山口真弘の電子辞書最前線

カシオ「XD-D8500」
~メモリカードスロット2基を搭載したビジネスマン向けモデル



XD-D8500。写真のグレーメタリックのほか、ブラック、ルージュピンク、ブラウンをラインナップする

発売中
価格:オープンプライス



 カシオの電子辞書「XD-D8500」は、ビジネスシーンに役立つコンテンツを多数搭載したビジネスマン向けの電子辞書だ。従来モデルに比べてメモリカードスロットが2基に増え、辞書コンテンツの追加が用意になったほか、画面右側の「スクロールパッド」の搭載により画面の上下スクロールが容易になったことが特徴だ。

 従来モデルの「XD-B」シリーズは、文庫本ライクなデザインの採用やキーボードまわりのレイアウト変更など、それまでの製品とは外観がガラリと変わった。今回紹介するXD-D8500をはじめとする「XD-D」シリーズは、その基本コンセプトを踏襲しつつ、カードスロットの増加、スクロールパッドの搭載など、マイナーチェンジと呼ぶにはやや大掛かりな進化を果たしている。従来モデルとの違いを中心にチェックしていこう。

●外観は従来モデルとほぼ同一。カラーバリエーションが追加に

 まずは外観と基本スペックから。

 筐体のサイズおよびデザインは、画面を閉じた状態では従来モデルと見た目に違いはない。画面を開くと、液晶画面右側の「スクロールパッド」が追加されているといった違いはあるものの、これによって液晶画面の位置がずれたり、画面が小さくなることもなく、従来モデルとはほぼ同じ外観だ。従来モデルを所有しているユーザーでも、違いに気づかないことがあるかもしれない。

 画面サイズは5.3型で、左側のクイックパレット部を省いた実サイズは5型、表示解像度は480×320ドットとなる。キーボード手前のサブパネルともどもタッチ入力に対応している点も含め、従来モデルと同一の仕様だ。

 本体重量は約310gで、従来より10gほど重くなっている。同社製品の中で比較するとわずかに重くなっただけだが、競合に当たるシャープのビジネス向けモデル「PW-A9200」が約305gと以前のモデルに比べて大幅に軽量化されたため、軽さを優先してカシオ製品を選択するという選び方ができなくなった。両者を手に持って比べても、数値の差以上に本製品はずっしりと感じられる。

 筐体色は4色をラインナップ。従来モデルの一翼を担っていたテクスチャ加工のモデルはこのビジネス向けモデルからは姿を消し、新たにグレーメタリックとブラウンという渋みのある色が追加されている。上位モデルのXD-D10000ではアンバー系の色が採用されるなど、全体的には高級感を重視する方向を目指しているようだ。

 電源は単3電池×2本で、エネループなどにも対応。電池寿命時間は約130時間と、このあたりのスペックも従来モデルと同様だ。

上蓋を閉じたところ。高級感がある反面、光沢があることから指紋がつきやすい手に持ったところ左側面。イヤフォンジャック、音声出力切替スイッチ、microUSBコネクタを装備。従来モデルから変更はない
右側面。microSDスロット×2、ストラップホール、タッチペン収納スロットを装備正面。コネクタ類やラッチはとくにないヒンジ部に単3電池×2本を収納。エネループおよびエボルタ充電池も利用できる
タッチペンを右側面に収納するキーボード面。円形のボタンに若干のくぼみが設けられているほかは、従来モデルとほぼ同一スピーカーと一体化した左手前のキー。左上、左下、右上、右下にそれぞれくぼみが設けられているのが従来モデルとの相違点
中央に訳/決定キーを備えた右手前のキー。こちらも4カ所にくぼみが設けられている従来モデル(右、XD-B8500)とは外見上の大きな相違はない競合機種となるシャープPW-A9200(右)との比較。本体は本製品の方が若干小柄だが、重量はシャープ製品よりもわずかに重い

●利用の幅が広がる2基のメモリカードスロットを搭載

 さて、ハードウェアレベルでの従来モデルからの変更点は、大きく分けて2つある。1つはメモリカードスロットが1基から2基になったこと、もう1つは画面右側に搭載されたスクロールパッドだ。順に見ていこう。

 まずメモリカードスロット。同社の電子辞書では、メモリカードは主に辞書コンテンツの追加と、テキストや写真データなどの読み込みの用途に使われるが、今回のモデルではこのスロット(microSD)がこれまでの1基から2基に増えた。これにより、メモリカードを頻繁に抜き差しすることなく、追加コンテンツの利用や外部データの読み込みが行なえるようになった。

 同社が販売している電子辞書の追加コンテンツは「データカードタイプ」と「CD-ROMタイプ」の2種類があり、前者についてはメモリカードスロットに差し込むだけですぐ利用できるものの、常にメモリカードスロットがふさがれたままになってしまう。CD-ROMタイプはUSB接続で転送する手間はかかるが、スロットを占有することはなかったので、データカードタイプが主流になるにつれ、この問題はクローズアップされる傾向にあった。

 今回、メモリカードスロットが2基に増えたことで、2つの追加辞書コンテンツを同時に使用したり、あるいは一方を追加辞書コンテンツ、もう一方をデータのやりとりといった具合に利用できるようになった。辞書コンテンツの追加は価格的にはどうしても割高になる傾向があるとはいえ、専門性の高い辞書を組み合わせて使いたいユーザーは多いだろうし、同じハードを長く大事に使いたい人にも魅力的なはずだ。

 またこの2基のメモリカードスロットは販売する側からしても、特定顧客、つまり大学などに対するセットモデルとしての提案がしやすいメリットがあると思われる。むしろ前述のユーザーニーズよりも、こうした販売戦略的な理由が大きいように思えなくもないが、どちらにせよユーザーからするとスロットが2基あって困ることはないので、便利になったことは間違いない。

 ちなみにメモリカードスロットの増加に伴い、新たにメニューに「ライブラリー」という画面が設けられ、ここから本体/カード1/カード2を選択できるようになった。階層構造とショートカットが混在するなど操作性が特殊だったり、メモリカードの容量が大きいと時にハングアップしたようになる場合があったりと、操作性についてはもう少しこなれるのを待つ必要がありそうだ。

 なお、メモリカードスロットが2基になったものの、本体メモリー容量は約100MBのままで減らされてはいない。このあたりは従来の使い勝手が維持されていて喜ばしい。

2基のメモリカードスロット(microSD)を搭載。カバーは2スロットをまとめて覆う仕様。ちなみに一方のスロットは書き込みができず読み込みのみメモリカードスロットの幅が広がった以外は、従来モデル(下、XD-B8500)とは外見上の相違はない
カードスロットが2基になったことで、エクスプローラに相当する「ライブラリー」画面が新たに設けられた。画面上部には選択中のカードの残り容量が表示されている。ちなみにカードが挿入されていない場合はアイコンがグレーになる先の「ライブラリー」画面でメモリカードを選択すると、中に含まれる辞書やテキスト、音声や写真などのファイルが表示される。すべての保存先が並列に表示されていた従来のインターフェイスの名残があり、操作方法がややわかりにくくなっている読み込みに時間がかかるのは従来製品と同じだが、2スロット化で切り替えの機会が増えたせいか遅さが目立つようになった感がある。フォトビューアでファイルの読み込み数が上限200という制限があったり、拡大・縮小のスピードがお世辞にも実用レベルでない点も従来のままだ

●上下スクロールを容易にするスクロールパッドを搭載

 ハードウェアの変更点のもう1つは、画面右側に「スクロールパッド」と呼ばれるインターフェイスを新たに搭載したことだ。

 これはその名の通り、画面の上下スクロールを容易にするためのタッチパッドで、指で上下になぞることによって画面が上下にスクロールするというもの。従来はページUP/DOWNに相当するキーしかなかったので、長い本文をスクロールして目的の箇所を探す場合には便利に使える。文学作品などをスクロールしながら読むのにも適したインターフェイスだ。

 ただ、メイン画面およびその横にあるクイックパレットは指でもタッチペンでも操作できるにもかかわらず、このスクロールパッドは指でしか操作できないなど、従来のインターフェイスとの整合性がとれていない点は気になる。確かにこのスクロールパッドの位置は、本体を手で持った時に指で触れる場所であり、指で操作できることがおかしいとは思わない。少なくともタッチペンでしか操作できないというインターフェイスよりはよほどましだ。

 しかしそれ以前の問題として、スクロール時にメイン画面ではなく画面端のスクロールパッドをなぞらなくてはいけない違和感は、特にスマートフォンに慣れているユーザーは強く感じるだろう。また、パッド中央部を基点に上下にはじくようにフリックすると自動スクロールする独自の機能があったりと、へんにオリジナルの操作性を備えているのが、慣れを難しくしている。

 昨今はスマートフォンやタブレット、電子書籍端末と、タッチ操作に対応した端末は数多い。そのどれが今後主流になっていくかは分からないが、ある操作に対する反応が機器ごとにまったく異なるというのは、やはり好ましいことではないだろう。便利にしようと後付けで機能を追加していった結果、わかりにくくなってしまったという印象だが、現状はあくまでつなぎの仕様であり、次期モデル以降でインターフェイスの整合性が取られることを期待したいところだ。

画面右端に新たに「スクロールパッド」を搭載した。持ち方にもよるが、手に持って使う場合は画面のように親指で操作する機会が多そうだスクロールパッドを上下になぞることで画面が上下にスクロールする。タッチペンでは反応せず指で操作する
ブックスタイルで左右スクロールさせながら読書することも可能。ちなみに従来モデルにあった縦横の切り替えを行なうセンサーは本モデルから廃止されたスクロールパッドを搭載したものの、ベゼルの幅は従来モデル(手前)と変わりはなく、画面全体が左に寄っていることもないスクロールパッドは一部のコンテンツでは非対応となっているほか、対応コンテンツでも一部の図版などがスクロールしない場合がある。これは「図解雑学ドラッカー経営学」の図版だが、スクロールパッドによるスクロールが行なえない
「日本文学1000作品」は、進捗を示すバーが新たに搭載され、既読の割合が目視でわかりやすくなった
文学作品の文字サイズは辞書コンテンツとは異なり、小さめのサイズで3段階可変となっている。個人的にはもう少し読みやすいフォントの採用を願いたい

●初心者向けの検索メニュー「かんたんサーチ」を新たに搭載

 メニューについても、これまでなかった新たな機能が搭載されている。「かんたんサーチ」がそれだ。

 これは本製品が持つ複数の検索メニューのうち、初心者向けのベーシックな検索方法を1つの画面に統合したものだ。どの辞書で検索するかあれこれ考えることなく、とりあえずこの画面を呼び出して日本語/アルファベットを選択して語句を入力すれば検索が行なえる。初心者にとっては、辞書コンテンツが並んだメニュー画面ではなく、この「かんたんサーチ」の画面こそが起動直後に表示されてもいいのではと思えるほどだ。

 もっとも、この画面が従来の「複数辞書検索」とは別個に用意されており、ファンクションキーの2度押しでこの複数辞書検索も呼び出せてしまうことから、どちらを使えばよいか、かえってわかりにくくなっている。「かんたんサーチ」の用途についても、サイトやカタログ、説明書上で明確に「初心者向け」と説明されているわけではなく、画面も「複数辞書検索」と同じ緑を基調とした配色なので区別がつかない。

 実際には「かんたんサーチ」と「複数辞書検索」では検索対象コンテンツが若干違っていたり、追加コンテンツに対応するか否かといった違いがあるそうなのだが、「かんたんサーチ」と「複数辞書検索」でまったく同じ検索結果が得られることも多いうえ、そもそも電子辞書のユーザー全員が初心者というわけではないので、全ユーザーにこの画面が必要かと言われると難しいところだ。両者を統合するか、初期設定の時点でどちらを使うか選ばせるか(まあこれはこれで方向付けが難しいだろうが)の方がよかったのではないかと思う。

 あと、「かんたんサーチ」「複数辞書検索」のどちらにも言えることだが、複数の検索ボックスのうち現在どこがアクティブになっているのか、デザイン上すこぶる分かりにくい。実際にはアクティブな箇所が緑、そうでない箇所が黒というルールのようなのだが、黒のほうが濃淡がはっきりしているため、どう見ても逆に見えてしまうのだ。むしろこちらの方が初心者にとっては目に見えないハードルとなるはずで、最適化が急務だろう。

新機能の「かんたんサーチ」。複数の検索画面を1つに統合したもの。主に使用するのは画面上部の「日本語」「アルファベット」と書かれた箇所になるだろうこの画面は「アルファベット」がアクティブなのだが、どの部分がアクティブなのかわかりにくく、日本語/アルファベットを間違って入れようとしてしまうこともしばしば。右上に四角囲みで書かれている「a」を、もう少し目につきやすい位置に表示したほうがよいのかもしれない下段には「電子図鑑 図から検索」「電子図鑑 キーワードで検索」「地図から検索」の3つのメニューが並ぶ。1回タップすると選択、2回タップすると画面が遷移するのだが、お世辞にも分かりやすいとはいえない
例えば「電子図鑑 図から検索」を2回タップした場合はこのようなコンテンツ選択画面に遷移し、ここから例えば「広辞苑→動物→哺乳類→アザラシ」といった具合にドリルダウンして検索するこちらは「複数辞書検索」の画面。先の「かんたんサーチ」とデザインがよく似ているが、下段には例文検索や成句検索などのインターフェイスが用意されているそれぞれの検索方法をタップすると検索画面が展開されるという仕組み。これは例文検索をタップした場合
「かんたんサーチ」と「複数辞書検索」、それぞれで「きんぎょ」という単語を検索したところ。わずかながら検索結果が異なっているが、どのような違いがあるのかは正直わかりにくい
こちらは英単語を「かんたんサーチ」と「複数辞書検索」、それぞれで検索したところ。こちらは内容に変化はない。実際には辞書の対応範囲や、追加コンテンツも検索対象に含めるかどうかに相違がある

●140コンテンツを搭載。メニューが階層表示でより分かりやすく

 最後になったが、コンテンツについても触れておこう。

 コンテンツ数は140で、従来より10増えている。新しく追加になったコンテンツとしては、「NHKラジオ英会話(2009年度版)」のほか「図解雑学ドラッカー経営学」「同、ケインズ経済学」「同、マルクス経済学」などの図解雑学シリーズ、さらに「バロンズ金融用語辞典」などが挙げられる。とくに「NHKラジオ英会話」については、セイコーインスツルの電子辞書でも好評を博していたコンテンツで、英語のスキルアップを狙うビジネスマンにとっては、TOEICなどとは違う切り口で重宝するだろう。

 ビジネスマン向けモデルということで、日常の業務で使える各種用語辞典や、英文メールやスピーチなどの文例集も収録されている。また国家資格14種類の過去問題や、TOEIC、漢検などに対応したコンテンツなど、業務外でのスキルアップに役立つコンテンツも多数収録されている。とくに英語系については、先のNHKラジオ英会話やキクタンなども含め、ビジネスマンが求める幅広い分野がカバーされている印象だ。

 またこれらコンテンツをメニューに表示するにあたり、今回のモデルから階層表示が取り入れられた。例えば複数コンテンツを含む「キクタン/キクジュク」や「英会話ひとこと辞典」などはメニュー名の先頭にフォルダマークが表示されており、これを展開して下層のコンテンツを一覧表示する仕様に改められた。選択後すぐに検索画面が表示されるのか、それとも表示されるグループの中から使用するコンテンツを選ぶのか、直感的にわかりやすくなったのはよいことだろう。

 このほか、日本文学作品と世界文学作品のインターフェイスが改良されているのが個人的には目についた。具体的には、いま読んでいるのが本全体のどのあたりの位置かがわかる進捗表示バーが追加されたこと、また一覧画面で個々の文学作品の全ページ数が表示されるようになったことが挙げられる。長らく課題だった点がようやく修正された格好だが、実際に使っていても、全体のボリュームを把握できる安心感を感じる。

メニュー画面。画面右側にはこれまで、トラベルなら飛行機、学習なら筆記具といった具体に分類に応じたイラストが表示されていたのが、本モデルからはすべて立体感のあるアイコンに統一され、印象はずいぶんと変わった複数のコンテンツを含む「キクタン/キクジュク」などはまとめて表示されるようになった。その場合はコンテンツ名の冒頭にフォルダアイコンが付与されるフォルダアイコンの付いたコンテンツを選択すると下層にあるサブコンテンツが表示される
日本文学作品と世界文学作品は、従来はそれぞれ700+300の計1,000作品だったのが、1,000+1,000の計2,000作品へと大幅に増えた。「生活・実用」カテゴリはほかにもコンテンツの再編がみられる文学作品は作品名の右側にページ数が表示されるようになり、各作品のボリュームがわかりやすくなった。地味ながらカユいところに手が届く改善点として評価したい
文字サイズは3段階で可変する

●既存の操作性と矛盾しないシームレスな進化を期待

 以上ざっと見てきたが、具体的な課題に対しての改善が着実に行なわれている反面、つぎはぎ感が強くなってしまった感は否めない。例えば「スクロールが面倒」という従来の問題点に対して「スクロールパッドを搭載しました」という解決策はきちんと提示されているのだが、従来のインターフェイスとの整合性が取れておらず、従来とは違う操作性を要求される、といった具合だ。

 結果として、セールストークやカタログトークではこれ以上ないくらい十分な機能があるのだが、使ってみると一体感に欠けており、どことなくちぐはぐさを感じるというのが本製品を試用した率直な感想だ。機能的にはなんら劣るところがないだけに、シームレスな操作性をどう実現するかが、今後に向けての1つのポイントということになりそうだ。

【表】主な仕様

製品名XD-D8500
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ5.3型カラー (クイックパレット部含む)
ドット数528×320ドット (クイックパレット部含む)
電源単3電池×2
使用時間約130時間
拡張機能microSD×2、USB
本体サイズ(突起部含む)148.0×105.5×19.7mm(幅×奥行き×高さ)
重量約310g(電池含む)
収録コンテンツ数140(コンテンツ一覧はこちら)