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7nmプロセス前倒しへと加速するTSMCのプロセスロードマップ

ファウンダリによって大きく異なる次世代プロセスロードマップ

 半導体のプロセスロードマップが急加速している。ハイエンドのスマートフォンのチップは、現在、16/14nmプロセスで製造されている。これが来年(2017年)には10nmとなり、再来年(2018年)には7nmへと急激にステップアップする。もしかすると、10nmはスキップされ、一気に7nmの時代がやってくるかも知れない。GPUやゲーム機なら、現在の16/14nmプロセスから、1世代スキップして7nmへとジャンプする可能性がある。トランジスタの密度で言えば、現在のチップから4倍の密度にまで一気に上がる。現在は3.3B(33億)のトランジスタを搭載するiPhone 7のSoC(System on a Chip)が、2年後には12B(120)億のトランジスタを搭載かも知れない。サーバーCPUクラスのトランジスタ数だ。

7nmをハイエンドスマートフォンやHPC向けに予定するTSMC
推定されるモバイルSoCのプロセス移行
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 こうした急激なプロセス微細化が予想されるのは、ファウンダリ各社が今年(2016年)中盤以降に発表したロードマップからだ。10月に開催されたARMの技術カンファレンス「ARM Techcon 2016」で、ファウンダリ各社はプロセスロードマップを公開した。しかし、ファウンダリによって、今後の微細プロセス世代の位置付けと時期が大きく異なり、非常に入り組んだ状態になっている。

 最大手のTSMCは現在立ち上げている10nmプロセスの1年後に7nmプロセスを立ち上げる。通常は2年だった新プロセスの立ち上げが1年に短縮されたことにより、10nmの位置付けがあいまいになっている。ファウンダリ大手のGLOBALFOUNDRIESも、14nmからダイレクトに7nmプロセスに移行する。一方、ファウンダリのSamsungは、10nmが長期的なノードになり、最初の世代の7nmは短命になると、全く逆の説明をする。

Intelとファウンダリ各社のプロセスロードマップ。各プロセスの左端はリスク生産時期または、リスク生産が推測される時期となっている
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 なぜ、各社のロードマップにこんなに違いがあるのか。それは、この時点になってもまだEUV(Extreme Ultraviolet)」露光技術の導入時期が見えないためだとARMは説明する。本来なら10nmの頃までにはEUVが導入できていたはずが、未だに実現できていない。そこで、7nmをどうするかが焦点となった。7nmをEUVを使わずに多重露光技術で立ち上げるか、EUVを待って7nmが遅れるリスクを冒すか、それが今年前半までの焦点だった。

 TSMCとGLOBALFOUNDRIESはEUVを使わずに、既存のArFエキシマレーザー光源による液浸多重パターニングで、7nmプロセスを立ち上げる。Intelも、最初のバージョンの7nmプロセスではEUVを使わないことを示唆し始めている。一方、Samsungは、7nmは既存光源版は作らず、EUVを待って立ち上げるとする。このように、非EUV版の7nmをやるかやらないかが各社で異なり、それがロードマップの違いとなっている。ちなみに、同じプロセスノードの数字でも、Intelはほかのファウンダリよりもフィーチャサイズが小さく、その分、EUVを使わないプロセスの難度は高い。

露光装置メーカーASMLの2016年10月のInvestor Dayでのロードマップ
IntelとTSMC/Samsungのプロセスのフィーチャサイズの比較
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順調に立ち上がりつつある10nmプロセス

 TSMCは、ARM Techconで同社のプロセスロードマップや、10nmと7nmの現況について説明を行なった。下のスライドの通り、TSMCは業界で最初に10nmを“生産”と唄っている。ちなみに、Samsungは10月17日に、業界で最初に10nmの“量産”を開始したと発表している。TSMCも、ARM Techcon時に「10nmプロセスでの顧客の設計は既にスタートしている。来年の早い時期に顧客製品を出荷できるだろう」と説明している。年内に10nmの量産を開始すると見られている。両社の10nmのスケジュールは多少の時間差はあれ、ほぼ横並びだ。ちなみに、下のスライド中のB社はSamsungを指しているとみられる。A社の方はIntelかGLOBALFOUNDRIESか、判然としない。

TSMCのプロセスノード世代毎のテクノロジ提供。赤が既にアベイラブルで顧客が設計に入っているテクノロジ、緑が開発中のもの。IoTで重要な組み込みFlashやセンサが40nmにまで来ていることも注目だ
TSMCの10nmプロセスの概要説明スライド

 上のスライドの左右の図は比較する対象が異なる。左の図はSRAMセルサイズの比較、右の図はCPP(Contacted Poly Pitch)×Mx(Metal Pitch)、つまりゲートの間のポリのピッチと、最も狭いメタル(配線)のピッチで示している。トランジスタの最も基本的なフィーチャサイズだ。ただし、現在は、FinFETのフィンピッチも重要なサイズファクタとなっている。横軸の時期は、リスク生産のスケジュールとなっている。TSMCは、10nmノードに自信を持っており、ARM Techconでは、「70%以上の市場シェアを獲れると予想している」としていた。

 TSMCの10nmは、同社の発表を見る限り、スケールダウンは順調に見える。16FF+に対しては、10FFのダイスケーリングは0.52xとなっている。つまり、同じ規模のチップなら、半分強のダイサイズとなる。一方、性能と電力は15%のスピードアップまたは40%の電力削減となるという。同じ消費電力なら、15%性能を高くできる。同じ性能のチップなら、40%ほど電力を減らすことができる計算だ。

 この概要でまず目に付くのは、10nmへの移行では、世代間での性能向上が小さくなっているように見えることだ。旧来のプロセストレンドでは、1ノード世代で性能が40%程度向上することが期待されていたからだ。

 これには理由がある。まず、TSMCが10nmを、16nmの最初の世代である16FFとではなく、性能向上版の16FF+と比較していること。TSMCは現在、新プロセスの導入に際して、「早期生産バージョン→性能向上バージョン→コスト&電力削減バージョン(16FF→16FF+→16FFC)」と大きく3波で提供している。同じプロセスノードでも、段階的に性能を上げた中間プロセスがある。そのため、中間プロセスとの比較では、性能向上が相対的に小さくなる。加えて、10nm世代では、ファウンダリ各社は電力低減によりフォーカスしており、電力の低減幅の方が性能の向上幅より大きくなる傾向にある。これは、ファウンダリとして10nmの“売り”をどこに持って来るかを考えた結果だとみられる。

 SRAMセルサイズについては、TSMCは、ほぼ2年毎に0.54xのスケールダウンを行なっていると説明しており、2016年の10nmプロセスは、同社のスケーリングトレンドに沿っているという。SRAMセルが0.999平方umだった90nmプロセス世代に対して、図中の28xのスケーリングとして計算すると、TSMCの10nmのSRAMセルのサイズは0.035平方um程度であることが分かる。Samsungが1月のISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)で発表した10nm SRAMセルは0.04平方umなので、それより小さい可能性がある。TMSCの16nmのSRAMセルは0.07平方umなので、50%台のスケーリングが続いていることになる。ただし計算上は2年で54%のスケールダウンなら、12年で40xの縮小率でなければならないので、図の28xとはズレがある。

Samsungの10nmプロセスのSRAMセル

ハイエンドスマートフォンやGPUが最初のターゲットとなる7nm

 下はARM Techconで示されたTSMCのロジックプロセスロードマップだ。TSMCは今年の第1四半期に10nmプロセスのリスクプロダクション(試験生産)を始めている。本格的な量産は近いうちに始まると見られている。

TSMCの先端ロジックプロセスのロードマップ。ボックスの左端は、原則としてリスク生産開始の時期を示している。しかし、16FFCは量産開始が2016年Q1とアナウンスされており、ずれがあるように見える。

 TSMCロードマップでは、10nmのちょうど1年後に7nmが立ち上がる。7nmのリスク生産は来年の第1四半期が予定されている。本格的な量産は、おそらく2017年中となり、再来年には搭載機器が登場するだろう。TSMCは、7nmプロセスについても、EDAツールベンダーやIPベンダーなどのエコシステムの準備が整いつつあると説明する。

TSMCはEDAツールベンダーやIPベンダーが既に同社の7nmをサポートしていることを強調する

 TSMCは、7nmプロセスについては、最初のターゲットをモバイルとHPC(High Performance Computing)としている。つまり、iPhoneのようなハイエンドモバイルと、NVIDIAやAMDのハイエンドGPUのようなHPC向けの製品がターゲットだ。核となるスタンダードセルやSRAMコンパイラなどはすでにレディの状態にあり、各種インターフェイスIPについても、多くが、現在、プレシリコンでの設計が済んでいるか開発中の段階にある。TSMCは、7nmのリスク生産が始まるまでには、主要なIPが揃うだろうと説明した。

TSMCの7nmプロセスのIPポートフォリオ

 また、7nmプロセスでは、モバイルではパッケージングにもフォーカスしており、InFO WLP(Integrated Fan-Out Wafer-Level Package)も早期に提供することを明らかにした。7nmでは、カットメタル(Cut Metal)がサポートされ現在のプロセスで重要となっているMEOL(Middle-End of Line)も改良される。HPC向けのGPUやCPUの設計では、性能を引き上げるテクノロジも各種導入される。例えば、ビアの抵抗を下げ、エレクトロマイグレーション耐性を高め、性能を上げるビアピラー(Via Pillar)は、各ステージのツールでサポートされる。

7nmプロセスのプラットフォームステイタス
TSMCの7nmの設計フロー。より高いPPA(電力、性能、面積)を可能とする
7nmのモバイル向けの設計リファレンスフロー
7nmでのHPC向けASICの設計メソドロジ。左が新テクノロジ、右が設計ステージ
7nmのHPC向けの設計リファレンスフロー

7nmの前倒しで10nmプロセスの位置付けがあいまいに

 こうして見ると、TSMCについては、10nmの量産準備が整ったと思ったら、もう7nmが立ち上がるというペースだ。通常は、新プロセスノードは2年置きに立ち上がる。20nmから16nmへは1年だったが、これは、20nmと16nmで、配線レイヤの基本部分は流用したためだ。通常は、2年が3年へと延びることがあっても、1年に早まることはない。ところが、7nmについては、10nmの1年後と、異例に速い導入となっている。

 TSMCは、今年の4月にAnnual Reportなどで、7nmプロセスを前倒しにすることを明らかにした。TSMCはEUVを使わないことで、7nmプロセスを早期に立ち上げることを明確にしたことになり、それ以来大騒ぎとなっている。TSMCの新ロードマップは、10nmが短期の中継ぎプロセスで、7nmが長期プロセスノードになると宣言したに等しい。同様の動きはGLOBALFOUNDRIESにもある。GLOBALFOUNDRIESは、10nmをロードマップから外してしまい、現在の14nmから7nmプロセスへとダイレクトに移行するプランとなっている。

GLOBALFOUNDRIESのロードマップでは10nmがスキップされている。12nmとなっているのはFD-SOIプレーナトランジスタのプロセス

 TSMCとGLOBALFOUNDRIESの動きを見ると、10nmは短命かスキップされるプロセスとなり、本命は次の7nmとなるように見える。この流れでは、一部のハイエンドチップを除けば、10nmプロセスは使われない可能性がある。多くのチップは16nmプロセスから、10nmをスキップして7nmに移行することになるかも知れない。例えば、PlayStation 4(PS4)はTSMCの16FF+プロセスに移り、一部のチップは今後16FFCプロセスに移行するとみられているが、10nmはスキップして7nmに移行する可能性もある。

 こうしたイレギュラーなプロセスノードの移行は過去にもあった。TSMCは2013年に20nmプロセスを立ち上げ、2014年半ばから本格量産を開始した。しかし、20nmを使ったのはiPhone 6などの一部のスマートフォン向けモバイルSoC(System on a Chip)のみ。ミッドレンジから下のスマートフォン向けのモバイルSoCやGPU/CPUなどは20nmへは移行せず、28nmプロセスに留まった。16nmプロセスの量産立ち上がりとともに、そうした28nmチップは16nmへと移行しており、20nmがスキップされた格好となっている。ライバルのSamsungも、20nmではごく一部のモバイルSoCを製造したのみとなっている。現在のロードマップは、見かけ上は、この時に似ている。

7nmプロセスのコストに影響される10nmプロセスの位置づけ

 ただし、今回の10nmプロセスの場合は、20nmプロセス時との違いもある。20nmはオプションのテクノロジーの面でも貧弱で、提供されたのはロジックとアナログのみ。RFなどは提供されておらず、何よりも重要なIPがあまり揃わなかった。ファウンダリやIPプロバイダも、最初から20nmには力を入れていなかった。それと比べると、10nmは、オプションテクノロジはまだわからないが、IPラインナップの予定数については、下の図のように20nmよりずっと多い。10nmが、20nmほど完全に中継ぎ扱いはされないことを示唆している。

各プロセスノードに対するIPラインナップ

 上のIPポートフォリオの図中の色分けは一部間違えており、28nmが下の凡例では黄色になっているが、実際のチャートの中では紺色となっている。そのため、同じく紺色の20nmと見分けがつきにくくなっている。2016年を見ると、上からピンクのソフトIP、グリーンの7nm、水色の10nm、黄色の16nm、狭い紺色の20nm、広い紺色の28nmとなってる。ポイントは、水色の10nm上のIPも揃いつつあって、IPがほとんどない20nmとは明らかに異なっていること。

 こうしてIPラインナップを見ると、10nmと7nmはある程度併存する可能性もある。そうだとすれば、それは7nmウェハのプロセッシングコストのためだろう。7nmプロセスでは、パターニングプロセスが非常に複雑になり、マスク総数も増え、歩留まりの低下の危険もあるため、プロセスコストが上昇する。そのコストの見積もりが不鮮明であるため、現在のねじれた状況となっている。7nmプロセスでのEUV版と非EUV版のマスク枚数などは、EUVをけん引する露光装置最大手のASMLが、今年(2016年)10月のInvestor Dayで下のように説明している。

 こうして見ると、ある程度トレンドが見えてくる。7nmプロセスのウェハプロセスコスト低減が十分に行くなら、TSMCでは10nmが中継ぎとなり7nmへとある程度移行が進む。低減が難しい場合は、10nmがボリュームゾーン、7nmがハイエンド製品と棲み分ける、こうした見通しかも知れない。ちなみに、TSMCはIoT向けのULP(Ultra Low Power)プロセスについては、16nmの次は7nmとしている。ここでは、10nmプロセスはスキップされている。これは、EUV世代を見据えてのロードマップかも知れない。

IoT向けのULPプロセスのロードマップ。28ULPは、ここでは28HPC+に統合されている