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小さいことはいいことだ。世界最小のFeliCa対応スマホ「Jelly 2」

Jelly 2

 Unihertzの「Jelly 2」は、本体サイズがわずか95×49.4×16.5mm(幅×奥行き×高さ)、重量が110gの小型軽量スマートフォンだ。価格は219.99ドルで、直販サイトでまもなく販売開始される予定だ。

 本機は、スマートフォンは肥大化の一途を辿るなか、異例とも言える小型モデルだが、海外主導で開発されたSIMロックフリーモデルであるにも関わらず、FeliCa対応で技適を通過し、日本国内での利用を想定しているなど、かなりの異色を放っている。今回Jelly 2のサンプルを入手できたので、レビューをお届けしたい。

3型に実用的なスペック

 世界的に見れば、3型以下のディスプレイを備えた小さいAndroidスマートフォンはこれまでそこそこの数が存在しているが、技適を通過し日本向けに投入されたものはごく少数。有名なところではイー・モバイルが投入したソニー・エリクソンの「S51SE」(海外ではXperia Mini)ぐらいではないだろうか。

 初期のAndroid端末のなかで比較的有名な「IDEOS」も、小型モデルとして有名で、Jelly 2との比較に持ち出されそうだが、実機を並べて比べてみたところ、意外にも共通点は少なかった。どちらかと言えば、Jelly 2はIDEOSより、Xperia Miniに似た性格ではないかと思う。

過去の小型スマートフォンと並べてみたが、Jelly 2はXperia Miniの類ではないだろうか

 一方、直近のモデルとして、楽天の「Rakuten Mini」が有名だが、液晶サイズは意外にも3.6型だったりするので、Rakuten MiniのほうがむしろIDEOSっぽい。なおRakuten Miniは2019年7月の時点で、FeliCa搭載端末として世界最小最軽量であったが、Jelly 2はフットプリントで“最小”の記録を打破したことになる(最軽量はRakuten Miniが維持)。

【表】本体サイズ比較
モデルJelly 2Rakuten Mini
液晶サイズ3型3.6型
解像度854×480ドット1,280×720ドット
SoCHelio P60Snapdragon 439
メモリ6GB3GB
ストレージ128GB32GB
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)49.4×95×16.5mm53.4×106.2×8.6mm
体積(立方mm)77,434.548,771.3
重量110g79g

【9時55分訂正】記事初出時、表の一部数値が入れ替わっておりました。お詫びして訂正します。

 ただ、これまでこうした小型スマートフォンは、いずれも実用的とは言いがたいスペックだったのが難点だった。たとえばXperia Miniのメモリは512MBで、ストレージは1GB。すでにOSで大半が占有されていて、アプリを追加で入れて利用するには窮屈だった。標準のミュージックアプリを利用してバックグラウンドで音楽を再生していても、Webブラウジングするだけで音が途切れたり強制終了させられたりしたものだ。

 これはRakuten Miniや先代の「Jelly Pro」とて共通の問題。エントリー向けのプロセッサで、メモリ3GBとストレージ32GBでは、必要最小限の使い方しかできない。Web閲覧や電話やSNS、電子決済といった利用がメインなら問題ないが、アプリをたくさん入れて使うような使い方には向かないのだ。

 その点、Jelly 2はプロセッサにミドルレンジ向けのHelio P60を搭載しつつ、メモリは6GB、ストレージは128GBと、普段遣いできるスマートフォンに引けを取らないスペックを実現している。今まで小型スマートフォンでできなかったことがJelly 2でできるというのは、画期的だと言えるだろう。

機能が充実し過不足なし

 小型ながら機能が充実している点も、本製品ならではの特徴。繰り返しとなるが、本機にはFeliCa機能が搭載されていて、おサイフケータイとして利用可能なほか、一般的なスマートフォンで考えうる機能のほとんどが搭載されているのが特徴だ。

モバイルSuicaアプリも、Google PayのSuica機能も問題なく利用できた。決済端末にかざしてみたが、筐体が小さいゆえに位置決めしやすく、反応がよかった

 たとえば、照度センサー、ジャイロセンサー、加速度センサー、地磁気センサー、GPSなどの装備に抜かりはない。安価なスマートフォンやタブレットでは、ちゃっかり省かれていることもあるので、このサイズでちゃんと全部装備しているのは偉い。

製品パッケージ
パッケージ内容
本体重量は実測でも110g
付属のケースをつけると120gとなる

 さらに、生体認証として指紋センサーと顔認証の両方に対応しているのもポイント。明所では顔認証のほうがスムーズだが、暗所となると指紋のほうがいいが、本機は柔軟に対応できる。ちなみに顔認証のほうを試してみたところ、マスクをしていても認証されたのには驚いた。

背面に指紋センサーを搭載する
顔認証も対応する

 一方カメラも1,600万画素と、サイズにしてはかなり健闘している。出力解像度は4,672×3,504ピクセル。ミドルレンジ向けプロセッサを採用していることもあって、カメラの動作はキビキビしていて、ストレスに感じることはない。とっさに出してすぐに撮影するのにはちょうどいい。

 画質的には、若干ベタ塗りの印象はあるが、全体的にシャープな仕上がり。ただ、写真のコントラストはやや極端で、色はやや冷たい印象。また、ハイライトは白飛びしてしまうし、影は黒で潰れやすい。全体的に元気のない雰囲気だ。レンズの素性は良い印象なので、今後ソフトウェアの改善を望みたい。

Jelly 2のカメラ作例

 本機では一般的なスマートフォンで実装が少ない赤外線トランスミッターを装備しているのもポイントで、後述の「リモートコントロールフェアリー」アプリで、TVやエアコンといった家電を操作できる。

 また、小さいながらも3.5mmヘッドフォンジャックを備えており、多くのヘッドフォンを利用できるのが特徴。ヘッドフォン出力は低インピーダンスのヘッドフォンを使うと若干ホワイトノイズが気になるが、音楽が流れ出しはじめれば気にならない程度。出力は低音のパワーがやや物足りないが、あまり音質をこのサイズに求めるのは酷だろう。

 モバイル通信の対応バンドについては公式サイトを参照にされたいが、国内ではほとんどのモバイルサービスで問題なく利用できる。Wi-FiもIEEE 802.11acをサポートしているので、通信周りで困ることはないだろう。ただ、筆者が利用しているTP-Linkの「AX11000」とは、5.2GHz帯の相性が悪くつながらなかった(2.4GHz帯は問題なし)。

本体上部に赤外線トランスミッターを搭載。3.5mmミニジャックも備える
本体底面
本体右側面。USB Type-CやSIM/microSDカードトレイ、ショートカットボタン(赤)、電源ボタンを備える
本体左側面は音量調節ボタンのみ

ソフトウェアは少なめだが、地味に便利な機能も

 ソフトウェアは、ほぼ素のAndroid 10にプラスアルファして、いくつかの機能を追加したもの。具体的には、設定の「Smart Assistant」が追加項目となっており、画面下部のタッチボタンの戻る/アプリ一覧ボタンを入れ替える機能、および側面の赤いショートカットボタンの機能をカスタマイズできる機能を統合している。

 側面の赤いショートカットボタンは、デフォルトでは1回押下で(Google)アシスタント、2回押下でスクリーンショット、長押しでフラッシュをつける(懐中電灯として使う)機能が割り当てられているが、好みの機能やアプリへのショートカットを割り当てできる。

標準の起動直後の画面
ショートカットボタンはできる

 ソフトウェアとしてはGoogle系アプリに加え、FMラジオやおサイフケータイ、緊急アラート、SOS、学生モード、ツールボックス(分度器や高さ計測など)、リモートコントロールフェアリーなどが追加となっている程度で少ない。

 なかでもユニークなのはリモートコントロールフェアリーで、家のなかの家電などを操作できる。Xiaomiの端末では実装しているモデルが多いのだが、それ以外ではあまり実装例がない。「リモコンが見つからない!」といったときにも便利に使えるのは良い。

ツールボックス
ノイズテストツール
分度器ツール

 ただ、このアプリはカメラとは異なり、ロック画面の状態のままでは利用できないため、先述のショートカットボタンに登録しても、サスペンドの状態からいきなりショートカットボタンを押してリモコンとして使うことといったことができないのが、いささか残念ではある。

 ランチャーはドロワーがないiOSライクなタイプだ。本機の液晶解像度は480×854ドットと、iPhone 3Gと比べても高解像度で情報量は十分にあるのだが、画面サイズが小さいためスケーリングが高く設定されていて、アプリによっては表示しきれない場合がある(たとえばAntutu Benchmarkでは、利用規約の同意ボタンが押せない)。そういう場合、開発者オプションを有効にし、“最小幅”に400~450といった高い値を設定しておくといい。

 ちなみに本機ではデフォルトで「ジェスチャー ナビゲーション」が有効になっており、下からのスワイプでホームに戻る/アプリ切り替え、左右からのスワイプで戻る操作が行なえる。しかし、この機能では画面下部にバーが表示されてしまい、ただでさえ狭い画面をさらに窮屈にさせてしまう。が、本体にはハードウェア的にナビゲーションボタンを装備しているので、この機能は無用の長物だろう。オフにしておくことをおすすめしたい。

標準ではジェスチャー ナビゲーションがオンになっていた
しかし入力状態やアプリによっては画面下部に長い空白のバーが表示されてしまう
ジェスチャー ナビゲーションをオフにすればスッキリ

超小型スマートフォンとしては至高の性能

 最後に、わかりやすい性能指標としてAntutu Benchmark v8を走らせてみた。このベンチマークでは総合スコア10万以下がエントリークラス、10~20万がミドルレンジクラス、20万~30万がアッパーミドルクラス、30万以降がハイエンドと見ていいのだが、本機は172,175を記録した。

Antutu Benchmark v8の結果

 これはHelio P60搭載機の平均的な性能であり、本体が小さいゆえに排熱が不利といった影響を受けずに済んでいると言える。GPUのスコアから推測するに、快適とまではいかないが、ほとんどの3Dゲームをプレイできると思われる。

 もっとも、本機は画面サイズが小さいので、そもそもゲームプレイには不向きではあるのだが、このサイズでもプレイできる可能性を秘めているのは称えるべきではないだろうか。

 なお、日常的な利用シーンでは、6GBというメモリを搭載していることもあり、ストレスに感じることは一切なかった。アプリケーションの起動、切り替え、動画の視聴など、至って普通に行なえる。試用中、さまざまなSNSアプリを入れて使ってみたり、Netflixを入れてガンダムを視聴したり、3Dゲームをプレイしたりしたが、まったく問題のない性能であった。

このサイズでも3Dゲームが難なく動作する

実用的な110gの意義

 電子デバイスというのは基本的に、大きく作ることよりも、小さく作ることのほうが難易度が高い。部品の大きさや内部レイアウト、熱設計など、あらゆる面を考慮しなければならないからである。

 近年のスマートフォンは、ユーザーのさまざまなニーズに応えられるよう性能や機能を充実させていった結果、サイズと重量が増加の一途を辿った。スマートフォン市場の先駆者とも言える「iPhone 3G」は3.5型液晶で重量は133gだったが、今や大半が5.5型前後で、重量は200g前後になってしまっている。

 ただスマートフォンが多機能化したことで、ユーザーが持ち歩かずに済む荷物が増え、相対的に重量は減っている。そこを考慮した上で、今あえて小型軽量スマートフォンの意義を問われると、やはり「ロマン」に集約されるのではないか。Jelly 2はそのロマンを究極にまで詰めた製品だとは思う。