福田昭のセミコン業界最前線

ふんばれエルピーダメモリ



エルピーダメモリの四半期業績推移(売上高と営業損益)

 国内唯一のDRAMベンダーであるエルピーダメモリの業績が、急速に悪化している。2010年の4~6月期(2010年第1四半期)に売上高1,763億円、営業利益444億円と大きな利益を計上していたのが、同年の7~9月期(2010年第2四半期)に売上高1,488億円、営業利益235億円と減収減益となり、同年の10~12月期(2010年第3四半期)には売上高971億円、営業損失269億円と赤字に転落してしまった。

 業績悪化の大きな理由は、PC用DRAMの価格急落である。2010年の9月に、DRAM価格が急速に下がり始めたのだ。価格低下は2010年9月に始まり、2011年1月末まで続いた。半導体メモリの市場調査会社DRAMeXchangeによると、DDR3 1333Mbpsタイプの1Gbit SDRAMの価格は2010年前半には2.5ドル~3.0ドルだったのが、2011年1月には1ドル前後にまで下がってしまった。2GBのDDR3 SDRAMモジュールの価格は、2010年7月には40ドルを超えていたのが、2011年2月には16ドルにまで低下した。DRAM 1Gbit当たりの価格(Gbit単価)はこの間に、2.5分の1から3分の1に下がり、0.85ドル~1ドルとなった。2011年2月~3月は底を打ち、ほぼ同じ水準の価格で推移している。


2010年1月~2011年1月におけるDRAM価格の推移。エルピーダメモリが2011年2月2日に発表した決算資料から2010年7月以降のDRAMチップとDRAMモジュールの価格推移。DRAMeXchangeの公表データを元にまとめた

●DRAM競合他社の四半期業績は黒字を確保

 PC用DRAM価格の急落により、当然ながら、エルピーダメモリ以外のDRAMベンダーの業績も影響を受けた。DRAMベンダー各社の最近の業績を見ていこう。

 DRAMのトップベンダーである韓国Samsung Electronics(以下、Samsungと表記)は、DRAM以外にNANDフラッシュメモリやNORフラッシュメモリ、SRAM、カスタムロジック、プロセッサ、ディスプレイ駆動ICなどを販売している。半導体事業全体の収益は公表しているが、DRAM単体での収益は公表していない。半導体売上高は2008年10~12月期(2008年第4四半期)を底にずっと拡大してきたが、2010年7~9月期(2010年第3四半期)で伸びが止まり、2010年10~12月期(2010年第4四半期)には前の四半期に比べて減収に転じた。営業利益も減益となったが、黒字を確保している。

Samsung Electronicsの半導体売上高と営業損益の推移Samsung Electronicsの半導体メモリ売上高推移。半導体売り上げ全体の7割近くを半導体メモリが占める
Hynix Semiconductorの売上高と営業損益の推移。半導体売上高に占めるDRAMの割合は8割弱、NANDフラッシュメモリの割合は2割弱

 DRAMシェアで2位を占める韓国Hynix Semiconductor(以下、Hynixと表記)は、DRAM以外にNANDフラッシュメモリを販売している。売上高に占めるDRAMの割合は8割弱、NANDフラッシュメモリの割合は2割弱である。売上高は2009年1~3月期(2009年第1四半期)を底に拡大し、2010年第2四半期(2010年4~6月期)にピークを迎え、その後は減収となっている。営業利益は2010年第2四半期がピークで、同年第3四半期と同年第4四半期は減益である。ただし、第4四半期でも営業利益は確保した。

 HynixとSamsungの売り上げ推移を比べると、HynixがSamsungよりも遅れて回復し、早めに減速している。HynixはDRAM価格変動の影響をより強く受けていることがわかる。


Micron Technologyの売上高と営業損益の推移

 DRAMシェアで3位を占めるのがエルピーダメモリ。そして4位に付けているのが米国Micron Technologyである。MicronはDRAM以外にNANDフラッシュメモリやNORフラッシュメモリなどを販売している。売上高に占める各メモリの割合は、直近の四半期(2010年12月~2011年2月期:2011年度第2四半期)でDRAMが40%台前半、NANDフラッシュメモリが30%台半ば、NORフラッシュメモリが10%台後半である。

 Micronの決算期は9月~8月なのでややわかりにくいが、四半期の売り上げが底を打ったのは2008年12月~2009年2月期(2009年度第2四半期)、ピークとなったのが2010年6月~8月期(2010年度第4四半期)で、ほかのDRAMベンダーとほぼ同じ時期である。

 営業利益は2010年3月~5月期(2010年度第3四半期)にピークとなり、その後は減益となっている。赤字にはなっておらず、直近の2010年12月~2011年2月期(2011年度第2四半期)でも営業利益は確保した。


●DRAM販売額が競合他社に比べて急落

 エルピーダメモリとDRAMで競合するSamsung、Hynix、Micronの3社は、企業(あるいは半導体事業)全体の業績としてはエルピーダメモリほど悪化してはいない。大きな理由は2つある。1つ目はDRAMの販売額がエルピーダメモリに比べると低下していないことで、2つ目はDRAM以外の半導体メモリ(NANDフラッシュメモリなど)を扱っていること(DRAM専業ではないこと)だ。

 2011年2月2日にエルピーダメモリが開催した2010年度第3四半期(2010年10月~12月期)の業績発表会で、同社はDRAMの価格下落による減収分を650億円と述べた。売上高は971億円。第2四半期の売上高が1,488億円だったので、34.7%減となる。これほどの急激な減収を見せたのは、DRAMベンダー大手の中ではエルピーダメモリだけだ。

主要なDRAMベンダーの四半期別売上高推移。DRAMeXchangeの公表データを元にまとめたもの

 DRAMeXchangeの調べによると、2010年10~12月期の販売額と前の四半期(2010年7~9月期)の販売額を比べた値(ドル・ベース)は、Samsungが19.1%減、Hynixが11.5%減、エルピーダメモリが32%減、Micronが20.1%減となっている。エルピーダメモリの落ち込みが大きい。

 落ち込みが大きくなった原因は、主力品種がPC向けのDDR3タイプであったことによるものと思われる。ビット単価でみると、最新版であるDDR3タイプよりもDDR2タイプやDDRタイプの方が高いという逆転現象が市場では起きている。このため、DDR3タイプに注力したエルピーダメモリは、収益面での影響を大きく受けたとみられる。


●DRAMとNANDフラッシュメモリの両方を扱う意味

 半導体メモリでDRAMに次ぐ大きな市場を形成しているのは、NANDフラッシュメモリである。DRAMの価格が急落した2010年後半、NANDフラッシュメモリはDRAMほどには価格は下がっていない(もちろん、下がってはいる)。さらに、ビット換算の市場規模の伸び率は、NANDフラッシュメモリがDRAMよりも高い。

 このため、NANDフラッシュメモリを扱っている半導体ベンダーの中には、2010年後半~2011年初頭にかけて売上高を拡大させた企業もある。例えばMicronは、2011年12月~2月期の売上高が22億5,700万ドルで、前の四半期の22億5,200万ドルと比べて僅かながら売り上げを増やした。同社の売上高に占めるDRAMの比率は40%台前半で、フラッシュメモリ(NANDとNORの合計)の比率50%前後よりも低い。

主要なNANDフラッシュメモリベンダーの四半期別売上高推移。DRAMeXchangeの公表データを元にまとめたもの

 DRAMeXchangeの調べによると、Hynixは2010年を通じてNANDフラッシュメモリの販売額を大きく伸ばした。2010年第1四半期(暦年ベース)が3.45億ドルだったのに対し、2010年第4四半期には5.20億ドルになった。MicronのNANDフラッシュメモリ販売額は2010年第1四半期が5.27億ドル、同年第4四半期が5.26億ドルとほぼ同じ水準で推移した。SamsungのNANDフラッシュメモリ販売額は2010年第1四半期が17.1億ドル、同年第4四半期が18.4億ドルで第4四半期の売り上げは第1四半期を上回った。

 要するに、エルピーダメモリ以外の主要なDRAMベンダーはすべて、NANDフラッシュメモリのベンダーでもあるのだ。このことが、エルピーダメモリ以外の競合他社では全体の業績悪化を緩和する働きをした。しかしエルピーダメモリはDRAM専業なので、DRAM価格の変動に企業全体の業績が大きく左右されてしまう。


●利益率の高いモバイルDRAMの比重を高める
エルピーダメモリの売上高に占めるコンピューティングDRAMとプレミアDRAMの比率推移。エルピーダメモリが2011年2月2日に発表した決算資料から

 もちろん、こういった問題点をエルピーダメモリは理解している。このため、DRAM事業ではPC用DRAM(エルピーダメモリは「コンピューティングDRAM」と呼称)の比率を減らし、モバイルDRAM(エルピーダメモリは「プレミアDRAM」と呼称)の比率を大きく増やす計画である。

 DRAMeXchangeの調べによると、4GbitモバイルDRAMの価格は14ドル、8GbitモバイルDRAMの価格は28ドルで、1Gbit当たりの価格(Gbit単価)は3.5ドルに達する。PC用DRAMの3倍強のGbit単価であり、DRAMベンダーにとっては利益の出る製品である。モバイルDRAMはPC用DRAMに比べると製造が難しい。DRAMeXchangeによると、Samsung、Hynix、エルピーダメモリ、Micronの4社でモバイルDRAM市場の90%を超えるシェアを占める。

 モバイルDRAMの主要な市場はスマートフォンとスレートPC(タブレットPC)である。ビット換算では非常に高い伸びが見込まれている。


●フラッシュメモリベンダーのSpansionと提携

 NANDフラッシュメモリに関しては、エルピーダメモリはフラッシュメモリ・ベンダーの米国Spansionと提携し、協業を進めている。2010年7月22日に、Spansion向けにNANDフラッシュメモリを製造するほか、NANDフラッシュメモリを共同で開発することを発表した。同年9月2日には、SLCタイプの4Gbit NANDフラッシュメモリを共同開発したと発表した。当初はこの4Gbit NANDフラッシュメモリを2011年1月~3月期に量産するとしていたが、4月5日現在、量産開始のアナウンスはされていない。

 DRAM事業だけで企業全体の収益を安定化させることが非常に困難であることは、すでに半導体業界の共通認識となっている。フラッシュメモリ事業の取り込みは必然だろう。エルピーダメモリは今後、フラッシュメモリ事業の比率を増やしていくものとみられる。

 東北地方太平洋沖地震がエルピーダメモリに与える影響は幸い、軽微にとどまった。同社は3月28日に、少なくとも7月末までの製品供給には支障がないとアナウンスした

 スマートフォンとスレートPC(タブレットPC)の出荷台数の急激な拡大は、モバイルDRAMとNANDフラッシュメモリの両方にとって市場規模の急成長を意味する。この市場をしっかりと確保できるかどうか、すなわち、モバイルDRAMとNANDフラッシュメモリの両方を確実に提供できるかどうかが、2011年の半導体メモリ事業の行方を大きく左右するだろう。

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(2011年 4月 8日)

[Text by 福田 昭]