井上繁樹の最新通信機器事情

ASUS「PCE-AC68」と「RT-AC68U」

~1.3Gbps接続対応の無線LAN子機と親機を試す

発売中

価格:オープンプライス

 ASUSの「PCE-AC68」は、親機兼用ではないIEEE 802.11ac(以下11ac) 1.3Gbps対応の無線LAN子機としては国内初の製品になる。今回同じく11ac 1.3Gbps対応の無線LAN親機「RT-AC68U」を借りる機会があったのでその実力を調べてみた。

PCE-AC68の概要

 ASUSの「PCE-AC68」はIEEE 802.11a/b/g/n、そして11acに対応したPCI Express接続の無線LAN子機だ。アンテナ端子は3つ有り、3×3の3ストリーム接続ができる。2.4GHz帯、5GHz帯ともに利用でき、11n接続時は最大600Mbps、11ac接続時は最大1.3Gbpsで接続可能だ。

PCE-AC68本体。ボード全体を覆うヒートシンクが目を惹く
ブラケット側から見たところ。3つのアンテナ端子が並ぶ
付属のアンテナは本体に直接取り付ける以外に、同梱のアンテナベースを使うことで、本体から離れた場所に設置できる
同梱物一覧。外付けアンテナ×3、アンテナベース、ハーフハイトブラケット、CD-ROM、マニュアル、保証書等の冊子類
ドライバと共にインストールされる「PCE-AC68 Utility」のトップ画面。接続状況が確認できる
より詳細な設定は他の無線LAN子機同様、プロパティ画面(「ネットワークと共有センター」→「アダプタの設定の変更」→PCE-AC68の「プロパティ」→「構成」で開く)で可能

 3つのアンテナ端子を搭載しており、アンテナは直接取り付ける以外に、ベースステーションを使ってより電波状態の良い状態の場所に設置できる。ベースステーションにはマグネットが入っているので、磁石の付く場所であれば簡単に取り付けできる。

 ブラケット部分を除いた本体の大きさは103.3×68.9×21.0mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は125g。ビデオカードと比べると小ぶりだが、ボード全体を覆うような巨大なヒートシンクを使用した無線LAN子機は他に見かけない。

RT-AC68Uの概要

 ASUSの「RT-AC68U」は「PCE-AC68」同様、2.4GHz帯と5GHz帯が利用可能な、IEEE 802.11a/ac/b/g/nに対応した無線LAN親機で、アンテナを3本を使用して3ストリーム接続できる無線LAN親機だ。有線LANポートはWAN側×1、LAN側×4で、いずれも1Gbps接続対応だ。

RT-AC68U。画面の無い薄型TVのような形状
正面。天面側に立体の金色ロゴと機種名印刷、底面側に動作ランプ類が並ぶ。右から電源、5GHz、2.4GHz、USB 2.0、USB 3.0、WAN、有線LAN1~4
正面から見て右側。上からWPSボタン、Wi-Fiのオン/オフボタン
背面。底面側に左から、電源ボタンとその下にACコネクタ、USB 2.0、USB 3.0、WAN、LED on/offボタン、有線LAN端子×4
天面。アンテナ端子が3つ。外付けアンテナをネジ込んで固定する
底面。前面側と背面側に幅広のゴム足が貼られている
RT-AC68Uに外付けアンテナを付けた状態。アンテナの長さは本体の高さと同じくらい
外付けアンテナは90度曲がり、360度横方向に回転可能
同梱物一覧。外付けアンテナ×3、ACアダプタ、LANケーブル、CD-ROM、マニュアル、保証書等の冊子類
管理画面トップ。接続されているコンピュータの数やUSBストレージが一覧できるネットワークマップが表示される
ゲストネットワーク設定。接続できる時間をタイマー設定することで安全性を高めることができる
インターネット接続先を複数設定することで、負荷の分散による速度維持や、バックアップ回線を使った安定性向上が可能

 USB 2.0とUSB 3.0のポートをそれぞれ1つずつ搭載しており、接続したUSBストレージを使ってLAN内でファイルを共有できる他、RT-AC68UをFTPサーバーやメディアサーバー、ダウンローダーとして使うことができる。また、Mac OS XのTime Machineバックアップの保存先としても使える。ユニークなのは、オンラインストレージサービスとの同期機能を搭載していること。他にもUSBポートを使ってプリンタの共有や、3G/4Gモデムの利用が可能だ。

 その他面白い機能として、3G/4G回線を含む異なる2の回線(WAN+LAN、WAN+USB)を使って、回線の安定性を高めることができる。それから、VPNサーバーを搭載しているのだが、こちらはPPTP以外にOpen VPNにも対応している。

 大きさは220×83.3×160mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は640gとなっている。国内で販売されている11ac対応の無線LAN親機としては最も重い部類に入る。その分設置した時に安定感があるのは確かだ。

ベンチマーク

 速度の測定はルーターモードで行なった。測定には3台のWindows 8.1(64bit版)PCを使用した。3台ともメモリ8GB、SSD搭載な点は共通で、CPUがCore i5 4590SのものとCPUがCore i3-2120のものにPCE-AC68を装着して、無線LANと内蔵の1Gbps有線LANを使用した。残り1台はおまけテスト用のノートPC(Core i5-3210M)で、無線LAN子機としてNECアクセステクニカ「Aterm WL900U」(11ac-867Mbps)を装着して無線LANのみ使用した。

 測定は2種類行なった。1つは、CrystalDiskMark 3.0.3(以下CDM)によるもの。CPUがCore i3のPCに作成した共有フォルダを、Core i5-4590SのPCでネットワークドライブとして割り当てて、そのドライブの速度を測定した。さらに、おまけとして、ノートPCの共有フォルダを使って同様にCDMで速度を測定した。もう1つの測定は、iperf(jperf使用)によるもの。iperfの速度の測定では、Core i3のPCをサーバーとして、Core i5-4590SのPCをクライアントとして使用した。

 測定環境は、2.4GHz帯のSSIDは10件以上確認できるが、5GHz帯のSSIDは5件前後の鉄骨マンションの一室。使用した暗号化方式はWPA2-PSK AESで、ビームフォーミング機能は使用していない。

【表1】SSD使用時のCDM速度測定結果(Mbps)
接続形態1.3G-867M1.3G-1.3G1.3G-GbEGbE-GbE
リード211.3162.0399.2581.9
ライト193.9104.2331.9558.2
11ac 1.3Gbps、1Gbps有線LAN時のCDM速度測定結果

 まず、CDMによる速度の測定結果は表1の通りで、11ac 1.3Gbpsのみで接続した場合、リード約162Mbps、ライト約104Mbpsだった。Core i3側のPCの接続を1Gbps有線LANに切り替えた場合は、リード約339Mbps、ライト約332Mbpsだった。さらに、Core i5-4590SのPCも1Gbps有線LANに切り替えた場合は、リード約582Mbps、ライト約558Mbpsだった。

 両者11ac 1.3Gbps接続の結果が、片方867Mbpsの結果より伸びていなかったり、両者GbE(1Gbps有線LAN)接続の結果が約558~582Mbpsと1Gbps有線LANにしては速度が出ていないものの、片方1Gbps有線LANの結果を見るとライトが300Mbpsを越えている。これは11ac-867Mbpsの無線LAN子機では見かけなかった数字だ。

11ac 1.3Gbpsのみ使用した場合のiperf速度測定結果
11ac 1.3Gbps、1Gbps有線LAN時のiperf速度測定結果

【ログ】iperf速度測定結果、1.3G→1.3G無線LAN

bin/iperf.exe -c 192.168.2.223 -P 1 -i 1 -p 5001 -f m -t 20

------------------------------------------------------------

Client connecting to 192.168.2.223, TCP port 5001

TCP window size: 0.06 MByte (default)

------------------------------------------------------------

[184] local 192.168.2.198 port 58502 connected with 192.168.2.223 port 5001

[ ID] Interval Transfer Bandwidth

[184] 0.0- 1.0 sec 22.8 MBytes 192 Mbits/sec

[184] 1.0- 2.0 sec 26.7 MBytes 224 Mbits/sec

[184] 2.0- 3.0 sec 28.9 MBytes 243 Mbits/sec

[184] 3.0- 4.0 sec 28.2 MBytes 237 Mbits/sec

[184] 4.0- 5.0 sec 28.9 MBytes 243 Mbits/sec

[184] 5.0- 6.0 sec 28.5 MBytes 239 Mbits/sec

[184] 6.0- 7.0 sec 21.7 MBytes 182 Mbits/sec

[184] 7.0- 8.0 sec 21.8 MBytes 183 Mbits/sec

[184] 8.0- 9.0 sec 21.3 MBytes 179 Mbits/sec

[184] 9.0-10.0 sec 22.3 MBytes 187 Mbits/sec

[184] 10.0-11.0 sec 22.8 MBytes 191 Mbits/sec

[184] 11.0-12.0 sec 22.9 MBytes 192 Mbits/sec

[184] 12.0-13.0 sec 23.8 MBytes 200 Mbits/sec

[184] 13.0-14.0 sec 21.5 MBytes 180 Mbits/sec

[184] 14.0-15.0 sec 23.3 MBytes 195 Mbits/sec

[184] 15.0-16.0 sec 24.1 MBytes 202 Mbits/sec

[184] 16.0-17.0 sec 24.7 MBytes 207 Mbits/sec

[184] 17.0-18.0 sec 25.5 MBytes 214 Mbits/sec

[184] 18.0-19.0 sec 25.8 MBytes 216 Mbits/sec

[184] 19.0-20.0 sec 23.1 MBytes 194 Mbits/sec

[ ID] Interval Transfer Bandwidth

[184] 0.0-20.0 sec 489 MBytes 205 Mbits/sec

Done.

【ログ】iperf速度測定結果、1.3G無線LAN→Gigabit Ethernet

bin/iperf.exe -c 192.168.2.144 -P 1 -i 1 -p 5001 -f m -t 20

------------------------------------------------------------

Client connecting to 192.168.2.144, TCP port 5001

TCP window size: 0.06 MByte (default)

------------------------------------------------------------

[184] local 192.168.2.198 port 59157 connected with 192.168.2.144 port 5001

[ ID] Interval Transfer Bandwidth

[184] 0.0- 1.0 sec 49.5 MBytes 415 Mbits/sec

[184] 1.0- 2.0 sec 50.4 MBytes 423 Mbits/sec

[184] 2.0- 3.0 sec 59.1 MBytes 496 Mbits/sec

[184] 3.0- 4.0 sec 54.5 MBytes 457 Mbits/sec

[184] 4.0- 5.0 sec 54.0 MBytes 453 Mbits/sec

[184] 5.0- 6.0 sec 50.3 MBytes 422 Mbits/sec

[184] 6.0- 7.0 sec 46.3 MBytes 388 Mbits/sec

[184] 7.0- 8.0 sec 46.9 MBytes 394 Mbits/sec

[184] 8.0- 9.0 sec 53.3 MBytes 447 Mbits/sec

[184] 9.0-10.0 sec 52.6 MBytes 441 Mbits/sec

[184] 10.0-11.0 sec 53.1 MBytes 445 Mbits/sec

[184] 11.0-12.0 sec 53.2 MBytes 447 Mbits/sec

[184] 12.0-13.0 sec 53.1 MBytes 446 Mbits/sec

[184] 13.0-14.0 sec 52.0 MBytes 436 Mbits/sec

[184] 14.0-15.0 sec 60.1 MBytes 504 Mbits/sec

[184] 15.0-16.0 sec 49.1 MBytes 412 Mbits/sec

[184] 16.0-17.0 sec 54.8 MBytes 459 Mbits/sec

[184] 17.0-18.0 sec 55.7 MBytes 467 Mbits/sec

[184] 18.0-19.0 sec 57.7 MBytes 484 Mbits/sec

[184] 19.0-20.0 sec 49.7 MBytes 417 Mbits/sec

[ ID] Interval Transfer Bandwidth

[184] 0.0-20.0 sec 1055 MBytes 442 Mbits/sec

Done.

 iperfによる速度の測定結果は上の画像及びログの通りで、11ac-1.3Gbpsのみで接続した場合平均約205Mbps、Core i3側のPCの接続を1Gbps有線LANに切り替えた場合は平均約442Mbpsだった。

RT-AC68UのUSBストレージ系機能とベンチマーク

 RT-AC68Uに接続したUSBストレージはルート直下のサブフォルダが共有フォルダとしてLAN内からアクセスできる。ルートフォルダにはアクセスできないのが少々不便だが、Windowsのエクスプローラーでサブフォルダごとにネットワークドライブとして割り当てることができる利点がある。

接続したUSBストレージをエクスプローラー上から見たところ。ルートフォルダ下に作られたフォルダが共有可能なフォルダとして表示される
AiCloudと呼ばれる機能で接続したUSBストレージをオンラインストレージ化できる他、ASUSのオンラインストレージサービスとの連携、ファイルの共有ができる
Webサービス版のAicloud画面。インターネット経由で自宅に設置したRT-AC68UのUSBストレージにアクセスしている。LAN内の共有とは違い、ルートフォルダも見える
iPhone版のAiCloudアプリ。やはり、インターネット経由で自宅に設置したRT-AC68Uにアクセスしている
USBストレージに保存したファイルを、ASUS提供のオンラインストレージと同期できる
Sync Server。AiCloud対応機同士で、USBストレージに保存したファイルを共有できる
メディアサーバーの設定画面。USBストレージのどのフォルダを使用するかユーザーが設定できる。フォルダ単位で保存するメディアの種類を指定可能
PS3のクロスメディアバー上に表示されるRT-AC68Uのメディアサーバー
ダウンロードマネージャ。Bit Torrent以外にaMuleと呼ばれるP2P系のファイル共有機能に対応している

 また、「Cloud Disk」と呼ばれる機能を使うと、インターネット経由で出先からアクセスできるオンラインストレージ化できる。この機能はWebブラウザやAndroid、iPhoneの専用アプリ「AiCloud」で利用できる。インターネット側からRT-AC68Uに直接接続することになるので、ASUSが同社製品向けユーザーに提供する無料のダイナミックDNSサービスを使うなどして、固定アドレスを確保するのがおすすめだ。

 面白いのが、接続したUSBストレージの特定のフォルダを1つ、ASUSが提供するオンラインストレージサービス「ASUS Webstorage」のアカウントのフォルダと同期できること。同期ルールは「Sync」「Download to USB Disk」「Upload to Cloud」の3種類。ASUS Webstorageは5GBまで無料で、100GBなら年額2,990円、500GBは年額8,200円で利用できる。

 また、AiCloud対応のルーター製品同士でファイルの同期ができるのもユニーク。設定はフォルダ単位で、同期ルールはASUS Webstorageと同じ3種類だ。同期できる対象が限られてしまうのが難点だが、限度はあるにせよ容量をあまり気にせず使えるのがメリットだ。

【表2】RT-AC68Uに接続したUSB 3.0メモリのCDM速度測定結果
接続形態1.3GGigabit Ethernet
リード176.4492.9
ライト65.769.5
RT-AC68UのUSB 3.0ストレージに11ac 1.3Gbpsで接続した時のCDM速度測定結果

 RT-AC68Uに接続したUSBストレージの速度についてだが、CDMで速度を測定した結果は表2の通り。使用したのはUSB 3.0メモリで、11ac-1.3Gbpsで接続した場合はリード約176Mbps、ライト約66Mbps、1Gbps有線LANで接続した場合はリード約493Mbps、ライト約70Mbpsだった。

まとめと感想

 PCE-AC68は、ベンチマーク結果を見ると、親機兼用の無線LAN子機(コンバータ)には届かないものの、867Mbps接続の無線LAN子機を使った場合と比べると速度は出ているので、デスクトップPCを無線化する際の選択肢の1つとして考えてもいいのではないだろうか。ちなみに、ボード全体を覆う巨大なヒートシンクについてだが、動作中触ってみたがほんのりと温かくなっている程度だった。熱のこもりやすいケースでも安定動作させるための保険なのだろうか。

 RT-AC68Uは、基本機能を抑えつつUSBストレージ対応でオンライン化可能、VPNサーバー搭載など高価格機種に相応しい多機能ぶりで、速度についても他機種にひけをとらない。面白い機能としてASUS Webstorageとの同期機能があるが、こちらはいっそサービスの種類を問わず使えると便利だと思うのだがどうだろうか。

 なお、今回PCを机上でケースに入れずベンチマークテストしていて気付いたのだが、PCE-A68は動作中「ジーッ」という音鳴りがする(ファン類の一切無い電子機器でも動作中耳を当てると聞こえるものと同じものと思われる)。よもやケースに入れずに使う御仁は居ないと思うが念のため。ちなみに、ケースに入れてしまうと分からなかった。

(井上 繁樹)