■西川和久の不定期コラム■
前回は、購入してから数時間でのレビューだったが、今回はもっとLionを使い込んだ上で、Windows 7マシン化する話を中心にレポートをお届けする。結果的にメインマシンの引越しと大騒動になった。
●Boot Campで素のWindows 7をチェック7月22日に記事が載った後、まず始めたのは、これまでiMacで使っていた環境をMac miniへ移すことだった。と言っても主に開発環境なので、最新版のXcodeをApp Storeからダウンロード、ソースコードなど一式を引っ越すれば、ほぼ終わりだった。もともと使っていたXcode 3系と最新版の4系は、構造が大幅に変わっているので最初は手間取ったが、ビルドしてアプリをiPhoneなど実機へ転送できるのを確認し一段落。ついでにThinkPad T43で管理していたiTunesライブラリも移行した。物理的なデータの引越しはこの程度。ここ数年Google Apps、Dropboxなどデータのクラウド化が進んでいるので、随分手間がかからなくなった。
次はBoot Campを使い、Mac miniをWindowsマシン化することに。第2世代Core i5プロセッサとメモリを4GB搭載していることもあり、それなりの性能が期待できる。注意すべき点は、Lion/Boot Camp 4.0になってからWindows XPとVistaのサポートは切られ、Windows 7のみの対応になったことだ。
手順としては、まずユーティリティの「Boot Campアシスト」を起動し、Windows用のドライバをUSBメモリなどへコピー、そしてHDDのパーティションをMac OS X用とWindows用に分ける必要がある。500GBあるのでどうするか結構悩んだが、最終的にはMacが320GB:Windowsが180GBとした。後は指示に従って、USB経由でDVD-ROMドライブを接続、リブートするとWindows 7のインストーラが起動するので、普通にインストールすればWindows 7が動き出す。仕上げはUSBメモリに入れたドライバ群をSETUP.EXEを使い一気に設定、これでMac miniが完全にWindows 7マシンへ変身する。
前回CPUやチップセットの型番が不明と書いたが、システムプロパティとデバイスマネージャから、CPUはCore i5-2520M(2コア/4スレッド、2.5GHz、キャッシュ3MB)、チップセットはIntel HM65 Expressであることが分かった。コンシューマ向けのWindows PCと同じ構成だ。Intel HM65+AMD Radeon HD 6630Mの構成なので、Intel Quick Sync Videoが使えないのは残念だ。
気になる速度だが、Windows エクスペリエンス インデックスとCrystalMarkのスコアは掲載した画面キャプチャの通り。それぞれCPU 7.1/メモリ 7.4/グラフィックス 5.7/ゲーム 6.6/HDD 5.7、ALU 39956/FPU 35511/MEM 39594/HDD 5933/GDI 13327/D2D 2694/OGL 13544。HDDのスコアだけ異様に悪いのが気になるものの(2.5インチ5,400rpmなら9,000程度は行くハズ)、それ以外はなかなかの値。Windowsマシンとしても十分使えることが分かる。
一通り動いたので、試しにと普段筆者が処理しているDVフォーマットのAVIファイルをWMVへエンコードする時間を計ってみると……4分8秒の素材に対して、4分47秒vs4分32秒。Core 2 Quad Q9550+GeForce GTX 260のメインマシンと比較して、CUDAが使えないにも関わらず15秒も速いと言う結果となった。Windowsエクスペリエンス インデックスのCPUとメモリも上回っている。
こうなると、初代Intel iMacから開発環境だけを移す予定だったが、Mac miniをメインマシン化することに決定した。速度だけでなく、かなりの省エネそして、静音化にもなる。
ただメインマシン化するにあたって一番困るのはHDDの容量だ。流石に180GBでは少な過ぎる。新型Mac miniの場合、外部HDD用として使えるインターフェイスは、USB 2.0、FireWire 800、Thunderboltの3つ。本来なら高速なThunderbolt接続したいところだが、現在出荷しているのは「Promise Pegasus R4 4TB (4x1TB) RAID System」など、同社のRAIDシステムのみ。一番安価な4TBモデルで10万円近い価格なので手が出せない。
と言ってUSB 2.0だと遅いので、今更ながらFireWire 800(USB 2.0と比較して約2倍速い)に対応した「LaCie d2 quadra 1TB」(USB 2.0/1.1、FireWire400/800、eSATA)を購入した。他社製品にもFireWire 800のドライブはあるのだが、この夏Thunderboltに対応した「LaCie Little Big Disk」を出荷予定で、後日購入して並べれば、デザインが揃うと言う単純な理由で選択した。ThunderboltのHDDを入手後は、Time Machine用として流用すれば無駄にもならない。
実際使って見ると、意外とストレスを感じない。それもそのはず。CrystalMarkの値は11253と、Mac miniに内蔵しているHDDと比べほぼ倍で、SATA接続の2.5インチ7,200rpm HDD並みの速度が出ている。ただし、外部HDDは、Mac OS XからもWindowsからも読み書き出来るよう、フォーマットをNTFSではなく、exFATにしてあるので、その関係もあると思われる。
LaCie d2 quadra 1TB前面。縦置き横置き両対応しているが、横置きにすると若干振動が目立つ。上のボタンはHDDアクセスLED兼、USB接続時、指定したアプリケーションを起動できる | 背面。上から電源スイッチ(ON/Auto/OFF)、FireWire 400、FireWire 800×2、USB 2.0/1.1、eSATA、電源コネクタ |
こうして環境が整ったので、Photoshop CS5やRoxio Creator 2011、Microsoft Officeなど、普段使うWindowsアプリケーションやツール系をインストール。データをFireWire 800接続の1TB HDDへコピーし、無事メインマシン環境の移行が完了した。これまで使っていたメインマシンと比較して、プロセッサとメモリは若干アップ、もともとゲームはしないのでGPUが遅くなっても問題無し、CUDAは使えないがATI Streamは使える、そして何より(通常使用だと)静音と言うのは嬉しい限りだ。仕事部屋からファンのノイズが消え一気に静かになった。
内蔵HDDが遅いこともあり、Windows 7の起動自体はSSDを搭載した以前のメインマシンより時間がかかるものの、一旦起動するとあまり遅さは感じない。動画の編集やエンコードも快適。既にこの環境で2週間以上仕事をしているが、旧メインマシンに戻りたいとは一度も思っていない。
●Parallels Desktop 6を使いMac OS XとWindows 7を同時に動かすさて、数日間はBoot Campを使ってMac OS XとWindows 7を行ったり来たりしながら使っていたものの、毎回リブートが必要でやはり面倒だ。そこで、Mac OS X上で仮想PCを構築し、その上でWindows 7を動かすことにした。
そのためのソフトとして有名なのは「Parallels Desktop 6」と「VMware Fusion 3」。どちらも使ったことがあるため、どっちでも良かったのだが、現時点でLionに正式対応しているのはParallels Desktop 6のBuild 12094のみ。VMware Fusion 3は動くには動くが不都合が残っているとのことなので前者を選択。Boot Campのドライブをそのまま使う方法で仮想化した。メモリは最近安くなっている事もあり、速攻で8GBへ増設した。
Parallels Desktopをインストールする際、Boot Campドライブを見つけると、設定用のアシスタントが動き出し、ほぼ自動で環境が作られる。この時、触ったのはメモリ容量と割り当てるCPUの数程度。さほど時間もかからずBoot Campドライブの内容そのままで、Windows 7がMac OS X上で動き出すようになった。もちろん別途仮想HDDを作り、その中にWindows 7をインストールしてもいいのだが、Boot Campドライブと二重に環境があると管理が面倒で、アクティベーションの問題も発生する。Windows 7を使う場合は、何か特殊な事情でも無い限り、Boot Campドライブを仮想化した方が無難だろう。
気になる仮想化のオーバーヘッドだが、Windowsエクスペリエンス インデックスとCrystalMarkのスコアを掲載したので参考にして欲しい。ちなみに、割り当てるメモリが4GB未満と4GB以上でメモリなどのスコアがかなり変わる。
2CPU割り当てた場合のWindowsエクスペリエンス インデックスは、6.6(6.6)/5.9(7.6)/5.3(5.1)/5.1(5.1)/6.3(6.4)。カッコ内が4GB以上の場合だ。どちらも共通しているのはプロセッサは同じ、HDDは素のWindows 7より速くなり、ちょっとしたSSDと同程度のスコアとなる。また4GB以上の場合、メモリは速くなるが、グラフィック系は気持ち遅くなる。
CrystalMarkの場合はほぼ全面的にメモリ4GB以上の方が速いと言う結果に。いずれにしても同クラスのプロセッサを搭載したノートPC(グラフィックスはIntel HD Graphics 3000)と比較してGDIが約半分、ALUとFPUも若干ダウンになる以外、あまり変わらない性能だ。全画面で使っていると仮想PC上で動いているのを忘れるほど。
パフォーマンスを考えメモリ4GB割り当てると、残り4GBはMac OS Xがまるまる使えそうだが、実際はそうではなく、Parallels Desktop 6のワーキングエリアとしてかなり消費し、残り1GB前後の状態になってしまう。これではMac OS X上で何を動かすのも厳しくなる。Windows環境の速度は体感的にはあまり変わらないので、筆者は3GBを割り当てている。
この環境で主にMac OS X側は、Webブラウザ、Skype、iTunes、Xcodeなど開発系のツールを使用、仮想PC上では先に挙げたアプリケーションで動画編集/エンコード以外を使っている。さすがにCPUパワーが必要な動画系の処理はBoot Campで素のWindows 7の方が圧倒的に有利だ。参考までに冒頭に書いたエンコード処理は、仮想PC上だと6分43秒。ベンチマークの結果に比例したパワーダウンとなる。とは言え、今のところこの手の仕事は週に半日程度なので、ほとんどParallels Desktop 6のお世話になっている。
加えてParallels Desktopのサスペンド/レジューム機能は便利で、Windowsの休止状態/復帰と同じことができる。違いはMac OS X側にメモリが開放されること。復帰も速くアプリケーションなども起動したまま元の状態に戻れる。唯一注意しなければならないのは、整合性が取れなくなるので、サスペンド状態のままBoot Campをしてはならないことぐらいだろう。
Parallels Desktop 6で構築したWindows 7と、Boot Camp上のWindows 7で大きく違うところは、FireWire 800に接続した外部HDDの扱いだ。前者はネットワーク共有、後者は物理的なドライブとなる。これはParallels DesktopがFireWireデバイスに対応していないためで仕方ない部分だ。環境が無いため試していないがThunderbolt接続の外部HDDも同じだと思われる。この関係もあり、ショートカットなどがBoot Campの環境と同じになるよう、ネットワークドライブを同じD:へ割り当てている。
ところで筆者は少し変わったセッティングでMac OS Xと仮想PC上のWindows 7を使っている。モニタをデュアル構成にして、右側にDell「U2211H」(HDMI→DVI変換アダプタ使用)、左側にEIZO「CG245W」(miniDisplayPort→DisplayPortケーブル使用)を設置。正確には写真から分かるように、正面にCG245W、右側にあるコーナー机にU2211Hとなる。
U2211Hの前に「Apple Wireless Keyboard」と「Magic Trackpad」。CG245Wの前にFILCO「Majestouch(10キーレス/茶軸/JIS)」と「Magic Mouse」を置いている。加えてMajestouchは仮想PCのUSBポートへダイレクトに接続。こうすることによってMacとWindowsが別のマシンで動いているように扱える上、[変換][無変換]キーなどWindows固有のキーが素のWindowsと同様、仮想PC上でもそのまま使え、原稿などを書く時にストレスを感じなくなる。
この時困るのがLionの新機能であるフルスクリーン表示だ。SafariやQuickTime Playerが全画面で表示され、シングルディスプレイで使うのであれば便利なのだが、マルチディスプレイの場合、メニューバーがあるメイン画面側がフルスクリーン表示の対象となる。従って筆者の設定ではU2211H側。Mission Controlなどいろいろ触ったが、CG245W側には設定できなかった。
「変な設定で使っているからだよ!」と言われそうだが、同じ問題はMacBookでも発生する。つまりMacBookへ外部ディスプレイを接続した場合、メニュバーがMacBook側の液晶パネルにあると、外部ディスプレイではなく、MacBookのパネルでフルスクリーン表示となる。これではせっかく大きなサイズの外部ディスプレイを接続しても意味が無く、切り替えるにはメニューバーを外部ディスプレイ側へ置かなければならない。例えば操作系はMacBook、動画などの大きく表示したいものだけ外部ディスプレイといった用途に対応できない。仕様上のバグとも思われるこの問題は、ぜひ改善して欲しいと思う。とりあえず筆者は動画の再生に限り「MPlayerX」を使ってCG245W側でフルスクリーン再生している。
その他Lionに関しては、前回書いた感想と実際使い込んでも差は無く、どちらかと言えばパワーユーザーより、iPhoneやiPadなどiOSからMac OS Xに来た新規ユーザーに対してアピールする点が多いOSのように思える。結局新機能の中で頻繁に使うのはMission Control程度で、他はほとんど利用していない。
以上のように、新型Mac miniへFireWire 800接続の外部HDD、そしてメモリを8GBにした環境で動かすWindows 7は、Boot CampにしてもParallels Desktopにしても、なかなか快適に運用することができる。
こんなコンパクトなマシンが、Core 2 Quad+GeForce GTX 260の替りになるとは思っても見なかった。あまりにも快適なので近々、自己責任になるものの更なるパワーアップを目指し、内蔵HDDをSSD+HDDの構成へ変更することを検討している。