第21回「美しいLEDを探して」



 我々にはどうしても一度取材してみたいメーカーがありました。Avago Technologiesです。LEDが大好きな我々は、憧れに近い感覚をこのメーカーに対して抱いているからです。

Avago Technologiesへ取材に出かけました。Avagoは主にLEDを作る半導体メーカーです
Avago製のLEDには、砲弾型、チップ型、ライトバー、7セグなどさまざまな種類があり、世界中で多々使われています。誰もがきっとその光を目にしていると思います

 Avago(アバゴ)は2005年12月1日にできた半導体企業で、LED関連の技術を持つメーカーです。新しいメーカーに思えますが、実際は40年以上の歴史を持つ半導体メーカーです───もとはHewlett-Packardの半導体コンポーネント部門で、'60年代からLEDを作っていました。世界で初めて商用LEDドットマトリクスディスプレイを作ったのも彼らです。

 長い間世界中にLEDを供給しているので、我々の身近にもAvago製LEDが多々潜んでいます。たとえは街中で見かけるマトリクスディスプレイ、クルマのメーターパネル周り、光学マウス、液晶ディスプレイ、デジタルカメラ、携帯電話、AV機器などなど、石を投げればAvago製LEDに当たるほど(!?)です。

道路わきなどで見かける表示パネルにもAvago製LEDが使われています。街中にある巨大なディスプレイには、後述の楕円LEDが多用されています
クルマのメーターパネルにも。どのクルマのパネルにAvago製のLEDが使われているかは……残念ながら公にはできないとのことです
デジタルカメラの合焦用補助照明にはAvago独自の色の高輝度LEDが多く採用されているそうです
照明器具や明かりの演出にはAvagoのフルカラーLEDが好まれるようです。写真はOFFICE PINUPのデザイン照明です

 電子工作をする者にとっても、Avago製LEDは非常に魅力的です。前述の歴史や品質の良さもありますが、とりわけ美しく光ること、そして色や明るさの種類が非常に豊富だからです。

 高品質・豊富なバリエーションと言えば一言で片付きますが、実際にAvago製LEDが光る様子を見ると理屈抜きで“違い”を感じられます。そこでまずは、Avagoの各種LEDを見せてもらうことにしました。

AvagoのPLCC SMT LEDの一部を集めたサンプルです。表面実装用のチップLEDですが、どれも明るく、透明感のある輝きです
こちらはサブミニチュアランプ(Subminiature Lamps)と呼ばれるLEDです。代表的な用途は光るスイッチなど。パーツ店などで見かける“光るボタン”にもAvago製LEDが使われていることが少なくありません
これはライトバー(Light Bar)とバーグラフ(Bar Graph Arrays)。ライトバーは、表面にオーバーレイシートを被せ、文字や図形を光らせます。たとえば上のメーターパネルの図形表示などもそうです
High Performance Flash LED。直視不可能なほど明るいのですが、LED自体はごく小さなチップ部品です。デジタルカメラの照明部などにも使われています
フレックスライト(導光棒)です。ポリウレタン樹脂チューブで、LEDと組み合わせるとチューブ全体が均一に光ります
フレックスライトの直径は1mm、1.4mm、3mm、6mm、10mmがあり、どれも柔軟で自由に曲げることができます。各種装置への取り付けも容易です
これはTri-color PLCC4 SMD LEDの1つで、左がASMT-QTB2、右がASMT-QTC0です。どちらも表面実装型のフルカラーLEDですね。ちなみにPLCCはPlastic leaded chip carrierの略で、規格化されたデバイス用ソケットやその対応デバイスを指します
Avago製のTri-color PLCC4 SMD LEDは、ロンドンのコヴェント・ガーデンのインスタレーションで使われました
フルカラーLEDなのでこのように自在に色を変えられます。壮大なLEDの演出照明は一驚を喫する美しさです

 多種多様なLEDを見せてもらいましたが、我々がとくに目を見張った製品は3つありました。ワット級パワーLEDのMoonstoneシリーズ、楕円のリードLED、それから7セグメントLEDディスプレイです。これらを順にご紹介しましょう。

 まずMoonstoneです。何やらロマンチックな名前ですが、Moonstoneはいわゆるハイパワー(高出力)LEDです。照明や大型表示器のための非常に明るいLEDで、0.5W、1W、3Wのシリーズがラインナップされています。

 Moonstoneはある程度強い光が必要なシーンで多用されていますが、身近なところでは照明器具の光源として使われています。大手メーカーのLED照明はもとより、最近では白色LED採用のデスクランプなどにも採用されています。またその扱いやすさから、アート系の作品にも使われています。

 たとえばツインバード工業のLEDアームライト「LE-H631B」がそうです。クリスマスまでの展示が予定されている2009 Digital Public Art Exhibition「空気の港」の出発の星座には、3,000個以上のMCPCB Moonstoneが使われています。

Avago Moonstone各種。0.5W、1W、3Wがあり、1Wのものには青や赤など白色系以外のものもあります。3WのものにはフルカラーLEDもあります。Moonstoneは10×8.5mm程度の大きさですが、全てのクラスで外径などが統一されています(同じサイズです)
多数の3W Moonstoneが海外の巨大広告表示板に使われている様子。日本国内でも多々使われています
3WのRGB Moonstoneによるバーカウンターの演出照明。さまざまな色の光を非常に明るく放つことができます

 Moonstoneの電子工作的観点での魅力は、MCPCB(メタルコア・プリント基板)に実装した形でも供給されていることです。通常、ハイパワーLEDを使用する場合、放熱のためLEDに適切な放熱版(ヒートシンク)を取り付ける必要があります。MCPCBタイプのMoonstoneにはヒートシンクを取り付けるための金属部(メタルコア)があり、また、ヒートシンクをネジ止めしやすいように作られています。

Moonstone STARモジュール。裏面が放熱用のベースになっており、熱対策が容易です。電子工作派にも使いやすそうですね。写真下が最新のSTAR2モジュールです。日本では入手しづらい部品ですが、Digi-Keyから購入できるようです
こちらは複数のMoonstoneを細い板状のMCPCBに実装したモジュール。これも市販されています。各LED(Moonstone)は基板上で配線されており、適切な電流を流すだけで光ります
ラウンド型のモジュールもあります。棒状のものもラウンド型も、電源接続用にコネクタを搭載していますので、すぐにでもLED照明器具が作れそうです
ラウンド型の裏面。放熱のためのメタルコアになっています。棒状のものも同様です

 Moonstoneにはもう1つ利点があります。それは専用の集光レンズが用意されていることです。この集光レンズは、Moonstoneの発光部にパチリとはめるだけで取り付けられます。Moonstoneは全てのクラスで外径などが統一されていると前述しましたが、これはつまり、全てのMoonstoneに集光レンズを取り付けられるということです。

 ほんの少しの配線、放熱の工夫、ケースなどの製作で、実用的な照明器具───たとえばハイパワーLEDライトなどを作れるところが、Moonstoneシリーズの大きな魅力だと感じます。

Moonstoneにはシリーズ共通の集光レンズが用意されています。レンズは集光角度別に、6度、15度、30度のものがあります
レンズを発光部に填め込めば、取り付け完了です
レンズを取り付けると光が一定の角度内に集中し、より明るいイメージで照らすことができます

 取材時、生まれて初めて見る形のLEDに驚きました。楕円LEDランプです。これを光らせてみると、光の広がりと美しさからショックを受けました。我々は取材をしていることを忘れ、サンプルの楕円LEDをいろいろな角度から眺めてしまいました。

Avagoの楕円LED。リードタイプ(スルーホールタイプ)のLEDで、直径4mmと5mmがあるようです
このように先端が楕円形になっています。視野角を広げるためにこの形状にしたとのことです
楕円LEDは主にESS(エレクトリックサインアンドシグナル)向けに使われるそうです。Avagoは表示器や大型ディスプレイ関連にとくに強く、ESS分野ではアメリカでトップシェアだそうです

 一般的な砲弾型LEDには視野角(ビューイングアングル)があります。たとえば30度となっていれば、前方30度に光が広がることになります。一方、この楕円LEDのデータシートには2つの視野角が書かれています。たとえば「40度×100度」です。これは、先端方向に40度、側面に100度の視野角があることを意味しているようです。

 ともあれ、この楕円LEDは、先端方向にも横方向にも光を放つことができるというわけです。その光り方を写真で見てみましょう。

Avagoの楕円LEDの発光部はこんな形状です
楕円LEDを光らせたところ。写真ではわかりにくいですが、真横から見ても光が明るく感じられます
先端を見たところ。先端では光が1点に集中し、横側では広く拡散しているように見えます
白い板に楕円LEDの光を当ててみました。LED先端からの光を照射すると……
横からの光を照射すると、こんなふうに。楕円LEDの光は先端方向にも横方向にも広がり、非常に視野角が広いことがわかります。ESS用途に多用されるということに納得できました

 近年、我々が悲しく思っているのは、電子部品店などから7セグメントLEDディスプレイ(7セグLED)が減っていることです。あの楽しく美しい表示器は、いずれ市場から消えてしまうのでしょうか?

 Avagoは7セグメントLEDディスプレイの先駆メーカーとしてもよく知られています。そこで、取材中に「7セグはなくなるの?」といった質問をしてみました。すると「7セグにはリバイバルが起きています」とのこと。

 具体的には、7セグの視認性や表示の独自性が再認識され、大手メーカーの製品に組み込まれるケースが増えているそうです。また、Avagoは数少ない7セグメーカーであり、7セグのカスタム生産(部品を使うメーカーの注文に応じた形状/サイズ/色などの特注品生産)も活発に行なっているとのことでした。

Avagoの各種7セグメントLEDディスプレイ。Hewlett-Packard時代から“定番”として残る7セグも多く、30年以上経つ現在でも同じ型番/データシートの製品もあるそうです
家電やAV機器の表示器として7セグは健在です。また、最近では7セグをデザインの要素から取り入れるメーカーも増えているとのことでした
こちらはAvagoの英数字スマートディスプレイ(SmartDisplay)。極小のドットマトリクスLEDを複数組み合わせた文字表示器です
スマートディスプレイはAV機器などを始め、数字や文字を表示する機器に多く使われています。ICを内蔵し、シリアルでデータの送信/表示が可能なので、実は電子工作でも扱いやすいデバイスです

 LEDの世界企業とも言えるAvagoが7セグの開発・生産を鋭意行なっているというお話をいただき、我々の心配事が1つ減りました。最後に、Avagoの7セグとスマートディスプレイの動画をお届けしましょう。どちらも個人で買うには高級品ですが、その美しい表示に老舗の貫禄が感じられます。

Avagoの7セグデモ用機材。表面実装タイプのカラフルな7セグが並び、さまざまな表示を織りなします
【動画】上のデモ用機材が動いているところ
こちらはAvagoのスマートディスプレイデモ用機材
【動画】上のデモ用機材が動いているところ