福田昭のセミコン業界最前線

アナリストが見た3D XPointメモリの過去・現在・未来

メモリとストレージのデータ転送速度(縦軸)と記憶容量当たりの価格(横軸)の関係。3D XPointメモリの価格は、DRAMよりも低くなければならない。Jim Handy氏がFMSで発表したスライドから

 フラッシュメモリとその応用に関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS: Flash Memory Summit)」(毎年8月上旬に米国カリフォルニア州サンタクララコンベンションセンターで開催)では最近、3D XPointメモリをテーマとする講演セッションが恒例となりつつある。

 この講演セッションでは、開発企業であるIntelあるいはMicron Technology(以降は「Micron」と表記)が、3D XPointメモリの製造技術やデバイス技術などを述べることは、ない。その代わりに、半導体のアナリストやシリコンダイの分析サービス企業などが3D XPointメモリの現状や動向を語るのが通例となっている。

 今年(2019年)のFMSでも、2名の著名なアナリストによる講演が3D XPointメモリの動向を明らかにしてくれた。2名のアナリストとは、Mark Webb氏とJim Handy氏である。両名とも半導体メモリ業界では良く知られたアナリストだ。そこで本コラムでは両名の講演内容をベースに、3D XPointメモリの過去から現在、そして未来を展望する。

過去:華々しい登場と苦難の道のり

 3D XPointメモリの開発がIntelとMicronの両社によって華々しく発表されたのは、2015年7月28日のことだ(参考記事:Intel-Micron連合が発表した“革新的な”不揮発性メモリ技術の中身)。NANDフラッシュメモリよりも高速でDRAMよりも大容量の不揮発性メモリは、大きな注目を集めた。

 しかし華々しい登場とは裏腹に、3D XPointメモリの量産とビジネスは、苦難の道を歩んだ。いわゆる「鶏が先か、卵が先か」の問題(Chicken and Egg Problem)にぶつかった。生産数量(販売数量)が増えれば、量産効果によって製造コストが低くなる。ただし、生産数量(販売数量)を増やすためには、製造コストを下げるか、あるいは販売価格を下げなければならない。

 Intelが選んだのは後者である。コスト割れで3D XPointメモリの応用品(HDDキャッシュと高速SSD)を販売し、生産数量(販売数量)を増やすことを目論んだ。その結果、Intelの不揮発性メモリ事業は大赤字を強いられたとHandy氏は指摘する。

3D XPointメモリの「鶏が先か、卵が先か」問題。大量生産が先か、価格低下(製造コスト低下)が先か、に置き換えられる。Jim Handy氏が2015年8月のFMSで示したスライドを、今年のFMSで再掲したもの
Intelを含めた不揮発性メモリ大手各社の損益推移。他社がNANDフラッシュメモリによって利益を計上している中、Intelは3D XPointメモリ応用品をコスト割れで販売したために大赤字となった。Jim Handy氏がFMSで発表したスライドから

過去:3D XPointメモリのデバイス技術を明らかにする試み

 IntelとMicronは、3D XPointメモリのデバイス技術を公式には現在に至るも、明らかにしていない。公式に発表済みなのは、シリコンダイの記憶容量が128Gbitであること、2層の3次元クロスポイント構造のメモリであること、メモリセルは記憶素子と2端子のセル選択素子(セレクタ)で構成されていること、などである。

 そこでシリコンダイの分析サービス企業やエレクトロニクス技術メディアなどにより、3D XPointメモリの正体が突き止められてきた(参考記事:ついに明らかになった3D XPointメモリの正体。外部企業がダイ内部を原子レベルで解析)。記憶素子は相変化メモリ(PCM)であること、セレクタはオボニックスレッショルドスイッチ(OTS)であること、製造技術は20nm世代であること、などである。

3D XPointメモリの正体で明らかになった部分の例。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから

現在:ついに正式販売がはじまった大容量メモリモジュール

 Intelは3D XPointメモリを単体では販売していない。HDDキャッシュやSSDなどのメモリ応用品として「Optane(オプテイン)」ブランドで製品化してきた。Webb氏は、これらのメモリ応用品は累計で数100万台が出荷されたと推定する。

 今年の4月には、Intelは2つの新たな製品を発表した。1つは、3D XPointメモリとQLC方式の3D NANDフラッシュメモリを混載した高速SSD「Optane Memory H10」である(参考記事:Intel、OptaneメモリとNANDを組み合わせた高速SSD「Optane Memory H10」)。この高速SSDは、TLC方式の3D NANDフラッシュメモリを搭載したSSDに比べ、性能対価格比に優れているとする。

 もう1つは、3D XPointメモリを搭載するメモリモジュール製品「Optane DC Persistent Memory」である(参考記事:Intel、DDR4互換の不揮発性メモリ「Optane DC Persistent Memory」を正式発表)。DDR4インターフェイス互換のDIMMであり、DDR4 DRAM DIMMと同じソケットに装着する。Intelの第2世代Xeon SP(Cascade Lake-AP)マイクロプロセッサが「Optane DC Persistent Memory」(以降は「Optane DIMM」と表記)をサポートする。具体的には、Optane DIMMに対応したメモリコントローラをメモリモジュールが内蔵しており、このコントローラとやり取りする機能を第2世代Xeon SPのメモリコントローラが備える。

3D XPointメモリの応用。Intelが「Optane」ブランドで応用製品を販売してきた。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから

 Optane DIMMには、2つの動作モードがある。1つは「メモリモード(Memory Mode)」、もう1つは「アプリケーションダイレクトモード(App Direct Mode)」である。いずれもDDR4インターフェイスの複数のソケットにDRAM DIMMとOptane DIMMを混在させて使う。DRAM DIMMはつねに必要である。DRAMとOptaneの記憶容量の比率としては、約1対5をIntelは推奨する。Optane DIMMの記憶容量は128GB/256GB/512GBである。

 メモリモードでは、Optane DIMMは単なる大容量のDRAM DIMM(主記憶)として扱われる。アプリケーションは従来どおりのものが使える。変更は必要ない。DIMMのなかでDRAM DIMMはキャッシュとなり、Optane DIMMが主記憶となる。アプリケーションからは、Optane DIMMが大容量の主記憶に見える。キャッシュのDRAM DIMMは見えない(隠されている)。またDIMMは不揮発性ではない。揮発性のメモリとして動く。

 アプリケーションダイレクトモードでは、Optane DIMMを不揮発性の大容量主記憶としてアプリケーションソフトウェアが扱う。扱えるようにアプリケーションには、変更を加える必要がある。その代わり、DRAM DIMMとOptane DIMMを別のDIMMとして目的に応じて使い分けられるようになる。

「Optane DC Persistent Memory」の概要。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから
「Optane DC Persistent Memory」の動作モード。Jim Handy氏がFMSで発表したスライドから
「Optane DC Persistent Memory」では、DDR4と類似の制御プロトコル「DDR-T」を使う。Jim Handy氏がFMSで発表したスライドから
「Optane DC Persistent Memory」をサポートするアプリケーションの例。Jim Handy氏がFMSで発表したスライドから

現在:第2世代(Gen2)の3D XPointメモリを開発中

 現在出荷されている3D XPointメモリは、開発世代としては「第1世代(Gen1)」と呼ばれている。64Gbitのクロスポイントアレイを2層構造にした、128Gbitの大容量不揮発性メモリである。「第1世代(Gen1)」の量産出荷がはじまってから2年が経過した。この間に性能が向上し、書き換え可能回数が大幅に増えたとWebb氏は指摘する。

 第1世代(Gen1)の推定性能は以下のとおりである。読み出し遅延時間(レイテンシ)は約125ns、書き込み遅延時間は読み出しよりも長い。Optane DIMMの仕様では読み出し遅延時間は350nsである。書き込み遅延時間は約650ns以上と推測する。シリコンダイの書き換え可能回数は20万回と、NANDフラッシュメモリに比べるとかなり多い。

「第1世代(Gen1)」の3D XPointメモリの推定性能。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから

 続く「第2世代(Gen2)」の3D XPointメモリをIntelとMicronは共同開発している。2020年には製品あるいは応用品の発表があると期待される。Gen2の予想される姿は、4層構造によって記憶容量を256Gbitに増やしたシリコンダイである。多値記憶は採用しない。Gen1に比べ、ビット当たりの製造コストは35%ほど低下する。

「第2世代(Gen2)」の3D XPointメモリ。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから

現在:IntelとMicronのビジネスモデルの違い

 これまでのところ、Intelは「Optane」ブランドで3D XPointメモリの応用製品を順次開発し、販売してきた。これに対して共同開発企業のMicronは「QuantX(クアンテックス)」というブランドを発表したものの、現在に至るも製品を発表していない。Micronによる3D XPointメモリの売り上げは、ほぼゼロだと見られる。

 Intelには3D XPointメモリを普及させる動機があり、資金力もある。同社の主力事業はプロセッサであり、プロセッサを販売するために、メモリとストレージも手掛けている。すでに説明したように、メモリとストレージでは赤字での販売も許容する。

 一方でMicronは、半導体メモリベンダーであり、さまざまなプロセッサアーキテクチャに対応した製品を販売している。利益を稼いでいるのはDRAMであり、NANDフラッシュメモリである。DRAMとNANDフラッシュの利益を食いつぶすような製品は、出しにくい。たとえばDRAMの販売増に貢献するような製品を3D XPointメモリで販売することが望ましい。しかし「第1世代(Gen1)」では、そのような製品は開発できなかったようだ。

 といってもMicronが3D XPointメモリの開発と販売を諦めたわけではない。「第2世代(Gen2)」品の開発完了を待って、市場を開拓していくと見られる。

IntelとMicronのビジネスモデルの違い。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから

現在:3D XPointと競合する大容量不揮発性メモリの開発

 大手半導体メモリベンダーはほぼすべて、3D XPointと競合する大容量不揮発性メモリの開発を手掛けている。メモリ技術はおもに3つある。1つは、相変化メモリ(PCM)を記憶素子とする3次元クロスポイント構造の大容量不揮発性メモリだ。3D XPointメモリと類似の技術だと言える。試作チップが国際学会で発表済みである。

 もう1つは、抵抗変化メモリ(ReRAM)を記憶素子とする3次元クロスポイント構造の大容量不揮発性メモリだ。こちらも試作チップが国際学会で発表済みである。

 3番目は、3D NANDフラッシュ技術をベースに、メモリセルの記憶方式を1bit/セル(SLC)方式にすることで高速化したフラッシュメモリだ。「LL(Low Latency)フラッシュ」とも呼ばれる。すでにNANDフラッシュメモリの大手ベンダーが、メモリ製品とSSDを開発あるいは販売しつつある。

3D XPointメモリと競合する大容量不揮発性メモリ。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから

未来:共同開発の終了から独自開発へ

 IntelとMicronは昨年(2018年)7月に、第2世代(Gen2)の3D XPointメモリの共同開発完了をもって、共同開発契約を終了させると公式に発表した。続く同年10月には、両社の合弁企業であるIM Flash Technologies(以降は「IMFT」と表記)のIntel持ち分(株式など)をすべてMicronが購入すると公式に発表した。IMFTは3D XPointメモリの共同開発拠点であり、生産拠点でもある。

 IMFTはMicronの完全子会社となるものの、Intel向けに3D XPointメモリの生産を継続する。IMFTは、生産能力を現在の2倍~3倍に拡大する余力があるとWebb氏は推測する。Intelは、第2世代(Gen2)以降の3D XPointメモリの開発拠点を米国ニューメキシコ州リオランチョ(Rio Rancho)に移転した。

3D XPointメモリの生産と開発の態勢。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから

未来:3D XPointメモリの市場は5年以内に30億ドルを突破

 最後に、Web氏とHandy氏による3D XPointメモリの市場予測をご紹介する。いずれもかなり強気の予測である。

 Web氏は、「DIMM」と「DIMM以外(HDDキャッシュとSSD)」に分けて市場(売上高)を2018年から2024年まで推測した。2018年~2019年は、DIMM以外の市場がDIMMよりも大きい。DIMMの市場は2020年に急速に立ち上がり、DIMM以外の市場を追い抜く。2020年以降は、DIMMの市場規模が大きく伸び続け、2024年のDIMM市場は2020年の4倍に達する。2024年に、3D XPointメモリ全体の市場規模は36億ドルに成長すると予測する。

 Handy氏は、3D XPointメモリの市場(売上高)を2019年から2023年まで予測した。Handy氏も、市場規模は2020年以降に急速に拡大すると予測する。2023年の市場規模は約35億ドルで、2021年からわずか2年で7倍に急成長する。

3D XPointメモリの市場(売上高)予測(2018年~2024年)。Mark Webb氏がFMSで発表したスライドから
3D XPointメモリの市場(売上高)予測(2019年~2023年)。Jim Handy氏がFMSで発表したスライドから

 3D XPointメモリが予測どおりに急成長するかどうかは、2つの要因にかかっている。1つは、Optane DIMMの採用が進むかどうか。もう1つは、Micronが製品をいつ、どのようなかたちで市場に投入してくるか。HDDキャッシュと高速SSDだけでは、価格の高さがネックとなって市場規模の急激な拡大は望めない。主記憶(メインメモリ)にどの程度まで食い込めるかが、将来を大きく左右する。