シャープ「Mebius PC-NJ70A」
~ポインティングデバイスとして光センサー液晶を搭載したミニノート



Mebius PC-NJ70A

5月下旬 発売

価格:オープンプライス



 シャープが4月21日に発表した「Mebius PC-NJ70A」は、光センサー液晶を搭載したミニノートだ。光センサー液晶は、液晶と光センサーを一体化したデバイスであり、液晶表示をしながら、タッチ操作やペン入力が可能になる。光センサー液晶は、シャープの独自技術であり、商品化はこの製品が世界初となる。

 シャープのMebiusシリーズは、厚さ16.6mmを実現したMebius MURAMASAなど、モバイルノートの名機が多いシリーズだが、最近はあまりこれといった新製品が発表されていなかった。そうした中で、満を持して投入されたMebius PC-NJ70A(以下PC-NJ70A)は、世界初の光センサー液晶パッドの搭載によって、手書きやマルチタッチ操作などが可能になり、よりユーザーに優しいインターフェイスを実現したことが魅力だ。

 そこで今回は、PC-NJ70Aを試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、今回使用したのは評価機であり、製品版とは細部が異なる可能性がある。また、ベンチマークテストも省略した。

●銀色のモールが印象的なボディ、着せ替えにも対応

 PC-NJ70Aのボディは、角がやや丸みを帯びた比較的オーソドックスなデザインだが、液晶部分やパームレスト部分が銀色のモールで縁取られており、デザイン上のアクセントとなっている。また、パームレスト部分の表面は透明な素材で覆われており、質感も美しい。ボディカラーはホワイトとブラックの2色が用意されており、好みに応じて選べる。今回の試用機のボディカラーはホワイトであった。

 サイズは260×190×23.3~39.8mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約1.46kgである。やや厚みが大きいが、10.1型ワイド液晶搭載ノートとしては一般的なサイズと重量といえる。また、若い女性や主婦層も主要ターゲットとしており、別売りでアドオンジャケットが用意されていることもユニークだ。アドオンジャケットは、いわゆる着せ替えカバーで、透明ジャケットと5種類のデザインシート、型紙が1枚付属する。デザインシートを透明ジャケットと天板で挟み込むことで、天板のデザインを変更できる。

Mebius PC-NJ70A(ホワイト)の上面。光沢があって美しい「DOS/V POWER REPORT」誌とのサイズ比較。フットプリントはDOS/V POWER REPORTよりも一回り小さい
別売りのアドオンジャケットのデザインシート。製品版では5種類が用意されるこちらは透明ジャケット。デザインシートを透明ジャケットと天板で挟み込むことで、天板のデザインを変更できる透明ジャケットとデザインシートを装着したところ

 PC-NJ70Aは、10.1型ワイド液晶とAtom N270(1.60GHz)を搭載しており、ハードウェア的にはいわゆるネットブックと似ているが、OSとしてWindows Vista Home Basicを搭載しており、狭い意味でのネットブックには入らない。チップセットはIntel 945GSE Expressであり、メモリは標準で1GB搭載しているが、SO-DIMMスロットを2機搭載しており、最大2GBまで増設が可能だ。一般的なネットブックの場合、SO-DIMMスロットは1基のみで、2GBへの増設はサポート外となるものが多い。PC-NJ70Aは、正式に2GBメモリをサポートしており、SO-DIMMスロットが1基空いているので、標準実装されている1GBメモリが無駄にならないことも嬉しい。OSとしてWindows XPを搭載したネットブックの場合、メモリは1GBでも十分だが、Windows Vista Home Basicを搭載したPC-NJ70Aは、2GBに増設したほうがより快適に動作する。HDD容量は160GBで、HDD搭載ネットブックの大半と同じだが、HD動画などの特にファイルサイズの大きなデータを扱うのでなければ、十分な容量であろう。底面のカバーを外すことで、HDDとSO-DIMMスロットにアクセスが可能であり、HDDの交換も簡単だ(もちろん、HDDの換装はメーカーの保証外の行為となるが)。

PC-NJ70Aの底面。ネジを5本外せば、カバーを外すことができる底面のカバーを外したところ。左にHDD、右にメモリが実装されている。HDDの下にあるのは無線LANのモジュールだSO-DIMMスロットは2基用意されている。標準で1GB SO-DIMMが1枚装着されている

●光センサー液晶パッドで多彩な操作が可能

 PC-NJ70Aの最大のウリが、ポインティングデバイスとして光センサー液晶パッドを採用したことだ。光センサー液晶は、その名の通り、光センサーを液晶に内蔵した新たなデバイスである。従来のタッチセンサー付き液晶では、液晶表面に抵抗膜などのタッチセンサーを貼り付ける必要があり、表示コントラストが低下してしまったり、外光が映り込み安くなるという問題があった。しかし、光センサー液晶ならそうした問題はなく、通常の液晶と全く同じ品位での表示が可能だ。さらに、光センサー液晶は光を検知しているため、指でもペンでも操作でき、簡易スキャナとして上に載せた物体の形状を認識することもできる。もちろん、マルチタッチにも対応する(抵抗膜方式ではマルチタッチや簡易スキャンは不可。静電容量方式ではペン入力と簡易スキャンが不可)。光センサー液晶は、タッチセンサー付き液晶を実現するための理想的なデバイスといえるだろう。

 PC-NJ70Aの光センサー液晶パッドは4型ワイドであり、ノートPCのタッチパッドとしてはサイズも大きく、操作しやすい。表示解像度は854×480ドットで、65,536色表示が可能だ。光センサー液晶パッドの利用方法は、マウスモードとタッチモードに大別できる。前者はポインティングデバイスとして通常のタッチパッドと同様に使うモードであり、後者はタッチパネルとしてメニュー選択や手書き入力、手描きイラストなどに使うモードだ。光センサー液晶パッドの手前には、3つのボタンが用意されているが、その中央のボタンを押すことで、モード切り替えが可能だ。

 マウスモード時にも光センサー液晶パッドには背景が表示されており(マウスモード時に液晶パッドの表示を消すように設定することも可能)、指でポインティング操作を行なうと、液晶パッド上に表示されているカーソル(デフォルトでは光)が指の後を付いてくる。光センサー液晶パッドとパームレスト部分は透明プラスチックで覆われており、完全にフラットになっている。そのため、パッドの表面は非常につるつるしている。一般的なタッチパッドは表面が多少ザラザラしているので、当初やや違和感があったが、タッチパッドの反応や追従については通常のタッチパッドと比べても遜色はなく、パッドが広いこともあり、慣れれば快適に操作できた。マウスモードでは、マルチタッチでのジェスチャー機能にも対応しており、2本指でスライドさせることでスクロール操作、2本の指を開いたり閉じたりすることで拡大・縮小操作、片方の指を支点にしてもう一方の指で円弧を描くと回転操作が可能だ。

 なお、光センサー液晶パッドは、指やペンの位置を影によって認識するため、外光(特に赤外線)が多い環境や明るさが大きく変化する場所では、操作しにくくなることがある。そのため、光センサー液晶パッドを利用するのに適した環境であるか知らせてくれる、赤外線量表示ユーティリティが付属している。実際に試したところ、ノートPCの利用に適した環境(蛍光灯などの照明下の室内など)なら、ほぼ問題なく利用できたが、直射日光下ではカーソルの動きがぎくしゃくすることがあった。

 マルチタッチ操作が可能なタッチパッドは増えてきたが、光センサー液晶パッドならではの機能がタッチモードだ。タッチモードでは、表示部とセンサー部が一体化したタッチセンサー付き液晶の機能を活かした、さまざまなアプリを利用できる。

 タッチモードのホーム画面には、「お気に入り」「電子辞書」「電子ブック」「フォト」「エンターテイメント」の5つのカテゴリと、「手書き文字」「手描きイラスト」「電卓」の3つのボタンが用意されている。手書き文字や手描きイラストは、本体の左側面に収納されているペンを使って操作する。各アプリケーションの動作については、動画を撮ってみたのでそちらを見ていただきたいが、ミニボーリングのように光センサー液晶パッドと液晶ディスプレイの両方をうまく活用したアプリはなかなか面白い。ニンテンドーDSにも似た感覚だ。手描きイラストも、線の軌跡が直接表示されて描きやすいし、読めない漢字も手書き入力で、読み方や意味を調べることができる。さらに、中国語や韓国語の手書き入力にも対応する。また、光センサー液晶パッドに表示される項目は専用ユーティリティの「SHARP液晶パッド設定」によって自由にカスタマイズできる。

PC-NJ70Aの光センサー液晶パッドは4型ワイドでサイズは90×50mmと、このクラスのノートPCのタッチパッドに比べるとかなり大きい。ボタンは3つ用意されており、中央のボタンでモードを切り替えられる手書き文字入力などに使うペン(スタイラス)は、本体左側面に収納されているペンを引き出したところ。ペンは2段伸縮式になっている
PC-NJ70Aの起動中には、光センサー液晶パッドにMebiusロゴが表示されるマウスモードの光センサー液晶パッドの様子。表示される背景やカーソル(キャラクタ)は、専用ユーティリティで変更できる
タッチモードのホーム画面。アイコンをタッチすることで、光センサー液晶パッドをタッチパネルとして利用するさまざまな機能を呼び出せるタッチモードのアプリケーションの1つ「電卓」
マウスモードで操作を行なっている様子。指を動かすと、キャラクタの光もそれにあわせて動く。キャラクタの追従はやや遅れているが、マウスカーソル自体は遅れずに移動するタッチモードの電卓を使っている様子。計算後、「貼付」ボタンをペンでタッチすると、その答えがアプリケーションに貼り付けられるタッチモードで、「手描きイラスト」機能を使って絵を描いている様子。手描きイラストでは、フレームやスタンプなどを利用できる。もちろん、描いた絵のアプリケーションへの貼り付けが可能
タッチモードの「手描き文字」機能を使って、手書き文字認識を行っている様子。「貼付」ボタンをペンでタッチすることで、確定した文字がアプリケーションに貼り付けられるタッチモードの「フォト」機能を使って、写真を閲覧している様子。2本の指を1cm程度離して横に並べて左右にスライドすることで、写真を選択できる「フォト」機能では、写真に手描きイラストを入れたり、文字を入れることも可能
タッチモードの「電子辞書」機能を利用している様子。電子辞書を選ぶ際にも、2本指でのスライド操作を行なう(最初にわざと1本指でスライドさせているが、1本指のスライドでは辞書は選択されない)。広辞苑やスーパーアンカー英和/和英など、全部で7種類の辞書が搭載されており、実用性は高いタッチモードの「ブックマーク」機能。ブラウザのブックマークを光センサー液晶パッドを利用して選択できるタッチモードの「電子ブック」機能。光センサー液晶パッドに表示されている本の上を指でスライドさせることで、ページめくりが可能
タッチモードの「エンターテイメント」アプリの1つ「ピアノ」。演奏した曲の録音/再生も可能「エンターテイメント」アプリの1つ「マッチdeパズル」。いわゆるマッチ棒パズルだが、直感的な操作で楽しめる「エンターテイメント」アプリの1つ「ミニボウリング」。光センサー液晶パッドの上で指をはじくことで、ボールを投げることができる。液晶パッドにはボーリングのレーンやスパッドが表示されている
「SHARP液晶パッド設定」では、液晶パッドに関するさまざまな設定が可能「背景」タブでは液晶パッドの背景を変更できる「辞書メニュー」タブでは、表示する辞書を設定できる
液晶パッドの背景を「カジュアル」に変えてみたところ任意の画像を背景にすることも可能だ

●Vista Home Basicも十分動く基本性能

 PC-NJ70Aの最大の特徴は、光センサー液晶パッドであり、PCとしての基本機能はAtom搭載ネットブックに準ずると考えてよい。液晶は10.1型ワイドで、解像度は1,024×600ドットである。最近は、アスペクト比が16:9の液晶を搭載したネットブックも増えているが、アスペクト比16:9では1,024×576ドットとなり、ただでさえ狭い縦方向の解像度が24ドット減ってしまうので、1,024×600ドット液晶のほうが使い勝手がよい。液晶上部には130万画素Webカメラを搭載。キーボードの出来もよく、配列も標準的であり、快適にタイピングが可能だ。インターフェイスも標準的で、USB 2.0×3、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)、Ethernetといったところだ。メモリカードスロットとしては、SDHC/メモリースティック/xD-Picture Card対応スロットを搭載。ワイヤレス機能は、IEEE 802.11b/g対応無線LANとBluetooth 2.1+EDRをサポートする。

 今回は試作機なので、ベンチマークテストは行なっていないが、Vista Home Basicも多少重さが感じられるものの、実用的なレスポンスであった。メモリを2GBに増設すれば、より快適に利用できるようになるだろう。バッテリは4セルで、公称駆動時間は約3時間であり、バッテリ駆動時間を重視するユーザーには物足りないだろうが、主に室内で使うというのなら十分であろう。

液晶は10.1型ワイドで、いわゆる光沢タイプだ。解像度は1,024×600ドットである液晶上部に130万画素Webカメラを搭載。マイクも内蔵しており、Windows Liveメッセンジャーなどのビデオチャット機能で利用できるキーボードは86キーで、キーピッチは約17.5mm。配列も標準的で、キータッチも良好だが、「む」や「ろ」などの右側の一部のキーピッチはやや狭くなっている
左側面には、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)、USB 2.0×2が用意されている右側面には、LAN、USB 2.0、マイク入力、ヘッドホン出力、SDHC/メモリースティック/xD-ピクチャーカード対応スロットが用意されている
PC-NJ70Aのバッテリ。もちろん、本体のカラーにあわせて2色用意されているバッテリは、7.4V/4,800mAhの4セル仕様で、公称約3時間の連続動作が可能CDケース(左)とバッテリのサイズ比較
ACアダプタもコンパクトで軽く、携帯しやすいCDケース(左)とACアダプタのサイズ比較

●光センサー液晶パッドの魅力は大きい

 PC-NJ70Aは、光センサー液晶パッドの搭載により、ノートPCのユーザーインタフェースを一歩進化させた製品だといえるだろう。光センサー液晶パッドの可能性は大きく、今後対応アプリケーションがいろいろ出てくれば、さらに面白くなるだろう。たとえば、光センサー液晶パッドは簡易スキャナーとして物体の形や輪郭を読み取ることも可能だ。シャープは、PC-NJ70A用アプリケーションを同社のサイトでダウンロード提供する予定である。Atom搭載なので動画編集などの重い処理を行なうには力不足だが、パワーユーザーの2台目や3台目のPCとして、あるいは家族で共有しているPCはあるが、メールチェックやネットサーフィン、レポート作成などのために自分だけのPCが欲しい学生や主婦にもお勧めしたい製品だ。

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(2009年 5月 7日)

[Text by 石井 英男]