今回はLEDライトセイバーをご紹介します。これはスタジオやストロボといった場所や機材を使わず、広告写真に肉薄するような美しい写真を得られる画期的な撮影用照明器具です。
【動画】LEDライトセイバーは、道具としては非常にシンプルです。プロトタイパーズ版はニッケル水素電池(単3形エネループ×8本)とAvago製高出力LED(1W Moonstone×2個)で作りました |
上の2枚のリール写真をどう思いますか? 我々はLEDライトセイバーの効果を知って驚愕しました。白色LEDを使った小さな照明器具だけで、まるでスタジオで緻密なライティングをして撮ったような写真が得られるのです。
この驚異的な照明器具/撮影法を考案したのは、写真家の伊藤裕一氏です。氏のサイトのLEDライトセイバーカテゴリには、多数のLEDライトセイバー愛好者から寄せられたとびきり美しい写真が多々あります。ともあれ、LEDライトセイバーがどのようなものなのか、簡単にご説明しましょう。
たとえばフラッシュを使って写真を撮った場合、光が当たらない側には影ができます。フラッシュをもうひとつ使えば、その影を消せます。が、実際は背景などに複数の影ができてしまいます。そういった細かい影を消すために、さらにフラッシュを追加したり、ディフューザーやレフ板で光の当たり方を調節したりします。被写体に写り込みができる場合は、それを消すための工夫も必要です。プロが撮る美しい広告写真などは、そんな理由からスタジオや複数の照明器具をはじめとする大がかりな設備を必要とします。
しかし、LEDライトセイバーを使えば、被写体の大きさは限られますが、上記のような設備をほぼ必要としません。要るのは、真っ暗な部屋とLEDライトセイバー、そして絞り値とシャッター速度とピント合わせを手動で調節できるデジタルカメラだけです。
LEDライトセイバーは白色LEDの光をある一方から均一に放つ光源です。上の写真のように片手で持てるサイズの光源ですが、被写体に対して自由な角度から必要なだけ光を当てられる“自在な面光源”として使えます。
我々はLEDライトセイバーを使い始めてまだ日が浅く、その威力を十分引き出せてはいないのですが、それでもLEDライトセイバーの効果を十二分に感じています。我々が感じる効果は、主に以下の3つです。
・写り込み問題を簡単に回避できること
・被写体の質感表現が容易なこと
・光と影の演出を自由に試せること
まず写り込み問題。見た目はツルツルしてキレイな被写体も、実際に撮影してみると、その表面に余分なものが写り込んでしまい、美しい写真になりません。小物撮影をしたことのある方なら、誰でも頭を悩ませた問題だと思います。
しかし、LEDライトセイバーは光を自由な位置/角度から被写体に当てられます。また、被写体にナニカが写り込むのは、その余計なナニカにも光が当たっていて、それが被写体に反射してレンズに入るからです。LEDライトセイバーを使う場合、写したいもののみに光を当てられますので、余計な写り込みを大幅(もしくは完全に)なくせるのです。
それから、LEDライトセイバーを使えば“被写体にできる影の制御”も容易です。本来なら複数枚のレフ板やディフューザーを使い、それらのセッティングを何度も変えて撮るケースでも、LEDライトセイバーなら数度の撮り直しで影をなくしたり、良好な光の当たり具合になった写真を得られるでしょう。
LEDライトセイバーを少し使い慣れてくると、光の演出が楽しくなります。被写体への光の当たり方で、被写体がさまざまな表情を見せてくれます。そんな写真を撮っていると時間を忘れることも。こういった遊びを思う存分楽しめるのも、LEDライトセイバーの大きな魅力です。
上の作例で、LEDライトセイバーの効果が伝わったでしょうか? 我々が「LEDライトセイバーは凄い」と思うのは、上記のような作例を本当に容易に───わずかの時間、数度の撮り直し、手近な機材と環境だけで行なえることです。
実際に上記の作例は、多いもので8枚、少ないものだと3枚程度撮るだけで「これで十分」と思える写真が得られています。もちろん、さらに追求し、より美しい写真を追求することもできるでしょう。それほど、LEDライトセイバーは可能性に溢れた道具です。
それでは、LEDライトセイバーの作り方を見てみましょう。下記のようにLEDを光らせる部分から作らなくても、たとえば白色LEDを使った(ある程度強い光を放つ)ハンドライトを使っても作れます。
LEDライトセイバーに使うLEDは、特別な理由がない限り高出力の白色LEDです。我々はAvagoの「ASMT-MW09-NLL00」、1WのMoonstoneを2個使いました。理由は、試した高出力白色LEDのなかで最も良好な演色性を示したから───カメラのホワイトバランスをオートにしても自然な発色が得られたからです |
1WのMoonstoneは300mA以上の電流を流せて、非常に明るく輝きます。その分、発熱も多いので、ヒートシンクを取り付ける必要があります。ヒートシンクとしては秋月電子通商で購入した「P-01903」を使いました |
2個の1W Moonstoneとヒートシンクは、秋月電子通商で購入した熱伝導両面テープ「P-00516」で接着しました。接着は、ヒートシンクとMoonstoneを基板に載せたあとに行ないました |
プロトタイパーズ版LEDライトセイバーの回路図です。電源は単3形エネループ×8本で約9.6V。高出力LEDの1W MoonstoneはVf=3.6V×2個。電流制限抵抗として定格電力1/4Wの100Ω抵抗器を8本並列で使っています |
抵抗器を8本も使っているのは、手元に定格電力1/4Wの抵抗器しかなかったためです。より大きな定格電力の抵抗器を使えば、1本の抵抗器で済みますね。ちなみに左下にあるのは電源スイッチです。電池ボックスとはコネクタで接続できるようにしました |
電池は単3形エネループ8本を直列で使います(約9.6V)。電池ボックスとして、秋月電子の単3×4本用金属電池ソケット「P-00233」を2個使いました |
LEDライトセイバーのシャーシは50cmの竹製物差しです。その端に電池ボックスや基板を取り付けます。電池ボックスは結束バンドで固定しました |
高出力LEDやヒートシンクを載せた基板はこのように取り付けました |
物差しにユニバーサル基板をテープで固定し、そこにスペーサーを付けてLEDの基板を載せています。雑な細工ですが強度的には十分です |
ここからがLEDライトセイバーの肝です。LEDの光を均一に反射させるためにアルミホイルなどの反射材を細長い箱の内側に貼るのが一般的ですが、ちょうどよい段ボール箱(市販の保冷用段ボール箱)を見つけたので、これを使います |
このような箱を作ります。箱の内側でLEDの光が反射します |
物差しを通せるサヤのような構造にしてみました。箱の部分を交換可能にするためです───じつは今回作った箱は、開口部への光の拡散に偏りがあり、改良の余地があります。交換式にしておけば改良版と容易に交換できるというわけです |
箱の開口部はトレーシングペーパーなどで覆って光をディフューズします。これで箱内部で反射した光が、開口部から柔らかかつ均等に放たれます。また、箱の外側には黒い紙などを貼ります。我々は黒いマット地のテープ(パーマセル)を貼りました。なお、この箱の根本に高輝度LEDハンドライトを付けただけでも立派なLEDライトセイバーとして使えます |
光が出る部分の周囲はこのように少し覆います。こうすることで、開口部の横に光が漏れず、光源の光が直接レンズに入ることを防げます |
電池の部分はこのような伸縮するバンドで覆ってしまいました。ズボンの裾や複数本の釣り竿をまとめる伸縮バンドです。ここがグリップになります |
以上でLEDライトセイバーは出来上がりです。これ以外に必要なのは、繰り返しになりますが、絞り値とシャッター速度とピント合わせを手動で調節できるデジタルカメラと、真っ暗な部屋だけです。
また、できれば、被写体の周囲を黒い板など反射率の低いもので囲むといいでしょう。長時間露光で撮影しますので、少し光ったり反射したりするものでも、被写体に写り込んでしまう可能性が高いからです。
ともあれ、少しの工作で作れるLEDライトセイバー。数度の試行錯誤で信じられないほど表現力豊かな静物写真を撮れますので、ぜひチャレンジしてみてください。