ニュース
積水ハウスら、建築施工ロボットと上向き作業用アシストスーツをデモ
~作業負担を最大7割軽減
2018年6月13日 17:27
積水ハウス株式会社は6月13日、「天井石膏ボード貼り」作業を行なう建築施工ロボット2体とアシストスーツを着用した人間とが、共同作業を行なう様子を、同社の「東日本教育訓練センター」でデモンストレーションした。
一連の作業をロボットに分担させることで作業負担を最大7割軽減し、施工従事者の生産性が向上するとしている。アシストスーツは2018年12月、ロボットは2020年の実用化を目指す。
天井石膏ボード張り施工は上向き姿勢で行なわなければならず、継続的な反復作業が必要で、身体への負担が大きい。そこで積水ハウスでは2015年から研究開発をはじめたという。
ロボットは、積水ハウス株式会社と株式会社テムザックが共同で開発したもの。天井石膏ボードの位置決定と運搬を行なう「Carry」と、ボードをビス打ちして固定する「Shot」の2体からなり、ロボット同士で通信を行ないながら協調作業を行なう。小型で分割して運ぶこむことができ、組み立ても短時間でできるという。
積水ハウスではロボットが作業しているあいだに施工従事者は別の作業ができるため効率的な分業が図れ、施工工期短縮も期待できるとしている。株式会社テムザック代表取締役の高本陽一氏は「『2台のロボットをポンと置いて、それでできるのが理想』と言われたので、サービスロボットの技術を使って、それをやってみた」と述べた。
アシストスーツはアメリカのEkso Bionicsが開発した上向き作業用アシストスーツ「Ekso Vest」を改良したもの。2017年10月に株式会社ダイドーがライセンスおよび取扱権利を取得し、内装部材、外装部材で取引がある積水ハウスの住宅施工現場に試験導入を行なってきた。
株式会社ダイドー代表取締役社長追田尚幸氏は、台所の吊り戸棚などを軽く動かす技術などを使って職人の負担軽減をはかろうとしていたが自前主義だけではダメだと考えて「Ekso
Vest」を導入したと経緯を語った。
同社では今後も、IT・IoT技術とロボット技術を融合し、施工力向上、就労の持続性促進、雇用機会創出、生産性向上につながる新技術を積極的に導入し、魅力ある住宅施工現場づくりを目指すとしている。
CAD情報を元に2台のロボットと人間とが協調作業
概要については積水ハウス株式会社施工部長の住友義則氏が語った。少子高齢化と生産年齢人口の減少によって、建設業界では施工力の確保が喫緊の課題となっている。積水ハウスでは若年層の確保・育成のために訓練校を3つ設置。その結果、通常7割程度のところ、92%と高い定着率を誇っている。
今回のアシストスーツとロボットは、とくに負担の大きい上向き作業負荷を軽減することを目指したもの。開発担当の積水ハウス 施工部課長兼安健太郎氏は、まずはじめに 通常の天井石膏ボード張り作業について解説した。
天井石膏ボード張り作業では、脚立の上に立ち、上向き作業で、通常1枚あたり17kg程度あるボードを維持して、反復作業を繰り返さなければならない。実際の作業は、まず最初に採寸し、寸法を転写し切断。それを取り上げて運び、持ち上げて頭上ではめ合わせて支持、残った手を使ってビスで固定するという流れ。ビスは1枚あたり50本打たなければならない。これを繰り返すので、作業者にはだんだん負荷がたまっていく。
そこで、この作業をロボットで代替することを考えたという。ロボットは、ボードの位置決定と運搬を行なう「Carry」と、ボードをビス打ちして固定する「Shot」からなる。2台のロボットとタブレットを持った作業者、この3者が協調して作業する。
システムの中核には「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」と呼ばれる技術があり、これは積水ハウス独自のCADシステムや建物情報・部材情報を持つ「邸情報データベース」と連携しており、どこを作業すればいいかわかるようになっている。部屋の面積でおおよそ7割くらいの作業が可能になるという。
ロボットはCADをもとにした事前の環境知識と画像認識技術を使って、石膏ボードの位置調整を現場で行ないながら作業を行なう。ロボットの作業手順は以下のとおり。
- (1)「邸情報データベース」と連動したタブレットで施工場所を指示
- (2)「Carry」のカメラで下地を撮影し、寸法をタブレットに転送し表示
- (3)取得した下地寸法にしたがって、施工従事者が石膏ボードを切断・加工
- (4)加工した石膏ボードを「Carry」に施工従事者が受け渡す
- (5)「Carry」がボードを持ち上げ、「Shot」に搭載されたカメラにてセンシングを行ないはめ合わせ
- (6)「Carry」が仮固定し、「Shot」が連携してビス固定
2台のロボットはたがいに位置を調整しながら移動する。ロボット同士や石膏ボードが干渉しそうな場合は、たがいに通信してやり過ごすことができる。ビス固定の作業中もたがいに干渉回避を行ないながら作業し、作業を分担して実行する。
石膏ボード上には専用の道具を使ってマーカーを打つ。おおまかな位置はCAD情報から、そして実際にはそのマーカーを使ってボードを認識して調整するしくみだ。
通常、産業用ロボットは床上に固定されていたり決められたレール上などで位置精度を出して、高精度の作業を行なう。ガイドテープなしで自走するタイプの搬送ロボットも最近は多く見られるようになった。
一方、身近なところでは「サービスロボット」と呼ばれるロボットが検討されている。同社では機動力と小型化が住宅施工に必要なロボットの要素であり、今回のロボットも人と近いところで作業するため、今回のロボットもサービスロボットとして位置づけており、今後はまずはスピードを向上させる。
さらに業務全体を再度見直す。今後、まだ外見も機能も大きく変わる可能性があるという。たとえばビス打ちだけのロボットを開発する方向もあるし、AI機能も向上するのではないかとテムザックの高本氏は述べた。
ガススプリング使用でバッテリ不要な上向き作業アシストスーツ
アシストスーツも腰、足、腕などサポート部位が用途によって異なる。積水ハウスでは持ち上げたり歩行するタイプは安全帯や腰袋との併用が困難で、ほかの動作の妨げになることが多く、なかなか使いにくかったという。そこでダイドーから提案を受けた上半身型で上向き作業のアシストスーツを試験導入するに至った。
具体的にはEkso Bionicsの「Ekso Vest」を日本の建設現場向けに改良したもの。重量は4.3kg。腰や胸、腕などを締めつけて着用するようになっており、負荷が各所に分散されるので、重量自体は感じない。動力源はガススプリングで、充電の必要がない。
実際に着用してみたところ、ガススプリングを入れると、すいっと腕が持ち上げられ、バネで支えられるような感覚だった。数秒程度なら大した違いはないかもしれないが、長時間作業していると確かに差は大きそうだと感じた。
積水ハウスでは短時間のアシスト効果ではなく、とくに長く持続して作業ができるようになることを評価しており、「上向き作業にはもってこいの仕様だ」と考えているという。
現在は日本人の体格に合わせた全体のフィット感の改善や、アシスト範囲をどこからどこまでさせるのが日本人に向いているのか、現場を想定した防水性の改善などを行なっている。労働災害を削減する効果も狙っている。
今後は、残り3割の部分を、ロボットとアシストスーツをつけた領域や、ロボット単独での作業領域での開発を進めていくことで作業負荷を軽減し、職業寿命を延命することを目指す。
アシストスーツは今年(2018年)の12月中の導入を目指している。導入エリアなどは未定だが、石膏ボード作業だけでなく、上向き作業全体への適用を考えているという。積水ハウスの住友義則氏は社内のほかの部門にも使えるところに幅広くどんどん適用させていきたいと述べた。