元半導体設計屋 筑秋 景のシリコン解体新書

Intelのデスクトップ向けCPUでNPUを初搭載するArrow Lake

 Intelの新しいCore Ultra デスクトップ・プロセッサー (シリーズ 2)(コードネームArrow Lake)が発表になった。このプロセッサは、エンスージアストに高いパフォーマンスと電力効率をもたらし、AI PCをデスクトップ市場に導入することを目標に開発された。

 新しいCPUコアとパッケージング技術により、Arrow Lakeでは消費電力と発熱を抑えることを最優先で進化させた。その背景には、デスクトップPCの消費電力が、過去3年間で大きく増加してきているという懸念があった。

 しかし、むやみにエネルギー効率を改善すると、パフォーマンスを犠牲にする可能性が出てくる。そこで、Arrow Lakeではシングルスレッド、マルチスレッドでの性能の優位性を保ちながら、トップラインのゲームパフォーマンスを維持することを開発目標とした。

 そしてAIをすべてのデスクトップPCセグメントにも拡大するため、ハードウェアAIスタックを導入した。これによりゲームにおける新たなAI活用にも対応できるようになる。

 内蔵グラフィックスも刷新した。Xe-LPGを搭載し、最先端のディスプレイとコーデックをサポートする。エンスージアストは、ディスクリートGPUを採用していることが多いが、Intel Quick Sync Videoは依然として主要なクリエイター向けソフトで活用されているからだという。

 Arrow Lakeは、Raptor Lakeのトップエンドのゲームパフォーマンスを約半分の電力で実現する。つまり、ワットあたりのパフォーマンスを飛躍させ、より動作温度を低くし、静かで高性能システムを求めるエンスージアスト向けのCPUを目指した。

 Raptor Lake の32スレッドから、Arrow Lakeは24スレッドに減ったが、マルチスレッドパフォーマンスでは優位となっているという。つまり、スレッドあたりの性能が高くなっているわけだ。

最新CPUコアアーキテクチャとキャッシュ最適化

 Arrow Lakeで採用されたCPUコアであるSkymont(Eコア)とLion Cove(Pコア)についても簡単にまとめておこう。どちらのコアも柔軟性と拡張性に優れており、もバイル向けのLunar Lakeでは、これらのコアを採用してTDP 10Wのモデルも用意した。一方、デスクトップ向けのArrow Lakeでは、最大250Wまでになっており、このアーキテクチャの電力帯域の柔軟性を上限まで解放した製品と言える。

 Lion Coveにはきめ細かなクロッキング調整機能を追加した。これにより電圧や周波数のオーバーシュートが少なくなり、エネルギー効率が向上し、オーバークロックにも役立つという。

 そして、SkymontでのVNNI命令と、Lion Coveで実行可能なの AVX-VNNI命令により、CPUだけで約15TOPSのAI処理ができる。ただし、エンスージアストのプラットフォームでは、AI処理はGPUあるいはNPUにオフロードさせることで、CPUをより重要なワークロードに割り当てられる。

 また、製品ごとでキャッシュ階層を調整し、パフォーマンスと消費電力を微調整することができる柔軟性も持ち、これによって製品全体でIPC(Instructions Per Cycle: サイクルあたりの命令実行数)を調整する。

 Lunar Lakeでは、8MBのメモリサイドキャッシュがSkymontのキャッシュミスの影響から保護する役割を果たしている。一方、Arrow Lakeは、SkymontとLion Coveの両コアがアクセスできるラストレベルキャッシュLLCとなっている。具体的にRaptor Lakeと比較すると、Lion CoveのL2キャッシュは2MBから3MBにコアごとに増え、Skymontはクラスターごとに4MBの共有L2キャッシュを搭載する。

デスクトッププロセッサにNPUを初めて追加

 今後、数年間でAIはゲーム体験を大きく変えていくと考えられている。Intelはこのようなゲーム体験をサポートするためAI対応プロセッサをデスクトップに導入したいと考えていた。そしてArrow Lakeでは、デスクトッププロセッサに初めてNPUが搭載した。そして、前述の通りCPUコアと内蔵グラフィックスも、AVX-VNNI、DP4aなどのAI処理拡張機能も搭載している。プラットフォームでは合計36TOPSになる。今後、新たなソフトウェアスタックが登場し、PCゲーマーにとっても不可欠な機能になっていくことを期待しているという。

プラットフォームとオーバークロック

 Arrow Lakeでは、新しいLGA1851ソケットを備えたマザーボードが必要になる。チップセットはIntel 800シリーズとなる。同チップセットは、ストレージや最新の周辺機器に接続するための豊富なPCIe、SATA、およびUSBに対応する。

 そして、Thunderbolt 4も標準で組み込まれ、オプションでThunderbolt 5もサポート。いずれも、Thunderbolt経由で2台のPCをつなぎ、ファイルのやりとりや、キーボード、マウス、モニターなどを共有できるThunderbolt Shareに対応する。

 無線についてはWi-Fi 6Eと、Bluetooth 5.3を標準でサポートし、Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4、2.5Gigabit Ethernetをオプションとして提供する。

 有線については、標準で1Gigabit Ethernetに対応している。これらのオプションには、最新のKillerソフトウェアが含まれたKiller Networkチームが構築したバージョンも用意されている。

 そして、Arrow Lakeでは、オーバークロックが強化された。Lion Cove、Skymontとも、周波数を16.6MHz単位で調整でき、コアの性能を最大限に引き出すことができるようになっている。また、コアとクラスタの電圧を別々に調整が可能なことで、SkymontをLion Coveよりも低い電圧で動作させ、放熱に余裕を作ることもできる。

 そして、デュアルベースクロックにより、メモリやシステムファブリックとは別に、コアとリングの周波数を細かく調整できる。また、ダイ間およびSOCタイルのファブリックのオーバークロックにより、メモリスループットが向上している。

 DLVR(デジタルリニア電圧レギュレータ)を使用することで、Lion Coveは各コアごと、Skymontはクラスタごとに個別に電圧を調整できるため、前世代よりも正確なチューニングが可能になった。

 Arrow Lakeをオーバークロックするにあたって、Skymontの周波数、タイル間の周波数、メモリ周波数に焦点を当てると最大の効果が得られるという。Lion Coveにもある程度の余裕があるが、設計上、Lion Coveの周波数はすぐに最大になるためだ。

最新の高速なDDR5テクノロジーをサポート

 メモリは、最大192GBのDDR5-6400を標準でサポート。Arrow Lakeはメモリのオーバークロックにも強くなっており、8,000MT/s以上のオーバークロックが可能。Clock Unbuffered DIMMなどの最新規格にも対応し、エンタープライズ向けではECCメモリをサポートする。

 Clock Unbuffered DIMM(CUDIMM)とCSODIMMは、新しいDDR5メモリモジュールで、メモリスティック上にクロックドライバを追加している。これにより、メモリコントローラからの信号を再生成または増幅し、高周波数を安定させる。CUDIMMはデスクトップ用、CSODIMMはノートブック用のメモリ規格になる。