笠原一輝のユビキタス情報局

Surface Pro Xに搭載されたMicrosoft SQ2 CPUの正体を実機で探る

Surface Pro X(モデル1876、SQ2/16GB/256GB)、カラバリはプラチナ

 Microsoftの「Surface Pro X」は、Microsoft SQ1というArmベースのSoC(System on a Chip)を搭載し、2019年10月に発表された。今回、Surface Pro Xにプラチナカラーが追加されるとともに、SoCがSQ1からSQ2へと強化されている。

 Microsoft SQ1は、QualcommがArm版Windows向けに提供しているSnapdragon 8cxがベースになっており、そのSnapdragon 8cxの性能強化版というのがMicrosoft SQ1の位置づけだった。

 SQ2はどうなのだろうか? Microsoftは、「SQ2は性能が向上した」とだけしか説明しておらず、具体的な仕様は不明だったが、日本マイクロソフトより機材を借り受けたので、実機にて確認してみる。

Microsoft SQ2と新色が追加されたSurface Pro X

 Surface Pro Xは、別記事(「Surface Pro X」が刷新。新プロセッサ「SQ2」搭載参照)で紹介したとおりで、Microsoft SQ2/16GB/256GBないしはMicrosoft SQ2/16GB/512GBというモデルが追加。また、本体色は従来モデルではマットブラックのみになっていたが、SQ2搭載モデルにはプラチナが追加されている。

 基本的にはそれ以外の部分、たとえばディスプレイの解像度やサイズ、Surface Slim Penと呼ばれる新しいSurfaceの薄型ペン対応などの仕様はまったく変化がない。LTEモデムを標準搭載で、eSIMと呼ばれる物理的なSIMなしでもデータ通信ができる点も同じ。そのあたりの使い勝手などに関しては、過去に初代モデルをレビュー(Arm版Windows搭載「Surface Pro X」をレビュー【前編】)しているので、そちらを参照していただきたい。

【表1】Surface Pro Xのスペック
製品名Surface Pro X リフレッシュ版
CPUMicrosoft SQ1/SQ2
GPUAdreno 685(SQ1)/Adreno 690(SQ2)
メモリ16GB(LPDDR4X)
ストレージ256/512GB(M.2 Type 2230)
ディスプレイ13型2,880×1,920ドット(227ppi、3:2)
タッチ/ペン10点マルチタッチ/ペン(4,096段階)-Surface Slim Pen
カメラ(Windows Hello対応有無)前面500万画素/1080p(顔認証対応)、背面1,000万画素/1080p、4K動画
USB Type-C2基(3.2 Gen2)
マイクデュアル(ファーフィールド対応)
その他ポートSurface Connect/Nano SIMカードスロット/キーボード端子
Wi-FiIEEE 802.11ac
BluetoothBluetooth 5
WAN対応(Snapdragon X24 LTE modem)
対応LTEバンド1/2/3/4/5/7/8/12/13/14/19/20/25/26/28/29/30/38/39/40/41/46/66
キーボード別売フルサイズバックライトキーボード
ポインティングデバイスPrecision TouchPad
ACアダプタ65W(Surface Connect)60W(PC)+5W(A端子)
バッテリ公称15時間(バッテリ容量38.2Wh)
本体色マットブラック/プラチナ
サイズ(横x縦x高さ)287x208x7.3mm
重量774g(本体のみ)
【表2】日本で販売されるSurface Pro Xのモデル
CPUメモリストレージOSOffice本体色セルラーモデム税別参考価格発売日
一般向けMicrosoft SQ216GB256GBWindows 10 HomeOffice Home and Business 2019プラチナ/ブラックギガビットLTE185,800円10月13日
一般向けMicrosoft SQ216GB512GBWindows 10 HomeOffice Home and Business 2019プラチナ/ブラックギガビットLTE219,800円10月13日
法人向けMicrosoft SQ216GB256GBWindows 10 Pro-プラチナ/ブラックギガビットLTE180,800円10月13日
法人向けMicrosoft SQ216GB512GBWindows 10 Pro-プラチナ/ブラックギガビットLTE214,800円10月13日
外箱
外箱を開けたところにSurface Pro Xが入っている
フォリオキーボード(プラチナ)の外箱
フォリオキーボード(プラチナ)

 もう1つの強化という意味では、フォリオキーボード(カバーキーボード)も、従来モデルではブラックのみになっていたが、今回、アイスブルー、ポピーレッド、プラチナの3色が追加された。

プラチナとマットブラックの比較。ディスプレイ側から見ると、どちらも同じように見えるがディスプレイ縁が違っていることがわかる
プラチナフォリオキーボードの日本語配列
左右ポート、USB Type-C×2、Surface Connectが1つという構成は変わらず

 プラチナ色は、Surface ProシリーズやSurface Goシリーズでもお馴染みの白とシルバーの中間色という感じで、よりポップなデザインのマシンが欲しいユーザーには嬉しい選択肢と言えるのではないだろうか。

Microsoft SQ2の正体は、予想通り「高クロック版のSQ1」

Microsoft SQ1

 すでに述べたとおり、Surface Pro Xの新しいハイエンドモデルに搭載されているSoCはMicrosoft SQ2になる。このSQ2に関してMicrosoftは「性能が上がった」という説明を繰り返すだけで、詳細について説明していない。GPUに関しても従来のAdreno 685からAdreno 690へと強化されていると説明するが、実際どのように強化されているのかまったく説明されていない。

 今回実機で確認したみたところ、Microsoft SQ2のCPUは上限の動作クロックが3.15GHzになっていた。初代Surface Pro XのSQ1では3GHzなので、150MHz分だけクロック周波数が上がったものがMicrosoft SQ2の正体だと言えるだろう。

 Microsoft SQ1/SQ2のベースになっている、Snapdragon 8cxはTSMCの7nmで製造されており、すでにプロセスノードのライフの後半に入っている。いわば「熟成」が進んで歩留まりが向上しており、クロック周波数を上げることができたようだ。L1、L2、L3キャッシュなどの容量は従来と同じだ。

Microsoft SQ2は3.15GHzにクロックが向上したCPUとAdreno 690の組み合わせ

 GPUに関しては、GPU-ZなどのGPUのスペックを確認するツールがArm版Windowsでは利用できないため、Adreno 690とAdreno 685の仕様の差はわからなかった。

 そこでSQ2の性能を確認するために、ベンチマークプログラムとしてPCMark 10 Applicationsを実行し、過去のモデルと比較した。PCMark 10 Applicationsは、じっさいのOfficeアプリ(Word/Excel/PowerPoint)とWebブラウザのMicrosoft Edgeを利用して性能を測るベンチマークだ。

 PCMark10のテストや、3DMarkなども実行したいところだが、Arm版Windowsでは、現在は64bit x86アプリ(x64/AMD64/Intel64)を実行することができない(将来的には対応する計画だ)。そのため、32bit x86アプリとArm64ネイティブなベンチマークが必要になるのだが、前者はどんどん減っており、後者はほとんどない状況だ。

 そんななか、ほとんど唯一と言って良いほど対応しているのがこのPCMark 10 Applicationsで、Officeアプリは32bit x86、Microsoft EdgeはArmネイティブ版を使ってベンチマークを行なう。それぞれの性能見るという意味でもいいテストだろう。比較対象として用意したのはSurface Pro X初代のSQ1/8GB/128GBモデルで、参考までにSurface Pro 7のスコアも載せておいた。

PCMark 10 Applications総合
PCMark 10 Applications詳細

 見てわかるように、クロックが引き上げられた分だけ性能が向上していると言える。ただ、驚くほど性能があがっているとは言えないだろう。すでにSQ1を持っているユーザーの人が買い換えるほどではないが、これから購入するならSQ2を選んだ方がいいという評価になるだろう。

 これまでSurface Pro Xの購入を検討してきたが、CPU性能への不安や、x64アプリケーションが動かないのは困るというユーザーにとっては、性能がSQ2によってやや強化され、まもなくx64アプリケーションのバイナリトランスレーションの機能も実装されるのだから、検討するのにいい時期にさしかかっているのかもしれない。