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SRAMの代替になる不揮発性SOT-MRAMの実用化で大きく前進

 指定国立大学法人東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターの遠藤哲郎センター長、および電気通信研究所の大野教授(現総長)らのグループは9日、実用化に向けたスピン軌道トルク素子(SOT)の開発、およびSOT-MRAMセルの動作実証に世界ではじめて成功したと発表した。

 半導体メモリでは、トランジスタの微細化に伴い、待機電力の増大が課題になっており、この問題を解決するために、スピントロニクス技術を使った不揮発性メモリに注目が集まっている。

 そのなかでも、磁石の向きで異なる抵抗値を示し、それによって0と1の状態を記録する磁気トンネル接合素子(MTJ)の応用が進んでおり、代表的なものとしてSTT-MRAMの実用化が進んでいる。しかしSTT-MRAMはナノ秒からサブナノ秒オーダーの動作に対応できず、CPUのキャッシュなどに使われるSRAMの代替にはならない。

 そこで、STT-MRAMの欠点を補完する技術としてSOT技術が提唱されてきたが、応用には半導体製造の配線工程で必要となる400℃以上の熱処理耐性が課題だった。また、期待される高速性能が得られることをCMOSウェハ上のSOT素子で実証し、実際にCMOSと組み込んでメモリセルの性能を実証する必要があった。さらに、10年のデータ保持を確保できる十分な熱安定性も得られなかった。

 今回同グループは、書き込みと読み出しで電流経路が異なる3端子型のメモリセル構造を有したSOT-MRAMを試作。これにより大きな動作マージンを得ることができ、高速動作を可能にした。

 情報の書き換えには、深見准教授らが開発した新しいSOT素子構造が用いられた。チャネル層であるタングステンに電流を導入することで生ずるスピン軌道トルクにより、それに隣接した強磁性体であるコバルト鉄ボロン層の磁化方向を反転。これによりデータを記録する。また、チャネル層に対してMTJを傾けることで、半導体集積回路応用に必須な無磁場での書き込みを実現した。

 研究では、内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)で培ってきたSOT素子技術と、同センターで開発した成膜技術、配線製作技術、反応性イオンエッチング技術を結集することで、0.35nsという超高速動作性能を示す素子の制作に成功。さらに、これまで達成できなかった400℃の熱処理耐性と、不揮発性記憶素子に十分な熱安定性を併せ持つことを実証した。これより、低消費電力で高性能なSOT-MRAMの実用化が現実的なものになったとしている。