■西川和久の不定期コラム■
7月5日、レノボ・ジャパンは、「ThinkPad X121e」を発表した。X100eの後、海外ではX110eが発売されたが、国内では結局扱われなかっただけに、このシリーズのThinkPadを待っていた人も多いと思う。編集部から実機が送られてきたので、試用レポートをお届けする。
このThinkPad X121e、少し話がややこしいのは、モデルによってCPUが4タイプあること。しかもIntel(Pentium 957/Core i3-2357M)もしくはAMD(C-50/E-350)とベースとなるアーキテクチャも異なっている。更に個人向け直販(BTOあり)/量販店モデル、企業モデルでプロセッサやOSなどの組み合わせも変わり、一口でX121eと言っても実は中身が随分違うのだ。
今回届いたのは「ThinkPad X121e 304829J」。企業向けのパッケージモデルとなる。主な仕様は以下の通り。
CPU | Intel Core i3-2357M(2コア/4スレッド、1.3GHz、キャッシュ 3MB) |
チップセット | Intel UM67 Express |
メモリ | 4GB(2B×2) PC3-10600 DDR3-SDRAM (最大8GB)/2スロット(空0) |
HDD | 250GB(5,400rpm) |
OS | Windows 7 Professional SP1(32bit) |
ディスプレイ | 11.6型液晶ディスプレイ(非光沢)、1,366×768ドット |
グラフィックス | 内蔵Intel HD Graphics 3000、HDMI出力、ミニD-Sub15ピン |
ネットワーク | Gigabit Ethernet、IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 3.0 |
その他 | USB 2.0×2(内1つPowered)、4in1メディアスロット、ヘッドフォン出力/マイク入力コンボ×1、Webカメラ、指紋センサー |
サイズ/重量 | 289.6×208×27.3mm(幅×奥行き×高さ)/約1.55kg |
バッテリ駆動時間 | 約7.0時間(6セル) |
価格 | 77,490円 |
CPUはIntel Core i3-2357Mプロセッサ。2コア4スレッドでクロックは1.3GHz。Core i3なのでTurbo Boostは機能しない。キャッシュは3MB。作動クロックが低い分、TDPも抑えられ最大17Wとなる。省エネで長時間のバッテリ駆動が期待できるCPUだ。
チップセットは、Intel UM67 Express。CPU同様、消費電力の最適化を行ないTDPは最大3.4W。メモリは最大8GBで、2GB×2の計4GBを搭載している。OSは企業向けパッケージと言うこともあり、32bit版のWindows 7 Professonal SP1を採用。メモリ4GB中1GBは無駄になるが、互換性の問題などを考慮した形だ。
液晶パネルは、11.6型ノングレア(非光沢)パネルで解像度は1,366×768ドット。外部出力としてHDMI出力、ミニD-Sub15ピンを搭載している。グラフィックスはCPU内蔵のIntel HD Graphics 3000。性能はあまり期待できないが、CPU内蔵なので省電力だ。
ネットワークは、有線LANがGigabit Ethernet、無線LANがIEEE 802.11b/g/n、そしてBluetooth 3.0を搭載している。上位構成では11aやWiMAX内蔵にも対応可能だ。HDDは5,400rpmの250GB。
その他のインターフェイスは、USB 2.0×2、4in1メディアスロット、ヘッドフォン出力/マイク入力コンボ×1、Webカメラ、指紋センサー。USB 2.0の内1つはオフ時でも電力を供給するPoweredとなる。今出るノートPCでUSB 3.0非対応なのは少し残念なところか。
バッテリは6セル。最大駆動時間は約7時間となかなか長い。3セルのバッテリも用意され、この場合は約3.4時間と半分になる。
サイズは289.6×208×27.3mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1.55kgと、先のバッテリ駆動時間も含め、モバイル用としては魅力的なノートPCに仕上がっている。この仕様で価格は77,490円。
なお個人向け直販と量販店での販売は8月の中旬から。一例を挙げると、Core i3-2357M、メモリ2GB/HDD 320GB/6セルバッテリ/64bit版Windows 7 Home Premium SP1で、店頭予想価格は8万円前後の見込み。この記事が掲載される頃には店頭に並んでいると思うので、興味のある人は量販店で触って欲しい。
直販は既に行なわれており(ただし納期は3~4週間)、キャンペーン価格で、この量販店モデルのメモリが4GB、HDDが250GBとなって60,060円(税込み)。かなりお買い得だ。
トップカバーはマットブラック。筐体も同じ配色だ。ただし、従来のThinkPadと同じ黒でも使われている素材が違うため少し雰囲気が違い、プラスチックっぽい。また、パッケージを開けた瞬間に驚いたのが筐体の形。写真からも分かるように、四隅にRが付いている。「X100eもそうだったかな」と、以前のレビュー記事を確認したところ、少しRがあるものの、ここまで丸くなっていない。四角四面だったThinkPadも随分軟らかい感じになったものだ。加えてX100eには無かったLenovoのロゴがトップカバーにある。
液晶パネルはノングレア(非光沢)だ。従って映り込みも無く、快適に利用できる。バックライトの性能が上がったのか、若干最大輝度が高くなった。発色の傾向は変わらず色温度が高め(青っぽい)。視野角は上下より左右が気持ち狭い。
キーボードはアイソレーションタイプの89キー。他のThinkPadとは違い一般的な6列になっている。この件は、筆者も含め往年のThinkPadファンから見ていろいろ意見もあるだろうが、超薄型のX1も同じ6列。もしかすると今後6列モデルが増えていくのかも知れない。もちろんキーボードのどこを強く押しても全くたわまず、キータッチも良く、筆者的には合格点だ。
X100と比較して細かく見ると、X100では[Insert][Delete][Home][End]の並びだったのが、[Home][End][Delete]となり、[Delete]キーは少し大きめ、[Insert]キーが無くなっている。[ESC]キーも他のファンクションキーと比較して大きめだ。加えて[Fn]+[Insert]で[PrtSc]だったのが、独立し右[Alt]キーの右横に[PrtSc]キーが配置された。これはThinkPad Edgeシリーズに合わせた形で結構好き嫌いが別れそうなレイアウトだ。
ポインティングデバイスは、お馴染みTrackPoint+クリックパッドのウルトラナビ。筐体が小型なのでパームレストが狭いものの、操作上特に問題は無かった。ただ、マウスカーソルの動きがあまりスムーズでないのは気になった(もちろんコントロールパネル/マウスの設定などは通常通り)。
ノイズや振動、発熱に関してはTDPの低いプロセッサとチップセットを使っている関係もあり、このクラスとしてはなかなかうまく抑えられている。とは言え、負荷のかかる処理を続けるとパームレストも含め全体的にそれなりの熱を持つ。
サウンドは素の状態だと中高域にエネルギーバランスが集中し迫力に欠けるが、後述する「SMART Audio」でいろいろ設定すると非常にバランスが良くなり、11型クラスのノートPCとしては十分な音質と出力が得られる。
冒頭に書いたように、国内ではX110eは発売されず、X121eは事実上X100eの後継機に相当する。プロセッサがAMD Athlon Neo MV-40(後半デュアルコアも追加)からCore i3、メモリがDDR2からDDR3、グラフィックスがATI Radeon HD 3200/ミニD-Sub15ピンからIntel HD Graphics 3000/HDMI+ミニD-Sub15ピンなど、大幅にパワーアップした内容に仕上がっている。もちろん起動やシャットダウンも一般的なPCと比較して速くなる「Lenovo Enhanced Experience 2.0 for Windows 7」に対応。小型のThinkPadとして魅力的なスペックだ。
●ソフトウェア構成はThinkPadそのものOSは業務用と言うこともあり、互換性重視の32bit版Windows 7 Professonal。SP1適応済だ。IEも9になっている。初期起動時のデスクトップはご覧のようにいたってシンプル。もう何年も変わらないため、ThinkPadユーザーであれば、この画面だけで落ち着くのはないだろうか。
HDDは「ST92503010AS」。5,400rpmで250GB。キャッシュは16MB。パーテーション3つあるものの、実際ユーザーが使えるのはC:ドライブのみの約219GB。200GBが空きになっている。Q:ドライブはリカバリ用だ。
サウンドアダプタはこの連載ではあまり見かけたことが無い「Conexant 20671 SmartAudio HD」が使われていた。Wi-Fiアダプタは「Intel WiFi Link 1000 BGN」。
インストール済のソフトウェアは、他社製品として「i-フィルター」、「VIPAccess」、「Norton Internet Security」、そして「Intelコントロールセンター」など、ツール程度。他はThinkPadでお馴染み、「Lenovo ThinkVantage ToolBox」、「Lenovo ThinkVantage Tools」などが一式入っている。主なものはインストール済であるが、部分的にはユーザーがセットアップする形式だ。
これまで筆者が見かけなかったものとしては「AutoLock」があげられる。これは、Webカメラを使い、人(顔)を認識。パソコンの前に人が居ない時はロックする機能を持つ。もう1つは「Lenovo SimpleTap」。以前、同社のタッチパネルを搭載した一体型PCであったものだが、ThinkPadにフードバックした形となる。「SMART Audio」は音声ミキサー/音声効果/オーディオダイレクタ/SmartEQ/3D設定の機能を持ち、自分の好みのサウンドに調整することが可能だ。加えて、VOIP用のノイズキャンセラーもある。
Lenovo ThinkVantage ToolBox | AutoLock | Lenovo Device Experience |
省電力マネージャー | Lenovo ThinkVantage Tools | SMART Audio |
Lenovo SimpleTap/説明 | Lenovo SimpleTap/画面右上に[SimpleTap]ボタン | Lenovo SimpleTap/各機能設定をシンプルにまとめたボタン |
ベンチマークテストはWindows エクスペリエンス インデックスとCrystalMark、BBenchの結果を見たい。
Windows エクスペリエンス インデックスは、総合 4.7。プロセッサ 4.7、メモリ 5.5、グラフィックス 5.3、ゲーム用グラフィックス 6.1、プライマリハードディスク 5.6。流石にCore i3とは言え、1.3GHzだと4台は仕方ないところ。メモリもあまり速くない。グラフィックスやHDDは一般的な第2世代Coreプロセッサ搭載ノートPCと同等となる。
CrystalMarkは、ALU 17233、FPU 18645、MEM 22185、HDD 9327、GDI 5903、D2D 1342、OGL 1702。やはりCPUとメモリの値はそれなりだ。とは言え、X100eと比較してALUで3倍、FPUで5倍、MEMで4倍の値。グラフィックも含めHDD以外は数倍の速度となり、X100eの後継機として考えた場合、抜群のパフォーマンスアップとなる。
BBenchは、「省電力」モード、バックライトOFF、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、Wi-Fi/ON、Bluetooth/OFFのBBenchの結果。バッテリの残5%で19,636秒(5.4時間)。スペックの7時間には届かなかったものの5時間を越え、それなりのバッテリ駆動時間だ。ただ先に書いたようにバックライトOFFだとかなり暗いため、実際はバックライトをある程度明るくする必要があり、もう少し時間は短くなると思われる。
以上のように、11.6型の液晶パネルを搭載したThinkPad X121eは、X100eの順当な後継機として見た場合、アーキテクチャの世代が変わり、全体的に数倍のパワーアップしている上にバッテリ駆動時間も向上。なかなか魅力的に仕上がっている。
ThinkPad Edgeに合わせて若干変更したキーボードレイアウトなど、往年のThinkPadユーザーから見ると気になる部分もあるものの、ハードウェア面もソフトウェア面もしっかりThinkPadとして仕上がっている。気軽に持ち歩ける小型のThinkPadが欲しいユーザーにお勧めの逸品だ。