笠原一輝のユビキタス情報局
Surface Pro Xに搭載されたMicrosoft SQ2 CPUの正体を実機で探る
2020年10月14日 12:24
Microsoftの「Surface Pro X」は、Microsoft SQ1というArmベースのSoC(System on a Chip)を搭載し、2019年10月に発表された。今回、Surface Pro Xにプラチナカラーが追加されるとともに、SoCがSQ1からSQ2へと強化されている。
Microsoft SQ1は、QualcommがArm版Windows向けに提供しているSnapdragon 8cxがベースになっており、そのSnapdragon 8cxの性能強化版というのがMicrosoft SQ1の位置づけだった。
SQ2はどうなのだろうか? Microsoftは、「SQ2は性能が向上した」とだけしか説明しておらず、具体的な仕様は不明だったが、日本マイクロソフトより機材を借り受けたので、実機にて確認してみる。
Microsoft SQ2と新色が追加されたSurface Pro X
Surface Pro Xは、別記事(「Surface Pro X」が刷新。新プロセッサ「SQ2」搭載参照)で紹介したとおりで、Microsoft SQ2/16GB/256GBないしはMicrosoft SQ2/16GB/512GBというモデルが追加。また、本体色は従来モデルではマットブラックのみになっていたが、SQ2搭載モデルにはプラチナが追加されている。
基本的にはそれ以外の部分、たとえばディスプレイの解像度やサイズ、Surface Slim Penと呼ばれる新しいSurfaceの薄型ペン対応などの仕様はまったく変化がない。LTEモデムを標準搭載で、eSIMと呼ばれる物理的なSIMなしでもデータ通信ができる点も同じ。そのあたりの使い勝手などに関しては、過去に初代モデルをレビュー(Arm版Windows搭載「Surface Pro X」をレビュー【前編】)しているので、そちらを参照していただきたい。
製品名 | Surface Pro X リフレッシュ版 |
---|---|
CPU | Microsoft SQ1/SQ2 |
GPU | Adreno 685(SQ1)/Adreno 690(SQ2) |
メモリ | 16GB(LPDDR4X) |
ストレージ | 256/512GB(M.2 Type 2230) |
ディスプレイ | 13型2,880×1,920ドット(227ppi、3:2) |
タッチ/ペン | 10点マルチタッチ/ペン(4,096段階)-Surface Slim Pen |
カメラ(Windows Hello対応有無) | 前面500万画素/1080p(顔認証対応)、背面1,000万画素/1080p、4K動画 |
USB Type-C | 2基(3.2 Gen2) |
マイク | デュアル(ファーフィールド対応) |
その他ポート | Surface Connect/Nano SIMカードスロット/キーボード端子 |
Wi-Fi | IEEE 802.11ac |
Bluetooth | Bluetooth 5 |
WAN | 対応(Snapdragon X24 LTE modem) |
対応LTEバンド | 1/2/3/4/5/7/8/12/13/14/19/20/25/26/28/29/30/38/39/40/41/46/66 |
キーボード | 別売フルサイズバックライトキーボード |
ポインティングデバイス | Precision TouchPad |
ACアダプタ | 65W(Surface Connect)60W(PC)+5W(A端子) |
バッテリ | 公称15時間(バッテリ容量38.2Wh) |
本体色 | マットブラック/プラチナ |
サイズ(横x縦x高さ) | 287x208x7.3mm |
重量 | 774g(本体のみ) |
CPU | メモリ | ストレージ | OS | Office | 本体色 | セルラーモデム | 税別参考価格 | 発売日 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
一般向け | Microsoft SQ2 | 16GB | 256GB | Windows 10 Home | Office Home and Business 2019 | プラチナ/ブラック | ギガビットLTE | 185,800円 | 10月13日 |
一般向け | Microsoft SQ2 | 16GB | 512GB | Windows 10 Home | Office Home and Business 2019 | プラチナ/ブラック | ギガビットLTE | 219,800円 | 10月13日 |
法人向け | Microsoft SQ2 | 16GB | 256GB | Windows 10 Pro | - | プラチナ/ブラック | ギガビットLTE | 180,800円 | 10月13日 |
法人向け | Microsoft SQ2 | 16GB | 512GB | Windows 10 Pro | - | プラチナ/ブラック | ギガビットLTE | 214,800円 | 10月13日 |
もう1つの強化という意味では、フォリオキーボード(カバーキーボード)も、従来モデルではブラックのみになっていたが、今回、アイスブルー、ポピーレッド、プラチナの3色が追加された。
プラチナ色は、Surface ProシリーズやSurface Goシリーズでもお馴染みの白とシルバーの中間色という感じで、よりポップなデザインのマシンが欲しいユーザーには嬉しい選択肢と言えるのではないだろうか。
Microsoft SQ2の正体は、予想通り「高クロック版のSQ1」
すでに述べたとおり、Surface Pro Xの新しいハイエンドモデルに搭載されているSoCはMicrosoft SQ2になる。このSQ2に関してMicrosoftは「性能が上がった」という説明を繰り返すだけで、詳細について説明していない。GPUに関しても従来のAdreno 685からAdreno 690へと強化されていると説明するが、実際どのように強化されているのかまったく説明されていない。
今回実機で確認したみたところ、Microsoft SQ2のCPUは上限の動作クロックが3.15GHzになっていた。初代Surface Pro XのSQ1では3GHzなので、150MHz分だけクロック周波数が上がったものがMicrosoft SQ2の正体だと言えるだろう。
Microsoft SQ1/SQ2のベースになっている、Snapdragon 8cxはTSMCの7nmで製造されており、すでにプロセスノードのライフの後半に入っている。いわば「熟成」が進んで歩留まりが向上しており、クロック周波数を上げることができたようだ。L1、L2、L3キャッシュなどの容量は従来と同じだ。
GPUに関しては、GPU-ZなどのGPUのスペックを確認するツールがArm版Windowsでは利用できないため、Adreno 690とAdreno 685の仕様の差はわからなかった。
そこでSQ2の性能を確認するために、ベンチマークプログラムとしてPCMark 10 Applicationsを実行し、過去のモデルと比較した。PCMark 10 Applicationsは、じっさいのOfficeアプリ(Word/Excel/PowerPoint)とWebブラウザのMicrosoft Edgeを利用して性能を測るベンチマークだ。
PCMark10のテストや、3DMarkなども実行したいところだが、Arm版Windowsでは、現在は64bit x86アプリ(x64/AMD64/Intel64)を実行することができない(将来的には対応する計画だ)。そのため、32bit x86アプリとArm64ネイティブなベンチマークが必要になるのだが、前者はどんどん減っており、後者はほとんどない状況だ。
そんななか、ほとんど唯一と言って良いほど対応しているのがこのPCMark 10 Applicationsで、Officeアプリは32bit x86、Microsoft EdgeはArmネイティブ版を使ってベンチマークを行なう。それぞれの性能見るという意味でもいいテストだろう。比較対象として用意したのはSurface Pro X初代のSQ1/8GB/128GBモデルで、参考までにSurface Pro 7のスコアも載せておいた。
見てわかるように、クロックが引き上げられた分だけ性能が向上していると言える。ただ、驚くほど性能があがっているとは言えないだろう。すでにSQ1を持っているユーザーの人が買い換えるほどではないが、これから購入するならSQ2を選んだ方がいいという評価になるだろう。
これまでSurface Pro Xの購入を検討してきたが、CPU性能への不安や、x64アプリケーションが動かないのは困るというユーザーにとっては、性能がSQ2によってやや強化され、まもなくx64アプリケーションのバイナリトランスレーションの機能も実装されるのだから、検討するのにいい時期にさしかかっているのかもしれない。