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Ryzen 5搭載で3万円を切るミニPC!? N100の市場に切り込む「GMKtek NucBox G10」を試す

GMKtekのNucBox G10

 ミニPCなら、Windows 11がインストールされたそこそこ使えるデスクトップPCが2~3万円で買える。PCをそこそこ触ったことがあるユーザーなら、なおさら信じられないことではある(今でも信じがたいが)。こうした低価格なモデルの登場が、ミニPCの認知度を高め市場規模を広げる原動力になったことは間違いない。

 ただしこうした激安ミニPCでは、どれもIntelの低消費電力CPU「Intel N97/N100/N150」を採用しており、パフォーマンスはほぼ同じ。デザインやインターフェイスも似ている製品が多く、ちょっとつまんないなと感じるユーザーもいるかもしれない。

 そんな状況で投入されたのが、今回紹介するGMKtekの「NucBox G10」だ。AMDの「Ryzen 5 3500U」というCPUを搭載しながらも実売価格は3万円を大きく割り込むなど、価格的な位置づけはN100搭載の激安ミニPCに近い。今回はこのNucBox G10の特徴を紹介するとともに、N100搭載のミニPCとの違いも簡単に検証したい。

どこから持ってきたのか!? かなり世代の古いRyzen 5を搭載

 Ryzen 5 3500Uは、2019年初頭に発売されたCPUだ。CPUコアのアーキテクチャは「Zen+」なので、最新の「Ryzen AI 9 HX 370」が搭載する「Zen 5」と比べると4世代も古いことになる。RyzenのCPUコアは世代が進むにつれて飛躍的に進化していることもあり、ここまで古いとなかなか厳しそうな印象はある。

 GPUコアのアーキテクチャは「Vega」であり、これも最新世代のCPUが搭載するGPUコアと比べるとかなり世代が古い。こうしたことを踏まえると、基本性能にはあまり期待できそうにない。とはいえ、Ryzen 5 3500U自体はMicrosoftがWindows 11サポートを保障するCPUであり、3万円を切るという実売価格のインパクトは大きい。

【表】NucBox G10の主な仕様
メーカーGMKtek
製品名NucBox G10
OSWindows 11 Pro
CPU(最大動作クロック)Ryzen 5 3500U(4コア8スレッド)
搭載メモリ(空きスロット、最大容量)DDR4 SO-DIMM PC4-19200 8GB 2基
(なし、64GB)
ストレージ(インターフェイス)512GB(PCIe 3.0)
拡張ベイPCIe 3.0対応M.2スロット 1基
通信機能IEEE 802.11a/b/g/n/ac、Bluetooth v5.0
主なインターフェイス2.5GbE 1基、DisplayPort 1基、HDMI 1基、USB 3.2 Gen 1(Type-C、DisplayPort Alt Mode対応)、USB 3.2 Gen 1 2基、USB 2.0 1基
本体サイズ(実測値)103×98×42mm
重量約284g
実売価格2万7,000円前後(値引きクーポン適用)

 筐体はかなり小さい。幅は98mm、奥行きは103mm、厚みは42mmと、ちょうど手のひらで包めるくらいのサイズ感だ。「Ryzen 7 8845HS」などを搭載するミドルレンジのミニPCと比べると一回り小さく、置き場所に困らない。ちなみにIntel N100系を搭載するミニPCでも、このサイズ感の筐体を採用するモデルは結構多い。

左がGMKtekのNucBox K11、右がNucBox G10。スタンダードなサイズのミニPCと比べるとかなり小さめ
こんな感じで手のひらで包めるようなサイズ感

 筐体の素材はシルバーのプラスチックで、天板にはGMKtekのロゴが印刷されている。前面に装備する緑色の電源ボタンとともに、GMKtekのミニPCではおなじみの意匠である。底面にCPUを冷却するためのファンと吸気口を備える。右側面に排気口を装備しており、利用中はそれなりに暖かい風が吹き出してくるため、運用時は右側面を塞がないようにしたい。

右側面には排気口があるので塞がないようにしたい
底面にはCPUファン用の吸気口がある

 有線LANポートは2.5Gigabit Ethernetに対応するほか、4K解像度でリフレッシュレート60Hzに対応するDisplayPortやHDMI、4K解像度だと30HzまでとなるがDisplayPort Alt Mode対応のUSB 3.2 Gen 1 Type-C、2基のUSB 3.2 Gen 1ポートなど、ミニPCとしては必要十分のポートを備えている。

前面にはUSB 3.2 Gen 1ポートが2基とヘッドセット端子を装備
背面には2.5Gigabit Ethernet、DisplayPort、HDMI、電源供給用のType-C、DisplayPort Alt Mode対応のUSB 3.2 Gen 1 Type-C、USB 2.0ポートを装備

 天板のプレートを本体に固定している前面上部の爪を上にちょっと引っ張るとその爪が外れ、カパッと全体が外れる構造になっている。天板を外すとメモリスロットとM.2スロットにアクセスでき、内部にはDDR4 SO-DIMMモジュールが2枚と、システム用のM.2 SSDが装着済みだった。

 このサイズ感のミニPCだとメモリは基板に直付けであることも多いのだが、NucBox G10ではメモリスロットタイプなので大容量タイプに換装することが可能。また増設用のM.2スロットを備えており、合計2枚のM.2 SSDを組み込むことも可能など、コンパクトながら一般的なミニPCに勝るとも劣らない拡張性にちょっと驚いた。

前面近くの爪を外すのが一番抵抗が少ないが、それなりに力は必要
内部の様子。内部はかなり狭いが、メモリスロットやM.2スロットを装備していることに驚く

 ACアダプタは最大出力が65Wまでの小型モデルで、端子はType-Cだ。検証部分で紹介する通り、高負荷状態でも消費電力は35W前後であり、このACアダプタでも問題なく動作する。

NucBox G10(左)と比べてもかなり小さめ。コンパクトなGaN充電器に近いサイズだ

ベンチマークスコアはN100とほぼ同等だが「地力の差」がある

 このようにミニPCとして平均的なインターフェイス構成や拡張性を備えることは分かったが、やはり一番気になるのは実際の性能だろう。今回は、ほぼ同じ価格帯でIntel N100をCPUとして搭載するACEMAGICのミニPC「S1」と、いくつかの基本的なベンチマークテストのスコアを比較してみよう。

CPUメモリCPUコアGPUコア
GMKtek NucBox G10Ryzen 5 3500U(4コア/8スレッド)16GB(DDR4 SO-DIMM PC4-25600 8GB 2基)Zen+Radeon Vega 8 Graphics
ACEMAGIC S1Intel N100(4コア/4スレッド)16GB(DDR4 SO-DIMM PC4-21300 16GB 1基)Alder Lake-NIntel UHD Graphics

 なお試用機のNucBox G10は、UEFIから設定できる動作モードが到着時は「Balance」になっていた。この状態だとかなりスコアが低く出たこともあり、「High Performance」でテストを行なっている。それに合わせてS1も動作モードをクロックが高めになる「MAX」に設定した。

Intel N100を搭載するACEMAGICの「S1」

 PCの基本操作に関するアプリの処理性能などを検証できる「PCMark 10 Extended」のスコアをまとめたのが下のグラフだ。各種スコアをS1と比較してみると、概ね同じようなレベルにあると言ってよいだろう。

PCMark 10の結果

 日常的な使用感を反映するEssentialsは6,000を超えており、Windows 11の操作については問題ないレベルだ。実際に利用していてもWindows 11や各アプリの起動、応答性に難を感じる場面はなく、軽作業中心なら問題なくこなせる。

 動画エンコードや3Dグラフィックスなど負荷の高い作業を中心とするProductivityやDigital Contents Creation、Gamingは、現行Ryzenシリーズを搭載するミニPCと比べるとかなり低い。GamingのScoreはNucBox G10がS1を大きく凌駕するが、それでも1,600前後であり、PCゲームをプレイするにはかなり厳しい。

 下のグラフでは、ゲーミング性能の指標として分かりやすい3DMarkの各種テストのScoreをまとめている。N100を搭載するS1と比べるとNucBox G10の方が優れており、同じ価格帯でも違いがあることは分かる。ただ先ほども述べた通り、このレベルの性能では焼け石に水であり、N100と同様に重い作業には向いていないことが分かる。

3DMarkの結果

 ただ、じっくり使ってみると「どちらでも同じ」というわけでもないことが分かる。NucBox G10はS1と比べて、負荷が高い状況でも息切れというか、操作を受け付けなくなるような瞬間が少ない。

 たとえばYouTubeで4K(3,840×2,160ドット)解像度の動画を再生すると、S1でも動画の表示自体はスムーズだ。しかしCPU負荷率は100%に達し、その状態でほかのアプリを操作しようとすると、明確なラグを感じる。

S1上で4K解像度の動画を再生中のタスクマネージャー

 しかしNucBox G10だと、CPU負荷率は10~40%程度に抑えられている。内蔵GPUによる動画再生支援処理で問題なく再生できているということだろう。動画を再生中にほかのアプリを操作しても、引っかかりを感じる場面はほぼない。

NucBox G10上で4K解像度の動画を再生中のタスクマネージャー

 もう1つ、M.2スロットの通信帯域も違う。S1を含めたほとんどのN100搭載ミニPCが装備するM.2 SSDの帯域は、PCIe 3.0 x2までとなる。そのためどんなに高速なSSDを組み込んでもシーケンシャルリード/ライトは1.7GB/sでほぼ頭打ちになる。しかしNucBox G10はPCI Express 3.0 x4までの対応なので、3.5~3.7GB/sまで高速化する。ストレージの速度は操作感にも影響しやすいため、見逃せないポイントだ。

NucBox G10の空きM.2スロットにWestern Digitalの「WD_Black SN850」を組み込んでCrystalDiskMarkを実行すると、シーケンシャルリード/ライトはPCI Express 3.0 x4の限界速度に達した

 最後にCPU温度と消費電力を計測したところ、CINEBENCH R23や3DMarkのストレステストなど、負荷の高い状況ではCPU温度が76℃まで上昇したものの、このくらいならまったく問題はない。また消費電力は35~37Wといったところでかなり低く、省エネなミニPCと言ってよいだろう。

N100とは違った強み、激安ミニPCの復権が来るか

 一般的なミニPCと比べても遜色のないインターフェイス構成、意外なほど高い拡張性など、3万円を切る低価格なミニPCの新顔としてはかなり強力なモデルだと感じた。Intel N100搭載モデルと比べた時の強みもあり、この価格帯の新しい定番として定着する可能性はある。

 Windows 11への更新を急がなければならないユーザーはもちろん、子どもが使う最初のPCやTVの横に置いてメディアプレーヤー的に利用するパソコンをなるべく安く導入したいというユーザーにはぴったりだ。

 もちろん古いCPUなので、他社から同じように製品が投入されるとは限らないのは難点ではある。とはいえ現状でNucBox G10が入手困難という話も聞かないので、古いCPUながら供給は順調であることが予想される。

 ちなみに最近は、Ryzen 5 7430UやRyzen 5000シリーズを搭載するミニPCが実売価格3~4万円で購入できるようになってきており、低価格ミニPC市場に再び火がともっているように感じる。高性能なミニPCも魅力的は感じるが、個人的にはこうした値頃感のあるミニPCの市場が再び盛り上がることにも期待したい。