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パナソニックから夜に自動でトマトを収穫するロボット
2017年11月29日 17:36
パナソニックは29日、報道向けに同社のロボティクス技術の取り組みについて説明。同時に、それらの取り組みの一部として、11月29日から12月2日まで、東京・有明の東京ビッグサイトで開催している「2017 国際ロボット展」において展示した。具体的には、センサーで収穫物を検知し、夜間も稼働する「トマト収穫ロボット」や、アクセシビリティ社会の実現に向けたロボット電動車椅子「WHILL NEXT」などを展示した。
パナソニック 生産技術本部ロボティクス推進室の安藤健課長は、「パナソニックのロボティクス技術の特徴は、『人に寄り添うロボティクス技術』である。物理的に人に寄り添うのは当然のこと、精神的にも寄り添うことができるロボットを提供できることが、家電をはじめとして、人との接点になる商品を作り続けてきたパナソニックの得意分野となる。
そのためには、ロボットの性能だけでなく、人とロボットとのインタラクションや、安心や安全を提供するロボットでなくてはならない。人と共存するロボット分野に攻めていくことになる」と、同社のロボティクス事業の基本姿勢を示した。
パナソニックが、人に寄り添うロボティクス技術によって取り組む領域は、「物流、店舗」、「インフラ点検」、「次世代農業」、「エイジフリー(介護、福祉)」、「ロボティクス家電」、「パーソナルモビリティ」の6つである。
「小売店舗や物流、あるいは農業では、人手不足や高齢化が課題となっている。農業人口の平均年齢は65歳以上とも言われる。また、作業者の高齢化とともに、ダムや橋などのインフラも高齢化しており、その点検を効率的に行なう必要もある。一方で、ロボティクス家電は現時点では、掃除機のルーロだけを発売しているが、今後、広げていきたいと考えている。また、スマートタウンの進展とともに、人と施設をつなぐパーソナルモビリティは欠かせないものになる。パナソニックはその分野にも取り組んでいる」などと述べた。
現在、パナソニックでは、モノづくり分野において、実装機やレーザー溶接、パラレルリンクを商品化。介護、医療分野ではベッドが車椅子に変わるアハシストベッド「リショーネ」などを製品化している。
「センサーなどによる計測を行なう『目』となる部分や、最近注目を集めているAIによる『脳』に加えて、移動技術となる『足』、マニュピレーションを行なう『手』といったように、メカトロニクスのところに実績を持つのもパナソニックの強みである。そして、センサー、バッテリ、アクチュエータといったロボティクスに必要なデバイスをすべて自社開発できる強みもある。だが、サービスなどを含めた領域では、他社との協業が不可欠である。他社連携を進めながら、ロボットを取り巻く周辺業界も活性化していくことを目指している」と語る。
国際ロボット展での展示
「2017 国際ロボット展」のパナソニックブースでは、6つのロボティクス技術を展示していた。
注目を集めていたのが、センサーで収穫物を検知して、夜間も稼働し、トマトを自動的に収穫することができる「トマト収穫ロボット」である。
農業従事者の労働力不足を解消するために開発されたもので、人によるトマトの収穫作業工数を削減することができる。
距離画像センサーを利用して、色や形、位置を正確に判断。さらにAI技術を組み合わせることで、収穫率の向上につなげることができたという。
「距離画像センサーによって、赤いトマトだけを収穫し、緑色のトマトは収穫しないといったことが可能である。これにAIを導入することで従来は約80%の収穫率だったものを96%にまで向上した。今後も深層学習によって、収穫率はさらに高まることになる。だが、100%を目指すことも大切だが、何度もロボットが自動的に移動して、すべてを収穫できることや、夜間も作業を行なうことができるため、収穫量を増やすことができる効果を期待できる」という。
また、収穫する際には、果実と花梗を引き延ばして離層で分離する仕組みを採用しており、これによって、果実に傷をつけずに収穫ができるという。
収穫タクトは、1個あたり6秒。連続運転時間は約10時間となっている。トマトの屋内栽培では、カゴ台車を移動させるために、レールが敷かれている場合が多く、そのレールの上をトマト収穫ロボットが移動して作業を行なう仕組みになっているという。
同社では、「選別、収穫、収納までの一括対応が可能になるロボット」と位置づけている。
トマト収穫ロボットは、2018年度からプロトタイプの導入を開始することになるという。
自律運転のロボット
アクセシビリティ社会の実現に向けたロボット電動車椅子「WHILL NEXT」は、WHILLとパナソニックとの協業によって実現した自動運転が可能な車椅子だ。
地図情報をもとにした自律移動機能により、迷うことなく、目的地まで自動で送迎し、使用後も無人で回収位置ほ帰還する無人回収機能も搭載している。さらに、万が一の操縦ミスでも、衝突を防止する自動停止機能も搭載している。
10m先まで状況を感知し、270度方向まで計測できるレーザーセンサーを搭載。自動停止機能で停止しても、ふたたび、障害物にむかってゆっくり進み、ぎりぎりまで移動する機能も搭載している。「目の前に操作をしたいものや、使いたいものなどがあれば、一度自動停止しても、ふたたび、対象物のぎりぎりの位置にまで近寄ることができる。クルマの自動運転では、そうした機能は必要ないが、車椅子特有の機能として搭載している」という。
また、車椅子を追従する機能も搭載しており、複数のWHILL NEXTが数珠つなぎになって走行することが可能だ。
現在、羽田空港やショッピングモールなどでの実証実験を行なっているという。
自律搬送ロボット「HOSPI」は、障害物検知の技術を搭載し、薬品や飲料などの搬送や、案内、監視などを移動しながら行なうロボットだ。
地図情報をもとに、設定した目的地やルートに移動できるほか、人のいる環境でも、レーダーによる障害物検知で、人や壁などを認識しながら安全に移動。エレベータの自動ドアと連携した運用も可能になっている。また、天井などに設置した赤外線IDタグを利用することで、HOSPIの頭部分に設置したカメラでそれを認識。広い空間での運用も可能にしている。
すでに、獨協医科大学病院や埼玉医科大学国際医療センターなど、15施設に、40台以上の納入実績があり、ホテルやラウンジ、ショールームなどでの実証実験も開始しているという。
パナソニック社内では、スマートフォンでコーヒーを注文すると、それをHOSPIが運搬してくるといった実験も行なっている。
「3D LiDAR」は、広範囲での三次元距離計測を行ない、精度の高い自動運転を実現するもので、ミラーが水平方向270度、垂直方向で60度の広角度で駆動し、さらに、パナソニック独自の垂直スキャン技術を搭載することで、垂直方向に広い検知範囲が可能にしている。そのため、センサー数を削減しながら、高精度な検知を実現できる。
また、解像度の任意設定が可能であることから、障害物が現れる頻度が少ない場所を走行する際には狭い範囲を速くスキャンし、人が行き交う場所では広い範囲を速くスキャン。障害物を検知後には解像度をあげて障害物の形状を把握するといった使い方もできる。
2018年1月からサンプル出荷を開始する予定であり、自動搬送機や宅配ロボットなどの自律移動ロボットのほか、フォークリフト、農業機械、建設機械、セキュリティシステムなどへの搭載を見込んでいる。
「ロボットアーム向け非接触給電ユニット」は、今回、初めて公開した技術だ。
サーボモーターを駆動できる300Wの電力をケーブルレスで供給できるもので、同一寸法の送電ユニットと受電ユニットで構成。電力を供給するケーブルがないことから、ケーブルのねじれによる断線を解消。稼働制約をなくして、無限回転動作が可能になる。無限回転や断線解消により、スカラロボットへの適用や、垂直多関節ロボットへの適用が可能であるほか、着脱が容易であることからロボットハンドへの適用が可能になる。
さらに、電力と信号間の干渉を抑圧し、電力伝送とデータ伝送を両立しているのも特徴で、最大10Mbpsでのデータ送信ができ、ロボットアームの制御を可能にする。2019年以降に、サンプル提供を予定している。
そして、最後の2つが、「ロボット導入効果検証ソリューション」と「ロボットの安全設計・評価ソリューション」である。
安全性などを評価するための社内施設であるプロダクト解析センターで行っていたサービスを外部に提供するもので、火災防止の技術開発や評価確認、火災の原因究明、EMC対策の設計、各種認証規格に対応した試験などを実施。さらには、人間工学や感性工学、心理学、生理学などの人間研究の技術と知見を生かして、人とロボットの関係を科学的に検証する。
「クルマの自動運転などでは、衝突による怪我や死亡といった大きな事故に関しての検証を行なっているが、パナソニックが目指すロボティクスでは、当たって嫌な思いをするとか、すり傷がつくといった軽度の身体負担を検証することができる」という。
展示では、骨、筋肉、皮膚を模した部品を組み合わせて作った上腕部の骨と筋肉の間、筋肉と皮膚の間に圧力センサーを埋め込み、ぶつかったり、衝撃を与えた場合の影響などを可視化するといったデモストレーションが行なわれていた。