PC短評
AMDでもIntelでもない、Arm搭載の次世代AI PC「HP OmniBook X 14 AI PC」を試す
2024年7月26日 06:34
5月22日、日本HPはパワフルなウルトラモバイルとして「Qualcomm Snapdragon X Elite」を搭載する次世代AI PCとなる、個人向けの「HP OmniBook X 14 AI PC」と法人向けの「HP EliteBook Ultra G1q AI PC」を発表した。これはMicrosoftが牽引する、AIのために設計された新しいカテゴリのWindows PCである「Copilot+ PC」要件に適合するモデルで、言語モデルと生成AIをローカルで実行することができる。
あのスマホやタブレットでよく使われる「スナドラ」がWindows PCに搭載されて、しかもAIが入ってるっていったい何が起こってるんです?新しいハードに目がない筆者は、HP OmniBook X 14 AI PCをこっそり拝借したので、そのパフォーマンスを紹介していこう。直販価格22万4,800円からだ。
ArmアーキテクチャのQualcomm Snapdragon X Eliteを搭載
HP OmniBook X 14 AI PCの本体サイズは312×223×14.4mm、筐体はプラスチック製で本体重量は実測値で1,346g、ディスプレイは14型の2.2K(2,240×1,440ドット)解像度で視野角の変化に強いIPS光沢パネルを採用し、sRGB 100%の色域と300cd/平方mの輝度を持つ。
CPUはQualcomm Snapdragon X Eliteの最下位モデルにあたる「1E-78-100」を搭載。TSMCが手掛ける4nmプロセスで製造され、コア数は12、動作クロックは3.4GHz。
グラフィックスはCPUに内蔵されたQualcomm Adreno GPUで3.8TFLOPS、AIアクセラレータはQualcomm Hexagon NPUで45TFLOPSの演算性能を持つ。MicrosoftのCopilot+ PC要件に対応しているのが最大の特徴で、マシンのローカルで言語モデルと生成AIの処理が可能となっている。
システムメモリは基板実装されたSK hynix LPDDR5x 8,448MHzで容量16GB、ストレージはPCI Express 4.0接続M.2 SSDのKIOXIA KBG50ZNV1T02で容量1TB、OSはWindows 11 Home(バージョン24H2)となり、x86およびx64のアプリケーションをエミュレートする「Prism」が含まれている。
Prismは完全な互換性を有しているわけではないが、ユーザー側は特に何もせずAMDやIntel機と同じ感覚でアプリケーションを利用できるというのがポイントだ。詳細については下記の記事を参照してほしい。
インターフェイスは、USB4、USB 3.1 Type-C(DisplayPort Alt Mode/PD対応)、USB 3.1と3.5mmオーディオジャック、そのほかPoly Studioデュアルスピーカー、Windows Helloの顔認証に対応する約500万画素のIRカメラを搭載。無線LANは最新のWi-Fi 7に対応し、Bluetooth 5.4もサポートする。
英語配列のキーボードは、キーピッチが18mm、ストロークは浅いが適度なクリック感があり思わずこれ好きなヤツ~と声を出してしまう。ただし電源ボタンがDELキーとBACKSPACEキーで包囲されており、タイピング中に誤って押してしまうことがあるため注意が必要だ。
タッチパッドは125×80mmと広くマルチタッチおよびジェスチャーに対応。また中心にレイアウトされているため利き手を選ばない。パームレスト部分も距離が確保されており、手首を乗せてタイピングするにはちょうど良い。
調べ物からお絵かきまでいろいろ使えるCopilot
これまでのCopilot in Windows(以下Copilot)はタスクバーの右端に固定されており、直接クリックまたはWindows+Cキーのショートカットで呼び出しを行なっていた。しかし、7月上旬のアップデートで通常のアプリケーション同様にタスクバーの中央にピン留めされ、より素早く直感的に起動できるようになった。
そして最新PCの特徴の1つとも言えるのが、キーボードのスペースバー右側に新設された「Copilotキー」だ。このCopilotキーにはCopilotアプリケーションがアサインされており、キーを押すだけで素早くCopilotを呼び出すことができる。
CopilotはAIアシスタント機能でOpenAIのGPTを利用している。断片的な情報やキーワードで検索するという意味ではブラウザ検索と変わらないが、それらを自然言語で質問して関連する情報や提案をしてくれる機能は、まるで横にいる友人と会話している感覚に近い。キーワード、スペースで区切り、条件定義などをしながら検索結果を絞り込んでいくよりも気軽なことは言うまでもない。
マシンのローカルでAIを利用する例として、ペイントのアプリケーションに「Cocreator」の新名称で機能が統合されている。入力したスケッチやテキストから画像やアートを生成するもので、これはOpenAIの画像生成AIモデルとして有名な「DALL-E」を利用している。出力する画像やアートは絵画、水彩、ピクセルなどのスタイルを指定できるほか、創造性スライダでAIの介入量を調整可能だ。
ストレスなく快適に動作。1日以上持つ超ロングライフバッテリ
ここからはベンチマークで性能を見ていこう。CPUのレンダリングでパフォーマンスを測定する「Cinebench 2024」でのスコアは、マルチコアが749、シングルコアが101。PCMark 10についてはArm対応の「PCMark 10 Applications」を使用し、Microsoft Word、Excel、PowerPoint、Edgeによるテストで総合的なパフォーマンスを計測したところ、スコアは11,695となった。
オフィスワークを想定したシーンはもちろん、そのほかの動作もレスポンスは極めて高くストレスは全く感じない。またCopilotを立ち上げてからキーボードで文章を入力、AIから回答が出力されるまでの一連の動作もスムーズだ。あとは使うCopilot次第といったところだろうか。
バッテリ容量は59Whで26時間の連続駆動を謳うHP OmniBook X 14 AI PC。Windowsの「電源とバッテリー」項目をOSセットアップ時の電力設定「バランス」のままディスプレイ輝度50%、スピーカーの出力を30%に設定して、実際に測定した。
バッテリライフのテストには、フルスクリーンでフルHDビデオを連続再生するArm対応の「PCMark 10 Video battery life」を実行。結果は約24時間45分を経過したところでバッテリ残量が5%を切り、PCがハイバネートをしようとしたためベンチマークが停止した。実際のユースケースでは異なる結果になるのは当然だが、それも踏まえても、圧倒的な長時間駆動を実現するSnapdragon X Elite恐るべしと言えるだろう。
スクウェア・エニックスによるMMORPGの代表作「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー」のベンチマークを使い、フルHD解像度で高品質(ノートPC)設定とした場合のスコアを計測した。スコアは5,335で評価は「普通」、負荷の高いシーンではフレームレートの低下が気になるが、グラフィックス設定次第で快適にプレイできる。
GPUのパフォーマンスを測定する「3DMark」でのスコアは、「Night Raid」が25,007、「Wild Life」が16,099、「Fire Strike」が5,382、「Time Spy」が1,810となった。
ブラウザゲームなどはストレスなく快適で、今回テストした「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー」ならグラフィックス設定を調整すれば快適にプレイできるだろう。
これまでスマホやタブレットでよく使われていた「スナドラ」が、AIを搭載したSnapdragon X EliteとなったことでWindowsをこんなにもパワフルに動かすのかと驚きを隠せない。今後のSnapdragon X EliteをはじめとするArm搭載製品の動向が気になる一方で、Prismによるエミュレートはまだ完璧ではない点に注意したい。
たとえばPC短評で使っている「HWiNFO」や「BLUE PROTOCOL」のベンチマークソフトは起動することができなかった。これまで使っていたアプリケーションがArmアーキテクチャでちゃんと動作するのか確認した上で、購入を検討したい。