2014年11月27日

2014年11月26日

2014年11月25日


大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

1万人のモニター応募が殺到した新Mebiusの実力
〜女性を主要ターゲットにコンシューマの強みを打ち出す



 シャープが、約1年ぶりにノートPC「Mebius(メビウス)」の新製品を発表した。新製品は、インテルのAtom N270を搭載した、いわばネットブックアーキテクチャの製品。これまでのMebiusの製品コンセプトとは、一見異なるようにも見える。

シャープ パーソナルソリューション事業推進本部マーケティングセンターマーケティング部参事・笛田進吾氏

 だが、「新Mebiusは、ネットブックとして投入することを前提として開発したものではない。新たな技術を採用することで、新たな市場にアプローチする。その考え方の上で、ネットブックのプラットフォームを利用したにすぎない。新たな技術で、新たな用途を提案するという点では、これまでのMebiusと方向性は変わらない」と、シャープ パーソナルソリューション事業推進本部マーケティングセンターマーケティング部参事・笛田進吾氏は語る。

 新たなMebiusはどんな進化を見せているのだろうか。インタビューの冒頭、笛田氏は、「携帯電話にできて、PCにできないことがある。そこを狙ったのが今回のMebiusだ」と切り出した。

 例えば、若い女性は、携帯電話のメールを最大のコミュニケーション手段として利用しているのは周知の通り。PCを利用したメールは補助的手段となっている。一方で、カメラ機能をはじめとする、携帯電話の付加機能を活用して、さまざまな使い方をしている女性も少なくない。

 そのなかで、シャープが目をつけたものの1つが“プリクラ”と通称される「写真シール」だ。ゲームセンターに設置されている写真シール機は、ますます高度化が進んでいる。写真を撮影して、自由に書き込みをして、それを赤外線を使って、携帯電話に飛ばして、待ち受け画面に利用するといった使い方が女性の間で広がっている。

 「これと同じことをPCでやろうとすると、デジタイザーを購入しなくてはならず、初心者が行動に移すにはハードルが高い。デジカメや携帯電話で撮影した画像に、文字を書き込んだり、デザインを施したりといったことが手軽にできないかと考えた」(同氏)。

 最近増加している「デジ一おやじ」と呼ばれるデジタル一眼レフカメラを持ったシニア層も、自分で撮影してきた映像に「2009年春 奈良にて」という文字を加えることが簡単にできるといった用途も想定したという。

 「女性、シニアといった、どちらかというとPCに遠い人たちが、PCに触れてもらうきっかけを狙った」というのが、今回のMebius新製品の開発コンセプトだ。

 その考え方の上で活用したのが、ネットブックアーキテクチャということになる。「コストを下げて、広く利用してもらうためには、ネットブックのアーキテクチャを利用するのが最適と判断した。ネットブックありきで考えたのではなく、コストや、ユーザーの広がりを考えた結果、ネットブックになった」といい、コストの観点から、Core 2 Duoを搭載した製品づくりは想定しなかったという。

 新たな用途を実現する新Mebiusが、そのための新技術として採用したのが、「光センサー内蔵システム液晶」だ。

 液晶の画素内に光センサーを内蔵することで、液晶を単なる表示デバイスから、入力デバイスへと進化させることができるこのデバイスは、液晶にタッチパネルを貼る必要がなく、薄型化とともに、表示品質の向上が可能。指によるマルチタッチとペン入力も両立できる。

 さらに、今回は見送られているが、光で読み取る方式であることから、液晶上に置いたものを識別できるスキャナ機能も実現できる。将来的には名刺の読み取りや指紋認証などの用途にも利用できるだろう。

 2007年8月に、同技術に関する会見が行なわれたが、その際には、主に携帯電話やスマートフォンでの利用を想定したプレゼンテーションとなっていた。だが、同技術を搭載した第1号製品が、今回のMebius。これは、同社の中でも想定外の結果だったに違いない。

2007年8月に発表された光センサ内蔵システム液晶。その時の会見での展示の様子 当時からウルトラモバイルPCへの採用も示されていたが、図表ではごらんのように端に表記 この時には、スキャナー機能が搭載されることも明らかにされている

 新Mebiusでは、この光センサー液晶を利用して、タッチ感覚でメニューを選択したり、写真に文字を書き込んだりといったことができるようにした。光センサー液晶部の電卓で計算した結果を、メイン画面のWindowsアプリケーションに取り込んだり、読みがわからない文字を電子辞書のように手書き入力で調べるといった使い方もできる。また、ボウリングやピアノ演奏といった標準搭載されるゲームも、光センサー液晶を利用することで、これまでのネットブックにはない楽しさを提供することに成功した。

 同社では、サードパーティーにSDKを提供し、今後、光センサー液晶を利用したアプリケーションを増やしていく考えだ。SDKでは、4点マルチタッチまでのアプリケーションを開発することが可能で、開発したソフトは有料で頒布するなどの取り組みも行なわれることになる。

新Mebius(メビウス)「PC-NJ70A」 光センサー液晶にメニューを表示。指やペンで操作する 光センサー液晶を使用し、写真シールのように、写真に文字やイラストを手軽に描ける
描いたイラストなどはメイン画面のアプリケーションに直接取り込める 奥行きを利用したボウリングゲーム。光センサー液晶部を指で操作してボールを投げる ピアノ演奏ソフト。このソフトでは4点タッチまで可能としている

 シャープが、新Mebiusを開発した背景には、新たな組織体制も少なからず影響している。同社が、2009年3月からスタートしたパーソナルソリューション事業推進本部は、これまでPC事業を担当していた情報情報システム事業本部、ウィルコム向けなどの携帯電話(スマートフォン)を担当してきた移動体通信事業推進本部が統合して生まれた組織だ。

 PC、スマートフォン、電卓、電子辞書、海外向け携帯電話が、1つの組織のなかで開発される体制となったことで、それぞれの製品の融合や技術連携が促進される地盤ができあがったともいえる。

 事実、新Mebiusのネットブックアーキテクチャとしてのベース部分は、台湾のODMで生産されるが、光センサー液晶が埋め込まれるパームレスト部分は、別途生産され、奈良で最終組立が行なわれる。奈良でPCが生産されるのは久しぶりのことだ。

 光センサー液晶部の処理には、別の回路が用意され、携帯電話などで培った基板の小型化技術を活用。携帯電話の利用シーンを想定した製品づくりのほか、電子辞書機能には、同社の電子辞書「BRAIN」で採用しているエンジンを活用している。これも新組織ならではの融合と技術連携というわけだ。

 新Mebiusの最大のターゲットは、女性である。プログやメールなどを楽しんでいる18〜20歳代の女性、ソファやベッドでもネットを利用したい30〜40歳の主婦がターゲットの主軸。それに加えて、家のPCネット環境を持ち出して、自分用のPCとして使いたい20〜40歳代の男性、PCで新しいことをはじめたいシニア、調べ物や学習に使いたい10歳代の学生もターゲットとする。

 「ミニノート全体では20%強が、女性による購入といわれる。新Mebiusでは、まずは、女性の購入が全体の3〜4割を占めたら成功」と笛田参事は語る。

 女性向けという点では、ホワイトのホディカラーを用意したのに加え、携帯電話さながらのアドオンジャケットを別売り(市場想定価格3,000円前後)で用意。デザインシートを装着することで、着せ替えが可能になる。また好きな写真やイラスト、布地などを挟めば、よりオリジナルなデザインで飾ることもができる。これも携帯電話事業のノウハウを活用した新たな取り組みだ。女性誌との連動で、ジャケットのオリジナルデザインを提供するといった、これまでのシャープのPC事業にはなかった訴求も開始することになる。

アドオンジャケットを別売りで用意した アドオンジャケットの使用例。まったくイメージが変わる

 さらに、店頭でのPOPや、カタログもピンクを基調にして、女性向けの訴求を前面に打ち出す。5月中旬の出荷にあわせて、全国1,000店舗で、ピンク色の店頭展示が開始されることになる。Mebiusのロゴは赤だが、ピンクの店頭展示はそれ以上に目立つことになりそうだ。

 シャープは、4月14日から同社PC事業としては異例のティザー広告をウェブ上で開始。それに伴い、100人のモニター募集を開始した。1万人に到達した段階で締め切るとしたモニター募集は、1カ月間の応募期間を設定していたが、14日午後3時からスタート後、27時間後の15日夕方には1万人に到達し、募集を締め切るという人気ぶりとなった。

 「予想以上の反響に驚いている。多くのユーザーに、ぜひ新たなMebiusの機能を体験していただきたい。モニター用に100台を用意したことで、当社の意気込みを感じてもらいたい」と、笛田参事は語る。

 市場想定価格は8万円前後なので、100台では800万円。新聞への広告費用を考えれば、それほど大きな投資ではないともいえる。これも、低価格なネットブックだからこそできるプロモーションだといえよう。

 いずれにしろ、ティザー広告や、100台規模のモニター制度を実施したことがないシャープが、こうした動きに乗り出したことからも、やはり、これまでにない本気ぶりを、この新Mebiusに感じざるを得ない。さらに、同社では、「シャープなくらし研究所」の名称で、モニター利用者の利用シーンなどを紹介するサイトを用意。新Mebiusならではの利用方法を提示していく考えだ。

 新Mebiusは、シャープブランドが得意とするコンシューマ市場に向けて、さらに一歩踏み出したものだ。一時期のMebiusでは、企業向けを意識した製品もあったが、そうしたターゲットは、今回の製品では視野に入れていない。また今後も、上下方向にMebiusシリーズの製品ラインアップが拡大していく考えられるが、そこでもコンシューマという視点を強く打ち出す考えだ。

 「既存のモバイルPCよりも気軽に、手軽に使ってもらえるPC、そして、携帯電話にあって、PCで実現できなかったものを実現できるPCとして訴求したい」とする。「1年間の自分探しの旅の結果」と笛田参事は笑うが、シャープのノートPC事業が、新たなスタートラインに立ったのは間違いない。

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(2009421日)

[Text by 大河原 克行]

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