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8コア・5GHz常用も楽勝!? 第9世代Coreシリーズ・オーバークロックガイド

5.2GHz超えが楽勝ゾーンに。Core i9-9900K
今回のセッティング
クロック倍率52×100MHz
コア電圧1.37V(Fixed Mode)
CPU Load Line Calibration設定Level 1(最高設定)
その他設定リングバス=Auto、メモリ設定=DDR4-2666(CPU定格)
Core i7でも5GHz超え。Core i7-9700K
今回のセッティング
クロック倍率51×100MHz
コア電圧1.35V(Fixed Mode)
CPU Load Line Calibration設定Level 1(最高設定)
その他設定リングバス=Auto、メモリ設定=DDR4-2666(CPU定格)
TEXT:清水貴裕

OCしやすい印象の新世代Coreシリーズ

 AMDのRyzen 7に遅れること約1年半、ついにIntelのメインストリームCPUに待望の8コアモデルが投入された。従来より2コア増加しながら最大動作クロックが高く設定されており、8コア16スレッド動作のCore i9-9900Kは最大で5GHz、8コア8スレッド動作のCore i7-9700Kは最大で4.9GHzと、マルチスレッドとシングルスレッドの性能を高次元で両立しているのが特徴だ。

 第9世代Coreシリーズはアーキテクチャの根本が変わったわけではないので、クロックあたりの性能はCoffee Lakeから変わっていない。しかし、筆者がテストした範囲では、コア数が増えながらも6コア12スレッドのCore i7-8700KやCore i7-8086Kと同じレベルのオーバークロック耐性を有している。

 さらに、CPU内部の熱伝導材がグリスからソルダリング(ハンダ付け)に変更されたため、全コア5GHz以上での動作が達成しやすくなっている。

CPU内部の熱伝導材をソルダリングに変更

2012年に発売されたIvy Bridge以降、メインストリーム帯のCPUは内部の熱伝導材がハンダからグリスに変更されていた。Intelが充填しているグリスの熱伝導率は非公開だが、一般的なグリスは高性能な製品でも12W/(m・K)ほどだ。それに対し、ソルダリングで使われているインジウムの熱伝導率は81.8W/(m・K)と高い。
ソルダリングで接着されたCPUの内部はこのようになっている。こちらはIntel Core i7-6950Xを殻割りしたもの

第9世代を早速オーバークロック!

 Hyper-Threadingに対応し16スレッド動作が可能なCore i9-9900Kを5.2GHzまでオーバークロックしたところ、CINEBENCH R15のスコアはマルチスレッドが2,236cb、シングルスレッドが227cbまで伸びた。10万円オーバーのCore i9-7900Xの定格を超えるマルチスレッド性能と、約16%高いシングルスレッド性能を6万6,000円ほどの価格で実現できるのは衝撃的だ。

 電源回路の実装スペースが限られており発熱がすさまじいX299マザーよりも、レイアウトの自由度が高いZ390やZ370マザーのほうが電源回路の発熱も小さい。スポットファンで冷やしたり、本格水冷システムを組んで電源回路用の水冷ブロックを使ったりする必要もない。

 最上位のCore i9-9900Kに注目してしまいがちだが、2番手のCore i7-9700Kの性能にも注目したい。Hyper-Threadingに非対応の8スレッド動作ながら、全コア動作時に4.6GHzという動作クロックの高さが効いて、定格状態で12スレッド動作のCore i7-8700Kよりも約7%高いスコアを記録している。

 意外なのがOC時のスコアで、5GHz時に1,655cb、5.1GHz時に1,682cbと、同クロックまでOCしたCore i7-8700Kをわずかに上回っている。どうやら、Hyper-Threading有効での12スレッドよりも、物理コアの8スレッドのほうがマルチスレッド性能がわずかに高いようだ。

 原稿執筆時点で4個ほどCore i9-9900Kのサンプルをテストしているが、よい個体で5.3GHzでCINEBENCH R15のマルチスレッドテストをクリアしており、悪い個体でも5.1GHzでクリアしている。定格の最大動作クロックが5GHzだけあり、大半の個体でオールコア5GHz以上での動作は楽勝と思われる。

 Core i7-9700Kは1個しかテストしていないが、5.1GHzでCINEBENCH R15のマルチスレッドテストをクリアしている。コア数が増えているので発熱が増えてはいるものの、ソルダリングで熱伝導が改善されたことが効いているのか、OCCTやPrime 95などを使った超高負荷のストレステストや限界域でのベンチマークでも、1.3~1.35Vの範囲でCPU電圧を調整すると、温度が100℃に達してのサーマルスロットリングが発生することはなかった。ローエンドクーラーでは厳しいかもしれないが、ハイエンド空冷や28cmクラス以上の簡易水冷クーラーを使用すれば高クロックでの常用を達成しやすい印象だ。

検証環境

[LGA1151]マザーボード:ASUSTeK ROG STRIX Z390-F GAMING(Intel Z390)、ASUSTeK Z170-PRO(Intel Z170)、メモリ:Micron Crucial Ballistix BLT2K8G4D26AFTA(PC4-21300 DDR4 SDRAM 8GB×2 ※SkylakeではPC4-17000で動作)
[LGA2066]マザーボード:ASRock X299 Extreme 4(Intel X299)、メモリ:Micron Crucial Ballistix BLT2K8G4D26AFTA(PC4-21300 DDR4 SDRAM 8GB×2)×2
[LGA1150]マザーボード:ASUSTeK Z97I-PLUS(Intel Z97)、メモリ:Team TED38G1600C11BK(PC3-12800 DDR3 SDRAM 8GB×2)
[LGA1155]マザーボード:GIGA-BYTE GA-Z77X-D3H(Rev.1.0)(Intel Z77)、メモリ:Team TED38G1600C11BK(PC3-12800 DDR3 SDRAM 8GB×2)
[Socket AM4]マザーボード:ASUSTeK ROG STRIX X470-F GAMING(AMD X470)、メモリ:Corsair Vengeance RGB CMR16GX4M2C3000C15(PC4-24000 DDR4 SDRAM 8GB×2)
[共通]ビデオカード:NVIDIA GeForce RTX 2080 Ti Founders Edition、SSD:Samsung SM961 MZVKW512HMJP-00000[M.2(PCI Express 3.0 x4)、512GB]、Samsung SSD 850 EVO MZ-75E250B/IT(Serial ATA 3.0、250GB ※LGA1155環境のみ)、電源:Corsair RX1000x(1,000W、80PLUS Platinum)、OS:Windows 10 Pro 64bit
Premiere Pro CC:4Kクリップ7枚で構成したプロジェクトをH.264/H.265で出力するのにかかった時間、TMPGEnc Video Mastering Works 6:4Kクリップ7枚をトランジションで連結したプロジェクトをH.265、およびH.265/QSV(Intel Media SDK Software)で出力するのにかかった時間

Z390マザーでのOC設定のキモ

 Z370マザーから大きな変更がないので、Z390マザーでのオーバークロック設定はこれまでと同じ手順で行なえる。CPUコアとリングバスの電圧レーンが一つにまとめられたZ170以降のZシリーズチップセット搭載マザーの場合は今回の手順が使えるので参考にしてもらいたい。

 設定時のスタートラインだが、まずはCPUの全コア動作時のブーストクロックの100
MHz(CPU倍率で+1倍)上から始めると失敗が少ない。Core i9-9900Kだと4.7GHz、Core i7-9700Kだと4.6GHzが全コア動作時のブーストクロックなので、そこを目安にスタートしよう。CPU電圧は1.3V辺りに設定して、負荷テストをクリアするごとに+1倍ずつCPU倍率を上げていき、クリアできなくなるまで続けよう。

 クリアできなくなった時点でCPU温度が80℃以下の場合は、まだ昇圧する余裕があるので0.01V単位で昇圧を行ない、耐性に変化があるかを確認してみよう。そのさいに変化がなく、CPU温度が90℃を超えるようになった場合は、それ以上の深追いは禁物。どうしても上を目指したい場合は、クーラーをアップグレードしたり、ファンの回転数を上げたりなどして冷却を強化してから挑戦してみよう。

 マザーボードによってはOC時に電源回路が発熱しやすい製品もある。付属のユーティリティやUEFIで電源回路部分の温度が表示される製品もあるのでチェックしよう。90℃を超えている場合は耐久性に悪影響を与える上、電源回路が焼損する場合があるので電圧設定を見直したり、スポットファンで風を当てたりするなどの対策が必要だ。

 確認できない製品の場合は手を近付けてかなりの熱を感じるような場合は同じく危険だ。マルチコア化により電源回路への負担が増えた現在では、CPU温度だけでなく電源回路の温度もチェックするのがOC設定のキモだ。

利用したマザーボード。ASRock Z390 Taichi Ultimate
手順①CPU倍率の設定。全コア同クロック動作の設定がもっともポピュラー。「All Core」を選択してから、CPUの動作倍率を入力する
手順②リングバス倍率の設定。CPU内の各部をつなぐリングバスの動作クロックも性能向上につながる。上げてもCPU倍率と同じ値までにとどめておこう
手順③ベースクロックの設定。ベースクロックを変更するとメモリやリングバスの動作クロックも連動して上昇し不安定になるので手動で100MHzに固定する
手順④CPU電圧の設定。つねに一定の電圧が入力される「Fixed Mode」を選択。1.3V前後に設定すると耐久性の面でデメリットが少ない
手順⑤Load Line Calibrationの設定。高負荷時の電圧降下を防止する機能。効果の少ない設定が好ましい。ASRockマザーの場合はLevel 1に設定するとよい
手順⑥省電力機能の無効化。CPUのクロックや電圧が変動すると、高負荷時に不安定になる場合があるので無効化するのが安定性を確保する上でのキモ

告知

この記事の続きは発売中のDOS/V POWER REPORT2018年12月号でお読みいただけます。12月号の特集は「CPU、8コア標準時代、到来」。Intelの第9世代Coreシリーズの登場により、2007年から2016年まで長きにわたって4コアが標準だったメインストリームCPUのコア数は、2年余りで一気に2倍の8コアに。本格的なメニーコア時代の到来です。8コアのCore i9-9900K、i7-9700Kの登場でPCの自作はどう変わるのか。さまざまな角度から解説、検証を行ないました。