Hothotレビュー

Radeonを内蔵する禁断の「Kaby Lake-G」搭載13.3型ゲーミングノートを検証

~GeForce GTX 1650を“上回る性能”は真実か?

Kaby Lake-G搭載のモバイルゲーミングノート

G-Tune P3

 Intel製のCPUとAMD製のGPUが1チップ化されるという、PCユーザーにとっては夢の、あるいは禁断の製品として登場した、Kaby Lake-G。マウスコンピューターはhttps://www.g-tune.jp/このKaby Lake-Gを採用したゲーミングノートPCを6月に発表した(マウス、Kaby Lake-G搭載13型ゲーミングノートやAMD APU搭載ノートを展開参照)。

 それから待つこと5カ月、ようやく「G-Tune P3」という名前で11月14日に発売された。この間に、Intelから「Kaby Lake-Gの受注を2020年1月末で終了する」という発表が出てしまったのだが(IntelとAMDの異色コラボが実現した「Kaby Lake-G」、生産終了へ参照)、ともかく期待の製品が登場したことを喜んでおきたい。

 マウスコンピューターは本機について、「GeForce GTX 1650比で約112%の3D性能」と発表。GeForce GTX 1650はエントリークラスのGPUとはいえ、内蔵GPU(と呼ぶべきかは悩ましいが)が勝るというのは強気な内容だ。実際のところはどうか、またほかの部分の使い勝手はどうなのかも含めて見ていきたい。

13.3型、1.7kgのコンパクトサイズを実現

 「G-Tune P3」のスペックは下記のとおり。

【表1】G-Tune P3のスペック
CPUCore i7-8709G(4コア/8スレッド、3.1~4.1GHz)
GPUIntel HD Graphics 630、Radeon RX Vega M GH
チップセットIntel HM175
メモリ16GB DDR4-2400(8GB×2)
SSD512GB(M.2 NVMe)
光学ドライブなし
ディスプレイ13.3型光沢液晶
解像度1,920×1,080ドット
OSWindows 10 Home 64bit
汎用ポートUSB 3.1 Type-C×1(Thunderbolt3対応)、USB 3.0×2
カードスロットなし
映像出力HDMI
無線機能IEEE 802.11ac/a/b/g/n(最大1.73Gbps)、Blunetooth 5
有線LANなし
その他前面100万画素カメラ、音声入出力など
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)約307×215×19.9mm
重量約1.7kg
税別価格179,800円

 Core i7-8709Gは、CPUとIntel HD Graphics 630、Radeon RX Vega M GHが1チップにされている。CPUだけで見れば、Kaby Lake-HのCore i7-7920HQと同等ということになる。

 注意したいのは、Core i7-8709GにはIntel HD Graphics 630がそのまま搭載されており、2種類のGPUを搭載するということ。高い描画性能が必要になるときにはRadeon RX Vega M GHが使われ高い性能を得て、そうでないときはIntel HD Graphics 630が使われて省エネする。ゲーミングノートによくある、iGPU(内蔵GPU)とdGPU(ディスクリートGPU)の関係そのものだ。

「GPU-Z」で確認。こちらはIntel HD Graphics 630
もう1つのRadeon RX Vega M GH

 メモリは16GB、ストレージは512GBのM.2 NVMeのSSDとなっており、ゲーミングPCらしい性能重視の構成。それ以外の部分では、無線LANが最大1.73Gbpsまで対応する反面、有線LANは非搭載。光学ドライブやカードスロットもなく、ゲームに不要なものはかなりそぎ落とした感がある。

 カスタマイズも可能で、ストレージは最大2TBまで選べるが、いずれもM.2 NVMeのものとなっており、SATAの増設はできないようだ。またメモリはオンボードとなっており、16GBから増減できない。

 ディスプレイは13.3型で、重量は約1.7kgと、ゲーミングPCとしては小型なのも本機の魅力と言える。執筆時点では「G-Tune」のラインナップでもっとも小型のノートPCとなる。価格はスペックから考えるとやや高めに見えるが、小型のゲーミングノートPCという部分に価値があると考えるべきだろう。

公称どおりの高性能。バッテリ持続時間もオフィス向けでは十分

 続いて各種ベンチマークテストを試してみる。利用したのは、「PCMark 10 v2.0.2144」、「3DMark v2.11.6864」、「VRMark v1.3.2020」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」、「World of Tanks enCore RT」、「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」、「CINEBENCH R20」、「CrystalDiskMark 7.0.0」、「BBench」。

 過去に弊誌でレビューしたGeForce GTX 1650搭載ノートの結果と見比べてみると、3D系のベンチマークテストで確かに1~2割上回るスコアを出している。うたい文句に偽りなしの高い性能だ。

 性能を絶対値で見ると、ゲーム系はフルHDであればおおむね快適に動いている。4Kにはまだ力不足だが、持ち運べるモバイルゲーミングノートとして考えれば、フルHDで十分な性能があれば満足できるはず。また「VRMark v1.3.2020」では、VR Ready PCにはわずかに届かないが、Oculus Rift minimum spec PCは上回っており、VRの利用もギリギリ可能なラインだろう。

【表2】ベンチマークスコア
「PCMark 10 v2.0.2144」
PCMark 104,444
Essentials8,884
Apps Start-up score13,040
Video Conferencing Score7,563
Web Browsing Score7,112
Productivity6,428
Spreadsheets Score7,371
Writing Score5,607
Digital Content Creation4,172
Photo Editing Score3,842
Rendering and Visualization Score6,000
Video Editing Score3,152
Idle Battery Life9時間48分
Modern Office Battery Life8時間44分
Gaming Battery Life1時間23分
「3DMark v2.11.6864 - Time Spy」
Score3,079
Graphics score2,919
CPU score4,468
「3DMark v2.11.6864 - Fire Strike」
Score8,518
Graphics score10.353
Physics score11,283
Combined score3,159
「3DMark v2.11.6864 - Night Raid」
Score6,111
Graphics score5,967
CPU score7,086
「3DMark v2.11.6864 - Sky Diver」
Score22,863
Graphics score30,093
Physics score10,617
Combined score21,336
「3DMark v2.11.6864 - Cloud Gate」
Score23,917
Graphics score57,774
Physics score7,839
「3DMark v2.11.6864 - Ice Storm Extreme」
Score96,456
Graphics score132,211
Physics score49,553
「VRMark v1.3.2020 - Orange Room」
Score4,667
「VRMark v1.3.2020 - Blue Room」
Score768
「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」(高品質)
3,840×2,160ドット1,295
1,920×1,080ドット3,018
「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(最高品質)
1,920×1,080ドット8,110
「World of Tanks enCore RT」(超高)
1,920×1,080ドット12,245
「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」(簡易設定6)
1,920×1,080ドット19,305
「CINEBENCH R20」
CPU1,681cb
CPU(Single Core)382cb

 なおベンチマークテストにおいて、1点問題があった。「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」を最初に実行したとき、明らかにスコアが低かった。本来はRadeon GPUに切り替わるべきところがうまくいかず、Intel側のGPUが使われていたためだ。

 対応方法は、プリインストールされているアプリ「AMD RADEON Settings Lite」を開き、「切り替え可能なグラフィックス」から「プロファイルが作成されたインストール済みのプログラム」を選び、「参照」で「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」の実行プログラム(pso2.exe)を選択した上、高パフォーマンスに設定する。

 この手の問題は本機にかぎらず、iGPUとdGPUを搭載するノートPCでは時折発生する。ほとんどの3D描画が必要なソフトは自動的にRadeon GPUを使用してくれるが、3D描画の性能が明らかに悪いと気づいたら、上記の要領で確認することを覚えておくといい。

「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」の結果画面。左は「AMD RADEON Settings Lite」の設定前、右は設定後で、まるで違うスコアが出ている
3Dの性能が妙に低いときには、「AMD RADEON Settings Lite」を確認。「ファンタシースターオンライン2 キャラクタークリエイト体験版 EPISODE4」の実行プログラム(pso2.exe)が存在しない
対象となる実行プログラムを手動で登録し、高パフォーマンスに設定することで、Radeon GPUで処理してくれるようになる

 バッテリ持続時間は、ディスプレイの明るさ50%の状態で、「PCMark 10」のアイドル時に9時間48分、オフィスユースで8時間44分、ゲームユースで1時間23分となった。本機は公称で約10時間のバッテリ駆動が可能としており、オフィスユースでのバッテリ持続時間はとても優秀だ。

 ゲームユースになると極端にバッテリ消費が増えるが、3D描画性能からすれば妥当なレベル。オフィスユースとの差が大きいことは、むしろ省電力機能がとてもうまく働いている証拠だと評価すべきだろう。

 ストレージはADATA製の「SX6000PNP」が使われており、シーケンシャルリードで約1.7GB/s、シーケンシャルライトは約1.3GB/s。ハイエンドのNVMe SSDにはやや見劣りするものの、SATAのSSDとは比較にならない速度が出ており、実用上はきわめて快適だ。

SSD(ADATA SX6000PNP)

落ち着いた外見と堅実な作り込み

 続いて使用感をお伝えしていく。外見はマットブラックで統一されており、「G-Tune」のロゴだけが白く描かれている。また13.3型のコンパクトさ、約1.7kgの重量も、ゲーミングPCとは思えない取り回しの良さがある。デザイン的にもサイズ的にも、ビジネス用途に十分使える。これだけで、ゲーマーなら出張用に1台欲しいと思えるはずだ。

 たたんで手に持ってみると、筐体の頑強さが感じられる。歪みやたわみはまったく感じられないし、ディスプレイの裏になる天面を押してもほとんどへこまない。モバイルPCとして持ち運ぶのにもかなり安心できる。

 唯一気になったのは、稼働中にPCを持ち上げたときのこと。底面にある2つのファンの部分に指をかけて持ち上げると、回転するファンとメッシュのプレート部分が接触してこすれる音がする。稼働中に触れなければ問題ないとはいえ、堅固な筐体のなかに弱い部分があるのは惜しい。

天面にロゴがある以外は全面マットブラックで統一されている
裏面の2か所のメッシュ部分にファンが内蔵されている。手前の左右にある小さなスリットはスピーカー

 13.3型のディスプレイは光沢仕様となっており、蛍光灯等の映り込みは多少ある。液晶パネルのタイプはスペックシートに記載されていないが、パネルの発色は鮮やかでコントラストも高く、上下左右どの角度から見ても色相の破綻なく高い視野角を維持できている。ゲーミング仕様ならフルHDより高い解像度を望む声もありそうだが、13.3型というサイズで考えれば必要十分とは言えるだろう。

13.3型光沢液晶。コントラストが高く美しい
視野角も良好

 キーボードはテンキーレスで、その分、余裕のあるレイアウトになっている。右側のキーの一部やカーソルキーなどがやや変則的な形状ではあるが、さほど極端ではなく十分実用的な範囲。キー配置もオーソドックスで、実用性を考慮したデザインだと思う。キー自体は浅めのストロークながら、クリック感が強めで確かな入力感覚がある。また打鍵音がかなり抑えられているのも好印象だ。

 キーボードバックライトは、全キーに白色でひかえめなものが搭載されている。Fn+F3キーでバックライトのオン/オフも可能だ。それ以外に光るのは、キーボード上部にある電源ボタンと、前面にあるレジューム時に光る小さなLEDインジケータのみ。ゲーミングPCとしてはかなり地味なライティングになっている。

オーソドックスで余裕のあるキーボードレイアウト。ひかえ目なバックライトも搭載する
タッチパッドはボタン一体型のもの

 エアフローは底面の左右にある2基のファンで吸気し、背面から排気。アイドル時もファンは回っているが、ノイズはわずかで低音なので気にならない。キーボードなどからも熱を感ることはなく、静かなオフィスワークにも問題なく対応できる。

 高負荷時には、ホワイトノイズのような風切り音がある。とくにファンが高回転になると、より高い音が混じって耳触りになってくる。小型の本体に高い性能のGPUを搭載すれば、ファンの騒音が大きく甲高いものになるのは致し方ない。ゲームプレイ時はボリュームを大きめにするか、ヘッドフォンをしたほうがいいだろう。

 背面からの排気は、ディスプレイの根元部分に当たって、一部がディスプレイ前面に流れてくる。タッチパネルではないのでそれ自体は問題ないのだが、キーボードへの熱伝導がやや多め。とくにキーボードの最上段は熱いと感じるほどの温度になる。

 また底面のファンがない部分にあたる、キーボード中央部の温度がやや高い。その代わりに、W/A/S/Dキー付近やリストレスト部の温度はほんのり温かい程度で、ゲームプレイ時の不快感を減らそうという配慮は感じられる。

 スピーカーは底面の手前側と、ディスプレイの下部にあり、それぞれ2基ずつ、計4基のスピーカーを搭載している。ノートPC、ましてやコンパクトなPCで4基のスピーカーを搭載するのはめずらしい。スピーカー1つ1つのサイズが小さいため、低音はほとんど出せていないものの、全体の音質はかなり自然で聞き疲れしない。

 スピーカーが4基あることによって、音の広がりは出ている。一般的なノートPCに搭載される2基のスピーカーだと、音の出どころが明白で、「そこから出ている音を聴いている」という感覚があるが、本機の場合は出所が不明確になり、同じ音楽を聴いても音に包まれるような感覚がある。音質自体はサイズなりなので音楽用としては頼りないものの、ゲーム用としてはちょっとリッチなサウンドが得られている。

筐体前面はレジューム状態を知らせる小さなインジケータのみ
左側面には電源端子、USB 3.0、マイク/ヘッドフォン端子
右側面にはUSB 3.1(Type-C/Thunderbolt3対応)、HDMI、USB 3.0
背面は排気口が見える
ACアダプタは180W出力で大きめ

完成度の高さが光るモバイルゲーミングPC

 Kaby-Lake Gのインパクトの強さで筆者もテンションが上がっていたが、冷静に考えると、Intel CPUとAMD GPUがワンチップになっただけで、事実上はdGPUを搭載したものと大差ない。それは横に置いておいたとしても、エントリークラスのdGPUの性能を確かに上回り、なおかつ2kgを下回る軽量コンパクトなゲーミングPCとして、魅力的な製品であることは間違いない。

 熱処理は筐体サイズ的な限界もあり、万全とまでは言えない。日常的に使うゲーミングノートPCが欲しいなら、もう少し大型のものを選ぶほうが、性能的にも価格的にも満足できると思う。PCを日常的に持ち運ぶ用途があり、なおかつゲームも遊びたいというなら、見た目にシンプルで普段使いにもオフィスユースにも対応できる本機はとても重宝するはずだ。

 加えて、本機は断じて色物ではない。コンパクトながらしっかりした筐体に、レイアウトや品質を吟味したキーボード、発色のいいディスプレイ、ユニークなサウンドなど、全体の品質はかなり高い。モバイルゲーミングPCというカテゴリの商品自体が少ないなかで、高い完成度で仕上げた点は高く評価されるべきだろう。ぜひ多くの方に触れてみてほしい1台だ。

 なお本機の検証を行なうなかで、バッテリの消費が想定より激しくなるトラブルが見つかった(そのため本稿の執筆も遅れてしまった)。対応方法はマウスコンピューターのサポートページで、シリアルナンバーを入力すれば確認できる。今後販売される分に関しては、出荷段階で対応済みとしている。Kaby-Lake Gという製品の特異さ、難しさを改めて感じさせるエピソードだ。