シミラボ出張所
これが本当に安ゲーミングノートPCか!? RTX 4050+DLSS 3の組み合わせでAAA級タイトルも遊べちまうんだ!
~MSI「Thin GF63 12Vシリーズ」がオーバークロッカーの“シミオシ”なワケ
2023年3月1日 06:00
NVIDIAのノートPC向け最新GPU「GeForce RTX 4050 Laptop GPU」をいち早く搭載したゲーミングノートがMSIから登場した。しかもAAA級タイトルが存分に遊べる性能にもかかわらず、20万円切りという驚くべき価格。なぜ“4050”というエントリークラスのGPUで高性能を実現可能なのか、その秘密を解き明かしていきたい。
今回はMSIスペシャルアドバイザーを務めるオーバークロッカーの清水貴裕氏にご協力いただきつつ、検証を行なった。そのため、同氏のPC Watchでの連載「シミラボ出張所」の場を借りてのレビューとなっている。
ゲーミングノートの中でも随一のスタイリッシュさ
ここで取り上げるMSIの「Thin GF63 12Vシリーズ」は、アルミ合金筐体にヘアライン加工が施されたスタイリッシュなゲーミングノートだ。15.6型の液晶ディスプレイを搭載し、最新ゲームも快適に遊べる性能を備えながら、21.7mmのスリムさと1.86kgの軽さを実現しているのが大きなポイントである。
「これまでMSIのゲーミングPCは、ドラゴンのロゴを使った“攻め重視のデザイン”といったイメージがありましたが、今はクリエイターやビジネス向け製品のPrestigeシリーズやSummitシリーズなどもあり、デザインの幅が広がりましたね。そういった戦略の甲斐あってか、ゲーミングノートも派手過ぎないスタイリッシュなものが増えました。Thin GF63 12Vシリーズはその典型と言えるでしょう」(清水氏)。
清水氏が言うように、ブラックを基調としたアルミ合金パネルによるスタイリッシュなデザインは、仕事・学業など用途を選ばずに使いやすい。持ち運びが苦にならない重量で、かつ最大9時間(JEITA 2.0)のバッテリ駆動も可能なので、自宅でも外出先でもマルチに活躍できるのも大きな強みだ。
RTX 40シリーズは「DLSS 3」の存在が肝
ゲーミングPCの心臓部と言えるGPUは、ノートPC向けでNVIDIA最新世代となる「GeForce RTX 4050 Laptop GPU」を採用。RTX 40シリーズではエントリー向けとなるが、前世代の同一グレードであるGeForce RTX 3050 Laptop GPUからはCUDAコア数が500基以上増え、ブーストクロックも向上した。
【表1】GeForce RTX 4050/3050 Laptop GPUのスペック | ||
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GPU名 | RTX 4050 Laptop GPU | RTX 3050 Laptop GPU |
アーキテクチャ | Ada Lovelace | Ampere |
CUDAコア数 | 2,560 | 2,048 |
ブーストクロック | 1,605~2,370MHz | 1,057~1,740MHz |
メモリサイズ | GDDR6 6GB | GDDR6 4GB |
メモリバス幅 | 96bit | 128bit |
RTコア | 第3世代 | 第2世代 |
Tensorコア | 第4世代 | 第3世代 |
DLSSのバージョン | 3 | 2 |
NVENC | 第8世代 | 第7世代 |
カード電力(W) | 35~115W | 35~80W |
メモリバス幅こそ前世代から少し狭くなったが、ビデオメモリは4GBから6GBにアップ。何よりRTX 40シリーズということで、高性能アップスケーラーのDLSS(Deep Learning Super Sampling)に、フレーム生成技術を加えた「DLSS 3」をサポート。対応タイトルでは、よりフレームレートを高められる。このあたりの効果は後述のベンチマークでチェックしていく。
ノートPC向けのRTX 40シリーズについて清水氏にうかがったところ、やはりその性能には目を見張るものがあるようだ。
「自分が最初に試したのは、最上位のGeForce RTX 4090 Laptop GPUを搭載するTitan GT77 HX 13V(Titan-GT77HX-13VI-1003JP)ですが、ベンチマークのスコアはハイエンドデスクトップレベルですね。
RTX 4090 Laptop GPUはデスクトップ版のRTX 4080のダイを使用しており、本当にそのクラスの性能がノートPCに搭載されるようになったなという印象です。Thin GF63 12Vシリーズに搭載されているRTX 4050 Laptop GPUも前世代からもちろん性能は上がっています。
RTX 40シリーズで一番変わったと思うのはDLSS 3ですね。DLSS 3を有効にして設定を詰めると、フレームレートが倍くらいになるパターンもあります。そのため、RTX 4050 Laptop GPUのようなエントリー向けにこそ絶大な効果があります」(清水氏)。
CPUも強力だ。ノートPC向け第12世代Coreシリーズの中でも上位の「Core i7-12650H」を搭載。Pコアが6基、Eコアが4基と10コア16スレッド仕様だ。Pコアの最大クロックは4.7GHz、Eコアは最大3.5GHz。
ベース電力となるPBT(Processor Base Power)は45W、最大電力となるMTP(Maximum Turbo Power)は115Wだ。ノートPCとしてはメニーコアかつ高クロック仕様と、ゲームはもちろんクリエイティブな作業にも対応できるだけの性能がある。対応メモリはDDR4/LPDDR4/DDR5/LPDDR5で、本機にはDDR4が16GB(8GB×2)搭載されている。
「ノートPCはIntelの第12世代Coreからハイブリッドアーキテクチャになったことで、性能が大幅に伸びました。シングルスレッド性能もそうですが、マルチスレッド性能の向上はより顕著です。
ベンチマークのスコアを見ていると、デスクトップ以上にノートPCでの恩恵を感じます。本体を見ないで性能を測ったらデスクトップと区別がつかないところまで来ていますね。
自分は普段からノートPCを持ち運んでいて、その場その場で動画編集をすることもあり、クリエイターの人もそのありがたみが分かると思います。ゲーム配信者にとってもノートPCだけでゲームプレイ・配信・編集ができるのは強みになるはずです」(清水氏)。
Thin GF63 12Vシリーズのスペックとインターフェイスを確認
ベンチマークの前に、今回お借りしたThin GF63 12Vシリーズのそのほかのスペックやインターフェイス類をチェックしておこう。
【表2】MSI Thin GF63 12Vシリーズ(Thin-GF63-12VE-069JP)のスペック | |
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CPU | Core i7-12650H(10コア16スレッド) |
メモリ | DDR4-3200 16GB |
ストレージ | 512GB NVMe SSD |
GPU | GeForce RTX 4050 Laptop GPU |
ディスプレイ | 15.6型液晶(1,920×1,080ドット、144Hz) |
OS | Windows 11 Home |
インターフェイス | USB 3.2 Gen 1 Type-C(映像出力対応)、USB 3.2 Gen 1 Type-A×3、HDMI、有線LAN(1Gbps)、Webカメラ(92万画素)、ステレオスピーカー、音声入出力端子 |
無線 | Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2 |
バッテリ駆動時間 | 最大9時間(JEITA 2.0) |
本体サイズ | 359×254×21.7mm |
重量 | 1.86kg |
ディスプレイは15.6型のフルHD(1,920×1,080ドット)で、リフレッシュレートは144Hzと高い。このあたりはゲーミングPCらしいところ。
ディスプレイ上部にはWebカメラ、マイクも備えており、ビデオチャットも手軽に行なえる。インターフェイスは左側面にUSB 3.2 Gen 1 Type-A×1、右側面に有線LAN(1Gbps)、USB 3.2 Gen 1 Type-C(映像出力対応)、USB 3.2 Gen 1 Type-A×2、マイク入力、ヘッドフォン出力、背面にHDMI出力を搭載。無線LANはWi-Fi 6対応で、Bluetooth 5.2もサポートする。
キーボードは日本語配列。HomeやPageUP、Endなど一部キーが一番右に並ぶのがやや特殊だが、矢印キーも大きく、使いやすさは上々だ。バックライトもあるため暗い場所でも使いやすい。
本体のサイズは、359×254×21.7mmで重量は1.86kgだ。ACアダプタの出力は120Wで、ゲーミングノートとしてはコンパクトな大きさのため、持ち運びもしやすい。
DLSS 3の威力は素晴らしい! AAA級ゲームも快適に遊べる
ここからは本題と言えるベンチマークテストに移ろう。本機は管理アプリの「MSI Center」のUser Scenarioで複数の動作モードが選べるが、今回はAIでアプリに合わせて自動的にパフォーマンスを調整する「スマートオート」に設定。
また、比較用としてGPUに「GeForce RTX 3050 Laptop GPU」を搭載するゲーミングノートを用意した。CPUに6コア12スレッドの「Core i5-10500H」を採用しているモデルだ。GPUが1世代でどこまで性能が向上したのか確かめるのに最適と言えるだろう。
まずは、PCの基本性能を測定する「PCMark 10」、CGレンダリングでCPUパワーを測定する「Cinebench R23」をチェックする。
この2つのテストはCPUパワーの差が効いている。6コア12スレッドから10コア16スレッドへのコア数増加はベンチマーク結果にしっかりと出ており、PCMarkではクリエイティブ系の処理であるDigital Contents Creaitionで約1.8倍もスコアアップ、Cinebench R23のマルチコアでも約2倍のスコアとクリエイティブ用途でも性能向上がめざましい。
続いて定番3Dベンチマークの「3DMark」を試そう。
DirectX 11ベースのFire Strike、DirectX 12ベースのTime Spyともに約1.6倍のスコアアップを確認。レイトレーシングのテストを含むPort RoyalやSpeed Wayで大きな差になっているのは、RTコアの世代が異なることに加え、RTX 3050はビデオメモリが4GBしかないのが大きく影響している。負荷の高い描画において、もはや4GBでは足りない時代となったと言えるだろう。
ここからは実ゲームを試そう。軽めのFPSの「レインボーシックス シージ」と「オーバーウォッチ2」から。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能を実行、オーバーウォッチ 2はマップ「Eichenwalde」でBotマッチを実行した際のフレームレートを「FrameView」で測定している。
レインボーシックス シージはかなり軽めのゲームということもあって、フルHDならどちらのGPUでも性能は十分だ。リフレッシュレート144Hzを生かし切れるだけのフレームレートに到達できている。
オーバーウォッチ2は、最高画質のエピックだとRTX 3050搭載ノートでは快適なプレイの目安と言える平均60fpsに到達できない。一方で今回検証しているThin GF63 12Vシリーズは平均82fpsと高いフレームレートを出せた。描画負荷が高くなると性能差が目立つ。
次に、RTX 40シリーズの大きな強みである「DLSS 3」対応のタイトルを試してみよう。2023年2月1日のアップデートで正式にDLSS 3対応となった重量級ゲームの「サイバーパンク2077」から。ゲーム内のベンチマーク機能を実行してフレームレートを測定した。
レイトレーシングの有効/無効に加えて、DLSSを有効(設定はパフォーマンス)/無効にした状態の両方を測定しているので、DLSS 3の効き具合にも注目してほしい。
レイトレーシングを使わない最高画質設定の「ウルトラ」でDLSSを使っていない状態でもThin GF63 12Vシリーズは平均59.9fpsと十分快適にプレイできるフレームレートを出せている。DLSS 3を活用すれば平均90.4fpsまで向上可能だ。
レイトレーシング有効時の最高画質設定の「レイトレーシング:ウルトラ」でも、DLSS 3を使えば平均53fpsと不自由なくプレイできるフレームレートを出せる。DLSS無効時に比べて約2.9倍もフレームレートを伸ばしており、DLSS 3の威力がよく分かるところだ。RTX 3050搭載ノートでは、DLSSを使ってもレイトレーシングを有効にすると快適なプレイは難しい。
続いて、描画負荷の大きいAAA級タイトルから「Marvel's Spider-Man: Miles Moraless」と「A Plague Tale: Requiem」を試そう。Marvel's Spider-Man: Miles Moralessは、マップ内の一定コースを60秒ダッシュした際、A Plague Tale: RequiemはChapter 2の街中を60秒移動した際のフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している。
こちらもDLSS 3の効果がよく分かるタイトルだ。両方ともCPU負荷が高いゲームなので、RTX 3050搭載ノートはDLSSを有効にしてもCPUがボトルネックになってフレームレートがあまり伸びていない。
その一方でDLSS 3のフレーム生成はGPU側で行なうため、Thin GF63 12VシリーズはCPU負荷が高い場面でもフレームレートを伸ばせている。
Marvel's Spider-Man: Miles Moralessは、レイトレーシングを有効にするとDLSSを使っても平均47fpsしか出ていないが、今回の測定シーンは車や人などオブジェクトが多く描画負荷は高め。オブジェクトの少ないシーンでは80fpsを超えることもあり、それなりにプレイできるという印象だ。
A Plague Tale: Requiemは最高画質設定では非常に描画負荷が高く、RTX 3050搭載ノートではレイトレーシングを有効にするとゲームが動作しなかった。ビデオメモリが4GBでは厳しいということだろう。
それでもThin GF63 12Vシリーズなら、レイトレーシングを使わないという条件ではあるが、DLSSを有効にすれば、最高画質のUltra設定でも平均88fpsと快適にプレイできる。RTX 4050はフルHDならAAA級ゲームも十分楽しめると言ってよいだろう。
なお、前述した通り、Thin GF63 12Vシリーズには「MSI Center」というアプリが実装されており、性能の調整が可能。清水氏によると基本的にオートにしておけば良いとのこと、この手の設定が分からないという人にも安心だ。
「MSI Centerでは、動作モードとして「パフォーマンス」、「サイレント」、「スマートオート」を選べますが、いろいろ試したところAIのスマートオート設定が一番いいですね。ゲームを起動すると自動的に最高のパフォーマンスに切り替えたり、クロックと冷却のバランスを自動的に制御してくれます。クリエイター向けのモデルでは、Adobeのアプリを起動するとそちらを優先して動作させるようにしたり、かなり優秀です」(清水氏)。
RTX 3050と消費電力は変わらず! ワットパフォーマンスも良好
次はシステム全体の消費電力を測定してみよう。OS起動10分後をアイドル時とし、Cinebench R23実行時の最大値とサイバーパンク2077実行時の最大値を測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。サイバーパンク2077の設定は、画質がレイトレーシング:ウルトラで解像度はフルHDだ。
RTX 3050搭載ノートに対してCinebench R23では約2倍のマルチコア性能を見せ、サイバーパンク2077でも2倍以上のフレームレートを出しながら、消費電力はほぼ変わらず。ワットパフォーマンスは強烈に向上している。120WのACアダプタでこれだけ性能が出せるのは驚きだ。
Thin GF63 12Vシリーズは動作音も抑えられている方であり、この点においてもワットパフォーマンスの高さが一役買っているはず。加えて今回の筐体には新設計のクーラーが使われているとのことで、やはり一昔前のゲーミングノートとは一線を画している。
Thin GF63 12Vシリーズの画面解像度はフルHDではあるが、AAA級タイトルを20万円以下の薄型ノートでも楽しめる、そんな時代がやってきたことを実感する性能だった。Thin GF63 12Vシリーズは、GeForce RTX 40シリーズ Laptop GPUを搭載する低価格なゲーミングノートとして、要注目の存在となるはずだ。
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