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東大、水冷をチップに埋め込む技術。700W/平方cmの熱処理を達成

 東京大学 生産技術研究所の野村政宏教授らの研究チームは14日、世界最高レベルの冷却効率と高い安定性を実現したという「三次元マイクロ流路構造」を持つ水冷システムを開発したと発表した。

 電子機器の小型化が進む一方で発熱は増加傾向にあり、熱処理が課題となっている。その中で現在注目されているのが「埋め込み冷却」と呼ばれる方法で、チップ自体に小さな水路を作り、その中に冷却液を流すことで熱を効率よく取り除くことを狙う。また、冷却液の気化熱を利用することで、高い冷却効率が期待できる。

 ただ、このような微小な水路の中で液体が沸騰して気体になる過程をうまく制御するのが難しく、チップの熱で生じた水蒸気が冷却水を壁面から遠ざけ、効果的な冷却を妨げるとともに、動作を不安定にしていた。今回研究チームはこの課題を解決するために「マニホールド」と「キャピラリー構造」の技術を組み合わせた。

 具体的には、まず2つのシリコン基板を組み合わせ、一方の基板にはマイクロ流路、もう一方には冷却水を効率よく分配するための太い水路(マニホールド)を形成。マイクロ流路の側壁付近には、微細な柱(マイクロピラー)を設置し、これが毛細管現象を利用したキャピラリー構造として機能、水の薄い膜が熱いシリコンに接触しやすくなることで効率的な冷却を実現できるという。

模式図

 冷却水はまず入口から複数のマニホールド構造に流れ込み、マイクロ流路に流れ込んで熱を吸収。その際に一部が蒸気に変わって気化熱で大きな熱をチップから奪って、マイクロ流路から別のマニホールド構造に流れ込んで排出される。2つのマニホールドにより冷却水と排水が混ざることなく熱を運び出す。

 実験の結果、9個のマニホールド構造を備えた設計では、1平方cmあたり700Wという高い熱処理能力(臨界熱流束)を達成しながら、マニホールドがない従来設計と比較して水の流れの抵抗(圧力降下)を62%も低減できたという。これはマニホールドによる水路内流速の低下によって水が流れる距離が短くなったことによるものだという。

 また、マイクロピラーにより、壁面の薄い水の膜が保持され、熱い壁面が常に水と接触した状態が維持され、水蒸気が主に水路の中央部を流れるようになるため、452W/平方cm以上ではチャネル壁面の温度変動が大幅に減少し、安定動作が可能になったという。

性能の評価
ほかの冷却システムとの比較

 現在のAI技術では膨大な数の高性能半導体チップが使われ、その冷却にも莫大な電力が消費されているが、今回の研究結果をこうした分野に応用することで、エネルギー消費量の削減が実現できるとしている。