Hothotレビュー

電源内蔵で容積5L。高性能ビデオカードも搭載可能な「NUC 9 Pro」を試す

 開発コードネーム「Quartz Canyon」こと「Intel NUC 9 Pro」は、「ビデオカードが搭載可能なワークステーション向けNUC」という変わり種のNUCだ。

 そのNUC 9 Proの上位モデルにして、Xeon E-2286Mを搭載した「NUC9VXQNX」のレビュアーズキットを借用する機会が得られたので、ベンチマークテストやビデオカードの換装などを試してみた。

Xeon搭載のNUC 9 Pro「NUC9VXQNX」

 NUC 9 Pro「NUC9VXQNX」は、Coffee Lake世代の8コア16スレッドCPU「Xeon E-2286M」を搭載したNUC。メモリとSSDを追加することでPCとして機能するベアボーンキットで、筐体サイズは96×238×216mm(幅×奥行き×高さ、容積5L)。

 ミニPCとして知られるNUCにしては大きいNUC 9 Proの筐体は、フルハイトの拡張カードを搭載するためのもので、ビデオカードを搭載可能なPCI Express 3.0 x16スロットと、PCI Express 3.0 x4スロットを備えている。

Intel NUC9VXQNX。フルハイトのビデオカードも搭載可能な5リットルサイズの筐体を採用したベアボーン
Xeon E-2286MのCPU-Z実行画面。Coffee Lake世代の8コア16スレッドCPUで、TDPは45W
NUC 9 Proは2本の拡張スロット(PCIe 3.0 x16 + PCIe 3.0 x4)を搭載しており、フルハイトの拡張カードを搭載可能

 借用したNUC9VXQNXのレビュアーズキットには、DDR4-2666動作のECCメモリ(16GB×2)、SSDの「Optane Memory H10(1TB)」、ビデオカード「Quadro P2200」が搭載された状態で届いた。

 今回はこのレビュアーズキットの構成パーツに加え、NUC 9 Proでの互換性確認済みのGeForce RTX 2070搭載ビデオカード「ASUS DUAL-RTX2070-O8G-MINI」を用意。もともと搭載されていたQuadro P2200と換装した場合の性能もテストする。

レビュアーズキットに搭載されていたメモリ、SSD、ビデオカード
GeForce RTX 2070搭載ビデオカード「ASUS DUAL-RTX2070-O8G-MINI」。NUC 9 Proで利用できることがIntelによって確認されているビデオカードの1つだ

NUC 9 Proの外装

 マットダークグレーでカラーリングされたNUC 9 Proの外装は、派手な装飾を排した落ち着きのあるデザインとなっている。特徴的な両サイドのメッシュパネルは吸気口で、天板に配置された2基の冷却ファンによって、両サイドから天板へのエアフローを構築している。

 前面パネルのインターフェイスは、USB 3.1 Gen2(2基)や、UHS-II対応のSDカードスロット、3.5mmヘッドセットジャック。バックパネルインターフェイスには、2系統のGigabit LAN、USB 3.1 Gen2(4基)、HDMI 2.0a、Thunderbolt 3(2基)、3.5mmオーディオ/TOSLINKコンボジャックを備える。

 NUC 9 Proは500Wの電源ユニットを内蔵しているため、リアパネルには電源ユニット用のAC入力と、電源ユニットの排気ファンが配置されている。

正面。電源スイッチとインジケータLEDのほか、2基のUSB 3.1 Gen2、SDカードスロット(UHS-II対応)、3.5mmヘッドセットジャックを搭載
背面。インターフェイスは、Gigabit LAN(2基)、USB 3.1 Gen2(4基)、HDMI 2.0a、Thunderbolt 3(2基)、3.5mmオーディオ/TOSLINKコンボジャック。底部には電源ユニットのAC入力が配置されいている
左側面。大部分が通気口を兼ねるメッシュパネルで覆われている
右側面。こちらもメッシュパネルで覆われている
天板。2基の排気ファンが配置されており、両側面から取り入れた空気を天板から排気するエアフローを構築している
底面。滑り止めにゴム足が配置されている

NUC 9 Proの内装

 NUC 9 Proの内部には、トップカバーとサイドパネルを取り外すことでアクセスできる。

 NUC 9 Proでは、CPUやチップセットなどを拡張カード形状の「Compute Element」に集約しており、これを拡張スロットやM.2スロットを備える「ベースボード」に接続している。

トップカバーとサイドパネルを取り外すとケース内部にアクセスできる
ケース内部にはNUC 9 Proのシステムを集約した「Compute Element」が「ベースボード」に接続した状態で内蔵されている

 CPUやチップセットが搭載されているCompute Elementには、メモリスロットやM.2スロットなども搭載されており、冷却ユニットのカバーの一部を取り外すことでアクセスできる。

 Compute ElementにメモリやM.2 SSDを取り付けるさいは、シャーシのクロスバーブラケットを取り外しておけば、Compute Elementをベースボードから取り外すことなく取り付け作業が行なえる。Compute Elementをベースボードから取り外す場合、ケーブルで接続されているフロントパネルインターフェイス用(オーディオ、USB)や、無線用のアンテナ、電力供給用のEPS12Vなどを外す必要があり、やや手間がかかる。

Compute Element。CPUやチップセットを搭載しており、表面は冷却ユニットのカバーで覆われている
冷却ユニットのカバーの一部を取り外すと、メモリスロットとM.2スロットにアクセスできる
メモリスロット。DDR4-2666までのSO-DIMMを最大64GB(32GB×2)まで搭載可能で、ECCメモリも利用できる
M.2スロット。M.2 22110対応のスロットとM.2 2280対応のスロットが1本ずつ用意されている。インターフェイスは6Gbps SATAまたはPCIe 3.0 x4
Compute Elementの各スロットには、ベースボードに接続したままでもアクセスできる

 ベースボードは、Compute Element接続用スロットのほかに、PCI Express 3.0 x16スロット、PCI Express 3.0 x4スロット、M.2スロットを各1つずつ搭載している。ベースボードのM.2スロットはCompute Elementの下に隠れる位置にあるため、利用するにはCompute Elementを一度取り外す必要がある点に注意したい。

 ベースボードの下には電源ユニットが配置されており、ベースボードとCompute Elementに電源を供給しているほか、ビデオカード用の補助電源コネクタが用意されている。このビデオカード用の電源コネクタは、L字型の8ピンコネクタと、ストレートタイプの6+2ピンコネクタが用意されており、ビデオカードの仕様に合わせて使い分けることになる。

ベースボード。PCI Express 3.0 x16スロット、PCI Express 3.0 x4スロット、SSD冷却用ヒートシンク付きM.2スロットを備えている
M.2スロットは最大M.2 22110サイズに対応。利用できるインターフェイスはPCIe 3.0 x4のみ
ベースボードの下に電源ユニットを搭載。搭載されているのは、80PLUS PLATINUM認証を取得したFSP製の500W電源だ
ビデオカード用の補助電源コネクタ。L字型の8ピンコネクタと、通常の6+2ピンコネクタが用意されている

ビデオカードの組み込み

 今回借用したレビュアーズキットに同梱されていたQuadro P2200は、補助電源コネクタによる電力供給を必要としないため、NUC 9 Proへの組み込みは簡単だ。また、ビデオカードの占有スロットが1スロットであるため、NUC 9 ProのPCI Express 3.0 x4スロットに他の拡張カードを搭載することもできる。

Quadro P2200を搭載したNUC 9 Pro。補助電源コネクタを使う必要も無いので簡単に組み込める
シングルスロット仕様のビデオカードを使った場合、PCI Express 3.0 x4スロットが利用できる。HDMIキャプチャボードなどを搭載するのも良いだろう

 一方、別途用意したASUS DUAL-RTX2070-O8G-MINIを搭載した場合、2スロット仕様のビデオカードであるためPCI Express 3.0 x4スロットが利用できなくなるほか、カードサイズ的にもギリギリであるため補助電源ケーブルの処理に難儀した。Intelが互換性を確認しているビデオカードだけあって、最終的にはしっかり取り付けることができたが、これが搭載可能な最大サイズのビデオカードであると考えてよいだろう。

 なお、IntelはNUC 9 Proのテスト済みコンポーネントとして、組み込み可能なビデオカードのリストを公開している。NUC 9 Proに組み込むビデオカードを探す場合は、まずこのリストをチェックすることをおすすめする。

ASUS DUAL-RTX2070-O8G-MINIを搭載したNUC 9 Pro。拡張カードの搭載スペースにぴったり収まっている
補助電源にはL字型の8ピンコネクタを利用した

ビデオカードを搭載したNUC 9 Proの性能をベンチマークテストでチェック

 NUC 9 ProにQuadro P2200、またはGeForce RTX 2070(ASUS DUAL-RTX2070-O8G-MINI)を搭載して、ベンチマークテストやゲームでのパフォーマンスをチェックしてみた。

テスト時の構成
CPUXeon E-2286M (8C16T、2.4~5.0GHz)
メモリDDR4-2666 16GB×2 (2ch、19-19-19-43、1.20V)
システム用SSDIntel Optane Memory H10 1TB (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4)
ビデオカードQuadro P2200ASUS DUAL-RTX2070-O8G-MINI(GeForce RTX 2070)
グラフィックスドライバ452.06 (27.21.14.5206)GeForce Game Ready Driver 456.38 DCH (27.21.14.5638)
電源500W 80PLUS PLATINUM
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 2004 / build 19041.508)
室温約26℃

 実行したテストは、CINEBENCH R20、TMPGEnc Video Mastering Works 7、Blender Benchmark、V-Ray Benchmark、PCMark 10、3DMark、ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク、フォートナイト、VALORANT、レインボーシックス シージ、Microsoft Flight Simulator。

 CPUのXeon E-2286Mは、CINEBENCH R20において「3,400」を超えるマルチスレッドスコアと、「470」を超えるシングルスレッドスコアを記録している。ミニサイズのPCに搭載されたCPUとしては、なかなか優秀と評価できる数値だ。

 Blender BenchmarkやV-Ray Benchmarkでは、GeForce RTX 2070がQuadro P2200やCPUでの処理を凌ぐパフォーマンスを発揮している。CPU自体も高いパフォーマンスを備えているが、このように強力なGPUを用いて処理を実行できるのがNUC 9 Proの強みだ。

 ゲーム系のベンチマークテストでも、GeForce RTX 2070が素晴らしいパフォーマンスを発揮している。Microsoft Flight Simulatorのような重量級のゲームはもちろん、フォートナイトやVALORANTのように高フレームレートを期待したいタイトルでも高いフレームレートを叩き出しており、CPUのXeon E-2286MがゲーミングシーンでもGeForce RTX 2070の性能を引き出せる実力を備えていることが伺える。

【グラフ01】CINEBENCH R20
【グラフ02】TMPGEnc Video Mastering Works 7 v7.0.15.17「H.264形式へのエンコード」
【グラフ03】Blender Benchmark
【グラフ04】V-Ray Benchmark v4.10.07 「V-RAY (CPU)」
【グラフ05】V-Ray Benchmark v4.10.07 「V-RAY GPU」
【グラフ06】PCMark 10 Extended (v2.1.2506)
【グラフ07】3DMark v2.13.7009「Time Spy」
【グラフ08】3DMark v2.13.7009「Fire Strike」
【グラフ09】ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
【グラフ10】FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク v1.2
【グラフ11】フォートナイト (v14.20)
【グラフ12】VALORANT (v01.08.00.0471230)
【グラフ13】レインボーシックス シージ (Build 5528891)
【グラフ14】Microsoft Flight Simulator (v1.8.3.0)

消費電力と動作温度をチェック

 ベンチマーク実行中の消費電力をワットチェッカーで測定した結果が以下のグラフだ。

 アイドル時の消費電力は、Quadro P2200搭載時が24Wで、GeForce RTX 2070搭載時は33W。CPUベンチマーク実行中の最大消費電力は160W弱で、3Dベンチマーク中はQuadro P2200搭載時で最大218W、GeForce RTX 2070搭載時は最大353Wに達した。

 省スペースで省電力なPCというNUCのイメージとはかけ離れた消費電力となっているが、消費電力の大きなデスクトップ向けGPUを組み込んでいるのだから当然の数値だ。これほどの電力を消費するパーツを5Lサイズの筐体で運用できることこそ、NUC 9 Proの長所であると言えよう。

【グラフ15】システムの消費電力

 ビデオカードを搭載したNUC 9 Proのパフォーマンスは、5LサイズのPCとしては大変強力なものだが、消費電力の大きなパーツを小さな筐体に組み込んだとき、心配になるのは動作温度だ。十分に冷却できているのかを確かめるべく、動画エンコードを10分間連続で実行した場合と、最大消費電力を記録したFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク中の最大温度を測定してみた。

 測定結果をみると、ピークCPU温度はかなり高くなっているものの、サーマルスロットリングの作動温度である100℃には達していない。GPUに関しても、ブースト動作の基準温度であるTemp Targetのリミット値には達していないため、つねにブースト動作を維持できていた。

【グラフ16】ベンチマーク中の最大動作温度

 さきのグラフで最も高い温度を記録していた、GeForce RTX 2070搭載時のFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークについて、モニタリングデータをグラフ化してみた。

 グラフを見ると、CPU温度が95℃に達したのは瞬間的なものであり、ベンチマーク中のCPU温度の平均値は80℃少々であることがわかる。CPUクロックも4GHz前後で推移しており、Xeon E-2286Mのベースクロックである2.4GHzを大きく超えるブースト動作が持続していることが見てとれる。

【グラフ17】GeForce RTX 2070搭載時のモニタリングデータ

5L筐体に強力なGPU性能を組み込めるミニワークステーション

 Xeonを搭載するNUC 9 Pro「NUC9VXQNX」は、5Lサイズの筐体ながらハイエンドクラスのビデオカードを使用できる、ミニサイズのワークステーションだ。ミニPCのGPU性能に物足りなさを感じていたクリエイターやゲーマーにとって、デスクトップ向けの高性能GPUをこの筐体サイズで使えるベアボーンは魅力的だろう。

 NUC 9 Proには、CPUにCore i7-9850Hを採用した姉妹モデル「NUC9V7QNX」も用意されているほか、同じフォームファクターを採用するゲーマー向けNUC「NUC 9 Extreme (Ghost Canyon)」も用意されている。コンパクトな筐体で高性能なビデオカードを利用したいと望むなら、これらの製品を検討してみてはいかがだろうか。