西川和久の不定期コラム
広角+超広角カメラ搭載のスタンダードスマホ、Apple「iPhone 11」
2019年9月25日 11:00
9月20日、今年も新しいiPhoneが販売開始となった。編集部よりiPhone 11とiPhone 11 Pro Maxの2台が送られて来たので、今回は前者、次回は後者と、順に試用レポートをお届けしたい。
シリーズとおして初の超広角搭載モデル
iPhoneは3Gから6s(Plusを含む)までがシングルレンズ、そして7 Plusから標準+望遠のデュアルレンズ。この流れは2018年のXS/XS Maxまで続いていた。2017年のXはホームボタンがない初のモデルに。X系は基本、標準+望遠のデュアルレンズだ。
このなかで1モデル、見た目はX、つまりホームボタンがないもののシングルレンズという少し風変りなXRが存在する。カラーバリエーションが豊富でパネルは有機ELではなく液晶。つまり廉価版だ。
2019年は前モデル相当(XR、XS、XS Max)にシリーズ初の広角が追加されたかたちで、iPhone 11/iPhone 11 Pro/iPhone 11 Pro Maxの3モデルとなる。
ここで面白いのは元々廉価版だったはずのXRに広角を加えたのが11であり(仕上げや液晶というのも同じ)、ラインナップ上スタンダードモデルへと格上げになったことだろう。
おもな仕様は以下のとおり。なおここまでは広角/標準/望遠と表記していたが、以降は同社の表記に合わせて超広角/広角/望遠としている。
Apple「iPhone 11」の仕様 | |
---|---|
SoC | A13 Bionic |
メモリ | 4GB |
ストレージ | 64GB/128/256GB |
OS | iOS 13 |
ディスプレイ | 6.1型IPS式1,792×828ドット、コントラスト比1,400:1、最大625cd/平方m、True Toneディスプレイ、広色域ディスプレイ(P3) |
背面カメラ | 広角1,200万画素(f/1.8、光学式手ぶれ補正)、超広角1,200万画素(f/2.4)、True Toneフラッシュ |
前面カメラ | 1,200万画素(f/2.2)、True Toneフラッシュ |
SIM | デュアルSIM(nano-SIMとeSIM) |
FDD-LTE | 1/2/3/4/5/7/8/11/12/13/17/18/19/20/21/25/26/28/29/30/32/66 |
TD-LTE | 34/38/39/40/41/42/46/48 |
CDMA | EV-DO Rev. A(800/1,900MHz) |
UMTS/HSPA+/DC-HSDPA | 850/900/1,700/2,100/1,900/2,100MHz |
GSM/EDGE | 850/900/1,800/1,900MHz |
インターフェイス | nano-SIMスロット、Lightningコネクタ、マイク、ステレオスピーカー、2x2 MIMO対応802.11ax Wi-Fi 6、Bluetooth 5.0、NFC(Felica) |
センサー | Face ID、気圧計、3軸ジャイロ、加速度センサー、近接センサー、環境光センサー |
防沫性能、耐水性能、防塵性能 | IEC規格60529にもとづくIP68等級(最大水深2mで最大30分間) |
サイズ/重量 | 150.9×75.7×8.3mm(高さ×幅×厚み)/約194g |
バッテリ | ビデオ再生: 最大17時間、ビデオ再生(ストリーミング): 最大10時間、オーディオ再生: 最大65時間、高速充電対応、ワイヤレス充電対応(Qi) |
その他 | EarPods(Lightningコネクタ)、Lightning/USBケーブル、USB電源アダプタ |
本体色 | ブラック、グリーン、イエロー、パープル、 PRODUCT RED、ホワイト |
税別価格 | 64GB/74,800円、128GB/79,800円、256GB/90,800円 |
SoCはA13 Bionic。前モデルがA12 Bionicだったので世代替わりしている。構成は6コアCPU(高性能2+省エネ4)、4コアGPU、8コアニューラルエンジンと同じだが、A12 Bionicと比較して最大20%高速化しつつ、30%消費電力を抑えたものとなる。
筆者は発表会の様子をストリーミングで観ていたが、消費電力についての説明で、A12 BionicはSoCを構成するブロック単位で電力を調整していたが、A13 Bionicはブロックの中にまで踏み込んで電力を調整しているため、より省電力化が進んだとのことだった。
メモリは、同社は公表していないものの3GBから4GBに増量。一部Android搭載機と比較して少ないと言われているが(昨今では4GBは当たり前で6~8GBモデルもある)、OSの構造が違うため(Androidの方がメモリ消費が大きい)、単純比較しても意味がない。ストレージは64GB/128/256GBの3タイプを用意。OSは発売日に合わせて、ダークモードなどに対応したiOS 13をリリースしている(日本時間の25日、諸問題を修正したiOS 13.1がリリース予定)。
ディスプレイは、6.1型IPS式1,792×828ドット。1,400:1のコントラスト比、最大625cd/平方m。True Toneディスプレイ、広色域ディスプレイ(P3)対応。このモデルのみ有機ELパネルではなく液晶パネルとなる。
カメラは背面が広角1,200万画素(f/1.8、光学式手ぶれ補正)、超広角1,200万画素(f/2.4)、True Toneフラッシュ。前面が1,200万画素(f/2.2)、True Toneフラッシュと全て1,200万画素となっている。なおカメラに関しては後述しているので参考にして欲しい。
SIMはnanoSIMとeSIM。対応バンドは表のとおり。5Gには未対応だ。国内において5Gはこれからであり(来年の同時期でも全国とは行かないだろう)、個人的な意見としてはまだ気にする必要はないと思われる。
インターフェイスはLightningコネクタ、マイク、ステレオスピーカー、2x2 MIMO対応802.11ax Wi-Fi 6、Bluetooth 5.0、NFC(Felica)。Wi-Fi 6対応が目新しいところか。センサーはFace ID、気圧計、3軸ジャイロ、加速度センサー、近接センサー、環境光センサー。防沫性能/耐水性能/防塵性能は、IEC規格60529にもとづくIP68等級(最大水深2mで最大30分間)だ。
バッテリ駆動時間は、ビデオ再生:最大17時間、ビデオ再生(ストリーミング):最大10時間、オーディオ再生:最大65時間。高速充電とワイヤレス充電(Qi)に対応している。
サイズは150.9×75.7×8.3mm(高さ×幅×厚み)、重量約194g。カラーバリエーションとして、ブラック/グリーン/イエロー/パープル/PRODUCT RED/ホワイトの6色を用意。
税別価格は64GB/128GB/256GBの順に74,800円/79,800円/90,800円だ。これまでキャリアから購入すると結構安価(に見える)だったが、この10月1日から改正電気通信事業法で端末割引は最大2万円までとなり、一般的には少し手を出しにくい価格帯となる。
筐体はiPhone Xとの比較を見ればわかるが、6.1型なのでそれなりに大きく厚みもある。重量も194gとクラス相当だ。見た目や触り心地はおそらくXRとさほど変わらないだろう。スマホ全般として見た場合は十分高品質だが、iPhone X系と比較した場合、今一歩高級感に欠ける。
前面は上部に前面カメラやスピーカーなどがあるノッチ。他社のようにホールにしたり狭くしたりなどの工夫はない。フチはご覧のように結構太い。個人的に度を過ぎた狭額縁(とくにサイドまで回り込むタイプ)は、握った手でパネルの一部が見えなくなるので好きではないものの、さすがにこれは今どきのスマートフォンとしては少し太い気がする。
背面は左上に背面カメラ。Appleのロゴが中央になった。なお2つあるカメラは上が広角下が超広角となる。この出っ張りのため机の上に置くと座りが悪いのも相変わらずだ。左側面にサウンドオン/オフボタン、音量±ボタン。下側面Lightningコネクタ、マイク、スピーカー。右側面にサイドボタンとSIMスロットを配置。
なおiOS 13からサイドボタンは長押しでSiri起動に変わった。電源を切る時「あれ!?」となるので要注意だ。電源OFFは音量-ボタンとサイドボタンの同時押しとなる。
6.1型のディスプレイはこれだけ見ていると十分明るく、発色、コントラスト、視野角などすべて良好。かなり高品質のパネルが使われている。ただし有機ELパネル(11 Pro Maxや筆者手持ちのP20 Pro)と見比べた場合、とくに黒の締まりが緩い。そもそも方式が異なるためないものねだりだが、気にし出すと気になる部分でもある。
振動やノイズはもちろん皆無。発熱はカメラの連続使用程度では大丈夫だが、ベンチマークテストではそこそこ暖かく(熱いではない)なった。サウンドは、スピーカーでの再生はステレオ感があり、パワーも十分。スマホとしては文句なしだ。イヤフォンでの視聴は、付属のEarPodsを使わず、Lightningコネクタ/3.5mmジャック経由でSONY MDR-EX800STを使ったが、音量80%ほどですでにうるさいレベル。音質もこのクラスとしては十分だ。
以上のように、iPhone 11は、良くも悪くもXRに超広角を加えたiPhoneだ。筆者がXRを初めて触った時、「フチが太い」、「黒の締まりが緩い」、「筐体の質感はXの方が上」、「(競合他社が切磋琢磨しているなか)ノッチは変わらず」と思った感想は、そのまま11にも当てはまる。
スマホ全般として見れば十分なクオリティとはいえ、XRから1年経ったのだから外観は(内部はともかく)カメラ以外にも一工夫欲しかったところ。
背面は超広角/広角ともに1,200万画素、背面も1,200万画素のカメラ。広角でポートレートモード対応
今回、iPhone 11に限らず11 Pro/11 Pro Max全モデルで一番変わったのがカメラだ。広角のみのシングルカメラは超広角と合わせてデュアルカメラへ。広角と望遠のデュアルカメラは超広角と合わせてトリプルカメラとなった。ルックスの良い悪いは別としてこれまで超広角はなかっただけにインパクトがある。
この超広角を加えることによって、写真に幅ができるのはもちろんだが、ポートレートモードが一新している。従来、ポートレートモードは強制的に望遠側へ切り替わるため、カフェなどで対面の人物を撮る時は近過ぎて座ったままでは難しく、のけ反るか(笑)、席を離れて後ろから撮る必要があった。Androidを搭載した他社製品は、画角変わらずそのまま撮れるものも多く、とくに筆者が改善を望んでいた部分だ。
ただしシングルレンズのXRは例外で、AIにより人を特定、前後の距離情報とは無関係(というよりシングルレンズなので得られない)に周囲をぼかすというポートレートモードだった。画角は変わらないのは利点であるが、ボケが不自然、人以外は背景ぼけが使えないなど欠点もある。
そのポートレートモードが、超広角を測距用に使うことにより、広角で背景ボケが可能になった。もちろん人以外、どんな被写体もOKだ。
その肝となる超広角も含むiPhone 11のカメラは、背面は広角1,200万画素(f/1.8、光学式手ぶれ補正)、超広角1,200万画素(f/2.4)。前面は1,200万画素(f/2.2)。すべて1,200万画素に揃っており、自撮りにも強い構成だ。出力画素数は4,032×3,024ピクセル。広角と超広角の焦点距離はExif上で4mm(35mm換算26mm)と2mm(35mm換算13mm)。35mm換算13mmは普通のカメラとしてもなかなかないレンズだ。撮ったときの違いは以下のとおりだ。
カメラアプリの撮影モードは、タイムラプス、スロー、ビデオ、写真、ポートレートモード、パノラマ。
設定はアプリ内になく、設定/カメラから。グリッド、QRコードスキャン、ビデオ撮影720p HD/30fps、1080p HD/30fps、1080p HD/60fps、4K/24fps、4K/30fps、4K/60fps。スローモーション1080p HD/120fps、1080p HD/240fps、ステレオ音声を録音、フォーマット、写真のフレームの外側を含めて撮影、ビデオのフレームの外側を含めて撮影、調整を自動適応、スマートHDR。
このなかで興味深いのは「フレームの外側を含めて撮影」の機能だ。画面キャプチャにもあるように、フレームの外側も同時に記録、後にトリミングするとき、フレーミングの外側(超広角側もしくはデジタルズーム時は本来の画角)も含めて再トリミングが可能。個人的には何のためのフレーミングなのか意味不明なので不要だが、一般的には「あ、ここ見切れてる(または切れてる)」ときなどに有効だろう。
ポートレーモードは上記のように広角撮影が可能になり、被写体から離れなくても撮影可能だ。加えて被写界深度やライティング(自然光/スタジオ照明/輪郭強調照明/ステージ照明/ステージ照明モノ/ハイキー照明モノ)が指定できる。
ただし、他社でよくある「美肌モード」的なものはない。代わりにライティングで「スタジオ照明」にすると肌が全体的に明るくなり、クマやニキビの影なども薄くなるため、これを使う手はある。同時にiPhone Xでも試して見たが、11ほどの効果はなかった。おそらくニューラルエンジンが必要なのだろう。
もう1つ強化された機能として「ナイトモード」が挙げられる。低照度になると自動的(強制切替はない)に左上に黄色く秒数(=シャッタースピード)のアイコンが表示される。さらに明るくする場合は、このアイコンをタップすると下に秒を指定するゲージが現れるのでそこで設定、撮影し出すと、このゲージが0秒までスライドとする仕掛けだ。手持ちで最大10秒、三脚などで固定した場合最大28秒。複数枚数の画像から1枚の写真を作るためノイズの少ない絵となる。
以下、作例を36点掲載する。写真モード(超広角、広角、ナイトモード)と、恐竜がポートレートモード。ナイトモードは自動的に切り替わるのですべては覚えていないが(Exifには疑似的な値が入っているため見分けがつかない)、少なくとも「自転車と白いドラム缶」が該当する。
アプリの起動、AF、書き込み速度については、すべてにおいてスムーズ。ストレスはまったくない。写真はご覧のようにナチュラル。晴天は晴天らしく、曇天は曇天らしく、夜は夜らしく、見た目がそのまま写る。ナイトモードも意図的にシャッタースピードを遅くしない限り普通な感じだ。
すべてにおいて満足なのだが、超広角、広角のポートレートモード、ナイトモードなど、競合機種は(全部ではないにせよ)すでに搭載しているものばかり。もちろん普通の写真を含め、ポートレートモードやナイトモードの絵作りのロジックが異なるため、そういった意味ではiPhoneらしさはあるが、仕様の〇、×表記としては目新しい部分がなく、やっとiPhoneが追いついたかたちだ。
未実装のDeep Fusion(1枚+8枚の写真からニューラルエンジンが最適化した一枚を作り出す)がその1つかも知れないが、先のカメラ以外の部分も含め、今一歩何か欲しいところ。
iOS 13
iOS 13の対応機種はiPhone SE以降なので、すでにアップデートしている方も多いと思われる。初期起動時、256GB中空きは243.51GB。冒頭にも書いたが日本時間で9月25日にiOS 13.1のリリースが予定されている(同時にiPadOSも)。
Dockに「電話」、「Safari」、「メッセージ」、「ライブラリ」を配置。ホーム画面は2画面。1画面目は「FaceTime」、「カレンダー」、「写真」、「カメラ」、「メール」、「時計」、「マップ」、「天気」、「リマインダー」、「メモ」、「株価」、「ブック」、「App Store」、「Podcast」、「TV」、「ヘルスケア」、「ホーム」、「Wallet」、「設定」。二画面目に「ファイル」、「探す」、「ショートカット」、「iTunes Store」、「ヒント」、「連絡先」、「Watch」、ユーティリティフォルダ、「Apple Store」、「Clips」、「GarageBand」、「iMovie」、「iTunes U」、「Keynote」、「Numbers」、「Pages」。ユーティリティフォルダに「ボイスメモ」、「コンパス」、「計測」、「計算機」。機能追加されているアプリもあるが、お馴染みのものばかりだ。
筆者もリリース日からiPhone Xへ入れて使っているが、気に入った機能は、ファイルアプリからNASなどへ接続できるようになったこと。今回この記事で使っている写真や画面キャプチャもすべて直接NASへコピーしている。地味に便利なのがコントロールセンターからWi-Fiを選択できること(Bluetoothも同様)、アプリ長押しでメニュー表示(3D Touchの替わり)、そしてダークモードとなるだろうか。
ダークモードに関しては、有機ELパネルのときは省電力に貢献する。またWindowsもmacOSもすべてダークモードなので、iPhoneだけ背景が白いと言うのも気持ち悪い(笑)。
ベンチマークテストは簡易式だが、Google Octane 2.0とAntutu Benchmarkを使用した。結果はGoogle Octane 2.0/49,053、Antutu Benchmark/419,939(3位)。
参考までにiPhone XでGoogle Octane 2.0は34,658、Antutu Benchmarkは190,292(15位)。MacBook 12 2017のCore i5-7Y54でGoogle Octane 2.0は31,246@Safariち、かなり負けている。正直、一般的なアプリを使う時にここまでの性能は必要ないが、ゲームなどに効果があるだろう。
バッテリ駆動時間は、明るさ・音量ともに50%、Wi-Fi経由で動画再生を行なった。結果は約6時間。仕様上、ビデオ再生(ストリーミング):最大10時間なので結構短めだ。この点だけは予想外だった。
以上のようにApple「iPhone 11」は、6.1型液晶パネル、A13 Bionic、メモリ4GB、そして超広角と広角のデュアルカメラを搭載した新型iPhoneだ。上位として11 Proと11 Pro Maxがあるため、スタンダードモデルと言う位置付けとなるだろうか。加えてFelica、Qi、Wi-Fi 6、防塵・防水などにも対応。全部入りなのも見逃せないポイントだ。
今時としてはフチが太めなのが気になるものの、仕様上はXRから正常進化系のiPhoneであり、望遠が不要でそろそろ買い替えを考えているすべてのiPhoneユーザーにオススメできる1台といえよう。