パナソニック、東京都市大学の1年生対象に「PCカレッジ」開催
~大学で使うPCを自分で組み立て

東京都市大学 知識工学部 横山真一郎教授

4月8日 開催



 パナソニックは、大学生を対象に、Let'snoteの組み立てと生産工場を見学する「PCカレッジ」を4月8日に開催した。

 PCカレッジは2004年から開催されているイベントで、2009年は東京都市大学(旧・武蔵工業大学)の知識工学部経営システム工学科の1年生、77人が参加した。大学に入学して間もない1年生の「フレッシャーズキャンプ」の一環としてPCカレッジが開催され、自分が4年間利用するPCを自ら組み立て、出された課題の答えを工場見学の中から見つけ出す。参加者が所属する知識工学部経営システム工学科は、生産管理や品質管理など製造業の管理技術を学ぶ学科で、入学して最初にPC工場を見学することで、物作りの現場を体験させることが目的となっている。

 東京都市大学 知識工学部の横山真一郎教授は、「PCカレッジへの参加は、今回で5回目となる。基板から一貫して生産を行っているPC工場は、国内では他にない。東京からやって来る価値が十分にあると考えている。大学で4年間利用するPCについても、親に買ってもらったものを無意識に利用するよりも、自分で組み立てたものを利用することで、大事に利用するようになるのではないか」と参加理由を説明する。

パナソニック AVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部 プロダクトセンター 白戸清所長

 大学生を受け入れる神戸工場のパナソニック AVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツ事業部 プロダクトセンター白戸清所長は、「学生の皆さんの中にはPCというとデル、ヒューレット・パッカードといった米国メーカーを思い浮かべる方も多いだろう。米国メーカーは、開発は米国で行ない、アセンブリ作業は中国や台湾などの専業ベンダーに委託する国際水平分業の物作りを行なっている。我々の生産体制はそれとは対照的で、この神戸工場で開発から生産までの全行程を行なう垂直統合の物作りを進めている。昨年、経済環境が悪化して以降、日本は再び物作り立国を目指していくべきだという声が高まっている。本日は、我々の同志である日本の物作りを支える未来のエンジニアの皆さんを迎え、非常に喜ばしい」と話した。

 その後は、2チームに分かれてPCの組み立て、工場見学を行なった。


作業の要所では、学生を指導するパナソニックのスタッフが、ネジ締めなどの確認を行なってフォローする

 PCの組み立ては、90分の予定時間で「Let'snote W8」に挑戦した。大学としては5回目のPCカレッジ参加となるだけに、事前に学生に作業がしやすい軽装で参加するよう指示。楽な格好で組み立て作業をスタートしたが、1時間を超える立ったままの作業と、慣れないネジ締め作業の連続に、「疲れたぁ!」、「お腹空いた……」といった声を漏らす学生もいた。が、無事に組み立て作業が完了すると、「手元に届くのはいつ?」と自分が組み立てたPCを使える日が楽しみの様子だった。実際に組み立てたPCは、パナソニックのスタッフ側が検査を行ない、ソフトをインストールし、おおよそ1週間程度で学生の手元に届く見込みだ。

学生が挑戦したのは、DVDドライブを搭載したLet'snote W8の組み立て工程。これが公定スタート前の状態作業は、前方にいるスタッフが手元を中央のスクリーンに映しながら進められていく
参加する学生は、事前に「身軽な格好で」というレクチャーを受けていたため、Tシャツ姿の参加者が多い。2人の学生にパナソニック側のスタッフ1人が指導員として附いて組み立て作業が行なわれる静電気防止対策を行ってから、作業が始まる
最初の工程は、ドライブの取り付けからスタート。ドライブの部品をビニール袋から取り出し、所定位置に置くだけの作業だが、慣れない作業に早くも四苦八苦する学生も
次はドライブのネジ締め。この後、大量のネジ締め作業が行われていくが、最初のネジ締めとあって、ドライバーを持つ手つきがどこかぎこちない
細かい作業となるPETテープの貼付は、「うわ、細かい!」といった声もあがる
LCDが取り付けられると、基板にしか見えなかったものが一気にPCらしくなる。ネジ締め用のドライバーを持つ手はまだどこかぎこちない
LCDケーブルFIXシートを剥離紙中央部で折り曲げ、ボトムに貼り付ける。細かい作業が続くため、指導員のフォローを受けながら作業は進んでいく
LCDケーブルの取り付け作業。コネクタ接続は初体験の女子学生からは、「これでいいの? 」というつぶやきが漏れる
LCDケーブルに絶縁シートを貼り付けて処理する
トップケースとボトムケースが勘合すると外観は一挙にLet'snoteらしくなる
トップケースのネジ締めが始まると、一挙にネジ締め作業が増えていく。決められた順番通りに作業を進めていくよう注意を受けた学生は、1つずつ慎重にネジ締めしていくトップケースの穴にスプリングを取り付ける作業は、うまく穴にスプリングが入らず、何回かやり直す学生も
ディスクアングルの取り付け作業。この作業の前工程で取り付けたスプリングは、ディスクアングルの上になるのだが、ディスクアングルを取り付けた段階で、スプリングの位置が間違っていることに気がつく学生も
ディスクアングルのネジ締め作業。この頃になってくると、学生のネジ締め作業も手慣れた様子になってくるディスクカバーの取り付け作業
アンテナ線の処理作業。ネジを避けて筐体の角部分にアンテナケーブルを貼り付け、アンテナ基板のネジを締めた後でアンテナカバーを取り付ける
キーボードの取り付け作業では、手に取ったキーボードを見て、「薄い!」と驚きの声があがる
キーボードフックの取り付け作業。筐体を裏返しにして4カ所のキーボードフック取り付けるが、慣れない作業は「これでいいの? 」と確認しながら進んでいく
HDDはケースに入れ、FPCのコネクタを差し込み、本体に取り付ける
HDDカバーを装着合計25カ所におよぶボトムケースのネジ締め作業が続き、「手が痛い! 」と悲鳴をあげる学生も
DIMMカバーの取り付け。ネジ締め作業もこれで最後自分の名前が書かれたネームプレートを取り付けると、「これいつ届くの?」とにわかに自分のPCに愛着が出た様子
バッテリを取り付けると作業は終了。きちんと組み立てられたのかを確認する通電確認で、見事に電源が入ると学生からは拍手が起こる

 組み立て作業終了後、参加した学生に話しを聞くと、ある女子学生の感想は、「ネジ締めは以前にもやったことはあったが、普段からしている作業ではないので、とにかく疲れてお腹が空いた。早く夕食が食べたい」という率直なもの。男子学生の1人は、「普段からPCは利用しているが、自分で組み立て作業をしたのは初めて。ネジ締め作業も、小学校の工作の授業以来で、最初はなかなか慣れなかった。しかし、利用しているだけではわからなかったPCの内部構造を知ることができたので、組み立て作業に参加できたのはプラスだった」と、初めての作業に満足そうな様子だった。

 その後、TOUGHBOOKに水をかける防水実験、落下実験、国内のPC工場としては唯一である基板への部品の実装作業、実際に工場スタッフが行なっている組み立て作業などを見学した。

 今回、大学側が学生に出した課題は次の4つ。

 (1)Let'snoteの生産方式の特徴についてまとめる
 (2)将来のLet'snoteの経営戦略はいかにあるべきか
 (3)パンフレット、カタログの改良点についてまとめる
 (4)Let'snoteの顧客サービス(アフターサービスを含め)の特徴をまとめる

 学生は、自分が所属する班ごとに1つの問題をグループで討論し、工場見学の翌日にまとめる予定となっている。パナソニックのスタッフが行なう工場の概要に関する説明などを聞いていれば応えられる課題もあるが、大学に入学して数日の1年生にとっては難しい課題も多かったようだ。

 その一方で、サポートスタッフとして参加した4年生は、「1年生の時と今回で2回目の工場見学となるが、今回の見学では前回にはわからなかったことが理解できた。例えば、生産ラインが何本あって、省力化を進めたことで余分なスペースが出来て新しいラインを作るスペースが生まれているが、あそこでどんな生産ラインを作るのがよいのかといったシミュレーションを自分の頭の中で行なったりした」と、大学での勉強の成果があらわれている様子だった。

組み立て体験の後は、実際に製品を生産する工場を見学。入り口に置かれているLet'snoteの最新製品を手にとって、その軽さをあらためて確認する
TOUGHBOOKは、実際に製品を手にとってその重さ、頑丈さに驚きの声があがるこの工場の定番ともいえる、タフブックの耐水テスト。テストを目の当たりにした学生の中には、手を入れて本物の水が流れていることを確認する学生も
やはりこの工場の定番となっているTOUGHBOOKの落下テスト
日本でも数少ない、基板の実装作業工程。高密度実装基板に、クリーム半田を印刷している基板の実装工程は、自動化され、24時間稼働する
製品の組み立て作業は、実習と同様、人の手で行なわれている。ただし、ネジ締め作業は電動ドライバーを使って行なわれている締めの挨拶を行なったパナソニック 国内営業本部 グループリーダー 田中哲也氏東京都市大学 知識工学部 応用情報工学科 金川秀也教授

 イベントの最後に行なわれた閉校式では、パナソニック国内営業本部の田中哲也グループリーダーが挨拶を行ない、「国内でも珍しい生産体制をとっている神戸工場の見学は、実は得難い体験でもある。来週以降は、 Let'snoteのユーザーとして忌憚のない意見を寄せて欲しい。現在のLet'snoteは、約10年前に35歳以下のスタッフの声をもとに開発された。それから10年経って、当時のスタッフも年齢を重ねているので、皆さんのフレッシュな意見は我々にとっても興味深い。今回の課題の答えについても、まとまった段階で我々にフィードバックしていただいて、次、もしくはその次の Let'snoteの開発に生かせる部分は生かしていきたいと考えている」と期待を寄せた。

 最後に東京都市大学の知識工学部 応用情報工学科の金川秀也教授がパナソニック側に謝辞の言葉を述べ、「パナソニックの皆さんと話して感動したのは、世界一のPCを作っているという気概を持っている点。物作りのプロの心意気を、身近に感じる機会となったことが学生にとっては一番の財産となるのではないか」と話した。

(2009年 4月 10日)

[Reported by 三浦 優子]