後藤弘茂のWeekly海外ニュース

JEDECの第3の次期モバイルメモリ「LPDMM」の正体



●進化する2013年のタブレットに合わせたメモリ

 タブレットなどハイパフォーマンスのモバイル機器では、12.8GB/secが2013年のターゲットになっている。メモリ業界の誰もが、2013年に12.8GB/secを達成しなければと言う。それは、タブレットのロードマップ上の2013年のスペックが12.8GB/secを要求しているからだと言う。

 2013年のタブレットでは、画面解像度はQXGA以上に上がり、CPUコアはマルチコアが当たり前となり、グラフィックスパフォーマンスは現在の数倍に上がると言われている。2013年になると、タブレットはモンスターになる。そのスペックを支えるために10GB/sec以上の帯域が必要となり、モバイル向け低消費電力メモリの広帯域化が加速している。

2013年のタブレットのメモリ帯域要求予測

 JEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)は、そのために12.8GB/secを目指すWide I/Oを準備したが、Wide I/Oは2014年、早くても2013年後半に市場導入の見込みで、2013年のスケジュールをスリップしつつある。そこで、ピンチヒッターとして4倍速のLPDDR2を8倍速へと発展させたLPDDR3を12.8GB/secのために規格化した。

 現在のJEDECのローパワーメモリロードマップは、インターフェイスが広くて転送レートが遅いWide I/Oと、インターフェイスが狭くて転送レートが速いLPDDR3の2本立てとなっている。JEDECは、モバイルメモリの2本立てをしばらくは継続するつもりだ。JEDECは、Wide I/Oでは、Through Silicon Via (TSV)技術(コントローラ側と2枚目以上のWide I/O DRAMに必要となる)のコスト増があると指摘する。TSVのコストと製造面での複雑性のため、TSVベースのメモリインターフェイス技術が普及するまで時間がかかると見ている。

 そのため、LPDDR3の後もJEDECは狭いインターフェイスの高速メモリを規格化し続ける。そして、この“広くて遅い”メモリと、“狭くて速い”メモリのどちらかという問題は、モバイルメモリだけでなく、PCメインメモリやGPUのグラフィックスメモリにも密接に絡んでくる。

 実際、グラフィックスメモリについては、JEDECはTSVによる広くて遅いメモリへと舵を切ろうとしている。JEDECのJoe Macri氏(Chairman, JC42.3 subcommittee for DRAM, Jedec)は次のように説明する。「グラフィックスメモリはTSVに進むのが自然な流れだ。TSV技術を使った非常に興味深いメモリについて議論を行なっている。まだ、その概要を明かすには少し早いが、それほど遠くはない。今年(2011年)中には何らかの進展が見えてくるかも知れない」。

 メモリインターフェイスはいずれも転換点にあり、モバイルメモリが、その流れの中で先行している。

●ギアチェンジする次々期モバイルメモリ

 あるJEDEC関係者は、LPDDR3の次に規格化が議論されているモバイルメモリは「LPDMM(Low Power Dual Mode Memory)」と呼ばれる規格だと言う。これは、メモリ帯域要求が少ない時は低消費電力モードに、メモリ帯域要求が大きい時は高パフォーマンスモードに切り替わるメモリだと言う。「ギアチェンジのようにモードを切り替えて高速化する」とあるJEDEC幹部は説明する。JEDECのトップであるMian Quddus氏(Chairman, JEDEC Board of Directors)も、JEDECで現在デュアルモードメモリの議論を行なっていることを認める。

 JEDECは、もともとモバイルデバイス向けのチップ間インターフェイスである「Mobile Industry Processor Interface Alliance (MIPI)」をベースにした低消費電力メモリインターフェイスの規格化を議論して来た。シリアルインターフェイスMIPIを使うことで数Gbpsクラスの高速メモリを実現するというプランだった。

MIPIのプラン

 これは、同じくMIPIをベースとしたフラッシュストレージの規格「Universal Flash Storage」と平行して議論されていたようだ。しかし、現在ではそのプランはなく、代わりにLPDMMが浮上しているとされる。もっとも、「MIPIを検討したことで、多くの低消費電力化のアイデアを取りこんだ。それは現在や今後の規格にも活かされている」(JEDEC関係者)と言う。MIPIそのものを使うのではないが、技術は取り入れるという説明だ。

 では、JEDECのデュアルモードメモリはどんな仕様が検討されているのか。「JEDECではLPDDRで狭いインターフェイスのメモリを規格化して来た。ギアチェンジするメモリは、その延長線上にある。LPDDR2に重ねるように、高速モードを付け加える。LPDDR2モードと高速モードを必要に応じて切り替える」とあるJEDEC関係者は語る。

 このコンセプトはシリアルメモリを開発するコンソーシアムSPMT(Serial Port Memory Technology)の技術と非常によく似ている。SPMTでは、低消費電力のパラレルモードと、高パフォーマンスのシリアルモードを帯域ニーズによって切り替える仕様となっている。インターフェイスを2重化し、電力消費の多いシリアルモードのSerDesは、低速時にはオフして、パラレルのLPDDR2相当のモードとなる仕様だ。

SPMT技術の仕組み
 

●LPDMMはSPMTのスペックを取り入れた?

 デュアルモードという点が共通するSPMTでは「JEDECが我々の仕様を取り入れて規格化を行なっている」とLPDMMについて説明する。しかし、あるJEDEC関係者は「SPMTとコンセプトは似ているが、それは高速化を考えて行くと、必然的に似たアイデアにたどり着くためだ。大所帯のJEDECでは、誰かが必ず『これは当社が5年前から考えていたアイデアだ』と主張するが、1つの仕様をそのまま取り入れることはない」と反論する。また、別な関係者は「我々の規格化したGDDR5のコンセプトも、低消費電力モードと高パフォーマンスモードの2モードを設けることにあった。そのコンセプトを、さらに低消費電力にしてモバイルのメモリにももたらそうというのがデュアルモードの基本のアイデアだ」と言う。

 だが、複数のソースによると、JEDECで議論が始まったLPDMMは、SPMTの仕様にかなり似たものになるという。低速のパラレルと、高速のシリアルの2モードで、LPDDR2のピンアウトと互換になると言う。シリアル転送という点は、SPMTと同じだ。SPMTの仕様とLPDDR2の仕様のすりあわせを行なった規格になると言う。2月にISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)でも、Qualcommが「Smartphone Memory architecture challenges and opportunities」と題したセッションを行なっており、その中でLPDMMと思われるシリアルメモリ技術について言及していた。

 LPDMMの予定されている帯域は、シリアルモード時に6.4GB/sec~8.5GB/sec、または12.8GB/sec~17.1GB/secにのぼると言う。低消費電力のパラレルモード時にはx16で1.6GB/secの帯域となると言う。もちろん、現在検討されている仕様のまま規格化されるかどうかはわからないが、狙いが単デバイスで12.8GB/sec以上の帯域にあることは確かだろう。

 シリアルモードのインターフェイス幅がそれぞれx16とx32だとすると、転送レートは3.2~4.3Gbpsの転送レート、エンベデッドクロック分を入れると4~5.3Gbpsとなる。しかし、LPDDR2のピンアウト換算でx16が、ディファレンシャル伝送の8レーンになるとすると、転送レートは2倍の8~10.6Gbps(エンベデッドクロック含む)の計算となる。これは、16レーンで12.8GB/secを狙うために8Gbps(エンベデッドクロックなどで食われる)をターゲットにしていたSPMTとほぼ同じ仕様となる。この仕様なら、32レーン構成なら25.6~34.1GB/secをカバーできることになる。

チップあたりのメモリバス幅
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●12.8GB/secに3段階でアプローチするJEDECメモリ

 LPDMMの規格化の状況については、まだわからない。昨年(2010年)冬の段階では、規格化を急いでおり、今年(2011年)中にドラフトを作成する予定と言われていた。ただし、そのペースでも、LPDMMのサンプル出荷は2013年の第1四半期頃で、製品の量産出荷は2015年になるとある業界関係者は語っていた。ISSCCでのQualcommのプレゼンテーションでも、シリアルメモリの導入時期は2014~2015年となっていた。

 こうして見ると、JEDECは12.8GB/secのゴールに対して、まず2013年にLPDDR3のx64(x32のデバイス2個)で達成、次に低消費電力だが高コストのWide I/Oで2013年末から2014年に達成し、その次に2015年頃までにより狭いインターフェイス幅のLPDMMで達成するつもりだと推定される。そして、次の目標と言われる25.6GB/secは、Wide I/O DDRや倍幅のLPDMMでカバーすると見られる。

モバイルメモリのロードマップ
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 ちなみに、LPDMMの推定される帯域は、ちょうどRambusのMobile XDRと同じ帯域だ。Mobile XDRもx32デバイスでは単体で12.8GB/sec~17.1GB/secを達成できる。対Mobile XDRのソリューションという含みもあるのかも知れない。

 LPDMMが情報のようなスペックだとすると、チャレンジもSPMTと似たものになる。まず、DRAMダイに、シリアル転送のためのSerDes(Serializer/Deserializer)を入れ込まなければならない。また、パラレルとシリアルの切り替えなども高速に行なう必要がある。この点は、シリアル転送を行なわず、「FlexPhase」によってスキューを調整するRambusのMobile XDRの方に分があると見られる。

 明瞭になって来たのは、JEDECが当面はモバイルでは広くて遅いメモリと、狭くて速いメモリーの2本立てを続けること。そして、こうした波は、時間差はあっても、おそらくモバイル以外のメモリにも波及すると推定される。

将来のメモリの方向性
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