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Iris Xe MAX搭載ビデオカードを入手!色々ベンチマークを走らせてみた

GUNNIR Intel Iris Xe Max Index V2

 Intelの「DG1」は、Intel 740以来実に22年ぶりとなるディスクリートGPUだ。2020年に発表されたものの、搭載ビデオカードはなかなか一般小売市場に出回らず、大手メーカーでもこのGPUを搭載したPCはなかなかお目にかかれなかった。

 しかし「AliExpressの迷い方」で執筆されているすまさ氏から、DG1の最上位にあたるIris Xe MAXを搭載したビデオカードが、中国のTaobaoで販売されているという情報を得た。中国語サイトでの注文となるが、海外発送も対応していたため、早速購入してみた。

 価格は日本円にして送料込みで約1万4,000円ほど。注文してから約1週間で到着した。本稿ではそのIris Xe MAXを色々ベンチマークしたり、試してみた結果をお伝えする。第2四半期にはXeアーキテクチャを採用した上位モデル「Intel Arc」が登場するが、本製品のベンチマークを通して、ある程度将来製品の実力が垣間見えるだろう。

そもそもIris Xe MAXとは

 おさらいとはなるが、Iris Xe MAXは有り体に言ってしまえば、第11世代Coreに内蔵されているGPUをそのまま単体化したものである。第11世代Coreと一口言っても様々なSKUがあるが、Iris Xe MAXはノートPC向けの「Tiger Lake-UP3」の上位モデルに内包されている、96EUという最大構成のGPUとなっている。製造プロセスは10nmだ。

 対応メモリもLPDDR4x-4266と共通で、バス幅は128bit、帯域は68GB/sとされている。そのため基本的には第11世代Core内蔵GPUと同等の性能を備えているわけだが、最大動作クロックが1.35GHzから1.6GHzに引き上げられているほか、メモリバスはGPUだけが占有できる点で、Tiger Lake-UP3内蔵GPUよりもわずかに高い性能が期待できる。

 その一方で、PCI Express 4.0はサポートされているもののリンクはx8まで。また、基本的にIntel 500シリーズマザーボード専用となっており、AMDやそのほかのチップセットでは動作しない点が、一般的なビデオカードと大きく異なると言えよう。

 すると当然「Tiger Lake-UP3のダイを流用してCPUコアを無効化しただけではないか?」という疑問も当然生まれるわけだが、到着した製品を分解し、ダイサイズを計測したところ約9×12mmであった。Tiger Lake-UP3は13.6×10.7mmなので明らかにそれよりは小さく、純粋なディスクリートGPU用のダイであることが窺える。

有り体に言ってしまえばTiger Lake-UP3内蔵GPUの単体版だが、ダイとしてはCPUコア無効版……というわけではなく、本当に単なるディスクリートGPUのようだ

Iris Xe MAXを搭載した「GUNNIR Intel Iris Xe Max Index V2」

 既にお伝えしている通り、Iris Xeを搭載したビデオカード自体はないわけではない。単にOEM向けがメインであったため一般小売はされなかったというだけの話だ。有名どころとしてはASUSも製品を用意しているが、筆者はそのビデオカード実物や搭載製品の実物を目にしたことはない。

 今回入手したIris Xe MAX搭載ビデオカードは、深セン市藍戟科技発展有限公司という会社の、GUNNIRブランドの「Intel Iris Xe Max Index V2」という製品。この会社はDG1を搭載したビデオカード3種類しかリリースしていないので、実質Intelビデオカード専業ということになる。

Intel Iris Xe Max Index V2の製品パッケージ

 本体は2スロット占有でシングルファン+ヒートパイプなしのアルミニウムヒートシンクというオーソドックスな設計。ファンの直径は80mmで、カード長は168mmとMini-ITXシステムにも収まるサイズだ。ヒートシンクのカバーはプラスチックだが、一部はヒートシンク部分と入り組んでいたり、Intelを彷彿とさせるブルーのアクセントが入っていたりと、デザインにもこだわっている。

 補助電源はない。製品情報によると、Power Limit 2は41W、Power Limit 1は25Wに設定されているという。どういう条件でPower Limitに当たるのか資料が一切ないのだが、少なくともこの消費電力で高性能ということはないし、だから簡素な放熱機構でも十分ということだろう。電源フェーズは2+1とされているが、分解してみたところ小型部品が使われており、品質は悪くなさそうな印象だった。

 ディスプレイはHDMIとDVIとDisplayPortの3系統。今どきDVIの搭載は珍しいといえ、古めのディスプレイを利用しているユーザーにとって福音となりそう。いずれにしてもビデオカードの設計としてはエントリーの域を出ず、「1万5,000円未満のビデオカードの風貌」といったところである。

カード正面。80mmファンを1基装備。長さは168mmなので、Mini-ITXケースにも収まる
ディスプレイ出力はHDMI、DVI、DisplayPortの3系統
側面のデザインはちょっとかっこいい
本体背面
ヒートシンクを取り払ったところ
基板正面
エントリークラスの割には電源設計がかなり頑張っているように思う
ビデオメモリはSamsungの「K4U8E3S4ADMGCL」

3DMarkのスコアはGeForce GTX 1050に迫る! ただし実ゲームは……

 今回、BIOSTARのIntel Z590チップセット搭載マザーボード「Z590 Valkyrie」をベースに第11世代Core i9-11900K、メモリ16GB(DDR4-3200)、512GB NVMe SSD、OSにWindows 10 Homeの環境を構築してベンチマークを行なった。比較用にGeForce GTX 1050と、2022年3月時点ではほぼ同じ価格帯のGeForce GT 1030の両方を用意した。

 まずは3DMarkを見ると、Iris Xe MAXはGeForce GTX 1050に肉薄する性能を実現していることがわかる。負荷の高いTime SpyとFire StrikeのGraphicsスコアの差は-3~5%、負荷の低いNight RaidとWild Lifeテストでも約-3~14%程度とかなり景気が良い。同じ価格帯のGeForce GT 1030と比較すると2倍近いスコア差があり、3DMarkだけを見るとコストパフォーマンスは相当に高いと言える。

【グラフ1】3DMark Time Spy
【グラフ2】3DMark Fire Strike
【グラフ3】3DMark Night Raid
【グラフ4】3DMark Wild Life

 その一方で実ゲームとなると……ちょっと残念な結果になる。「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト」ではGTX 1050比で-34%、「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」では同-39%となり、GT 1030に迫られてしまっている。国産のゲームタイトルではGeForce向け最適化が少なくないので致し方ないのだろう。

【グラフ5】ドラゴンクエストX ベンチマークソフト(1,920×1,080ドット、高品質)
【グラフ6】ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク(1,920×1,080ドット、最高設定)

 海外産ゲームとして「Rainbow Six Siege」において、総合品質:中設定のベンチマークは平均58fps。GeForce GTX 1050は113fpsなのでこれまた大差がついていて、GT 1030は60fpsなのでこれにも後塵を拝する。「Tomb Raider(2013)」の画質プリセット:Normalのベンチマークの平均fpsは68.8fpsで、GeForce GTX 1050は107.9fpsなので半分強程度にとどまる。一方GT 1030は52fpsなのでこれは上回った。

Rainbow Six Siege(1,920×1,080ドット、総合品質:中設定)
Tomb Raider(1,920×1,080ドット、Normal画質)

 実際のゲームで同じ画質設定とし、Iris Xe MAXとGeForce GTX 1050でいくつかプレイしてみた。「エースコンバット7」はXeが45~60fpsに対しGTX 1050は60~84fps(以下同じ並び)。「Witcher 3: Wild Hunt」は45~50fps対50~60fps、「アサシンクリードIII」は37~60fps対96~105fpsと、いずれもGTX 1050から大きく水を開けられてしまい、3DMarkのスコアほど性能が近いものではまったくなかった。

ゲームプレイ時の差が顕著なフレームレートを比べてみた

 GTX 1050はビデオメモリが2GBであるため、テクスチャやシェーダーを多用する最新のゲームではIris Xe MAXのほうに軍配があがる可能性はある。しかしGTX 1050は実質7GbpsのGDDR5を装備しているため、メモリバス幅帯域は112GB/sとIris Xe MAXの68GB/sを大きく上回る。今回試したゲームにおいては、このメモリ帯域の差が一番顕著に表れたと言えるだろう。

 消費電力については、3DMark Time Spyのストレステストを実施したところ、Iris Xe MAXは79W前後で推移した。これはGeForce GT 1030と同等である。GeForce GTX 1050は110Wだったので、約30W省電力であり、少なくともTime Spyのスコアから換算する電力性能は悪くない。GeForce GTX 1050は16nmプロセスでIris Xe MAXは10nmプロセス製造なので、このあたりが差として現れた。

Thunderbolt 3経由でも動作するも、Deep Linkは試せず

 Iris Xe MAXのもう1つの特徴としては、Intel CPU内蔵GPUと連携した「Deep Link」技術が挙げられる。と言っても現時点ではSLIのように描画処理を並列化させることはできず、ディープラーニング処理やメディアエンコードを並列化して処理することで高速化を狙うものである。

 しかしこれはノートPCのCPUに搭載されるIris Xe Graphicsと組み合わせた際の話であり、デスクトップCPUのIntel UHD Graphicsとの組み合わせについては触れられていない。一応、メディアのトランスコードを行なう「HandBrake」で動画を変換してみたが、Intel UHD Graphicsと同調している様子はなかった。

 そこで、Intel Xe Graphicsを内蔵しているCore i7-1195G7を搭載した「WIN Max」を用意し、Thunderbolt 3経由で接続して、そちらと同調動作できないか試してみた。こちらはそもそも動作するかどうか怪しかったが、問題なくドライバを導入でき、動作させることができた(ただしデバイスの取り外しは非対応のため、OS起動中に抜くとブルースクリーンになる)。

 ただしHandBrakeで動画のエンコードを行なってみても、内蔵のIris Xe Graphicsと負荷分散している様子はない。Intelが公開したスライドを見ると、HandBrakeは3本の動画を同時処理しているのだが、筆者手元の環境では1本ずつしか処理されなかった。調べてみたところ、当時の動画エンコードのデモはコンセプトとして実装し、行なったもののようだ。現在、一般公開されているHandBrakeでは利用できないということだろう。

Thunderbolt 3接続でも認識することにはするし、動作はちゃんとする
HandBrake実行。写真は1本のストリームをエンコードしている最中だが、負荷分散らしき挙動見られない。現時点で複数のストリームをキューに入れても逐次実行されるだけで同時実行はできないようだ

 将来的により一般的な製品となる、Intel Arcが投入されるタイミングで、Deep Linkによる動画エンコード速度向上が使えるようになる見込みはあるが、少なくとも現時点では使えない。

Intel Arcは期待できるかもしれない

 3DMarkでは景気が良いスコアを出しつつも、実ゲームでは性能が微妙、Deep Linkも恩恵が受けられない今、Iris Xe MAXが日本で一般小売されないのも頷ける。しかし、Iris Xe MAXはGeForce GTX 1050に近い演算性能を、約半分程度の消費電力で実現できているのではないか、というあたりは垣間見えた気がする。

 2022年第2四半期に搭載される「Xe-HPG」は、Xeアーキテクチャをベースとしながらも、Iris Xe MAXがベースとしている「Xe LP」と比較して(同じ電圧であれば)1.5倍高いクロックと1.5倍高い電力効率を備えているという。ついでに言えば、メモリの帯域もそれなりのものを用意してくるだろう。そのためIntel Arcの性能についてはかなり期待できそうなレベルだ。

 一方Iris Xe MAXだけ見るとちょっと評価は難しい。ビデオカードが適正価格で入手しにくい今、1万4,000円で購入できる新品として性能は悪くないが、動作可能環境がかなり限られていることから、あえて選択する必要はない。とは言え、単純にGPUそのものが好きな筆者のようなユーザーなら、「ビデオカードのNVIDIA・AMDの二択時代を終結させたもの」として、コレクションに加える価値はあると言えるだろう。