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32コアの“暴れ馬”はこう乗りこなす

~【DIY PC 02】第2世代Ryzen Threadripperで実現する超マルチコアPC

 メインストリームCPUが4コア、背伸びをして8コア……と言っていたのはわずか2年ほど前のこと。だが、今は32コア/64スレッドの「Ryzen Threadripper 2990WX」で超メニーコアPCが組めてしまう時代。論理64スレッドで何をするの? と問う奴は野暮の極みだ。確かにThreadripperはCPUの仕様もプラットフォームも普通のCPUと一味違う。安易に手を出せば火傷必至だが、ポイントさえ押さえれば普通の自作となんら変わりはない。どう組めばよいのか、どう乗りこなせばよいのか、パーツを手に試行錯誤しながら完成度を高めていけるのは、自作PCならではだ。前代未聞の32コアCPUの手なづけかたを解説する!

【Point 1】簡易水冷&大型ケース 万全の熱対策で挑む!

 Threadripper 2990WXマシンを組む上で、もっとも腐心すべきは発熱対策だ。TDP 100W程度のメインストリームCPUなら数千円のCPUクーラーで十分だが、破格のTDP 250Wともなればガッツリ冷やす必要がある。Threadripperの全力運転を支えるには、CPUのヒートスプレッダを完璧にカバーできるSocketTR4専用のCPUクーラーが欠かせない。超大型の空冷クーラーも出ているが、今回はビデオカードも巨大、かつCPUのVRM周辺の冷却が重要になるため、CPUソケット周囲に干渉しない簡易水冷タイプがベストと考えた。Threadripper 2990WXを運用するなら巨大簡易水冷が最適解と言えるだろう。

 そしてPCケースは、内部の空気をどれだけ動かせるかが重要。最近のPCケースはその点は心配ないが、今回はMasterCase H500Pが持つ20cm径×2のフロントファンに頼ることにした。冷やしたい場所に小さいファンを固定するのは見せるタイプのPCケースには似合わない。

 このプランでは、組み込むさいには特別なテクニックはいらない。むしろパーツ選びこそがもっとも高いハードルだ。

Enermax Technology LIQTECH TR4 ELC-LTTR240-TBP。Threadripperを冷やし切ることにのみ注力した、SocketTR4専用簡易水冷。36cmラジエータモデルもあるが、今回は機材調達の都合で24cmモデルを利用した。ファンの回転制御には、水冷ヘッドではなくマザーの回転制御を利用
ThreadripperのヒートスプレッダはどのCPUよりも巨大。接地面の広い専用のクーラーが確実だ
ラジエータは天板配置なのに天板はアクリルカバー。冷却は大丈夫なのか心配だったが、大きめの給気スリットがあるので問題なし。むしろホコリが直接入り込まないので安心か
MasterCase H500Pのフロントにある20cmの大口径ファンをきっちり回せば、中に熱気がこもる心配もない。PWM4ピンの延長ケーブルを確保しておくと、ケースファンの配線が取り回しやすくなるのでオススメ

【Point 2】32コアの暴れ馬の制御に苦悶する

 コア数の多いPCが輝く使い方と言えば、CG製作や動画編集といったマルチスレッド処理が多用される用途だ。とくに計算量勝負になるCGレンダリングはThreadripperの独擅場。Blenderで重めのシーンをレンダリングしても、CPU全コアにキッチリ100%負荷がかかり、あっという間に処理が終了するさまは感動すら覚える。

CGレンダリング系処理では64基の論理コアをすべて使い切ってくれる。CINEBENCHのマルチスレッドスコアが高いのはこのためだ

 ところが、エンコード系処理では意外な結果が。Premiere Pro CC 2018で編集した再生時間1分の8K動画を、Media Encoder CC 2018でMP4形式で書き出させても、体感的にはRyzen 7 2700Xと大差ない。CPU占有率を見ると、64コアの半分も使っていないことが分かった。Threadripperのコア1/2モード(16コア32スレッド)で動かすと、Blenderは1.5倍以上の時間がかかるのにMedia Encoder CCはほとんど差が出ず、H.264とH.265では後者のほうが処理の並列度が低いことも分かった。むしろLightroom CC 2018のシャープネス処理のほうがCPUをしっかり使ってくれている。32コアの暴れ馬は、ひどく乗り手(アプリ)を選ぶのだ。

 最近の大作系ゲームもCPU負荷が大きいが、これも2990WXの実力を10%も使わない。4~6コアだと全コアフル活用するアサクリでも、32コアはまったく使い切れていいないのだ……。

その一方で、Media Encoder CCでのエンコード処理は2990WXの1/2~1/4程度しか活用していない。とくにH.265ではほぼこんな状態で、低負荷なコア、仕事をしていないコアがいくつもある。アプリ側の改善が必要なようだ
アサシン クリード オリジンズ実行中のCPU占有率。物理4コアCPUではかなりキツめなのだが、2990WXにしても結局はコアを余らせるのみ。ゲームには向かないようだ

【Point 3】32コアでもできる! オーバークロックに挑戦

 Threadripperのオーバークロックは、倍率と電圧を盛る定番の手法と、Precision Boost Overdrive(PBO)を利用することで行なう。PBOは、CPUのTDPや電流制限などの上限値を突破する必要があるため、UEFI上で手動で変更しておくのがオススメだ。

 OC中は温度管理が重要だ。従来型OCの場合、倍率40倍/コア電圧1.35VでCPUやVRM温度が100℃近くまで上がるが、PBOを利用するとCPU温度は70℃弱で頭打ちに。手動設定すればもっと上げられるが、やがて熱ダレするのでほどほどに。PBOは設定が難しくないので、うまく使ってみよう。

Micro-Star International MEG X399 CREATION。2990WXを使うなら第2世代Threadripper発売後に登場した製品がオススメ。19フェーズ電源ならTDP 250WのCPUをOCしても安心
通常運転時でも発熱量が多いVRM部に、大型のヒートシンクとバックプレートを装備してるのもこのマザーを選定した決め手
CPU倍率40倍で4GHz動作はできたが、CPU温度が100℃近くになるとダレてくるコアが出現する。手動設定は温度管理が難しい
UEFIでPrecision Boost Overdriveを有効化。さらに、PPT Limitを740W、TDCとEDC Limitを480Aに設定すると、全コア3.4~3.6GHzで動作させることが可能となった
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