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他社より1万円ぐらい安いけどなぜ?MINISFORUMのeGPUドック「MGA1」

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。
MINISFORUM MGA1(手前)

 MINISFORUMの「MGA1」は、GPUにRadeon RX 7600M XTを搭載したOCuLink対応の外付けGPU(いわゆるeGPU)ドッキングステーションだ。直販価格は8万9,580円となっている。今回、提供のあったサンプルでチェックしていこう。

他社より1万円程度安いがこれは?

 Radeon RX 7600M XTを搭載したeGPUドッキングステーションは、2023年末に登場した「GPD G1」を皮切りに各社から発表されており、One-Netbookからは「ONEXGPU」、AYANEOからは「AYANEO GRAPHICS STARSHIP」などがリリース。これら以外でも数製品出回っており、おそらくAMDが各社にRadeon RX 7600M XTをプッシュしているのだろう。

 MGA1もそのうちの製品の1つだが、他社が10万円前後の価格帯でラインナップされている中で、9万円を切る価格で登場したのがトピックの1つ。ともすればほかとは何が違うのか?と気になるユーザーも多いのではないだろうか。

 ズバッと結論から言うと、最大の違いが「OCuLink専用」であること。GPD G1(2024)やONEXGPUなどの製品はThunderbolt 3/4/USB4に対応しており、現行のメインストリーム以上のミニPCやノートであればほとんど対応可能だ。しかもそのケーブル1本で、PC本体への給電やUSBハブ、製品によってはSDカードスロット、M.2 SSDやGigabit Ethernetといったドッキングステーション的な機能が利用可能となっている。

 これらの製品では、より高速にRadeon RX 7600M XTとの接続を可能とするOCuLinkポートを備えているものの、ケーブルは付属しておらず別売オプションとなっている。つまりメインのウリは「Thunderbolt 3/4/USB4としてのeGPU付きドッキングステーション」であり、「Radeon RX 7600M XTのOCuLink接続はオマケ」なのだ。

 一方、MGA1におけるRadeon RX 7600M XTの利用はOCuLinkが“必須”であり、そのためパッケージにもOCuLinkケーブルが同梱されている。逆に、3ポートのUSB 3.2 Gen 2のハブ機能や、PCへの65W USB PD給電可能なUSB 3.2 Gen 2 Type-Cポートも付いているが、これらを接続してもRadeon RX 7600M XTが使えるわけではない。Thunderbolt/USBケーブルも別売りであり、「USBハブ兼電源機能はオマケ」的な位置づけだ。

MGA1付属品。OCuLinkと電源ケーブルのみという潔い構成
MGA1本体
背面インターフェイス。HDMI出力1基、DisplayPort 2基、USB 3.2 Gen 2 3基、OCuLink、USB 3.2 Gen 2 Type-C(65W給電対応)のみだとシンプル
前面のLEDインジケータは2種類。左のブルーLEDはOCuLink接続時に光る。右側のグリーンLEDは電源投入時に光る
右側面の排気口側。ちなみに左側面もほぼ同様のデザイン
ファン吸気口
底面
全体的に無骨なデザイン

 そして、このRadeon RX 7600M XTをThunderbolt 3/4/USB4で接続するためのコントローラを省いたことが、1万円のコストダウンにつながったのではないか、と考えることができるだろう(ちなみにOCuLinkケーブルとThunderbolt 4ケーブルの比較では、若干前者が高め)。

ではMGA1にアドバンテージはないのか?否!

 ノートPCのドッキングステーションとして見れば機能不足感が否めないMGA1だが、そもそもMINISFORUMはミニPCを多数リリースしているメーカーであり、不足しがちなインターフェイスを補うよりも(ましてや2.5Gigabit Ethernetは2基あるのが標準レベルだし)、犠牲となったGPU性能を補うという課題を解決する方が先のため、このような設計にしたのだろう。

 実際、同社が2023年末に発売した「UM780 XTX」以降、OCuLinkを搭載した機種が多くなってきているし、ユーザーがOCuLink経由で手持ちのビデオカードを接続できるドッキングステーション「DEG1」を先立ってリリース、そして今回のMGA1に至るまで、OCuLinkをミニPCのグラフィックス性能強化の手段として据えようと布石を敷いているように思う。つまり、目指す先がシンプル(GPUのみ)なのだ。

 これらを踏まえた上で競合のGPD G1 2024、およびONEXGPUと比較すると、以下のような性格の違いが見えてくる。

製品名MGA1GPD G1 2024ONEXGPU
GPURadeon RX 7600M XT
TGP(Target Graphics Power)120W65W/100W120W
電源内蔵240W GaN内蔵240W GaN外付け300W GaN ACアダプタ
USB PD給電65W100W
ディスプレイ出力HDMI 2.1 1基、DisplayPort 2.0 2基HDMI 2.1 1基、DisplayPort 1.4a 2基HDMI 2基、DisplayPort 2基
USBUSB 3.2 Gen 2 3基USB 3.2 Gen 2 3基USB 3.2 Gen 1 2基
ほかインターフェイスなしSDカードスロットGigabit Ethernet
M.2 SSDスロット(USB 3.2 Gen 1)
本体サイズ247×128×46.5mm約225×111×30mm約196×120×32mm
重量1,416g(実測)約920g約869g
そのほか特徴機能RadeonはOCuLink専用動作モード切替RGB LEDイルミネーション

 並べてみると、性能と機能面で隙がほぼないと言えるのがONEXGPU。TGPは120Wと高く、PCへの給電も100Wに達する。4画面出力、有線LANやM.2 SSDスロットも付いて、PCのインターフェイスを大幅に強化してくれる。USBが5Gbpsまでだが、大きな弱点とはならない。しかし、本体とほぼ同じサイズの巨大な300WのACアダプタがネックだと感じる人は多そうだ。

 GPD G1 2024は、2023年モデルからブラッシュアップした製品。初代のGPD G1はファームウェアの書き換えでTGPを120Wに設定することもできたが、GPD G1 2024は65Wと100Wをスイッチで切り替えるようにした。また、従来はPCへ60Wまでしか給電できなかったが、65Wとなった。240W電源内蔵で1kgを切っているのが立派だ。ただTGPが100Wまでということもあり、性能面ではビハインドを負う。

 一方でMGA1はインターフェイスがもっともシンプルで、冒頭で述べた通りThunderbolt 3/4/USB4非対応だが、240W電源を内蔵し、かつTGPが120Wと高めに設定されている。重量は重いが、これもミニPCでの使用を前提としていて、持ち運びはほぼ考慮していないからだろう。

 ただ、これまで3製品(正確にはGPD G1は初代のTGP 80Wモード)とも触ってきた筆者からすると、MGA1が一番静かだと感じた。いずれの製品も不快な甲高い軸音はないのだが、GPD G1とONEXGPUは筐体の小ささからくる風切り音が強めだが、MGA1は肉厚のシャーシや厚みのある冷却機構を採用しているからか、若干控えめな印象だ。このあたりは大きい筐体による“メリット”だと言えるのかもしれない。

底面ネジはトルクスだが、4本外せば上部のパネルが取り外して内部にアクセスできるため、メンテナンス性は悪くない。それにしても240Wの電源部(左)の小ささは、単一電圧出力のみだとしてもやっぱり驚異的。シールドや絶縁処理もしっかりされており信頼性は高そうだ
ファンはネジ6本外せばOK。ホコリの掃除は楽そうである。ヒートシンクにはヒートパイプが4本使われている。サイズは決して大きくないが、120WのGPUを冷やすには十分だということだろう

 実際にベンチマーク(AtomMan X7 Ti、Core Ultra 9 185Hパフォーマンスモード、メモリ32GB、ストレージ1TB、Windows 11 Home)を取っても、Radeon RX 7600M XTが出すべき性能をきっちり出している印象。「高性能+電源内蔵で別途場所を取らない+同クラスの中で比較的優秀な低騒音」という3点が、多数ある製品の中でMGA1を選ぶ理由になるだろう。

【グラフ1】3DMark Speed Way
【グラフ2】3DMark Steal Nomad
【グラフ3】3DMark Steal Nomad lite
【グラフ4】3DMark Port Royal
【グラフ5】3DMark Solar Bay
【グラフ6】3DMark Time Spy
【グラフ7】3DMark Night Raid
【グラフ8】3DMark Fire Strike
【グラフ9】3DMark Wild Life

Ryzen AI 300ユーザーはちょっと待ってもいい

 Core UltraやRyzen 8000番台を搭載し、OCuLinkを備えたミニPCやポータブルゲーミングPC環境で、本製品はグラフィックス向上の手段として有力だ。Thunderbolt 3/4/USB4非対応なので多くのノートPCで使えず、潰しが効かないのがネックだが、最初からOCuLink接続目当てであればコストパフォーマンスに優れた製品としてオススメできる。

今回の試用環境の様子。ちなみにベンチマークで回した際はMGA1側からHDMIで出力したが、この写真からさらに1本ケーブル増える。ケーブルの取り回しをどう美しくするかがセットアップの鍵だろう

 今回はベンチマーク環境としてMINISFORUMの「AtomMan X7 Ti」というCore Ultra 9 185Hを搭載したOCuLink対応のミニPCを採用したのだが、本来はAMD最新鋭同士ということでRyzen AI 9 HX 370を搭載した「GPD DUO」で試したかった。しかし、MGA1のレビュー以前に、GPD DUOはRadeon RXのeGPUと相性問題があるという連絡を受けていて、AMDのドライバの対応待ちとのことだ。

 実際にやってみたところ、ハードウェア構成の変更を検知したからか、BitLocker回復キー入力画面になったりと、「それは外付けすべきものではない」的な雰囲気を醸し出した。認識後も起動に時間かかったり、そもそも画面が暗いまま起動しなかったり、性能がまったく出なかったり(なぜか40W前後で頭打ちに)する。

 一応、GPD DUOのBIOS設定で「HybridGraphics」をオフにした上で、Radeon RX 7600M XTから出力されているモニターをWindows上で「メイン」にすれば、きっちり動作する。しかしGPD DUO内蔵ディスプレイをメインにすると、なぜかRadeon 890M側で処理されてしまう。

 OCuLinkは一応PCI Expressの信号そのままなので相性問題は起きにくいはずだが、Radeonはドライバが共通であるだけに逆に問題が生じたようだ。これも現時点で国内市場に「Ryzen AI 300+GeForceのノートはあるけど、Ryzen AI 300+Radeonのノートはない」理由なのかもしれない。とりあえず正式対応まで待ちたい。

 最後も余談。OCuLinkはPCI Express信号そのままであるゆえ、「ホットプラグができない」のが弱点となり、ノートPCなどで使う上で機動性に欠けていたのだが、どうもホットプラグできるようにする動向はあるらしい。

 というのも、中国Lenovoは「ThinkBook 14+ 2024」なる製品を年初に投入したが、このノートPCの左側面には「TGX」なるポートがあり、これに接続するドックとして「TGXビデオカード拡張ドッキングステーション」なるものが用意されている。そしてこのTGXポートがOCuLinkそのものなのだが、製品ページにはには正々堂々とホットプラグをサポートしていると記載しているのである。

ThinkBook 14+ 2024右側面のTGXポート
TGXビデオカード拡張ドッキングステーションで「ホットプラグのサポート(支持熱挿抜)」と謳われている

 もちろん、取り外しの際はThunderbolt 3/4やUSB4のeGPUと同様、GPUで動作しているプログラムがないことを確認してからやる必要はあるし、今のところThinkBook 14+ 2024およびGeForce RTXでのみ動作が保証されているのだが、少なくともOCuLinkでもホットプラグは“できる”ことが実証されたわけだ。OCuLinkでビデオカードを接続するのが当たり前な時代も、そう遠くないのかもしれない。