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3Dプリンティングで12兆ドルの製造業への切り込みを目論むHP
2018年5月15日 20:07
HP Inc.とHewlett-Packardに分社化して2年半が経過。プリンタやPC事業は、今後縮小するとアナリストやメディアが予想するなか、HP Inc.では4四半期連続で2桁成長を続けている。今回、来日した同社社長兼CEOのディオン・ワイズラー氏に、好調な業績を支える同社の戦略について話を聞いた。
同社が現在、事業戦略の柱に据えるのは「コア」、「成長」、「将来」の3つとなる。コア事業は、従来からのプリンティングとパーソナルシステム(PC)だ。ここにおいては、2018年第1四半期において、直前期の2桁成長から、さらに2桁成長を遂げた。
ワイズラー氏は「好調の要因はさまざまだが、1つ挙げるとするなら、ひとえにわれわれ自身がやるべきことをやってきた結果だ」と述べる。
同社がとくに注力するとしている日本市場においても、PCのシェアは11四半期連続で伸びており、直近では14.2%に達している。ワイズラー氏は、ただシェアだけを伸ばすことは無意味だとしつつも、「われわれが提供するイノベーションの結果としてシェアが伸びるのであれば、それはわれわれの努力が認められた証」と述べ、日本を含んだワールドワイドでのこれまでの業績を自ら評価した。
その一方で、プリンティングとPCという同社のコア事業は、すでに成熟しており、今後、著しく発展していく市場ではない。それを補完するのが、成長、将来分野となる。
成長分野は、A3コピー、グラフィックス事業、サービス事業などを含む。A4プリンタでは世界トップシェアを持ちつつも、存在感の薄いA3コピー市場を打破。また、PCやワークステーション、プリンタなどを箱売りするだけでなく、サービスとして提供していく。
たとえば、企業の規模を問わず、企業へのPCの導入だけでなく、管理も頼まれる案件が増えている。ワイズラー氏は「HPであれば、顧客の全てのハードウェアのプラットフォームを管理できるソフトウェアスイートを持っており、デバイスをサービスとして展開できる」と語る。
将来分野で同社が注目しているのが、イマーシブコンピューティングと3Dプリンティングだ。イマーシブコンピューティングは、いわゆるVR系だが、ゲーミングはあまり注力しておらず、企業向けに訴求していく。3Dプリンティングについては、同社も独自の3Dプリンタを展開しているが、ハードウェア自体の市場規模は50億ドル程度。同社が目論むのは、12兆ドルと言われる製造業分野への展開だ。
具体的事例として、ワイズラー氏は、電気自動車メーカーに提供した3Dプリントの部材を紹介した。同氏が持参したのは、バッテリの冷却に利用する液冷の循環パイプ。自動車メーカーが持つ従来の射出成型では、エンジン内部のスペースに収まる大きさで部品を製造できなかった。
その相談を持ちかけられたHPは、要求されるサイズや、パイプの構造などをヒアリングし、3Dプリンタを用いて、たった9日間で最終製品の量産体制を整えるに至った。3Dプリンタにより、複雑な構造の部品を製造できただけでなく、従来の射出成型では、4~6カ月かかるリードタイムをたった9日間にまで削減した。
また、AIを実装しているのも大きな特徴だ。同社の3Dプリンタはすべてクラウドに接続されており、プリント時の細かい熱制御などの情報を収集、クラウド側で分析。その結果をすべての3Dプリンタへフィードバックするといったかたちで、互いに学習し、製造品質の向上に役立てている。
ワイズラー氏によると、同社の3Dプリンタは、業界第2位の製品に比べても、プリント速度は10倍で、コストは半分で済むという。また、年内にもフルメタル部品の3Dプリントにも対応していく。
ワイズラー氏は、分社後の2年半もすばらしかったが、これからの2年半もひじょうに楽しみだと展望を語った。