後藤弘茂のWeekly海外ニュース

AMDの「Athlon II X2」とそれを支える45nmプロセス



●AMDが45nmプロセスのローコストなデュアルコアを投入

 AMDは台北で先週開催されたComputexに合わせて、45nmプロセスのデュアルコアCPU「Athlon II X2 250(Regor:リーガー)」を発表した。AMDのPhenom IIファミリは、X4/X3/X2とも同じダイを使った製品だ。しかし、RegorはL3キャッシュを持たない別ダイとなる。AMDにとっては、Shanghai、Istanbulに続く3つ目の45nmプロセスのダイだ。AMDは、45nmでK10系CPUを少なくとも4階層のダイで投入する計画だ。これで、L3キャッシュレスのクアッドコアCPUのダイを除けば出そろったことになる。

 Regorのダイは117.5平方mmでトランジスタ数は234M(2億3,400万)。価格は90ドル以下で、現在の区分ではメインストリームのボトム、Intelのカテゴリで言えば「エッセンシャル」でCore 2 Duoが占める市場レンジに入る。メインストリームとバリューの間のゾーンだ。

 K8世代の65nmプロセスデュアルコアの「Brisbane(ブリズベーン)」が126平方mmのダイだったので、Regorのダイは、それより一回りだけ小さい。しかし、AMDが製造委託するGLOBALFOUNDRIES(旧AMD Fab)のキャパシティが増加しつつあるため、Regorのダイサイズ(半導体本体の面積)でも、需要をまかなう以上に製造できる計算だ。

K10のダイサイズ
AMD CPUのダイサイズ推移

●プラットフォームはAM3ベースへと移行が進む

 従来のAthlonブランドCPUはソケットAM2+だったが、Athlon II X2からはソケットAM3になる。Phenom II X2(Calisto)がAthlon II X2の上の市場レンジをカバーする。この2つのデュアルコアCPUによって、AMDのメインストリームデスクトップもソケットAM3ベースのプラットフォームへと移行が始まる。下が、AMDのメインストリームとパフォーマンスのデスクトップCPUとプラットフォームの移行図だ。

 「Dragon(ドラゴン)」と名付けられたパフォーマンスデスクトップ向けのプラットフォームと同様、メインストリームプラットフォームにも「Pisces(パイシーズ)」とコードネームがつけられている。AM3ベースのDDR3メモリプラットフォームとなる。もちろん、ソケットAM3 CPU自体は、ソケットAM2+とも互換性を持つため、CPU側のソケットの移行が、即、プラットフォーム(マザーボード)の移行になるわけではない。

 この移行図を見てすぐにわかるのは、AMDが45nmへと急激に製品ラインを移行させつつあることだ。AMD CPUのプロセス移行は、どうしてこんなに急ピッチに進むのか。

AMDデスクトップCPUの推移
CPUとGPUのダイサイズ比較

●AMDのプロセス技術の移行は始まるのは遅いが転換は速い

 AMDの場合、新プロセス技術での量産をスタートするのは遅いが、移行がいったん始まると、製造キャパシティを全て移行するまでのペースは速い。AMDから分社したGLOBALFOUNDRIESでも、この事情は変わらない。GLOBALFOUNDRIESのTom Sondeman氏(Vice President of Manufacturing Systems and Technology, GLOBALFOUNDRIES)は次のように説明する。
 「重要なことは、市場に新プロセス技術をもたらすだけでなく、いかに早くFabを新技術へと転換するかにある。その点で、Intelと我々では、移行のペースが異なる。45nmプロセスでの量産製品の導入では、AMDはIntelより1年ほど遅かった。しかし、Fabの製造キャパシティの50%を45nmプロセスへ移行するまでの期間を比較すると、6カ月しか差がない。2009年第2四半期現在、GLOBALFOUNDRIESが投入するウェハは全量が45nmプロセスになっている」。

 今回の45nmプロセスは、欠陥密度の低減が速く進んでおり、量産開始時の欠陥密度は過去のプロセスより低いという。つまり、それだけ歩留まりが高い。

 「我々が、新プロセス技術の市場への導入が遅い理由の1つは、歩留まりが充分に向上し切るまでキャパシティの転換を始めないためだ。それが、6-coreのIstanbulのように、大きなダイ(半導体本体)の複雑なCPUの製造を、新プロセスで迅速に始めることができる理由の1つだ」。

 AMDが、Istanbulのようにダイが大きな製品の投入を前倒しできた理由は、ここにあるという。

GLOBALFOUNDRIESの45nmプロセス技術
新プロセス移行が早くなった
歩留まりの向上

●段階的にトランジスタ性能が上がるAMDのプロセス技術

 また、AMDの45nmプロセスCPUは、時間が経つにしたがって性能がアップして行く。それは、トランジスタ開発のアプローチによる。

 AMDの場合、同じプロセスノードであっても、継続的にトランジスタに改良を加え続け、その技術を実際の量産プロセスへと反映させる。AMDは、自社シリコンFabを持っていた時に、次のように説明していた。

 Intelは、1つのプロセスノードでトランジスタ技術をほとんど変更しない。それに対して、AMDは同じノードで複数回の改良を行なう。そのため、Intelはプロセスノードが変わるとトランジスタ性能が大きく変わるが、AMDはそれよりも短期間のステップで性能が上がって行く。そして、1つのプロセスノードでの最後のトランジスタ技術が、次のプロセスノードでの最初のトランジスタ技術へと引き継がれる。下のスライドは90nmから65nmへの移行を示したものだ。

プロセス技術開発の短期間化

 AMDは、自社FabをGLOBALFOUNDRIESへと分社化した。現在、AMDは新ベンチャーGLOBALFOUNDRIESへと、CPU製造を委託している。そして、GLOBALFOUNDRIESは、AMDの時のトランジスタ開発のスキムをそのまま引き継いでいる。そのため、同じ45nmプロセスでも、トランジスタを継続的に改良しており、トランジスタでいくつものノードを重ねている。

 GLOBALFOUNDRIESのTom Sondeman氏によると、現在、すでに45nmプロセスで、トランジスタノードは3から4を経て5への移行が進みつつある。45nmノード3では、チップの周波数とリーク電流(Leakage)のばらつきが広がっており、多くのチップが高クロック動作では高いリーク電流を必要とした。しかし、45nmノード4ではばらつきがかなり抑えられ、45nmノード5では3GHzまでをそこそこのリーク電流で動作できるようになっているという。より高周波数化が進み、同じTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)枠で高速な製品が取れるようになる。32nmプロセス世代に期待される性能へと近づいて行く。

45nmプロセスの研究