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理研、「1,000兆分の1秒」単位で電子ビームのパルス幅を測定できる手法を開発
2018年9月3日 19:03
理化学研究所は8月31日、光速近くまで加速された電子ビームの時間幅の計測法を開発したと発表した。
計測法を開発したのは理化学研究所 放射光科学研究センターの井上伊知郎基礎科学特別研究員と矢橋牧名グループディレクターらの共同研究グループで、電子ビームから放射されたX線を、分光光学素子によって単色度を変化させながら強度干渉現象の程度を計測することで、電子ビームの時間プロファイルを計測できることを理論的に示したとする。
近年、高品質な電子ビームを利用した自己増幅自発放射(SASE)方式によって、赤外線~可視光までの通常のレーザーよりも短波長な、X線領域のレーザーを生成できることが示されたことで、米国「LCLS」、日本の「SACLA」といったX線自由電子レーザー(XFEL)施設が建設された。
このXFELの特長の1つは、発光時間の幅(パルス幅)がフェムト秒(fs/1,000兆分の1)と非常に短いことで、この短いパルス幅を活かし、化学反応過程の解明、放射線損傷の影響を排除したX線結晶構造解析などの研究が行なわれてきた。
XFELを発振させる電子ビームの時間幅を制御できるようになると、XFELの発光時間の幅(パルス幅)を実験の目的に応じて柔軟に変えられるようになるが、これまでの電子ビーム診断技術では、電子ビームの時間幅を10fs以下の精度で測定することが困難だった。
共同研究グループは、「強度干渉現象」と呼ばれる光の高次のコヒーレンス現象に着目し、電子ビームから放射されるX線を用いることで、電子ビームの時間構造の計測を実現したという。
SASE方式では、光速近くまで加速された電子ビームをアンジュレータ(磁石の列)に通すことでX線を発生させているが、電子ビームの各位置でそれぞれX線が発光するため、XFELのパルス幅は電子ビームの時間幅と同程度となる。
この電子ビームから放射されたX線強度は、時空間で均一ではなく、強度干渉現象のために“ムラ”が生じる。X線のパルス幅とコヒーレンス時間が同程度の場合には、光の空間プロファイルに粒状の強度ムラが残るが、X線のパルス幅がコヒーレンス時間よりも十分に長い場合には、光の空間プロファイルは滑らかになる。そのため、X線を分光光学素子によって単色度を変化させながら空間プロファイルの滑らかさの程度を計測することで、X線パルスの時間波形を求められる。
アンジュレータの長さが十分短く、XFELが発振していない状態では、X線強度の時間波形は電子ビームの電子密度の時間波形と形状がほぼ同一になる。したがって、強度干渉現象を利用してX線パルス幅を測定することで、電子ビームの時間幅を求めることが可能となる(X線強度干渉法)。
このX線強度干渉現象の原理に基づいて、SACLAの電子ビーム(アンジュレータを1台だけ使用)の時間プロファイルを評価したところ、実際に計測法をSACLAに応用した結果、その電子ビームの時間プロファイルが、半値全幅7.3fsおよび45.8fsの2つのガウス関数(正規分布)の和として表されることが明らかになったという。
理化学研究所では、今回の計測法は電子ビームの時間幅を測る精密な“ものさし”と言えるもので、今後この計測技術と電子加速器技術によって電子ビームの時間幅を制御することで、XFELの時間幅を実験に応じて柔軟に変更できるようになる見込みであり、とくにアト秒(atto/100京分の1)領域のXFELが実現できれば、現在は未踏の超高速現象を観測するツールになるとしている。
本研究の詳細は、米科学雑誌「Physical Review Accelerators and Beams」オンライン版に掲載されている。