西川和久の不定期コラム

ミニLEDを採用しながら6万円台で購入できるの27型4Kモニター!Innocn 「27M2U」

製品写真

 15.6型以下のOLEDやミニLED採用タブレット(一部モニター)などは十分購入可能な価格帯になってきたが、大型で高解像度となると種類自体が少ない上、まだまだ高価。一般的なPC用モニターより、スマホやタブレットの方が高画質という“逆転現象”が起こっている。そんな中、標準価格でもロクキュッパ! でミニLED採用27型4Kモニターがあると連絡を受け、早速試してみることにした。

ミニLEDを採用し27型4Kでロクキュッパ!

 Innocnは、Amazonで「モニター」をキーワードに検索すると結構いろいろなものが引っかかる。3,440×1,440ドット/144Hzのワイドなゲーミングモニター、13.3/15.6型のOLEDモバイルモニターなどちょっと変わった(グッとくる)ものが多いのが特徴的だ。前回少し触れたセカンドディスプレイの14型フルHDモバイルモニターは、同社の13.3/15.6型のOLEDモニターとどちらにするか結構悩んだ結果だったりする。

 今回ご紹介する「27M2U」、最大の特徴は“ミニLED”を採用していること。ミニLEDで一番身近なのは第5世代「iPad Pro 12.9」だろうか。基本バックライトなのだが、従来より遥かに小さいLEDを敷き詰め(それでミニLEDと言うらしい)、これをコントロールすることにより、コントラスト比を上げている。構造からも分かるように多くのLEDと駆動部が必要となり、どうしても割高になるのが欠点だ。

 実際、デルなどからミニLEDを採用したモニターが出ているが、ちょっと手が出ないほどの高額となっている。対してOLEDの方は15.6型以下なら最近ずいぶん価格が下がってきた。とはいえ、大型で高解像度のものはどちらもまだまだ高嶺の花である。

 と思っていたところに何と通常価格で6万9,800円(Amazon調べ)で27型4KのミニLEDモニターがありますよ……と編集担当から連絡を受け、早速試してみることに。主な仕様は以下の通り。

Innocn「27M2U」の仕様
パネルミニLED採用非光沢3,840×2,160ドット(4K/60Hz/16:9)、HDR1000、sRGB 100%、Adobe RGB 99%、DCI-P3 99%、10Bit(8+FCR)、ΔE <2、最大1,000cd/平方m、自動輝度調整
入力USB Type-C(90W)、DisplayPort、HDMI×2、3.5mmオーディオ
ACアダプタサイズ約165×80×25mm、重量570g、出力19.5V/9.23A
その他PIP対応、スピーカー内蔵、重力センサー、VESA規格:100×100mm、背面RGBライト
同梱ケーブルDisplayPortケーブル×1、Type-Cケーブル×1、HDMIケーブル×1
梱包サイズ92×45.5×18cm/9.7 kg
価格6万9,800円(Amazon調べ)

 パネルは冒頭でも触れたようにミニLED採用の27型。非光沢の3,840×2,160ドット/60Hz。ここ1点で「お”!」っとなる。色域はsRGB 100%、Adobe RGB 99%、DCI-P3 99%。ΔE<2の範囲で調整済状態で出荷されている。加えて、HDR1000、10Bit(8+FCR)、最大1,000cd/平方m、自動輝度調整あり。応答速度は仕様にはないが、AmazonのQAによると12msと普通。リフレッシュレートも60Hzなので、ゲーミング用途には向かない感じだ。

 入力はUSB Type-C(90W)、DisplayPort、HDMI×2、3.5mmオーディオ。USB Type-Cは90Wの電源供給も可能。一般的なノートPCならこのモニターから電源を供給しつつセカンドモニターにもできる。またM1搭載のiPad Proは、iPadOS 16でマルチモニター/マルチウィンドが可能となる「ステージマネージャ」に対応しているが、そのモニターとしても利用可能だ。

 そのほかは、PIP対応、スピーカー内蔵、重力センサー、VESA規格:100×100mm、背面RGBライト。重力センサーは縦/横位置検知用。背面RGBライトはいろいろな色/パターンに設定できる。初めて電源オンした時、後ろがピカピカするので何かと思ったが(笑)、ゲーミング用だろうか。同梱のケーブルは、DisplayPortケーブル×1、Type-Cケーブル×1、HDMIケーブル×1。電源はACアダプタ式で、サイズ約165×80×25mm(幅×奥行き×高さ)、重量570gと結構大きい。出力19.5V/9.23A。

 これで6万9,800円(Amazon調べ)なのだから、映りが仕様通りだとすれば、かなりお買い得。唯一の欠点は、USB Type-A(Hub)が1つもないところか。せっかくType-Cに対応しているので、これがあるとキーボードなどをモニターへ接続すればよく、ケーブルの取り回しが楽になるだけに残念な部分だ。

前面。上左右はそれなりに狭額縁。右下にOSDコントロールボタン。左から順に[Enter]、[下]、[上]、[戻る]、[電源]
スタンドの取付はワンタッチ。四隅の凹みと中央の出っ張り左右にRGBライトが仕込まれている。高さ、左右、回転が可能
コネクタ近辺。左から順に、HDMI1、HDMI2、DisplayPort、USB Type-C、3.5mmジャック、電源入力。上左右側面には何もなく、USB Type-Aハブが1つもないのは残念
ACアダプタのサイズ約165×80×25mm(幅×奥行き×高さ)、重量570gと結構大きい。出力19.5V/9.23A
OSD > プロ(1/6)
OSD > ピクチャ設定(2/6)
OSD > ゲーム設定(3/6)
OSD > PIP/PBP(4/6)
OSD > OSD設定(5/6)
OSD > その他設定(6/6)
日本語の説明書部分と調整済を示すチャート
裏にあるRGBライト。OSD > ゲーム設定 > アンビエント照明で調整可能。写真はシアンだが、レッド、イエロー、グリーンなどいろいろな色に設定可能。もちろんオフにもできる
USB Type-Cケーブル1本でノートPCへ電源供給しつつモニター出力。写真ではMacBook 12を使っているが、M1搭載iPad ProではiPadOS 16でステージマネージャを使いマルチモニター/マルチウィンドが可能になる

 色はシルバー。個人的には所有のモニターなどがブラックなのでブラックモデルも欲しいところ。前面は下以外は結構狭額縁。スタンド部分のフットプリントは一般的なキーボードなら収まってしまう面積がある。右下にOSD用のボタン。位置の調整は高さ、左右、回転が可能だ。

 OSD用のボタンは左から順に[Enter]、[下]、[上]、[戻る]、[電源]。直感的に分かりやすいものの、ボタン自体が小さく、また下から押すのでちょっと操作しにくい感じだろうか。

 背面はスタンド固定部分とパネル下側にDisplayPort/HDMI×2/Type-Cなどのコネクタ類。スタンドにはケーブルマネージメント用の穴がある。またいろいろな色/パターンに設定可能な背面RGBライトも搭載。OSD > ゲーム設定 > アンビエント照明で設定できる。もちろんオフも可能だ。

 OSDは、プロ/ピクチャ設定/ゲーム設定/PIP&PBP/OSD/その他と大きく6つに別れており、いろいろな設定ができる。プロには各色域の切替に加え低ブルーライト、ピクチャ設定にHDRのオン/オフ、ゲーム設定にはローカルディミングのオン/オフがあったり、PIPは位置やサイズを選ぶことができる。

 発色などはこの後で測定しているので参考にしてほしいが、目視ではドット欠けや色ムラはなさそうな感じだった。非光沢なので色の派手さはミニLED搭載のiPad Pro 12.9に一歩劣るものの、良い線行ってるのが一視して分かる。ただそれほどミニLEDという感じでもない(理由は後述)。

 発熱に関しては、パネル/ACアダプタ共にそれなりに出る。BenQ SW240より少し暖かめだろうか。

 内蔵スピーカーは音質/出力共にモニター内蔵としてはそこそこ行ける。これ以上望むなら外付けとなる。もう一点、これは仕方ないが、梱包サイズが92×45.5×18cmと27型のモニターの割に横に大きい。届いた時に思わず「でか! 」っと言ってしまった(笑)。

sRGB 100%、Adobe RGB 99%、DCI-P3 99%の実態は!?

 パッケージには工場出荷時のカラーキャリブレーションレポート、sRGB/Adobe RGB/DCI-P3それぞれが入っているが、それはそれとして実際測定してみることにした。

付属する工場出荷時のカラーキャリブレーションレポート(Adobe RGB)。sRGB、DCI-P3のレポートも付属する。メーカーに確認したところ、ローカルディミングオフ

 i1 Profilerを使ったところ最大輝度は628cd/平方m。写真を観るのに適していると言われる明るさ120cd/平方mは、輝度18で127cd/平方mとなった。今回明るさは筆者の通常作業環境用65cd/平方m(輝度8)、モードをAdobe RGBとし測定している。より実践編と言うわけだ(120cd/平方mはかなり眩しい)。

 結果は黒色輝度0.000cd/平方mで真っ黒。リニアリティもそこそ揃っている。検証結果のPDFもあるので興味のある方はご覧頂きたい。

 macOSのColorSyncユーティリティで色域をAdobe RGBと重ねたところほぼ同じ(画面キャプチャは裏Adobe RGB、表本機)。Adobe RGB 99%は本当のようだ。参考までにOSD > プロの設定を標準とした場合、かなり色域が広がるものの、リニアリティや黒色輝度の値が暴れるため、sRGB/Adobe RGB/DCI-P3のどれかに設定して使った方が良い。

輝度65cd/平方m、黒色輝度は0.000cd/平方m
リニアリティもそこそ揃っている
裏のグレイがAdobe RGB。99%は本当のようだ

 ところが輝度を120cd/平方m(輝度18)にすると黒色輝度が0.120cd/平方mと少し浮く。メインモニターのBenQ SW240で確認したところ、やはり0.128cd/平方mと同レベルだ。これは普通のバックライト式と同じでは? と思い、Amazonの製品ページを見ると「ミニLEDにするにはローカルディミングオン」とある。

 ローカルディミングは、バックライトを複数の領域に分割し領域毎に輝度をコントロールする技術なので、ミニLEDとは別のものではと思いつつ、OSD > ゲーム設定 > ローカルディミングオン(初期値はオフ)にして輝度120cd/平方mで再測定したところ、リニアリティは少し乱れるものの、(気持ち狭くなるが)色域そのまま黒色輝度が0.000cd/平方mとなる。ここでミニLEDの本領発揮と言うわけだ。どおりで電源オン直後は普通に見えたはずだ。

ゲーム設定 > ローカルディミングオン。輝度120cd/平方m、黒色輝度は0.000cd/平方m。リニアリティは少し乱れる

 これから推測できるのは以下の2パターン

1)ミニLEDに加えてローカルディミングオンで黒色輝度を抑えた
2)通常は普通のバックライト、ローカルディミングオンではじめてミニLEDの本領発揮となる

 さすがにこれは大きな違いなのでメーカーへ確認したところ2)だった。つまり、ローカルディミングオフは普通のバックライトとしての制御、ローカルディミングオンではじめてミニLEDらしい制御に切り替わる。輝度65cd/平方mで黒色輝度は0.000cd/平方mだったのは、もともと輝度が低いため0になったというだけのことだった(後でBenQ SW240を使って輝度65cd/平方mで測定しても黒色輝度は0.000cd/平方mだった)。

 なぜこのような仕様になったか不明だが、本機の本領発揮は、ローカルディミングをオンにして、ミニLEDらしい制御に切り替わった時となる。こうなった理由は、安価な分、何かあるのだろう。

 最後にAmazon/製品ページ、レビューの部分で色ムラの話があったので、確認したのが以下の写真。分かりやすいように少し誇張しているが、実際はほとんど分からない。もしかすると個体差があるかも知れない部分でもある。

白を表示した時のムラ。分りやすいよう誇張しているが、目視だとほとんど分からない。ローカルディミングオン(オフでも変わらなかった)

 なお今回掲載している写真に使っているカラーチャートは、EIZOの「“画質の差”が丸わかり!――液晶ディスプレイの表示チェックをしてみようの中にある"無段のカラーグラデーション(難度:高)を使用している。記事の内容も面白いので、モニターに興味のある方は是非合わせてご覧頂きたい。

 余談になるが、人生初のUbuntuがメイン環境へ!夏休みの工作でCore i9-12900搭載ミニPCを組む【後編】で、「メインモニターに接続しているM1 Mac miniは……3番目のモニターにも接続しているので、ちょい使いの時は、SW240の入力を切り替えずにそのモニター上で操作する」と書いたが、その3番目のモニターが実はこれ。念のため、i1 Profilerでキャリブレーションして使っているが、十分な性能なので、最近はRAW現像もメインのBenQ SW240へ切り替えず、このモニターで行なっていることが多くなった。

 昨今、この値段ならハードウェアキャリブレーション対応モニターも購入可能だが、当然普通のバックライトでフルHD(+)。本機は、黒の締りが良く加えて4Kなので、ついつい使ってしまう感じだ。そういった意味では写真編集向きとも言える(60Hzで12msなのでゲーム向きではないと言うのもある)。遮光フードオプションが欲しいところか。


 以上のようにInnocn 「27M2U」は、ミニLEDを採用した27型非光沢4Kモニターだ。入力はUSB Type-C、DisplayPort、HDMI×2と必要十分。USB Type-Cは90Wまでの電源供給可能でノートPCなどへケーブル1本で接続でき取り回しも楽。

 色域はsRGB 100%、Adobe RGB/DCI-P3 99%で且つ、ΔE <2の調整済。一般的な用途であれば十分な性能。実測でも同様の結果となった。

 USB Type-A(Hub)が1つもなかったり、ローカルディミングをオンにしないとミニLEDの意味があまりなかったりとちょっとした癖はあるものの、それを差し引いてもこれだけのモニターが6万9,800円とはコストパフォーマンスは高い。27型4K、10万円未満で黒の締まりにこだわるユーザーに使って欲しい1台と言えよう。