Hothotレビュー

前面OLEDを搭載したミニPC「XULU XR1」を試してみた

 XULUが開発するミニPC「XR1」が編集部に届いた。手のひらに乗るサイズの小型筐体にRyzen 5000シリーズを搭載し、筐体前面に各種ステータスを表示するOLEDディスプレイを搭載しているのが特徴だ。

 ミニPCは昨今、さまざまなメーカーから発売されており、それ自体が目新しいものではない。その中で本機は前面にOLEDを搭載しつつ、付属のリーフレットでは“The smallest Ryzen-based PC in the world(世界最小のRyzen搭載PC)”を謳っている。真実かどうかはともかく、コンパクトさに自信を持っている製品であるのは確かだろう。

 「XR1」は搭載するCPUにより大きく3つのモデルに分けられており、Ryzen 7搭載機が「XR1 MAX」、Ryzen 5搭載機が「XR1 Pro」、Ryzen 3搭載機が「XR1 Lite」と名付けられている。今回は中位モデルとなる「XR1 Pro」を試用した。

 なお本機はKickstarterでのクラウドファンディングを実施予定。本稿はその開始前に試作機をお借りした形だ。製品が得られる最低出資額は、Ryzen 7搭載の「XR1 MAX」が3,127香港ドル(約5万8,000円)、Ryzen 5の「XR1 Pro」が約2,814香港ドル(約5万2,000円)、Ryzen 3の「XR1 Lite」が2,343香港ドル(約4万3,000円)から。

3辺全て10cm足らずの小型筐体ながら充実した拡張性

 試用した「XR1 Pro」のスペックは下記の通り。はっきりしたスペックシートが公開されていないため、付属のリーフレットに書かれた情報をベースに、実機のスペックを可能な限り確認している。

【表1】XR1 Pro
CPURyzen 5 5600U(6コア/12スレッド、最大4.2GHz)
GPURadeon RX Vega 7(CPU内蔵)
メモリ16GB DDR4-3200(8GB×2)
SSD1TB(PCIe)
光学ドライブなし
電源65W ACアダプタ
OSWindows 11(ライセンス別売)
汎用ポートUSB Type-C×1、USB 3.1×4、USB 2.0×2
カードスロットなし
映像出力HDMI 2.1×2、USB Type-C(DP Altモード)×1
有線LAN2.5Gigabit Ethernet
無線機能Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.2
その他デュアルマイク、ヘッドセット端子
本体サイズ63.5×96.52×88.9mm
重量521g

 CPUはZen 3マイクロアーキテクチャで6コア12スレッドのRyzen 5 5600U。既にZen 4が登場している今となっては世代遅れで、特に内蔵GPUには大きな差がある。本機はゲームも遊べることをアピールしているので、後でその辺りも検証していきたい。メインメモリは16GB、SSDは1TBと、一般的なPCとしては十分な構成だ。

 端子類は充実しており、USBはType-Cを含めて計7基搭載。映像出力は2基のHDMIとUSB Type-Cで計3基。いずれも4K出力が可能としている。ネットワーク周りはWi-Fi 6Eに対応。有線LANは資料にはGigabit Ethernetと記述があるのだが、試用機にはイーサネット・コントローラとしてI225-Vが搭載されており、実際に2.5Gbpsでリンクした。

 本体サイズは3辺とも10cmを切る小ささで、重量も521gと軽い。ただし電源ユニットまでは内蔵されておらず、ACアダプタが付属する。

 OSはWindows 11がプリインストールされているが、ライセンスは別売とされている。試用機はWindows 11 Proでライセンス認証済みだった。

ボックス形状の筐体は見た目にもコンパクト。しかし安っぽさは感じられない

3Dゲームは低画質設定でギリギリ

 次に実機のパフォーマンスをチェックする。ベンチマークテストに利用したのは、「PCMark 10 v2.1.2600」、「3DMark v2.26.8113」、「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」、「PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator」、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」、「Cinebench R23」、「CrystalDiskMark 8.0.4」。

【表2】ベンチマークスコア
PCMark 10 v2.1.2600
PCMark 105,477
Essentials10,226
Apps Start-up score14,134
Video Conferencing Score8,413
Web Browsing Score8,994
Productivity8,089
Spreadsheets Score12,109
Writing Score5,404
Digital Content Creation5,390
Photo Editing Score8,145
Rendering and Visualization Score4,750
Video Editing Score4,048
3DMark v2.26.8113 - Time Spy
Score1,333
Graphics score1,177
CPU score5,448
3DMark v2.26.8113 - Fire Strike
Score3,285
Graphics score3,772
Physics score15,234
Combined score1,045
3DMark v2.26.8113 - Wild Life
Score6,382
3DMark v2.26.8113 - Night Raid
Score12,235
Graphics score13,456
CPU score8,083
3DMark v2.26.8113 - CPU Profile
Max threads3,899
16-threads3,162
8-threads2,981
4-threads2,300
2-threads1,404
1-thread825
STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール(1,920×1,080ドット)
クオリティ HIGHEST20
クオリティ LOW60
クオリティ LOWEST(1,280×720ドット)100
PHANTASY STAR ONLINE 2 NEW GENESIS Character Creator(1,920×1,080ドット)
簡易設定6379
簡易設定13,909
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク(1,920×1,080ドット)
最高品質2,686
標準品質(ノートPC)5,033
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」(1,920×1,080ドット)
高品質1,223
軽量品質2,107
Cinebench R23(10 minutes)
CPU(Multi Core)6,249pts
CPU(Single Core)1,242pts

 CPUは「3DMark」の「CPU Profile」のデータを見ると、シングルスレッドはまずまずのスコアで、クロックも4.2GHz前後を維持している。しかしスレッド数が増えるほどクロックは低下し、4スレッドの時点で3GHz前後、16スレッドで2.5GHz前後まで低下する。

 6コア12スレッドのCPUにも関わらず、最大スレッドと16スレッドでスコアに差がある。詳細なデータを見ると、次のテストのロード中(ベンチマーク計測外)にCPU温度が上がり、テストが始まると温度が下がっていく。また計測中のCPU温度は、スレッド数が少ないほど高く、ロード中や1スレッド時に70℃辺りまで上がっている。

 マルチスレッド処理ではCPUの電力リミットでクロックが下がり、発熱も少ないが、シングルスレッドだと全力で回せて発熱が増えるのかもしれない。実際にシングルスレッド処理で高負荷をかけると、CPU温度が70℃を超えないようにファンの回転数が上がった。省電力CPUならではの挙動だろう。

 「Cinebench R23」の結果では、MP Ratioが5.03となっており、劇的に落ちているわけではない。シングルコアの結果があまり良くないのも事実だが、一般的な用途であれば特に困ることのない性能ではある。

 ではGPUを使用するゲームでの利用はどうかというと、相当に厳しいと言わざるを得ない。ゲーム系のベンチマークテストは、いずれもフルHDの解像度で画質を上げると動作に問題があるレベルの評価になってしまう。

 やむなく画質を最低にして再試行したところ、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」では「普通」の評価だが、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」では動作保証できないという評価のまま。

 「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」では、グラフィックス設定のクオリティをLOWEST(解像度が1,280×720に落とされる)にすると何とか満点となり、約60fpsを出せるが、クオリティをLOWに上げると30fpsを割り、設定変更を推奨される。

「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール」はLOWESTでギリギリOK

 総合的に見て、軽めの3Dゲームなら画質を相当絞って何とかギリギリ、という程度だ。ゲーム用途は本機の売り文句の1つではあるが、最新の3Dゲーム用にと考えるのは控えた方がいいだろう。

 ストレージはデバイスマネージャーで確認すると「HERK PCIE SSD 1TB」と記載されていた。PCIe接続のSSDとされており、「CrystalDiskMark 8.0.4」ではシーケンシャルリード・ライトとも800MB/s前後。昨今のPCIe接続のSSDとしては低速な部類だが、ランダムアクセスは良好で、OSの起動やアプリの動作がもたつく印象はない。

CrystalDiskMark 8.0.4

質感の良い筐体で静音性も高い

 次に本体を見ていく。前面にあるOLEDは青色の単色で、時刻とファンの回転率、温度(おそらくCPU)が表示される。これはこれで便利なのだが、表示のカスタマイズをするようなツールや設定は見当たらない。開発元によると、現時点ではカスタマイズツールはないらしい。後々は仕様が明かされてカスタムできるようになるようだ。

 筐体は確かにコンパクト。3辺とも10cm足らずの筐体は見た目にも可愛らしく、それでいておもちゃのような安っぽさもない。見た目の割にずっしり重く感じられる。前面のOLEDを含めて、外見はミニPCとしてはかなり満足感がある。なお本体側面を覆うカバーは複数のカラーが用意されている。今回の試用機はシルバーで、細かなシボ加工が施されており、質感も良好だ。

前面上部にOLEDがあり、マイクも内蔵。下部にはUSB Type-Cやヘッドセット端子を備える
左側面はロゴが描かれており、LEDで光る
右側面も光るロゴ
背面は上部が排気口で、下部に各種端子が並ぶ

 付属品は本体とACアダプタ、HDMIケーブル、その他リーフレットなど。これらを全て収納できる専用のケースが付属する。ACアダプタは65W出力だが、比較的大きめ。

 前面にはDP Altモード対応のUSB Type-C(バージョンは不明)と、2基のUSB 3.1、ヘッドセット端子を搭載。またデュアルマイクも内蔵している。マイクがあるならカメラも内蔵してくれれば、と思うのは贅沢だろうか。

 背面にもUSBやHDMI、有線LANなど端子がぎっしり並ぶ。上部は排気口になっており、天面に付けられたブロワーファンで吸気したものを排気している。

 側面左右にはLEDで光るロゴマークがある。装飾兼電源ランプといったところか。底面にはゴム製の滑り止めが貼られている。デザイン的には前面のOLED部分が出っ張った形状が珍しいが、それ以外は無難なボックス形状になっている。

天面にはブロワーファンがあり、広く吸気できる形
底面は滑り止めが貼られている
ACアダプタは出力の割には大きめ。本体と比べると余計に気になる
収納ケースも付属。リーフレットには“The smallest Ryzen-based PC in the world”

 天面にあるブロワーファンは、アイドル時にはとても静かで、近づくとかすかに音が聞こえる程度。そのサイズの割に背面の排気風量は大きく、うまく冷却できそうに見える。ファンの回転率は、前面のOLEDによると、室温約25度の環境だと30%でほぼ固定。

 高負荷をかけると、先述の通りマルチスレッド処理ではCPUの温度はあまり上がらず、CPUとGPUの両方を使い切っても50度台で推移する。ファンの回転数も30%から変わらない。CPUのシングルスレッドで負荷をかけた場合はCPU温度が70度に達し、ファンの回転率も40%程度まで上がった。この状態だと、静かな環境ではモーター音のような小さな音が聞こえる。

 このほか本機はメモリの交換が可能とされている。本体は1.5mmの六角ネジで固定されており、開けてみたのだが、押しても引いてもケースが外れる気配がなかった。開発元によると、現時点では分解は困難とのこと。残念だが外から眺められる範囲に留めておく。

天面のカバーを外したところ。ブロワーファンがよく見える
背面のカバーも外した。ヒートシンクは見えるが、交換できるというメモリ部分は見えない

OLEDが想像以上に効くデザイン。TVの脇に置いて使いたい

 ゲーム用途も想定しているということで、ベンチマークを厚めにやったのが目立つ内容になってしまったが、基本的には十分面白味のあるミニPCだと思う。

 筐体形状が立方体に近いボックス型で、ミニPCの中でも置き場所を選ばない。本機は前面にOLEDやマイクがあることから、ユーザーから近い場所に設置して使うことを想定しているのが分かる。近くにあってもファンがうるさく感じられることもなく、快適性も十分高い。

 用途としては、3Dゲームなどのヘビーな用途を避ければ概ね何でも対応できる。TVの横に置いてメディアプレーヤー的に活用してもいいし、HDMIとUSB Type-Cでの映像出力を活かした持ち運べるサブPCとしてもいい。省電力を活かしたサーバーにすれば、前面のOLEDのステータスも活用しがいがありそうだ。

機能的には何ということもないOLEDが、デザイン的には存外に良い

 本機はやはり前面のOLEDをどう活用するかによって価値が変わるだろう。今のところは時刻とCPU/ファンの情報が出ているだけだが、「今、動いてます」感があって筆者は好きだ。ビデオデッキが動いているのを確認するようなノスタルジックなイメージで、テレビの脇に置いて使いたくなる。実際、そういう用途を狙った外見なのだと思う。

 ちょっと性能のいいミニPCが欲しいという選択肢に、見た目にもこだわりたいという願望があれば、本機は面白い選択肢になると思う。今後の展開はKickstarterのファンディング次第になろうかと思うが、いい形でまとまって欲しいものだ。