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HDDの裏の裏まで知るデータ復旧人に聞く、ストレージデータの“守り方”
2018年8月31日 11:00
大切なデータの保存を行なうHDDやSSDなどのストレージは消耗品であるため、いつか必ず壊れる。そのいつかに備えるにはどうすればよいのか? また、実際にそのときが訪れたら、どう対処すればよいのか? そもそもストレージが壊れるとはどんな状態なのか? データ復旧サービスを手がける「くまなんピーシーネット」代表の浦口康也氏に聞いた。
TEXT:北川達也 画像提供&取材協力:くまなんピーシーネット
長年PCを使用していても、データを失うというケースはそう多くない。しかし、まれに起こる事故でも被害は甚大になることが多い。そしてSSDやHDDなどのストレージは消耗品であり、使い続けていればいつかは「必ず」壊れる。しかも、長年の使用による経年劣化での故障や人為的ミス、自然災害など、データを失うときはいつも突然だ。
では、実際にストレージ機器が壊れてしまった場合、ユーザーはどのように対処するのがベストの選択なのだろうか。また、データを失うリスクを減らすために日頃からストレージをどう扱えばよいのだろうか? 全国展開しているPCショップ「パソコン工房」へのデータ復旧サービスの提供や大手ストレージメーカー「Western Digital」の公認データ復旧サービスを手掛けている株式会社くまなんピーシーネット代表の浦口康也氏に、専門家の立場から見た対処法をうかがった。
時代によりメディアのトレンドと障害は変化
くまなんピーシーネットは、2001年に創業し、翌年2002年に法人化された、熊本を本拠地にデータ復旧サービスを全国展開している会社だ。同社が、データ復旧サービスにかかわるようになった時期は、コンピュータが大きく進化していた時期とも重なる。
「技術が進歩するにつれ、ユーザーはあらゆる情報をデジタル化するようになり、同時にデータを消失してしまったユーザーも多く見てきました。こうした時代背景もあり、『データトラブルに打ち勝つ』ことを目的として、最高の技術集団を結成しようとデータ復旧技術ブランド『WinDiskRescue』を誕生させました」(浦口氏)。
また、「常に時代に合わせたメディアと障害に対応していくように心掛けてきた」と話す浦口氏。同社では、現在、HDD、SSD、USBメモリやメモリカード、CD、DVD、BDなどの光メディア、RAID、NAS、スマートホンなど、さまざまな機器のデータ復旧を手掛けている。
3種類に大別されるストレージの障害の発生原因は?
浦口氏によると、ストレージの障害は、「論理障害、物理障害、使用環境を逸脱したことによる障害の3種類に大別される」とする。
論理障害には、メディアは正常だが、利用者のミスにより誤ってデータを削除してしまった障害と、OSがデータを保存する空間として扱う「ファイルシステム」の構造、つまりフォーマットが壊れてしまう障害がある。
「双方ともにデータの取り扱いに依存しており、前者の場合は間違ってゴミ箱に入れてしまう場合やボリュームそのものを初期化するといった場合が圧倒的多数です。ファイルシステムの場合は、シャットダウン操作をせずに電源が切れてしまった場合や、取り外し操作をしないままメディアを取り外した場合などに起こりやすくなります」(浦口氏)。
物理障害は、多くの場合、消耗によって起こると言う。たとえばHDDの場合は、プラッタと呼ばれる、データを記録する円盤状の記録板に塗布されている磁気に反応する磁性体が、「一番消耗する箇所」(浦口氏)なのだそうだ。「データを記録する際の磁界で熱を与えられ薄膜の磁性体部分に負荷がかかります。HDDでは、これが毎日繰り返されており、長期間の利用でプラッタの磁性体そのものが劣化し、磁気として成り立たなくなる箇所が出てきます。これが『不良セクタ』です。不良セクタは、自動的に正常なセクタと置き換えられるため、ユーザーが毎日利用している過程で気付くことはありません。しかし、この代替処理にも限界があります。この限界を超えたときが、HDDが消耗品としての使命をまっとうしたときです」(浦口氏)。
浦口氏によると、HDDが使命を終えていくこの過程で特徴的な問題も発生すると言う。「HDDは、プラッタ上の位置情報を検出できなくなると、ヘッドが駆動限界を超えて動作する場合があります。これが、ヘッドがストッパに衝突したときに発生する、独特の『カコン』といった異音を発する異常動作です」(浦口氏)。
SSDの場合は、記憶媒体として採用されているNANDメモリが消耗する。NANDメモリは、内部の素子に電子をためてデータを記録しているが、データを消去する場合に閉じ込めていた電子を逃がす必要がある。このときに、「消耗が著しく進む」(浦口氏)と言う。このため、SSDでは、素子の消耗具合をコントローラによって管理、コントロールしている。しかし、使い続けていれば消耗限界によって不良素子が多発し、不良セクタが発生する。不良セクタは、自動的に代替されるが、HDD同様にこの処理には限界がある。
「SSDでは、消耗が限界を超えると、コントローラが機能を停止します。この状態に陥ると、SSDのメーカー名ではなくコントローラ名で表示されたり、容量がキャッシュサイズで表示されたりします。こうなった場合は、完全に寿命です。こうした障害は、USBメモリやメモリカード、スマートホン、タブレットでも同様です」(浦口氏)。
最後の使用環境を逸脱したことによる障害は、文字どおり、想定されていない環境下での利用や外的な力に起因する障害である。「高温、多湿な環境や極端に温度が低い環境、燻煙や発塵が多い環境など、電子機器を取り扱う上で適さない環境は、機能不全から消耗を促進させます」(浦口氏)。
加えて、HDDの場合は、駆動中の衝撃は致命的だ。「ヘッドとプラッタが激しく衝突し、ヘッド先端が一瞬にして損壊して変形し、最悪の場合磁性体剥離と呼ばれる障害に陥ります」(浦口氏)。