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CPUやGPUの発熱や電力をカットする方法

 昨今のCPUやGPUには、消費電力が設定された上限値を超えないように制御する機能が備わっている。本来、これは過剰な電力消費による発熱や電源回路へのダメージを抑制する保護機能の1つだが、多くの自作PC向け製品では上限値を任意で設定できるようになっており、応用すれば超低電力CPU/GPUの実現も可能だ。

 そこで今回は、Intel/AMDのハイエンドCPUとGeForce RTX 40 SUPERシリーズでそれぞれ電力リミットのチューニングを行ない、上限値の変更によって動作やパフォーマンスがどのように変化するのか実験してみることにした。

CPUの電力リミットチューニング。Core i9-14900KとRyzen 9 7950Xで効果をチェック

 まずは、CPUの電力リミットチューニングの効果から確認していこう。

 今回、電力リミットチューニングを試すCPUは、Intelの24コア/32スレッドCPU「Core i9-14900K」と、AMDの16コア/32スレッドCPU「Ryzen 9 7950X」。どちらも電力リミットの上限値が200W以上に設定されているハイエンドCPUであり、優れた性能とともに消費電力と発熱の大きさでも知られる製品だ。

Core i9-14900KとRyzen 9 7950X。どちらも現行のハイエンドCPUだ
Core i9-14900KのCPU-Z実行画面
Ryzen 9 7950XのCPU-Z実行画面

 IntelのCore i9-14900Kは、Intel 7プロセスで製造された14世代Core(Raptor Lake-S Refresh)のハイエンドモデルで、8基のPコアと16基のEコアを備えるハイブリッド仕様の24コア/32スレッドCPUだ。電力指標はPBPが125W、MTPが253Wに設定されている。

 IntelのPBPはブースト動作を含まないベースクロック動作時の最大電力を示す指標であり、ミドルレンジ以上のマザーボードと組み合わせた場合、Core i9-14900Kの電力リミット(PL1/PL2)はMTP値の253W以上に設定されている場合が多い。

 Core i9-14900Kのテストでは、電力リミットの上限値を開放した「無制限」のほか、IntelのExtreme Power Delivery Profileに基く「253W」、上限値をMTP値より絞った「200W」、「170W」、「125W」、「65W」の計6設定でテストを行なった。なお、電力リミットのPL1とPL2に同じ数値を設定することで常に一定の電力リミットが適用されるようにしているほか、温度リミット(TjMax)は定格値の100℃、電流リミット(IccMax)は無制限に設定している。

Core i9-14900Kは、Intel 7プロセスで製造されたRaptor Lake-S Refreshのハイエンドモデル
Core i9-14900Kのテストに用いるマザーボード「GIGABYTE Z790 AORUS ELITE AX (rev. 1.0)」
【表1】Core i9-14900Kのテスト機材とリミット設定
電力リミット設定無制限253W200W170W125W65W
CPUCore i9-14900K (8P+16Eコア/32スレッド)
マザーボードGIGABYTE Z790 AORUS ELITE AX (rev. 1.0) [BIOS=F11e]
メモリ32GB DDR5-5600 (16GB×2/JEDEC)
PL1Unlimited253W200W170W125W65W
PL2Unlimited253W200W170W125W65W
IccMax無制限
TjMax100℃

 AMDのRyzen 9 7950Xは、Zen 4アーキテクチャに基づいてTSMCの5nmプロセスで製造された16基のCPUコアを備えるハイエンドCPUだ。対応CPUソケットはSocket AM5で、TDPは170W。

 TDPが170Wに設定されているRyzen 9 7950Xだが、これはCPUが定格性能を発揮するのに必要な冷却性能を示す指標であり、ミドルレンジ以上のSocket AM5対応マザーボードにおいて、電力リミットのPPTは230Wに設定されている。

 今回のテストでは、電力/電流リミットの上限を1,000まで開放した「無制限」のほか、電力リミットの定格値である「230W」、上限値を定格値より絞った「200W」、「170W」、「125W」、「65W」の計6設定でテストを行った。なお、温度リミット(TjMax)は定格値の95℃、電流リミット(TDC/EDC)は無制限以外では定格値(160A/225A)に設定している。

Zen 4ベースのRyzen 9 7950Xは、CPUダイ(CCD)がTSMCの5nmプロセスで製造されている
Ryzen 9 7950Xのテストに用いるマザーボード「ASUS TUF GAMING X670E-PLUS」
【表2】Ryzen 9 7950Xのテスト機材とリミット設定
電力リミット設定無制限230W200W170W125W65W
CPURyzen 9 7950X (16コア/32スレッド)
マザーボードASUS TUF GAMING X670E-PLUS [UEFI=2613]
メモリ32GB DDR5-5200 (16GB×2/JEDEC)
PPT1,000W230W200W170W125W65W
TDC1,000A160A160A160A160A160A
EDC1,000A225A225A225A225A225A
TjMax95℃

 CPUの電力リミットチューニングを試すにあたって、CPUおよび内蔵GPU、マザーボード、メモリ以外の機材については、IntelとAMDで同等の機材を使用する。

 CPUのステータス情報の計測には「HWiNFO64 Pro」、システム消費電力の計測には「ラトックシステム RS-BTWATTCH2」をそれぞれ使用する。また、CPUの冷却は、3基の冷却ファンをARCTICの高速ファン「P12 MAX」に換装したADATAの360mmオールインワン水冷「XPG LEVANTE 360 ARGB」を使用する。テスト時の室温は約25℃で、CPUクーラーのファン/ポンプスピードは常に最大。

【表3】CPU電力リミットチューニングの共通機材
CPUクーラーADATA XPG LEVANTE 360 ARGB + ARCTIC P12 MAX (ファンスピード=100%)
システムSSDCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
電源玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1,200W/80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro 23H2 (build 22631.3447、VBS有効)
電源プランバランス
計測機器HWiNFO64 Pro v8.00、ラトックシステム RS-BTWATTCH2
計測条件室温「約25℃」、計測対象「CPU使用率90%以上」

Cinebench 2024のCPUテストで電力リミットチューニングの効果をチェック

 電力リミットチューニングがCPUの動作や性能にどのように影響するのか、Cinebench 2024の「CPU (Multi Core)」テストの実行結果で確認してみよう。このテストはすべてのCPUコアを使用して3D CGレンダリングを実行するもので、最低実行時間は標準の「10分」で実行した。

 CPUの性能を示すベンチマークスコアは以下の通り。Core i9-14900Kは無制限時に記録した最高スコアの「2,195」から、電力リミットを絞ることで徐々にスコアが低下している様子を確認できる。一方、Ryzen 9 7950Xは無制限から200Wまではスコアの変化が誤差レベルしかついておらず、65W設定を除けば性能の変化が小さいのが印象的だ。

 電力リミットが制御する「CPU消費電力」自体、設計の異なるIntelとAMDで同じとは言えない点に注意が必要だが、両CPUで同じ上限値を設定した200W以下のスコアを単純に比較した場合、Core i9-14900Kがすべての設定でRyzen 9 7950Xを上回っている。

ベンチマークスコア

 電力リミットによって制限される「CPU消費電力」と、電源ユニットに接続したワットチェッカーで計測した「システム消費電力」の計測結果が以下のグラフ。なお、CPU消費電力の数値については、Core i9-14900Kは「CPU Package Power」、Ryzen 9 7950Xは「CPU PPT」を計測している。

 CPU消費電力の計測結果では、Core i9-14900Kの253W設定以下と、Ryzen 9 7950Xの200W設定以下では平均消費電力がほぼ上限値と同じ値になっており、電力リミットチューニングがCPUの消費電力をみごとに制限している様子がみてとれる。逆に、Ryzen 9 7950Xの230W設定以上では平均値が210W程度で頭打ちとなっており、上限値に達しないため電力リミットは機能していない。

 システム消費電力の計測結果はCPU消費電力の結果に準じたものとなっているのだが、興味深いのはCPU消費電力自体は両CPUでほぼ同じ値となっていた200W以下の設定で、Ryzen 9 7950Xの方がCore i9-14900Kより低い消費電力となっている点だ。

 ワットチェッカーで計測しているシステム消費電力には、マザーボードが備える電源回路(VRM)の変換効率なども影響するのだが、先述の通り電力リミットによって制御される「CPU消費電力」自体、設計の異なるCPUでは同じではないことも影響しているものと思われる。

 実際、アイドル時のCore i9-14900KのCPU Package Powerは5Wほどに低下する一方、Ryzen 9 7950XのPPTにはCPUコアの消費電力とは別にSoC電力などが包括されており、アイドル時でも35W前後となっている。詳細な内訳はともかく、同じ電力リミットであれば上限値までのマージンはRyzen 9 7950Xの方が少なくなっている。

CPU消費電力
システム消費電力

 ベンチマークスコアをシステム消費電力の平均値で割ることで算出した「ワットパフォーマンス」は以下の通り。

 Core i9-14900Kが無制限の「4.28」から電力リミットを絞るごとにワットパフォーマンスが大きく上昇している一方、無制限から200Wまでほぼ同等のスコアとなっていたRyzen 9 7950Xは170W設定以下でワットパフォーマンスが大きく上昇している。

 なお、同じ電力リミット設定(200W以下)においてベンチマークスコアで優位なのはCore i9-14900Kだったが、ワットパフォーマンスに関してはより低いシステム消費電力を記録したRyzen 9 7950Xが、すべての条件でCore i9-14900Kを上回った。

 いずれにせよ、両CPUとも65W設定までは電力リミットを絞るほどワットパフォーマンスは上昇しており、電力リミットチューニングには最大消費電力を削減するだけでなく、フルパワーで稼働するCPUの電力効率を改善する効果も期待できることが分かる。

ワットパフォーマンス(スコア÷システム平均消費電力)

 CPUが消費する電力は熱に変換されるため、CPU消費電力が削減されればCPUの発熱量も減少する。実際、CPU温度の計測結果では電力リミットを絞ることによってCPU温度が低下している。

 今回の計測ではCPUクーラーの冷却性能を固定しているため温度が低下している訳だが、発熱量の減少は冷却システムに要求される性能が緩和されることを意味しており、冷却システムの予算削減や静粛性重視のチューニングが可能だ。

 CPUクロックについては、どちらのCPUでも電力リミットを絞るとベンチマークスコアと近似する形で低下している。電力リミットの範囲内で最大限の高クロック動作をした結果がこのCPUクロックであり、そのクロックで動作したことによって計測されたのがベンチマークスコアなのでその変化量が近似するのは当然だ。

CPU温度
Core i9-14900KのCPUクロック
Ryzen 9 7950XのCPUクロック

 このように、電力リミットチューニングはCore i9-14900KとRyzen 9 7950Xの両方で有効に機能しており、最大消費電力を任意の上限値にまでカットできるほか、電力効率の改善や発熱の削減という効果が得られた。特に、ワットパフォーマンスのグラフで示したようにフルパワー稼働時の電力効率は顕著に改善しており、同じCPUとは思えないほどの変化が生じている。

 以下に電力リミット設定ごとのモニタリングデータから作成した推移グラフを掲載しておくので、CPUの動作状況に興味があればチェックしてもらいたい。

電力リミット「無制限」(Core i9-14900K)
電力リミット「253W」(Core i9-14900K)
電力リミット「200W」(Core i9-14900K)
電力リミット「170W」(Core i9-14900K)
電力リミット「125W」(Core i9-14900K)
電力リミット「65W」(Core i9-14900K)
電力リミット「無制限」(Ryzen 9 7950X)
電力リミット「253W」(Ryzen 9 7950X)
電力リミット「200W」(Ryzen 9 7950X)
電力リミット「170W」(Ryzen 9 7950X)
電力リミット「125W」(Ryzen 9 7950X)
電力リミット「65W」(Ryzen 9 7950X)

電力リミットチューニングの効果は上限値に達した場合にのみ発生

 CPUの動作がまるで別物のように変化する電力リミットチューニングだが、その効果が発揮されるのはCPU消費電力が電力リミットの上限値に達した場合のみだ。当然と言えば当然の話ではあるのだが、これを理解するのに便利な3DMarkのCPUテスト「CPU Profile」の実行結果を紹介しよう。

3DMark「CPU Profile」のベンチマークスコア│Core i9-14900K
3DMark「CPU Profile」のベンチマークスコア│Ryzen 9 7950X

 3DMarkのCPU Profileは、使用するCPUスレッド数ごとのパフォーマンスを計測するベンチマークテストだ。すべてのCPUコアが稼働する「Max threads」ではCinebench 2024のCPU (Multi Core)と同様に電力リミットチューニングの効果でスコアに差がついているが、使用するCPUスレッド数が減少するとスコア差は縮小していき、1~2スレッドではほぼ完全な横並びとなっている。

 ベンチマークテストが使用するCPUスレッド数が減少するとCPUの使用率は低下する。CPUの使用率が低下すればCPU消費電力も減少するため、最大ブースト動作でもCPU消費電力が電力リミットの上限値を下回るほどCPU使用率が低下すれば、もはや電力リミットチューニングの効果は生じなくなるという訳だ。

電力リミット「無制限」のスコアを100%とした場合│Core i9-14900K
電力リミット「無制限」のスコアを100%とした場合│Ryzen 9 7950X

 電力リミットチューニングはフルパワーで動作するCPUの消費電力を制限することで、発熱や電力効率を大きく改善する効果が期待できるが、これらはCPU消費電力の最大値を制限したことによる副次的な効果であり、CPU消費電力が上限に達しないような低負荷動作時には、なんら効果を発揮しないことは覚えておきたい。

Intel/AMDのハイエンドCPUに効果的な電力リミットチューニング

 Core i9-14900KとRyzen 9 7950Xに電力リミットチューニングを行なった今回のテストでは、上限値を絞ることで最大消費電力と発熱を削減し、ピーク動作時の電力効率を大きく改善できることが確認できた。消費電力と発熱の大きさがネガティブに語られがちな両製品だが、電力リミットチューニングを駆使すれば「電力効率に優れたCPU」や「低消費電力CPU」として運用することが可能となる。

 率直なところ、テスト前の時点では先進的なTSMC 5nmプロセスを採用するRyzen 9 7950Xが電力効率では圧倒的に有利だろうと予想していたのだが、電力リミットを絞ることで両CPUのワットパフォーマンスがかなり近いものとなったことは驚きだった。IntelとAMD、どちらのCPUでも電力リミットチューニングの恩恵を得ることはできるだろう。


GPUの電力リミットチューニング:GeForce RTX 4080 SUPERとGeForce RTX 4070 SUPERでテスト

 続けて、GPUの電力リミットチューニングの効果を確認してみよう。

 今回、電力リミットチューニングを試すGPUは、NVIDIAのGeForce RTX 40 SUPERシリーズのハイエンドGPU「GeForce RTX 4080 SUPER」と、ミドルレンジGPU「GeForce RTX 4070 SUPER」の2モデル。

 テストには、これらのGPUを搭載したZOTAC製のビデオカード「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4080 SUPER Trinity Black Edition 16GB GDDR6X」と「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 SUPER Twin Edge OC 12GB GDDR6X」を用いる。

GeForce RTX 4080 SUPERとGeForce RTX 4070 SUPER搭載ビデオカード

 ハイエンドGPUであるGeForce RTX 4080 SUPERは、Ada Lovelaceアーキテクチャに基づいてTSMC 4Nプロセスで製造されたAD103コアを採用。10,240基のCUDAコアや80基のRTコア、16GBのGDDR6Xメモリなどを備えており、電力指標のTGPは320Wとされている。

 今回テストに用いるZOTAC GAMING GeForce RTX 4080 SUPER Trinity Black Edition 16GB GDDR6Xは、ZOTACオリジナル設計の3連ファンGPUクーラーを搭載したビデオカードで、GPUやVRAMの動作クロックはNVIDIAの定格仕様に準拠している。

 NVIDIA製GPUの電力リミットは、ビデオカードのVBIOSごとに標準設定値と調整範囲が定められており、これらはGPU-Zの「Advanced>NVIDIA BIOS」で確認できる。ZOTAC GAMING GeForce RTX 4080 SUPER Trinity Black Edition 16GB GDDR6Xの場合、標準の上限値が「320W」、調整範囲は「150~352W」となっていた。

ZOTAC GAMING GeForce RTX 4080 SUPER Trinity Black Edition 16GB GDDR6X
カード裏面にはバックプレートを装備
補助電源は16ピンで、カードは2.5スロットを占有する
映像出力端子はHDMI 2.1a(1基)、DisplayPort 1.4a(3基)
GeForce RTX 4080 SUPERのGPU-Zの実行画面
GeForce RTX 4080 SUPERの電力リミットは標準値が320W、調整範囲は150~352Wだった

 ミドルレンジGPUであるGeForce RTX 4070 SUPERは、Ada Lovelaceアーキテクチャに基づいてTSMC 4Nプロセスで製造されたAD104コアを採用。7,168基のCUDAコアや56基のRTコア、12GBのGDDR6Xメモリなどを備えており、電力指標のTGPは220Wとされている。

 今回テストに用いるZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 SUPER Twin Edge OC 12GB GDDR6Xは、ZOTACオリジナル設計の2連ファンGPUクーラーを搭載したビデオカードで、GPUのブーストクロックをNVIDIA標準より15MHz高い2,490MHzに引き上げたオーバークロックモデル。

 電力リミットについては標準の上限値が「220W」、調整範囲は「100~242W」となっている。

ZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 SUPER Twin Edge OC 12GB GDDR6X
カード裏面にはバックプレートを装備
補助電源は16ピンで、カードは2スロットを占有する
映像出力端子はHDMI 2.1a(1基)、DisplayPort 1.4a(3基)
GeForce RTX 4070 SUPERのGPU-Zの実行画面
GeForce RTX 4070 SUPERの電力リミットは標準値が220W、調整範囲は100~242Wだった

 GPUで電力リミットチューニングを行なうためには、電力リミットの変更に対応したソフトウェアを利用する必要がある。今回は、ZOTAC製のビデオカードを利用しているので、同社のGPUユーティリティ「FireStorm」を使用した。

 なお、GeForce RTX 40 SUPERシリーズでは、基本的に電力リミットのチューニングはデフォルト値を基準(100%)とした比率で調整する必要がある。今回のテストでは、電力リミットの目標値を「320W」、「220W」、「150W」、「100W」として、各GPUが調整可能な範囲でチューニングを行なった。

 なお、GPUクーラーの冷却性能を一定にすることと、ファンスピードの変化が消費電力に影響しないようにする目的で、GPUクーラーのファンスピードは60%で固定している。

ZOTACのGPUユーティリティ「FireStorm」。画面中央右の「Limit」からPower[%]を変更することで電力リミットを調整できる
【表4】GPUのテスト時動作設定
CPUGeForce RTX 4080 SUPERGeForce RTX 4070 SUPER
電力リミット設定320W220W150W220W150W100W
電力リミット設定値100%69%47%100%68%46%
温度リミット84℃84℃
ファンスピード60% (約1,920rpm)60% (約1,980rpm)

 両GPUのテストするのに利用したのは、Ryzen 7 7800X3Dを搭載したAMD X670E環境だ。GPUステータス情報の計測には「HWiNFO64 Pro」、システム消費電力の計測には「ラトックシステム RS-BTWATTCH2」をそれぞれ使用する。テスト時の室温は約25℃。

【表5】GPU電力リミットチューニングの共通機材
CPURyzen 7 7800X3D (8コア/16スレッド)
CPUリミット設定PPT=162W、TDC=120A、EDC=180A、TjMax=89℃
マザーボードASUS TUF GAMING X670E-PLUS [UEFI=2613]
メモリ32GB DDR5-5200 (16GB×2/JEDEC)
CPUクーラーADATA XPG LEVANTE 360 ARGB + ARCTIC P12 MAX (ファンスピード=100%)
システムSSDCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)
電源玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1,200W/80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro 23H2 (build 22631.3447、VBS有効)
電源プランバランス
計測機器HWiNFO64 Pro v8.02、ラトックシステム RS-BTWATTCH2
計測条件室温「約25℃」、計測対象「GPU使用率20%以上」

@@narj|c06|「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」で電力リミットチューニングをテスト@@

 まず、GPUにおける電力リミットチューニングの効果を確認するのは、定番ベンチマークの最新版「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」だ。テストでは、画面解像度を「4K/2160p(3,840×2,160ドット)」、グラフィック品質を「最高品質」に設定し、ダイナミックレゾリューションは無効にしている。

 ベンチマークの結果は以下の通りで、両GPUとも標準の上限値から1段絞った電力リミット値でのスコアや平均フレームレートの低下が少なく見える結果となっている。

 GeForce RTX 4080 SUPERが100W、GeForce RTX 4070 SUPERも70W、それぞれ上限値を引き下げた結果としては驚異的な結果に見えるが、GPU消費電力の平均値に注目してみると、どちらのGPUも標準の上限値では電力リミットを使い切っていないことが分かる。実際のところ、設定上の上限値の差分ほど大きな消費電力差はついていないということだ。

 電力リミットを絞った設定では、両GPUともGPU消費電力の平均値が電力リミットの上限に達しており、電力リミットチューニングの効果が発揮されている。これにより、システム消費電力もGPU消費電力の変化に伴って減少している。

ベンチマークスコア
平均フレームレート
GPU消費電力
システム消費電力

 ベンチマークスコアをシステム消費電力の平均値で割ることによって算出したワットパフォーマンスについては、GeForce RTX 4080 SUPERは220W設定の「42.62」、GeForce RTX 4070 SUPERは150W設定の「38.25」が最高値となっている。

 GPUの電力リミットチューニングでは絞るほど電力効率が改善するわけではないようで、GeForce RTX 4080 SUPERの150W設定のワットパフォーマンスは標準値(320W)より良いものの、220W設定を下回り、GeForce RTX 4070 SUPERの100W設定に関してはもっともワットパフォーマンスが低いという結果に終わっている。

ワットパフォーマンス

 ワットパフォーマンスに関しては絞るほど良くなるというほど単純ではなかったが、GPU消費電力を下げるほどGPUの動作温度は低下している。消費電力や発熱を抑える効果については、設定値が素直に反映されるものと考えて良いだろう。

 なお、今回テストしたビデオカードでは、GPU消費電力の調整はGPUクロックのスロットリングによってのみ調整されているようで、VRAMクロックがスロットリングにより低下する様子は確認されなかった。

GPU温度
GPUクロック
VRAMクロック

 以下にモニタリングデータから作成した推移グラフを掲載しておく。ベンチマーク実行中のGPUクロックや消費電力の推移が確認できるので、興味があればチェックしてもらいたい。

電力リミット「320W」(GeForce RTX 4080 SUPER)
電力リミット「220W」(GeForce RTX 4080 SUPER)
電力リミット「150W」(GeForce RTX 4080 SUPER)
電力リミット「220W」(GeForce RTX 4070 SUPER)
電力リミット「150W」(GeForce RTX 4070 SUPER)
電力リミット「100W」(GeForce RTX 4070 SUPER)

ゲームでは「フレームレート制限」も効果的

 ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでは、GPUの電力リミットチューニングが最大消費電力や発熱を抑制するのに役立つことが確認できた一方、ワットパフォーマンスに関しては電力リミットを絞れば絞るほど良くなるというほど単純なものではないことも確認できた。

 このように、GPUに対しても電力リミットチューニングが有効であることは間違いないのだが、ことゲームにおいてはパフォーマンスが低下するというデメリットは軽視できない。ゲームにおけるフレームレートの低下はゲーム体験という品質そのものに影響を及ぼすため、最大消費電力や発熱の抑制、電力効率の改善というメリットを遥かに上回るデメリットになりかねないためだ。

 ゲームをプレイするさいにムダな消費電力や発熱を抑制したいと考えるのであれば、電力リミットチューニングよりも上限フレームレートを制限する「フレームレート制限」の方がスマートだ。上限フレームレートは垂直同期でディスプレイのリフレッシュレートと同期させるほかにも、ゲーム内のグラフィック設定やGPUドライバの機能でも制限することができる。

 今回は、NVIDIAコントロールパネルの「3D設定の管理」で、最大フレームレートを任意の値に制限する方法を試してみた。テストする上限フレームレートは「60fps」で、上限フレームレート無効かつ電力リミット標準設定時の結果と比較してみた。

上限フレームレートはNVIDIAコントロールパネルでも設定することができる

 実行したテストは先の検証と同じファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク(4K/2160p、最高品質)だ。

 上限フレームレートを60fpsに制限した場合のスコアと平均フレームレートは、GeForce RTX 4080 SUPERが「8,798(57.1fps)」、GeForce RTX 4070 SUPERが「8,585(56.3fps)」を記録。ぴったり60fpsとはいかないものの、フレームレート制限によって両GPUがおおよそ同じパフォーマンスを発揮していることが確認できる。

ベンチマークスコア
平均フレームレート

 フレームレートを約60fpsに制限された状況ではGPUが必要十分なクロックで動作するため、消費電力や発熱が大きく減少している様子が確認できる。特に、無制限なら平均104.9fpsを記録できるGeForce RTX 4080 SUPERのGPU消費電力は、電力リミットの調整下限を下回る平均129.3Wにまで大きく低下している。

 ワットパフォーマンスについては、GeForce RTX 4080 SUPERは無制限よりやや悪化しているのに対し、GeForce RTX 4070 SUPERについては無制限より改善している。フレームレート制限に電力効率の改善を期待するべきではないだろう。

GPU消費電力
システム消費電力
ワットパフォーマンス
GPU温度
GPUクロック
VRAMクロック

 以下にモニタリングデータから作成した推移グラフを掲載しておくので、フレームレート制限の有無による動作状況の違いに興味があればチェックしてもらいたい。

 1つ見どころを上げるとすれば、電力リミットチューニングではほとんど変化がみられなかったVRAMクロックが変動している点だ。フレームレートを60fpsに制限している場合、VRAMクロックがシーンチェンジで画面が暗転した瞬間に大きく低下しており、これは平均値にも反映されている。極端な低負荷になればVRAMクロックを引き下げて省電力化を図っていることが伺える。

上限フレームレート「なし」(GeForce RTX 4080 SUPER)
上限フレームレート「60fps」(GeForce RTX 4080 SUPER)
上限フレームレート「なし」(GeForce RTX 4070 SUPER)
上限フレームレート「60fps」(GeForce RTX 4070 SUPER)

Photoshop Camera Rawの「AIノイズ除去」で電力リミットチューニングをテスト

 ゲームではパフォーマンス低下のデメリットが大きい電力リミットチューニングだが、ゲーム以外でGPUを活用する場面では特に有効だ。典型的なGPU活用例として、処理の大部分をGPUで実行するPhotoshop Camera Rawの「AIノイズ除去」でのテスト結果を紹介しよう。

 今回のテストでは、2,400万画素のデジタルカメラで撮影した50枚のRAWファイルに対して一括でAIノイズ除去を適用。処理時間と処理速度(1分間あたりの処理枚数)を計測した。

 当然ながら、各GPUで最速を記録したのは電力リミットを絞っていない標準値だが、ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでもそうであったように1段絞った設定、GeForce RTX 4080 SUPERは220W、GeForce RTX 4070 SUPERは150Wの処理時間が標準設定に肉薄している。

処理時間
1分間あたりの処理枚数(Frame per minutes)

 50枚のRAWファイルを順番に処理するAIノイズ除去ではGPU負荷の変化が大きいため、GPU消費電力の平均値は電力リミットの上限値よりも低い値になっているが、最大値はおおよそ上限値に近い値となっていることから、電力リミットが有効に機能していることが伺える。

 実際、システム消費電力では平均値/最大値ともに電力リミットを絞った設定の方が低い値となっており、消費電力を抑制するという電力リミットの効果は間違いなく発揮されている。

GPU消費電力
システム消費電力

 1分間あたりの処理時間(fpm)をシステム消費電力の平均値で割ることでワットパフォーマンスを算出し、数値の見映えを整えるために1,000倍にして比較したものが以下のグラフだ。

 GeForce RTX 4080 SUPERのワットパフォーマンスは220W設定の「48.90」が最高で、150W設定の「48.23」が2番手、最下位は標準の320W設定の「43.41」だった。これに対し、GeForce RTX 4070 SUPERは150W設定の「46.61」が最高で、標準の220W設定の「39.86」が2番手、最下位は100W設定の「36.43」だった。

 各GPUごとのワットパフォーマンスの順位はファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでの結果と同様であり、今回テストした2つのGPUについては、ある程度よりも電力リミットを絞ってしまうと電力効率が悪化するという特性のようだ。

ワットパフォーマンス

 GPU温度についても消費電力の減少に伴って低下している。今回はGPUクーラーのファン回転数を固定しているが、自動制御であればファンスピードの低下による静粛性の向上という恩恵を得ることもできるだろう。

 テスト中のGPUクロックとVRAMクロックについては、電力リミットを引き下げることでGPUクロックが低下している一方、VRAMクロックはほぼ一定となっている。一部の条件ではVRAMクロックの低下が推移グラフで確認できるが、GPU使用率20%以上を計測対象として集計しているため、平均値にはほとんど影響していない。

GPU温度
GPUクロック
VRAMクロック

 Photoshop Camera RawのAIノイズ除去でも、電力リミットチューニングの効果はしっかり確認できた。パフォーマンスが体験という品質に影響するゲームとは違い、AIノイズ除去のように処理時間は増減しても得られる結果が同じ処理であるなら、電力リミットチューニングによる消費電力や発熱の抑制、電力効率改善といったメリットもより魅力的なものとなるだろう。

 以下にモニタリングデータから作成した推移グラフを掲載しておくので、AIノイズ除去実行中のGPUがどのように動作しているのかに興味があればチェックしてもらいたい。

電力リミット「320W」(GeForce RTX 4080 SUPER)
電力リミット「220W」(GeForce RTX 4080 SUPER)
電力リミット「150W」(GeForce RTX 4080 SUPER)
電力リミット「220W」(GeForce RTX 4070 SUPER)
電力リミット「150W」(GeForce RTX 4070 SUPER)
電力リミット「100W」(GeForce RTX 4070 SUPER)

カジュアルにCPU/GPUを調整できる電力リミットチューニング

 今回は、現行のCPUとGPUに対して電力リミットチューニングを試してみたわけだが、どちらに対しても消費電力と発熱を抑制するという恩恵を得ることができ、良くも悪くも電力効率を変化させる効果を確認できた。

 電力リミットは保護機能であるスロットリング動作によってCPUやGPUの電力を制限するものであるため、上限値を引き下げる分には基本的に安定性を損なうことなくCPUやGPUの動作やパフォーマンスを調整できる。低電圧化などと比べると効果は限定的ではあるが、このカジュアルさは電力リミットチューニングの魅力と言える。

 このところ、ハイエンド製品に関しては従来よりも大きな電力を消費することを厭わない性能向上が図られており、特に2大メーカーの性能競争が激化しているCPUについては顕著だ。

 かつては標準仕様のマージンを利用してユーザー側でオーバークロックを楽しんだものだが、メーカー標準仕様が限界に近いブースト動作を採用している今、電力リミットを駆使してCPU/GPUを自分好みにチューニングするというのも、イマドキの自作PCらしい楽しみ方と言えるのではないだろうか。