シミラボ出張所
Ryzen 7000の爆熱は簡単に下げられる!CPU設定で温度と電力を最適に調整する方法
2022年12月12日 06:10
満を持して登場したRyzen 7000シリーズ。フラグシップのRyzen 9 7950Xは最大動作クロックが5.7GHzと高く、ほかのモデルも5GHzを超えている。前世代から大幅に引き上げられた動作クロックとIPCの向上により、これまで弱点とされていたシングルスレッド性能が飛躍的に向上しただけでなく、マルチスレッド性能もそれに伴い大幅に向上している。
しかし、CPUの温度リミットが95℃に設定されていることと、ブーストの挙動が変わったことにより、CPU温度の高さが発売時に話題となった。今回はRyzen 7000シリーズをより快適に使うための温度や消費電力の設定方法を中心に解説していこう。
(1) Ryzen 7000シリーズで定格時の挙動が変更。自動OC機能も標準でオンに
(2) 温度リミットが「85℃」だと性能が上がる可能性が……
(3) TDP 125Wに下げることで性能と温度のバランスが取れる
(4) Curve Optimizerの設定を下げることで性能アップ
(5) Curve Optimizerと温度リミットの合わせ技でさらに快適に
(6) CPUクーラーの違いでRyzen 7000シリーズの性能は変わるか?
(7) まとめ
CPU : Ryzen 9 7950X
マザーボード : MSI MEG X670E ACE(BIOS : 7D69v125)
メモリ : CORSAIR DDR5-6000C36(Sample品、16GB×2枚)
ビデオカード : MSI GeForce RTX 3090 Ti SUPRIM X 24G
電源 : MSI A1000G PCIE5
クーラー1 : MSI MEG CORELIQUID S360(360mm簡易水冷)
クーラー2 : Noctua NH-D15(14cmツインタワー空冷)
クーラー3 : Deepcool AS500(14cmシングル空冷)
PCケース : 親和産業 2WAYベンチテーブル E-ATX
グリス : 親和産業 OC Master SMZ-01R
OS : Windows 11 Pro 22H2
室温 : 25℃前後
温度計測ソフト : HWiNFO Pro v7.31-4875
電力計 : Electronic Educational Devices Watts Up? Pro
Ryzen 7000で定格時の挙動が変更。自動OC機能も標準でオンに
まず最初に知っておきたいのが、定格状態での挙動だ。Ryzen 7000シリーズのCPU温度が高いと言われる問題には、おおまかに2つの原因がある。
1つ目は温度リミットが95℃と高いこと。Ryzen 3000シリーズや5000シリーズのTDP 65Wモデルと同じ値ではあるが、Ryzen 9 5950Xなどは90℃だったので、Ryzen 9に関しては前世代比では少し高くなっている。
2つ目の理由はブーストクロックが高いこと。なんと、これまでは自動オーバークロック(OC)機能とされていた「Precision Boost Overdrive」(以下、PBO)がなぜか標準状態で有効になっているのだ。
そのため、標準状態で95℃をターゲットに、CPUの限界近くまでブーストする挙動となっている。これらの限界までクロックを高めるための工夫は、競合となるIntelのRaptor Lakeを大きく意識してのことだと思う。
旧世代では、PBOを有効にしない場合は360mmサイズの簡易水冷クーラーを使えば、Cinebenchなどのマルチスレッドテスト中でも60℃台で収まっていた場合も多かった。
そのため、そのイメージでRyzen 7000シリーズを使ったユーザーが、なんだかやけに熱くないかと思ってしまうのも仕方ない。ただ、Ryzen 5 7600Xは環境にもよるが、空冷クーラーでも80℃台前半に収まる場合が多いので、実は扱いやすかったりする。
また、CPUの個体差によって同じCPUクーラーを使っても、ブーストクロックが25~50MHzほど変わる場合がある。これは発熱の小さい個体ほどブーストクロックが高くなるためだ。
標準状態では高いと言われる温度だが、設定を変更すれば抑えることが可能。同時に性能を上げることも可能なので、次節でそれを解説していきたい。発熱が大きくてブーストクロックが低めの個体でも設定すればきちんとスコアが出るので、気になっている人は挑戦する価値があるだろう。
温度リミットが「85℃」だと性能が上がる可能性が……
PBO(Precision Boost Overdrive)が標準で有効になっているRyzen 7000シリーズだが、マザーボードのUEFI上から温度のリミットを変更可能だ。電圧関係は自動で調整されるが、温度リミットを重視した制御となるため安定性が担保されており、最も手軽に試せる設定だ。
今回のテストではRyzen 9 7950Xと、MSI MEG X670E ACEを使用。MSI製マザーボードでは「PBO Thermal Point」という設定で温度リミットを4段階で変更可能。デフォルトでは95℃となっているが、これ以外に85℃や75℃、65℃のプリセットも選ぶことができる。より細かく設定をしたい場合は、PBOをManualモードに設定すれば、任意の値に手動設定することもできる。
この設定を使うと、不思議なことに温度リミットを下げたのに動作クロックが向上する。温度リミットを下げたことで電圧も下がり、その余力が動作クロックの向上に充てられるのだ。これはRyzenが温度と電力値を緻密に監視しながら動作クロックを制御しているゆえになせる技だ。
今回のCINEBNEHC R23のマルチテストでは、温度リミットを85℃に設定した際のスコアが38,198と最も高く、動作クロックも定格状態から35MHz上昇していた。シングルスレッドスコアも高クロック状態を維持しやすいからか、温度リミットを設定した際の方がスコアがよかった。この機能を開発したMSI OC LABのテストでも85℃が最も良い結果を記録したらしく、性能重視ならば85℃を選んだ方が良さそうだ。
テスト中の温度と消費電力だが、温度においては設定値を遵守しているのがグラフから見て取れる。消費電力では、温度リミット値を下げるにしたがって順当に減少が見られる。ワットパフォーマンスを考慮すると85℃設定がかなり優秀だが、75℃設定にすればクーラーやマザーボードへの要求も低くなるので、小型機に組み込みたい場合に有効だろう。
Ryzen 7000シリーズはどんなクーラーを使っても温度リミットをターゲットに限界までブーストさせてくれる仕様となっている。Intelプラットフォームの場合、クーラーの冷却力が高いとCPU温度が低下するが、Ryzen 7000シリーズはどんなクーラーを付けても温度ターゲットに当てながらクロックを上げていく挙動となっている。ブーストクロックの上限は各モデルで異なるが、それに達するためには360mm以上の簡易水冷クーラーや本格水冷システムが必要になってくる。
システムの限界まで性能を上げてくれるのが強みではあるが、性能の低いクーラーを使っていると、知らないうちにクロックが大幅に下がっている場合もあるので注意したい。性能を出したい場合や長時間連続して負荷を掛ける使い方をするのであれば、CPUのモデルを問わず最低でも240mm以上の水冷クーラーかハイエンド空冷が望ましい印象だ。
TDP 125Wに下げることで性能と温度のバランスが取れる
Ryzen 7000シリーズの温度における次の改善方法は、消費電力値の設定だ。今回試したMEG X670E ACEには「Config TDP」というプリセットが用意されており、45Wから170Wまで6つのプリセットが選択可能だった。TDPの値に合わせてPPT(Package Power Target)、TDC(Thermal Design Current)、EDC(Electrical Design Current)などの値も連動して変化するので、選ぶだけでほかには設定が必要ない。
Cinebench R23の結果を見ると、設定値に合わせて順当にマルチスコアが低下しているのが見て取れる。95Wまでは落ち方が比較的緩やかなので、ワットパフォーマンスを考えると実用的に思える。
45Wまで絞っても、スコアはTDP値の低下よりも小さいので、ワットパフォーマンスを重視したいユーザーは性能と相談しつつ、TDP設定を下げることを検討する価値があるだろう。
シングルスレッド性能の低下はどの設定でも10ポイント前後と体感が難しいレベルなので、ゲーム用途の場合は絞って使う方が良い場合もある。
温度と消費電力のグラフを見ると、125Wに絞っただけでかなりの低下が見られる。ベンチスコアも加味すると125W設定は性能と消費電力のバランスがかなり良い印象だ。
次に注目したいのが65W時で、消費電力が176Wとスコアを考えるとかなり低い値を記録している。ワットパフォーマンス追求しつつ、システムの小型化をしたいユーザーには打ってつけの設定かもしれない。
Curve Optimizerの設定を下げることで性能アップ
「Curve Optimizer」とは、分かりやすく言うと電圧の設定機能だ。クロックに対する電圧を加減できる機能なので、プラスとマイナスの設定値が用意されている。これをマイナス方向に使って電圧を下げ、温度と消費電力の余裕を作ってブーストクロックを高めることが可能となっている。
設定値の上限は30で各コアごとに個別設定も可能となっており、設定を深く追い込むこともできる。しかし、かなりの時間が掛かるうえにCPUごとに設定が異なるため、今回はシンプルに全コア設定でテストを行なう。
プラス側に設定すると、温度と消費電力が上昇してブーストクロックが低下して逆に性能が低下してしまうので注意。「Negative」を選択してマイナス設定で行なうのが本設定の鉄則だ。
今回試した個体では-25がCinebench R23のマルチテストをクリアできる限界値だった。個体によってはより低くできる場合もあるが、-20から-30の間に大体の個体が収まるので、-20スタートで安定する下限値を探るとよいだろう。
設定値を下げ過ぎると、Windowsやアプリケーションがクラッシュする場合があるので、長時間高負荷ですべてのコアを使うような場合には-10~ー15辺りにするのもおすすめだ。シングルスレッド中心のゲーマーと、マルチスレッド中心のクリエイターで設定値は変わってくる。
スコアにおいては、-25に設定すると定格状態からマルチスレッドスコアは1,000ポイント程上昇して38,940を記録。マルチスレッドテスト中のブーストクロックは5,225MHzと175MHz高くなっている。
noctuaのハイエンド空冷クーラーNH-D15を使用してもCurve Optimizer設定を行なうとスコアは360mm水冷の定格よりも高くなっており、ブーストクロックも50MHz高い。設定なしの場合でも95℃ターゲットで制御するためスコアは37,135と十分高いが、設定することで水冷レベルの性能になるのは驚き。
GPUを使う場合は、熱の影響を受けるのでさらに性能が下がるだろうが、CPUのみ使う場合はケースに組み込んでも空冷で十分使えそうだ。ハイエンド=水冷というイメージが強いが、Ryzen 7000シリーズの場合は設定次第では空冷クーラーでも十分使えるだろう。
温度と消費電力においては、設定を変更しても温度リミットベースの制御となるためほとんど変化がない。ただ、空冷クーラーでもフラグシップCPUをハンドリングできるというのはかなり魅力的ではないだろうか。小型機に組み込みたい場合にもこの設定は有効なので試してみてほしい。
Curve Optimizerと温度リミットの合わせ技でさらに快適に
Curve Optimizerと温度リミットの設定を同時に行なうことで、低電圧化して動作クロックを向上させつつCPU温度を低下させることが可能だ。今回は、Curve Optimizerの設定は-25のままで、温度設定を手動で変更してテストを行なった。
最もスコアが良いのは温度リミット95の時だが、85℃に設定しても定格設定よりも高いスコアを記録している。
75℃に設定した際は動作クロックは5,070MHzと高いものの、ベンチ初頭の動作クロックが95℃設定の方が少し高かったため、スコアは定格からわずかに低下している。ただ、低電圧化のおかげで5.7GHz以上で動作する時間が長くなるため、シングルスコアは向上している。
65℃設定はほかの設定と同等のシングルスコアを記録しつつも、マルチ中の温度は65℃に収まっているので、スコアを考えるとかなり優秀で扱いやすい。
温度に関しては設定を遵守しているので割愛するが、消費電力は温度を下げるに従って低下している。
個人的においしいラインだと思うのは75℃設定時で、定格と同等のマルチスコアと記録しつつ、消費電力は定格よりも48Wも低下している。マザーボードへの温度的負担もかなり軽減されるので、ミドルクラスのマザーで使いたい場合はこの設定は有用だろう。
CPUクーラーの違いでRyzen 7000シリーズの性能は変わるか?
Ryzen 7000シリーズを検証すべく、空冷クーラー2機種と水冷クーラー1機種を用いて検証を行なった。
空冷クーラーは、14cmファンを1基搭載するDeepcoolの「AS500」と、14cmファンを2基搭載するnoctuaの「NH-D15」、水冷クーラーは360mmサイズのラジエータを備えるMSIの「MEG CORELIQUID S360」を使用。CPUはRyzen 9 7950XとRyzen 5 7600Xを使用した。
室温は25℃前後になるように調整し、ベンチ台を使用している。PCケースに組み込むと、内部のエアフローやファン構成によって温度が上下すると思うので、今回はあくまで純粋なCPUクーラー性能の比較として見てもらいたい。
Ryzen 5 7600Xにおいては、クーラーの冷却性能に応じてわずかなスコア上昇が見られた。開発初期のUEFIでは電圧がさらに入っていたからか、さらにスコア差がついていたが、発売時のUEFIではそれが修正されて扱いやすくなってる。
5,000円台の空冷クーラーであるAS500でも十分にハンドリングできているので、長時間高負荷で使う場合を除いて空冷でも冷やしきれるだろう。
360mm水冷のファンとポンプをフル回転させると温度は同等だが、ブーストクロックは50MHz上がっていたので、本格水冷などより強力なクーラーを使うと性能向上が望めるが、コストパフォーマンスは悪い。
Ryzen 9 7950Xはコア数が多く、発熱も大きいためか水冷クーラーが高いスコアを記録。シングルスレッドスコアにも差がついているので、フルに性能を発揮させたい場合は360mmクラスの水冷クーラーが必要だろう。ただ、低電圧化の設定を行なえば空冷でも使用できるので、設定に挑戦するのもよいだろう。
消費電力値に多少のばらつきはあるが、気にするほどの差とは言えない。温度においてはRyzen 9 7950Xはすべてのクーラーで95℃前後に達している。
Ryzen 5 7600Xは82~85℃の間にどのクーラーでも収まっている。ある程度のクーラーを使えば95℃には達しないようだ。ただ、あまりにも安いクーラーを付けると温度上昇と性能低下の可能性があるので、最低でも「虎徹 MarkII Rev.B」や「AK400」クラスを搭載したい。
まとめ
爆熱と騒がれているRyzen 7000シリーズだが、その原因と設定方法さえ分かれば5000シリーズのように低発熱かつワットパフォーマンスの高い状態にチューニングすることが可能だ。
クーラーによって性能が変わるのはこれまで通りなので、クーラー選びにこだわりつつ、今回の設定の中から自分に合うものをチョイスすれば、かなり快適に使えるはず。
どの設定も手動オーバークロックに比べると簡単ではあるが、Curve Optimizer設定だけは電圧を調整することになるので、システムが不安定になる場合がある。
Windows上でクラッシュを多発させるとOSやデータが破損する場合があるので、バックアップを取った上で徐々に電圧設定を下げていくのが、事故なく低電圧化を成功させるコツだ。
一部自己責任要素もあるが、本記事が快適なPCライフを送る一助となればうれしい。