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東北大、読み書きが同時に可能なデュアルポート型SOT-MRAMセルアレイの動作実証に成功

開発された4KBのデュアルポート型SOT-MRAMチップ

 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターおよび同電気通信研究所は6月15日、スピン軌道トルク型磁気トンネル接合(SOT-MTJ)素子を利用した不揮発メモリ「SOT-MRAM」チップを試作し、動作実証に成功した。

 コンピュータに用いられるメモリのなかでも、高速な動作が必要とされる箇所には半導体ベースの揮発性メモリがおもに使用されている。容量や速度の向上が図られてきたが、微細化によるリーク電流の増加などを要因とした待機電力の増加により、技術開発が困難になってきた。

 こういった問題を解決するため、近年では磁性体を用いた不揮発性メモリの研究開発が進められている。磁石の性質(スピン)で情報を記憶し、磁化方向に依存する電気抵抗の変化で情報を読み出すものをスピントロニクスと呼び、なかでも薄い絶縁体を磁性体で挟んだ磁気トンネル接合(MTJ)素子を用いたランダムアクセスメモリの実用化が進められている。

 このMTJ素子を応用した「STT-MRAM」は、MTJ素子に直接電流を流し、2つの強磁性体のうち片方の向きを反転することで情報の書き込みを行なうメモリ。CMOSと混載したさいにメモリセルを最小にできるため、混載フラッシュの代替として研究開発が進められているが、サーバーなどのハイエンド市場に展開していくためには、動作速度をナノ秒からサブナノ秒単位まで高速化する必要があった。

 そこで研究グループでは2019年12月に、MTJを使った磁気メモリ(MRAM)セルとして、スピン軌道トルク(SOT)磁化反転を利用した「SOT素子」を新たに開発し、無磁場での読み書きの実証に成功した。SOT-MRAMセルは、MTJの下部に用意したチャネル層に電流を流したさいに発生するスピン軌道トルクによって、隣接する強磁性体の磁石の向きを反転させて情報を記録するもので、その後も開発を進めてきた。その一方で、これまでの研究開発は素子や単位メモリセルレベルでの試作/動作実証に留まっており、実用化に向けてSOT-MRAMセルアレイの高速動作を達成する回路技術の開発および実証が必要だった。

室温・無磁場環境下における動作波形

 今回同グループでは、SOT-MRAMに関する材料/セル技術と、300mmプロセス集積化/製造技術を融合させ、高速なデータの読み書きが可能な32,768bit(4KB)のメモリセルを搭載したデュアルポート型SOT-MRAMチップを試作。動作実証に世界ではじめて成功した。

 このチップでは、書き込みと読み出しの電流経路が異なる3端子型のSOT-MTJ素子の構造を活用し、MTJ素子を使用したメモリとしては世界初のデュアルポート構成を実現。無磁場環境下において、60MHzの書き込みと90MHzの読み出しを同時並行で可能なことを実証した。SOT-MRAMの実用化に向けたさらなる前進となる。

 広帯域でのデータ処理が必要なFPGAやAIハードウェア向け不揮発性メモリへの応用が期待されるとしており、今後は先端MOS技術を利用したSOT-MRAMの開発を進め、SOT素子のもつナノ秒からサブナノ秒単位の高速動作を実現を目指す。