元麻布春男の週刊PCホットライン

光センサー液晶に見る新型Mebiusの魅力



Mebius NJ

 シャープは21日、約1年ぶりとなるMebiusシリーズの新製品、NJシリーズを発表した。NJシリーズが搭載するプロセッサはIntelのAtom N270、チップセットはIntel 945GSE Expressで、液晶は1,024×600ドットの10.1型というと、あぁまた今頃になって国内ベンダがネットブックに参入したのねと受け取られるかもしれない。確かに、このスペックだけを見ているとその通りだが、このMebius NJシリーズは、ネットブックとは一味違うノートPCに仕上がっている。

●スキャナ機能を持ち合わせた液晶トラックパッド

 その秘密はトラックパッドにある。本機のトラックパッドは4型と、このクラスのノートPCやネットブックに比べて大きいが、電源を入れるとその違いがハッキリと分かる。トラックパッドだと思っていたのは、実は液晶ディスプレイで、起動時にここにMebiusのロゴが表示される。起動後はカレンダーや壁紙が表示されるが、その上を指でなぞることでトラックパッドとしての機能を果たす。本体左側面に収納されたペンを使って、ペン入力を行なうことも可能だ。感覚的にはちょうど任天堂DSに似ているが、あれよりもっと液晶表示が精細でクリアだと思えばいい。

 このトラックパッドに使われているのは、シャープが独自開発した光センサー液晶だ。この光センサー液晶というデバイスは、2007年8月31日に発表された。発表時点では3.5型のVGA解像度だったが、このMebius NJシリーズでは大型化と、高解像度化(854×480ドット)も図られている。もちろん、エンドユーザー向け製品として採用されたのは、このMebius NJシリーズが初だ。

トラックパッドにカレンダーを表示させたところ

 特徴は、液晶パネルの各画素にフォトダイオードを使った光センサーを内蔵、入射した光の強さに応じて入力を信号として取り出すことができること。一般的なタッチパッドは、表示部である液晶の上に、入力デバイスであるタッチパネルを貼り付ける。したがって、パネルとしての厚みが増すほか、液晶の表示品質が損なわれるという問題があった。光センサー液晶では液晶パネルの内部に光センサーが組み込まれているため、パネルを薄くできるほか、表示のクリアさを維持できる。また光センサーであるため、ペン、指先、手袋をした手など、タッチする素材に制限がない。原理的に複数の入力(マルチタッチ)に対応することも可能だ。

 Mebius NJシリーズは、この光センサー液晶をタッチパッド代わりに採用することで、さまざまな機能を実現している。起動後のデフォルトはタッチパッドモードで、指でなぞったり、ペンで操作することで、Windowsの画面上でカーソルが動く。ただし、なぞるとパッド上で指やペンを追いかけるようにキャラクターがアニメーションするといったアクセントが添えられる。

 パッド真下のボタン(中央ボタン)を押すと、動作が手書き入力モードに切り替わる。このモードでは指やペンの動きはメインスクリーンのマウスカーソルとしてではなく、パッド内で動くアプリケーション(ガジェット)への入力となる。

 標準で添付されているガジェットの1つは辞書ソフト。もちろん手書き入力をサポートしたもので、読みが分からなくても手書き入力で漢字の検索等ができる。このあたり、同社が販売していたPDAであるZaurusや電子辞書のノウハウを感じる。タッチ入力の電卓は、指で直感的に入力できる上、答えをアプリケーションに渡すことが可能だ。

デバイスマネージャの内容。スペックは普通のネットブック

 ちょっと変わったアプリケーションとしては、ゲームのミニボーリングがある。メイン画面にピン、光センサー液晶にスパッドを表示して、スパッド上でボールを指で弾くように操作する。ボールがスパッドのどこを、どの角度と速度で通過したかで、メイン画面のピンが倒れる仕組みだ。ほかにも、手書き入力をサポートした付箋紙アプリケーションや、鍵盤(ピアノ)ソフト、ちょっとしたイラスト作成ソフトなどが付属する。イラスト作成ソフトは本格的なイラストを作成するというより、写真に手書き文字や簡単なイラストを加える、“プリクラ感覚”が狙いらしい。

 実は光センサー液晶が搭載する光センサーは、指やペン先だけでなく、一般のスキャナのように物体の表面をスキャンすることができる。2007年8月の発表会では、名刺をスキャンするデモも実施された。残念ながらMebius NJシリーズには、名刺スキャナのアプリケーションは添付されないが、何かスキャナ機能を利用したアプリケーションをWebサイトからダウンロード可能にする予定とのこと。できれば名刺スキャナのような実用本位のものより、上のプリクラにも見られるような、遊び心を感じるアプリケーションにしたいということだ。

 こうした添付アプリケーションでも分かるように、本機がターゲットとしているのは18歳~20歳代の女性、30歳~40歳代の主婦、さらにはこれまでPCとはあまり縁がなかったシニアといった層。それを裏付けるように、本機には透明な樹脂製カバーのオプションが提供される。これは本機の天板をすっぽりと覆うもので、カバーと天板の間に紙等を挟み込むことで、好きなイラストや写真で本機の外観をカスタマイズしようというものだ。関西の主婦に人気のヒョウ柄PCが簡単に作れますというわけだ(痛PCを作成する際のシミュレーションなどにも簡単に応用できそうだが)。

●SDKも配布予定

 もちろん、だからといって従来からのPC利用者の中心である、20歳~40歳代男性のセカンドマシンとしての用途を忘れているわけではない。より深い使いこなしを目指すユーザー向けに、この光センサー液晶を用いたガジェットを作成するためのSDKがMebiusのWebサイトからダウンロード可能になる予定だ。シャープからも追加のアプリケーションがダウンロード可能になるというから、Mebius NJシリーズのユーザーコミュニティのような活動も期待できるのかもしれない。

 メインディスプレイとサブディスプレイの2つを持つデバイスというと、すぐに思い浮かぶのは任天堂DSだが、DS用に発売されているソフトが、Mebius NJシリーズのアプリケーションを開発するヒントになる可能性は高い。同じくタッチ機能をサポートしたiPhoneをはじめとする携帯電話も、アイデアの供給源になりそうだ。トラックパッドを使って、携帯電話で使われるマルチタップ入力(「う」を入力するのに「1/あ」のキーを3回叩く)が使えると便利だと思うユーザーもきっといるハズ。NJシリーズのユーザーコミュニティには、こうしたアイデアの提供先になって欲しいという願いもあるのだろう。

 というわけでシャープの1年ぶりの新作となるMebius NJシリーズだが、PCとしての基本は冒頭でも述べたようにネットブックと同じAtom N270シリーズをベースにしている。このプラットフォームの選択についてシャープから「安くて速い」とストレートなコメントをもらったが、もう1つ「早い」ということもあったのではないかと思う。チップセットの945GSEも含め、プラットフォームが枯れており、開発リソースを光センサー液晶とソフトウェアに集中できる。結果として製品化が早くなるというわけだ。

 この光センサー液晶の搭載もあって、本機の重量は1.46kgと、ネットブック互換のプラットフォームにしては若干重い。モバイル用途のビジネスマンではなく、家庭内モバイルを考える女性をターゲットにしていることから、コストのかかる軽量化は行なっていないということなのだろう。シャープには、モバイル機のブランドとして薄型・軽量ノートPC向けのMURAMASAがあるが、あえてそれを使わずMebiusになっているところに本機の性格が表れている。

OSはWindows Vista Home Basic

 945GSEを用いたネットブックではOSにWindows XP Homeを用いることが主流だが、あえて本機ではWindows Vista Home Basicを選んでいる。その理由としてシャープは、新しいOSを搭載することで、新しさを訴求したかったから、という趣旨の発言をしている。おそらくそれは、本機のメインターゲットであるユーザー層を意識してのことだろうが、もう1つ次のWindows 7への移行も考えてのことではないかと思われる。

 Microsoftが述べているように、Windows VistaとWindows 7は高い互換性を持つ。Windows Vistaでスタートしておけば、その上で開発されたガジェット等の大半はWindows 7でも動作するハズだ(Microsoftはアプリケーションの互換性目標を97%としている)。Windows 7では標準でマルチタッチがサポートされ、本機が採用する光センサー液晶の活用にも弾みがつく可能性が高い。

 光センサー液晶は、本機で初めて製品化されるデバイスだが、シャープは本デバイスを外販したいと考えている。Windows 7用にさまざまなライブラリを揃えることは、光センサー液晶の販売促進にもつながるハズだ。そういう意味ではMebius NJシリーズは、シャープにとって久しぶりのPC新製品という以上の、戦略的な意味合いを秘めたものかもしれない。