、「全国高校eスポーツ選手権」を企画したきっかけです。
――2018年に第1回目の「全国高校eスポーツ選手権」を開催してはじめて気づいた「難しさ」はありましたか?
加藤 運営のノウハウそのものは、プロの大会運営をしていたころとそれほど変わらなかったです。でも高校生が相手ということもあって、ゲーマーだったら当然わかってるだろう、という基礎的なことをわかっていない子がそれなりにいたので、その部分を教えてあげるのがそこそこたいへんでしたね。たとえば、「Discord」などの外部ボイスチャットツールの使い方がわからないとか、ゲーム自体はできるけど、Discordでボイスチャットするための部屋が立てられないといったことです。
あと気づいたところと言えば、高校生の選手たちについて個人的に感じたのは、プロとして活動している子たちよりも年若いせいか、純朴でキラキラしている感じの子が多いというところですね。それはすでにプロとして活動してる人とは目指すところが異なる、という前提の違いもあるかもしれません。
――第1回から体制を変えた部分はありますか?
加藤 とくにはないですね。前回参加してくださった子たちも多いので、むしろ説明の手間は少なくなっています。
――オンライン予選の試合はどのようにして回しているのでしょうか?
加藤:「Lobi Tournament」というトーナメントシステムを使って、各チームとやり取りしています。試合の開始時間を伝えたり、審判スタッフから注意点を伝えたりといった具合です。
――競技種目が「ロケットリーグ」と「LoL」の2つなのは、なぜなのでしょうか。ほかにも競技としてプレイされているタイトルはありますよね。
加藤:まず、プレイするのが高校生ということと、親御さんも試合を観ることを考えると、残虐な印象を与えるものは理解が得られないだろう、ということで、銃での撃ち合いとなるFPS系は避けています。そして、同級生や先輩後輩と切磋琢磨することをコンセプトにするならば、団体競技が望ましいということで、格闘ゲームも除かれます。
僕らはこの大会を文化にしたいと思っているし、新しいスポーツの文化として考え、定着させようという段階でプレイするのに望ましいもの、なおかつ、eスポーツ競技として観戦して楽しいものを考えると、今のところこの2つくらいしか選択肢がないんです。
――競技用PCのスペックを教えてください。
加藤 CPUがCore i7-8700、ビデオカードがGeForce GTX 1060、メモリ16GB、ストレージが250GB SSD+1TB HDDのデスクトップPCです。各学校に「eスポーツ部支援プログラム」で貸し出しているモデルと同じものです。ディスプレイはリフレッシュレートが144Hz対応の機種にしています。
――「eスポーツ部 発足支援プログラム」をはじめた背景についてお聞きしてもいいですか。
加藤 高校生に対してeスポーツを文化として根づかせるためには、学校に「部」というかたちでeスポーツを遊んでもらう土壌が必要でした。でも、普通は学校側でゲームが動くPCを何台も用意するのは難しいと思いますので、デスクトップPCを3台、ノートPCを2台の計5台、貸し出すようにしました。
学校で、部活動として、顧問の管理下でプレイしてもらうことによって、ゲームに熱中しすぎないようにすることも狙いの1つです。だから、僕らは貸与する対象を「学校」に限定しています。プログラムの利用校数は、昨年(2018年)の段階では78校でしたが、今年は120校を超えている状況です。
――大会をオフラインでやることの「良さ」は、どのあたりにあると思いますか。
加藤 やはりオフライン大会にはぜひ「来てほしい」ですね。オフラインのいいところは、そのゲームのことを好きな人がたくさん集まることだし、オンラインよりもずっと楽しいです。オフラインの試合って、選手の生の感情が発露する場でもあるので、それはオンラインにはない要素ですよね。僕も勝負に勝った、負けたで選手の感情が動くところを見ると、やっぱりうるっときますし。
ゲームは遊ばないけど、eスポーツは好きという人もいると思うんですよ。そういう人は、そういった人間的な部分が好きで見てくれているのかなと感じています。観戦によって人の喜怒哀楽を目の前で感じ取れるというのは、ほかのスポーツとなんら変わらないと思いますよ。
――いわゆるチートへの対策や対応について考えていることはありますか?
加藤 やはり選手とのコミュニケーションしかないのかなと思います。僕がLJLを運営していたときは、ルールを口頭で伝達するだけではなく、マニュアルも書いて配っていたんですよ。そこにはたとえば「スタジオに入ったら、知らない人もいるので挨拶をしましょう」とかそういうことが書いてある。それも渡すだけではなくて、選手や監督を呼んで、読み聞かせる。ということをしていました。それで明らかに心構えが変わっていく選手もいましたしね。
――「全国高校eスポーツ選手権」ではライブストリーミングも配信していますよね。差支えない範囲で構わないので、設備や体制などについて簡単にお聞きできるとありがたいです。
加藤 設備という点では、個人環境とはかけ離れたものがありますね。カメラ1つとっても全部で20台弱くらいはありますし。
ゲーム内カメラのカメラワークも重要です。これってゲームをやっていないとおいしいカメラポジションもわかりませんからね。だからスタッフには普通のゲーマーの人にも入ってもらっていて、ベテランのオペレーターに映すべき位置の指示を出しているということもあります。そういう意味では、普通の放送業界とはちょっと違います。
具体的な例を挙げれば、LoLであればカメラマンは実況解説の声を聴いていて、ジャングルに関する話をしているときはすぐにジャングラーの位置へカメラを飛ばせるようにしているし、ロケットリーグであればほぼサッカーなので、ネット裏にカメラを追加するなどをしています。実際のスポーツのカメラワークを参考にしたりもしています。
――今後、次回以降の「全国高校eスポーツ選手権」で、目指していきたい方向性とはどのようなものでしょうか。
加藤 参加してくれる学校を増やしていきたいですね。もっともっと、いろんな高校に参加してほしい。どんなかたちであれ「青春を感じる」というのはそのときにしかできないことだし、野球やサッカーで青春を送る子がいるなら、eスポーツで送る青春があってもいいはずです。それが彼らの思い出の1つになるように、もっと多くの高校生の青春をかけるに足る選択肢の1つに入るくらい、「eスポーツ」を大きなものにしていくのが僕らの役目だと思っています。