笠原一輝のユビキタス情報局
PC向けの「Snapdragon X2 Elite」が大進化を遂げた理由
2025年9月26日 12:48
Qualcommがスマートフォン向けの「Snapdragon 8 Elite Gen 5」とPC向けの「Snapdragon X2 Elite Extreme/X2 Elite」の2つの製品を発表した。9月23日より米国ハワイ州で開催している同社の年次イベント「Snapdragon Summit 2025」の中で、両製品の詳細を明らかにしている。
本記事では両製品の詳細などについて解説していきたい。両製品をハイレベルで観察すると、昨年(2024年)発表された「Snapdragon 8 Elite」から順当進化したSnapdragon 8 Elite Gen 5と、2年前に発表された「Snapdragon X Elite」から大きなジャンプとなったSnapdragon X2 Eliteというそれぞれの特徴が見えてきた。
PC向けのSnapdragon X2 Elite ExtremeはCPU/GPU/NPUのすべてが50%を上回る大きな性能向上を実現
今回Qualcommが発表したのはスマートフォン向けの「Snapdragon 8 Elite Gen 5」とPC向けの「Snapdragon X2 Elite Extreme/X2 Elite」の2つの製品になる。それぞれ世代別にCPUや機能などのアップデートをまとめたものが表1と表2になる
| ブランド | Snapdragon 8 Elite Gen 5 | Snapdragon 8 Elite | Snapdragon 8 Gen 3 | Snapdragon 8 Gen 2 | Snapdragon 8 Gen 1 |
|---|---|---|---|---|---|
| 発表年 | 2025年 | 2024年 | 2023年 | 2022年 | 2021年 |
| CPUブランド名 | 第3世代Oryon CPU | 第2世代Oryon CPU | 新Kryo | 新Kryo | 新Kryo |
| Arm ISA | Armv8 | Armv8 | Armv9 | Armv9 | Armv9 |
| プライムコア | Oryon/プライム(2) | Oryon/プライム(2) | Cortex-X4(1) | Cortex-X3(1) | Cortex-X2(1) |
| パフォーマンスコア | Oryon/パフォーマンス(6) | Oryon/パフォーマンス(6) | Cortex-A720(5) | Cortex-A715(2)/A710(2) | Cortex-A710(3) |
| 高効率コア | - | - | Cortex-A520(2) | Cortex-A510(3) | Cortex-A510(4) |
| L3キャッシュ | - | - | 12MB | 8MB | 6MB |
| GPUブランド名 | Adreno 840 | Adreno 830 | Adreno 750 | Adreno 740 | Adreno 730 |
| メモリ種類/データレート | LPDDR5x-5300 | LPDDR5x-5300 | LPDDR5-4800 | LPDDR5-4200 | LPDDR5-3200 |
| NPU | 新Hexagon NPU(第5世代) | 新Hexagon NPU(第4世代) | 新Hexagon NPU(第3世代) | 新Hexagon NPU(第3世代) | 新Hexagon NPU(第3世代) |
| ISP | 新Spectra | 新Spectra | 新Spectra | 新Spectra | 新Spectra |
| モデム | X85(内蔵5G) | X80(内蔵5G) | X75(内蔵5G) | X70(内蔵5G) | X65(内蔵5G) |
| 製造プロセスルール | 3nm(TSMC) | 3nm(TSMC) | 4nm(TSMC) | 4nm(TSMC) | 4nm(Samsung) |
| Snapdragon X2 Elite | Snapdragon X Elite | Snapdragon 8cx Gen 3 | Snapdragon 8cx Gen 2(Microsoft SQ2) | Snapdragon 850 | Snapdragon 835 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 発表年 | 2025年 | 2023年 | 2021年 | 2020年 | 2018年 | 2017年 |
| CPU名称 | 第3世代Oryon | Oryon(第1世代) | 新Kryo | Kryo 495 | Kryo 385 | Kryo 280 |
| ベースデザイン | 自社開発(18コア、12Prime+6PF) | 自社開発(12コア/すべてPrime) | Cortex-X1(4コア)+Cortex-A78(4コア) | Cortex-A76(4コア)+Cortex-A55(4コア) | Cortex-A75(4コア)+Cortex-A55(4コア) | Cortex-A73(4コア)+Cortex-A53(4コア) |
| LLC | 5MB? | 6MB | 14MB | 10MB | 2MB? | ? |
| トータルキャッシュサイズ(L2+L3) | 53MB | 42MB | - | - | - | - |
| GPU名称 | Adreno X2 | Adreno X1 | 新Adreno | Adreno 680 | Adreno 630 | Adreno 540 |
| メモリ/バス幅 | 192bit(Extreme)/128bit | 128bit | 128bit | 128bit | 64bit | 64bit |
| メモリ種類/データレート | LPDDR5x-9523 | LPDDR5x-8533 | LPDDR4x-4266 | LPDDR4x-4266 | LPDDR4x-3732 | LPDDR4x-3732 |
| 理論帯域幅 | 228GB/s(Extreme)/152GB/s | 約136GB/s | 約68.3GB/s | 約68.3GB/s | 約29.9GB/s | 約29.9GB/s |
| NPU | 新Hexagon NPU(第5世代) | 新Hexagon NPU(第3世代) | 新Hexagon(第3世代?) | Hexagon 690 | Hexagon 685 | Hexagon 682 |
| ISP | 新Spectra | 新Spectra | 新Spectra | Spectra 390 | Spectra 280 | Spectra 180 |
| モデム | X75(5G) | X65(5G) | X65/X62/X55(5G) | X24(CAT20, 2Gbps)/X55 5G(別チップ) | X20(CAT18, 1.2Gbps) | X16(CAT16, 1Gbps) |
| PCI Expressコントローラ | 5.0(x12)+4.0(x4) | 4.0(x8) | 3.0 | 3.0 | ? | ? |
| USB | USB4 | USB4 | USB 3.x | USB 3.x | USB 3.x | USB 3.x |
| 製造プロセスルール | 3nm(TSMC) | 4nm(TSMC) | 5nm(Samsung) | 7nm(Samsung) | 10nm | 10nm |
両製品に共通するのはCPUが第3世代Oryonとなり、GPUが前世代の改良版が採用され、さらに同世代のHexagon NPUが採用されていることだ。これにより、CPU、GPU、NPUそれぞれが性能強化されており、いずれの製品も前世代に比べて大きく性能が改善している。Qualcommの主張によれば、それぞれ前世代からの性能向上幅は次のようになっている。
| Snapdragon 8 Elite Gen 5 | Snapdragon X2 Elite Extreme | |
|---|---|---|
| CPU | 20%(シングルスレッド)/17%(マルチスレッド) | 30%(シングルスレッド)/50%(マルチスレッド) |
| GPU | 23% | 130% |
| NPU | 37% | 78% |
こうしてみると、モバイル向けのSnapdragon 8 Elite Gen 5は2桁程度の通常の世代間進化のアップデート、PC向けのSnapdragon X2 Elite ExtremeはCPU、GPU、NPUのいずれもが50%を超える性能向上を実現している大きなアップデートであることが分かる。
なお、製造時に利用されるプロセスノードは、発表時点では3nmとだけ明らかにされていたが、その後Snapdragon Summitの質疑応答などの中でTSMCの3nm(モバイルに関してはN3Bと具体的なノード名まで明らかにされている)であることが発表されていることを付記しておきたい。
シングルスレッドが30%、マルチスレッドが50%と通常の世代間アップデートよりも大きな性能向上
いずれの製品も、CPUは第3世代Oryonに強化されている。Oryonは2023年に発表され、2024年に発売された製品に採用されたSnapdragon Xシリーズ(X Elite/X Plus/X)で最初に搭載されたQualcomm自社開発のCPUになる。
初代Oryonは4つのCPUコア(プライムコア=超高性能コア)が1つのクラスタを構成しており、最上位グレードのX Eliteではそのクラスタを3つ搭載し、12基のプライムコアから構成されるCPUになっていた。
また、Snapdragonでは従来Cortex系のCPUを採用していたため、キャッシュは巨大なL3キャッシュ、1~2MB程度のL2キャッシュという階層になっていたが、CPUだけのL3キャッシュは廃止して代わりに6MBのSLC(System Level Cache)を搭載、CPUクラスタ(4コア)あたりに12MBの共有L2キャッシュを搭載するという仕組みを採用するなど、メモリ遅延の最適化を図っている。
それに対して、昨年発表されたSnapdragon 8 Eliteで導入された第2世代Oryonでは、“パフォーマンスコア”と呼ばれる、プライムコアに比べて性能はやや落ちるものの、消費電力とダイサイズが節約できるコアが導入されている。パフォーマンスコアでは、L1命令キャッシュが192KBから128KBに減らされるなど各種の最適化を行ない、電力とダイサイズの最適化を行なっている。Snapdragon 8 Eliteではプライムコアが2コア、パフォーマンスコアが6コアで、合計8コアのCPUとなる。
なお、この第2世代OryonではSLCは搭載されておらず、プライムコア、パフォーマンスコアという2つのクラスタが、それぞれに12MBのL2キャッシュが搭載されている形になっていた。
| 第1世代Oryon | 第2世代Oryon | 第3世代Oryon | |
|---|---|---|---|
| 採用製品 | Snapdragon X | Snapdragon 8 Elite(Gen 4) | Snapdragon X2/Snapdragon 8 Elite Gen 5 |
| 最大コア数 | 12コア | 8コア | 18コア(PC)/8コア(スマホ) |
| 命令セットアーキテクチャ | Armv8 | Armv8 | Arm世代非公表(PCはSVE/SME対応) |
| プライムコア | 12コア | 2コア | 12コア(PC)/2コア(スマホ) |
| プライムコア最大周波数 | 4.3GHz(デュアルコア時) | 4.32GHz | 5GHz(PC/デュアルコア時)/4.6GHz(スマホ) |
| パフォーマンスコア | - | 6コア | 6コア |
| パフォーマンスコア最大周波数 | - | 3.53GHz | 3.6GHz(PC)/3.62GHz(スマホ) |
| クラスターあたりのL2キャッシュ | 12MB | 12MB | 12MB |
| SLC(L3) | 6MB | - | ?MB(PC)/-(スマホ) |
| トータルキャッシュサイズ(L2+SLC) | 42MB | 24MB | 53MB(PC)/24MB(スマホ) |
そして今年の両製品に採用されたのが第3世代Oryonだ。第3世代Oryonでは基本的に従来のOryonのデザインを受け継ぎつつ、性能が強化されている。
Snapdragon 8 Elite Gen 5に搭載されている第3世代Oryonは、プライムコアが2基、パフォーマンスコアが6基という基本的なアーキテクチャそのものは第2世代Oryonから引き継がれているが、各種の最適化などにより動作クロックが引き上げられている。
具体的にはプライムコアが4.32GHzから4.6GHzに、パフォーマンスコアも3.53GHzから3.62GHzへと引き上げられており、こうした最適化の結果、シングルスレッドで20%、マルチスレッドで17%という性能向上が実現されている。その意味ではスマートフォン用の第3世代Oryonは、第2世代Oryonの正常進化版といって差し支えないだろう。
それに対してPC用では、第2世代Oryon採用モデルがなかったため、第1世代のOryonから大きな強化になっている。プライムコアの2クラスタになり、各クラスタは6コアに増量、そしてパフォーマンスコア6コアから構成される1クラスタが追加された。これにより、12基のプライムコアと6基のパフォーマンスコアで、18コア構成となったわけだ。ちょっとしたワークステーション用のCPUかと思うような構成になっている。
キャッシュの階層はL2+SLCの合計で53MBと公表されており、その内訳がどうなるのかは今のところ不明。普通に考えれば、各クラスタに16MB×3のL2キャッシュ、そして5MBのSLCで53MBだと考えられるが、現時点では分からない。このあたりは今後Qualcommからより詳細なアーキテクチャが説明される段階で説明される可能性がある。
Snapdragon X2 Elite ExtremeのCPU性能は、前世代と比較してシングルスレッドで30%、マルチスレッドで50%の向上とされている。シングルスレッドが大きく向上しているのは、3nmプロセスノードに微細化されたことなどにより、クロック周波数が最大5GHzに引き上げられていることが影響していると考えられるし、マルチスレッドが50%となっているのは6基のパフォーマンスコアが追加された影響と考えられる。
PC向けのAdreno X2は最大130%の性能向上を実現、内部アーキテクチャを大幅改良か?
今回Qualcommはモバイル向けGPUの強化に関しては「性能が向上した」以外の説明をほとんどしなかった。Qualcommがこういう時には、「基本的に大きな変更はなく、細かな部分のアップデートが行なわれた」という場合と、「実は非常に大きなアップデートがあるのだが製品のリリースが近くなるまでは詳細を明らかにしない」という場合と、2つのパターンがある。
モバイル向けのGPUに関してはさまざまな状況証拠から、前者の「基本的に大きな変更がなく細かなアップデートが行なわれた」というパターンに該当するものと考えられる。何よりの証拠は、内部的な製品名だ。
昨年のSnapdragon 8 Eliteでスライスアーキテクチャに一新された際には、「Adreno 830」という従来のAdreno 7xxから3桁目の数字が1つ上がった型番となっていた。しかし、今回のSnapdragon 8 Elite Gen 5のGPU名称は「Adreno 840」と2桁目しか変更がない。このため、基本的には従来モデルのアーキテクチャを元に、最適化を行なった製品だと考えられる。
Adreno 840(Qualcommは公式にはそう呼んでおらず、新Adrenoとだけいっている)を説明するスライドでは、従来と同じ3スライスのスライスアーキテクチャを採用し、クロック周波数とメモリアクセスの改善という2つの強化点を挙げている。クロック周波数は内部構造の最適化などにより1.1GHzから1.2GHzへ引き上げられている。またメモリアクセスの改善は、Adreno HPM(High Performance Memory)というハードウェアの導入により実現されている。
Adreno HPMは、従来からあったGPUのキャッシュメモリの新しい呼び方で、Adreno 830では「Graphics Memory」と呼ばれていたGPUのキャッシュメモリのことだ。この容量が従来の12MBから18MBに増量されていることが強化点となる。それにより、GPUがメモリにアクセスするときの遅延が削減され、帯域幅の有効活用ができるようになったため、こうした名称がつけられたと考えられる。
それに対してPC用のSnapdragon X2 Eliteに搭載しているGPUは、後者の方の「実は非常に大きなアップデートがあるのだが、製品のリリースが近くなるまでは詳細を明らかにしない」という方だと考えられる。
というのも、今回QualcommはAdreno X2(名称に関してはSKU構成の中でGPUがX2-**という型番がつけられていることから分かる程度)の性能は、従来のAdreno X1と比較して2.3倍(130%の性能向上がある)と説明しており、1世代分(大抵10~20%程度)の性能向上よりも大きいと説明している。これだけの性能向上を実現するために、旧世代と同じアーキテクチャでは難しいと考えられる。
また、公開された資料のブロック図を見ても、従来のX1とはだいぶ違うように見える。その意味で、こちらは別の機会に詳細が説明される可能性があると考えられる。
どちらもQualcommの最新世代NPUに強化されて、PC向けのNPUは80TOPSと78%の性能向上
MicrosoftがCopilot+ PCの要件に「40TOPS以上のNPU」を入れたことで、NPUとその高い性能がローカルAI(あるいはオンデバイスAI、エッジAI)を実現するには重要であるという認識が広がったため、今やSoCの重要なプロセッサの1つとしてNPUは認識されるようになっている。
そのNPUだが、Qualcommは古くはDSPと呼ばれていた時代からその実装に取り組んできている。さらにここ数年は急速にその性能を高めており、去年の製品、今年の製品と2年連続で内部の演算器を増やすことでNPUの強化を実現している。
Qualcommの「Hexagon」は世代によって名前も変わってきているので、ハードウェアの構成の違いなどから、便宜的に世代名をつけると、次のような5つの世代があることが分かる(世代名は筆者が便宜的につけたもので、Qualcommの公式な呼び方ではない、念のため)。
| Hexagon DSP | Hexagonプロセッサ | Hexagon NPU | 新Hexagon NPU | 新Hexagon NPU | |
|---|---|---|---|---|---|
| 世代(筆者呼称) | 第1世代 | 第2世代 | 第3世代 | 第4世代 | 第5世代 |
| 登場年 | 2004年 | 2014年 | 2019年 | 2024年 | 2025年 |
| スカラー | 6 | 6 | 6 | 8 | 12 |
| ベクター | - | 4 | 4 | 6 | 8 |
| Tensor | - | - | 1 | 1 | 1 |
第1世代となるのが、2004年に登場し、スマートフォンになる前のフィーチャーフォンに「Hexagon DSP」として採用されていたものだ。この第1世代ではスカラープロセッサが6基搭載されており、それによりオーディオ処理などを行なうDSPとして利用されてきた。
第2世代になるのは2014年に投入されたHexagonプロセッサで、スカラープロセッサ6基にベクタープロセッサ4基が追加され、DSPとしてだけでなく、画像処理などにも活用されるようになっていった。
そして2019年に登場したのが第3世代となるHexagon NPUだ(ここからはNPUと呼ばれるようになる)。6基のスカラー、4基のベクターはHexagonプロセッサと同じなのだが、行列積和を専用に行なうTensorプロセッサが追加され、AIで多用される整数、浮動小数点の行列演算を高速に処理できるようになった。
そして昨年のSnapdragon 8 Eliteに搭載されたのが第4世代Hexagon NPU(正式名称がないため、便宜的に第4世代Hexagonと呼ぶことにする)で、スカラープロセッサが6基から8基に、ベクタープロセッサが4基から6基にと増やされ、演算性能が向上している。
そして今年のSnapdragon 8 Elite Gen 5に搭載されたのが第5世代に相当する新Hexagon NPUだ。スカラープロセッサが8基から12基に、ベクターが6基から8基にと増やされており、さらにINT2やFP8などの新しい精度にも対応していることが特徴となる。こうした強化により、第4世代Hexagon NPUに比べて37%性能が向上しているとQualcommは説明している。
一方、PCの新Hexagon NPUに関してはどうなのだろうか?実はQualcommはSnapdragon X2 EliteのNPUに関しては80TOPS(従来世代の45TOPSから78%アップ)という性能を説明しただけで内部のアーキテクチャに関して説明をしていない。しかし、いくつかのヒントは与えてくれている。
Qualcomm Technologies 副社長 兼 AI/生成AI製品責任者 ヴィネッシュ・スクマール氏は「Snapdragon X2 EliteのNPUは世代的にはSnapdragon 8 Elite Gen 5に搭載されているものとほぼ同じものだ。ただし、PC用の方がクロック周波数を高めるなどの調整を行なっており、より高い性能を発揮できる」と説明した。つまり、実質第5世代Hexagon NPUだということだ。実際、公開されたSnapdragon X2 EliteのNPUのブロック図を見る限りは、ほぼSnapdragon 8 Elite Gen 5のそれと同等で、スカラーが12基、ベクターが8基、Tensorが1という構成であることが分かる。
これに対して、Snapdragon Xシリーズに採用されていた45TOPSのNPUは第3世代NPUだった。つまり、スカラー6基、ベクター4基、Tensorが1という構成だったのだ。スカラー、ベクターともに演算器が倍になっており、それが78%向上の原因だと考えれば80TOPSの性能も十分に納得できると言えるだろう。
モバイル向けのISPは20bitの深度に対応し、4倍広いダイナミックレンジに対応
ISPに関しては、モバイル向けのSnapdragon 8 Elite Gen 5のISPに関してだけ詳細が明らかにされた。このため、以下に説明していることはSnapdragon 8 Elite Gen 5のISPの説明となる。
Snapdragon 8 Elite Gen 5のISPは従来モデルと同じく3基実装されている。しかし、ビット深度が従来モデルの18bitから20bitに強化されている。ビット深度が増えると、表現できる色のレンジ(ダイナミックレンジ)が広くなり、より色表現を細かく行なうことが可能になる。Qualcommによれば、20bitのISPでは従来の18bitの4倍のダイナミックレンジに対応できるという。
ビット深度が高くなればなるほど、人間の眼に近づいていくことになるので、より自然な色表現が可能になる。もちろんCMOSセンサーやレンズといったアナログ側のスペックにも依存することになるが、そうしたアナログ側がより幅広い色表現に対応していれば、動画などを撮影したときにより自然な色表現をすることができるようになる。
また、ISPはAPV(Advanced Professional Video)コーデックに対応している。APVはSamsungなどが開発し、オープンなコーデックとして公開された動画圧縮の規格で、プロが後で編集することを意識し、可能な限り少ない劣化で圧縮を行ない動画として保存することができる。Appleの独自規格であるProResに比べて、同じような圧縮を行なった場合に10%ファイルサイズが小さくなること、Samsung以外のベンダーも実装可能だということが大きな特徴と言える。
Samsungは2023年にAPVの構想を開発者向けのフォーラムなどで発表していたが、その時に将来のSamsung製スマートフォンに採用する計画を明らかにしていた。
その意味では、例年であれば年頭に登場するSamsungの2026年モデル(Galaxy S26シリーズ?)にはSnapdragon 8 Elite Gen 5が採用されることは当然想定される。そうしたSamsungの新しいモデルでAPVコーデックがサポートされる可能性が高くなってきたと言える。というよりもSamsungのためにこのAPVコーデックがISPに実装されたと考えるのが妥当だろう。
MoPに対応することで、228GB/sというモバイルPC向けとしては最高峰のメモリ帯域幅を実現
最後にSnapdragon X2 Elite Extremeのパッケージについて触れておきたい。既に別記事で説明している通り、Snapdragon X2 Eliteには「Snapdragon X2 Elite Extreme」という特別版が用意されており、そのSnapdragon X2 Elite ExtremeではMoP(Memory on Package)のパッケージを採用し、3つのDRAMチップがパッケージ上に統合されているのだ。
なお、ExtremeではないSnapdragon X2 EliteではMoPではない通常のパッケージが採用されており、DRAMはメインボード上に直接実装される形になる。
Snapdragon X2 Elite ExtremeのMoPがユニークなのは、メモリチャネルがPC的な言い方をすればトリプルチャネル(64bit×3=192bit)になっていることだ。パッケージ上には16GBのLPDDR5x DRAMが3つ搭載されており、その3つに対して1つのメモリチャネルを構成することで192bitのメモリバス幅が実現されている。
さらに、メモリそのものも高速化され、LPDDR5x-8533からLPDDR5x-9523へと引き上げられているので、Snapdragon X2 Elite Extremeの3チャネル構成時には228GB/sというモバイルPC用としてはかなりの広帯域が実現されている。
なお、通常版のSnapdragon X2 Eliteでは、基板上にLPDDR5x DRAMを搭載することが可能で、2チャネル(64bit×2=128bit)構成になる。こちらもLPDDR5x-9523を利用可能で、その場合には152GB/sとなる。
競合他社の製品だと、IntelのCore Ultra 200VではLPDDR5x-8533の2チャネル(64bit×2=128bit)構成になるので、136GB/sがメモリ帯域となる。それらに比べてMoPでも、外部DRAMでもより広帯域幅を実現していることが特徴だ。
なお、MoPになっているSnapdragon X2 Elite ExtremeではオンパッケージのDRAM(48GB)に加えて、外部メモリを実装することも可能だ。外部メモリは最大128GBまで実装することが可能なので、単純計算では48GB+128GBで176GBのメモリを搭載することが可能になる。
ただ、その場合、メモリチャネルがどういう構成になるのかは明白ではないので、設定によってはメモリ帯域がMoPだけに比べて落ちる可能性もある。モバイルノートPCのトレンドとしては32GB構成がハイエンド、16GBがメインストリームであるため、48GBでもオーバースペックと言えるので、外部メモリをわざわざ搭載するという製品は考えにくいが、技術的に可能ということだ。
昨年型の強化版となるSnapdragon 8 Elite Gen 5とビッグジャンプのSnapdragon X2 Elite Extreme/X2 Elite
以上のように、Snapdragon 8 Elite Gen 5とSnapdragon X2 Elite Extreme/X2 Eliteという両製品を詳細に見ていくと、前者は昨年型の進化形、後者は従来製品から大きな変更が加えられた製品であることが分かる。スマートフォン向けの製品は毎年新しい製品が出てくるが、完全なアーキテクチャは2~3年に一度で、それが昨年のSnapdragon 8 Eliteだったことを考えれば、妥当な進化だと言える。
それに対して、PC向けのSnapdragon X2 Elite Extreme/X2 Eliteは、2年分のアップデートが盛り込まれており、CPU、GPU、NPUのすべてが50%を超える性能向上を示しており、その性能がPC市場に再び大きなインパクトを与えそうなことは間違いなさそうだ。今後明らかにされるだろうベンチマークの結果や、より詳細なアーキテクチャなどが公開されることに期待感を表明してこの記事のまとめとしたい。

























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