Hothotレビュー
ファンレスで無音の小型デスクトップ「CHUWI HeroBox」
2020年1月10日 11:00
中国CHUWIの「HeroBox」は、プロセッサにCeleron N4100を採用したファンレスの小型デスクトップだ。Amazon.co.jpでの価格は25,999円。今回、CHUWIよりレビュー用サンプルが送られてきたので、試用レポートをお届けしたい。
コスパに優れたCeleron N4100搭載機
Celeron N4100は、Gemini Lakeのコードネームで知られるプロセッサだ。もともとAtom系列のアーキテクチャ流れを汲んでいることもあり、低消費電力と低発熱を特徴とし、小型フォームファクタでも比較的容易にファンスを実現できる。本製品はこのCeleron N4100の特徴を活かし、小型フォームファクタながらファンレスを実現している。
本機はこのCeleron N4100をベースに、メモリ8GB、ストレージにIntelの180GB SSD、OSにWindows 10を搭載している。安価なPCにありがちなメモリ/ストレージ容量の削減が行なわれていないため、複数のアプリケーションを同時に立ち上げて使用したり、Windows 10の大型アップデートが来ても安心できる、実用性の高いスペックに仕上がっていると言える。
ちなみに同様にCeleron N4100を採用した小型デスクトップとして、ECSの「LIVA Z2」シリーズが挙げられる。こちらの一例として、メモリ4GB/ストレージ64GB/OSにWindows 10 Home Sモードを搭載した「LIVAZ2-4/64-W10(N4100)S」の実売価格は28,980円となっている。HeroBoxはこれよりも安くスペックが高いので、コストパフォーマンスはかなり高いと言ってもいいだろう(ただしLIVA Z2はメモリを増設可能なベアボーンである)。
さて実製品を見ていこう。箱はCHUWIのご多分に漏れず、飾りっ気のないシンプルな茶箱に入っている。本体のほかに付属品はACアダプタ、VESAマウンタとネジ8本(2種類×4本)、説明書と至ってシンプルだ。ちなみに、編集部に来たサンプルは、発送された倉庫の関係からPSEマークなしのACアダプタで、プラグがCタイプだったが、日本のAmazonで販売する分に関してはACアダプタがPSEのマーク付き、プラグがAタイプになる。
本体は多角形を用いた、ゲーミングライクなデザイン。前面には電源ボタン、USB 3.0×3(うち1基はType-C)、microSDカードスロット、背面にはリセットボタン、DC入力、ミニD-Sub15ピン、HDMI出力、Gigabit Ethernet、USB 2.0×2、3.5mmヘッドフォン出力を搭載する。このご時世にわざわざミニD-Sub15ピンを用意しているのは、古いPCのリプレースを考慮してのことかもしれない(かなり少数派だろうが)。
シャーシはプラスチック製だが、周囲に金属製とみられるフレームがあり、そこそこ高級感がある。シャーシとフレームのあいだにギザギザが見え、一見ヒートシンクに見えるのだが、プラスチックのためそのような機能はない。その代わり、目立たないが、くぼんだ部分が穴となっており、熱によって発生する自然対流で、内部の空気を逃がす仕組みとなっているようだ。
付属するACアダプタは12V/2A出力とやや大きめだった。本機は省電力設計を採用しているため、消費電力を10W未満に抑えているという。よって、24W出力できるACアダプタは、明らかにオーバースペックだ。いっそのこと5V/2.4AのMicro USBか、5V/3A程度のUSB Type-Cの給電で稼働させればよいのに、と思わなくもないが、そこはコストとの兼ね合いがあったのかもしれない。
2.5インチHDD/SSDを増設可能
本体は底面から分解して内部にアクセスできる。まずは内側に見える6本のネジを外すと、2.5インチベイにアクセス可能。先述のとおり、本機はすでに180GBのSSDを備えているため、Celeron N4100の使用用途から想定される日常利用ではさほど困らないとは思うが、たとえばストレージを増設して、ファンレスの簡易小容量NASとして使いたい場合も、これで対応できるだろう。
この2.5インチベイ部にある4本の黒いネジと外枠の2本のネジを外すと、底面カバーを外してマザーボードにアクセスできる。マザーボードは4点ネジ留めとなっており、これも外せばマザーボードを取り出せる。この状態で、M.2 SSDを換装可能だ。
ちなみに試用機に使われていたSSDは「Intel SSD Pro 5400s」シリーズの180GBモデル。M.2形状だがSATA 6Gbps接続だ。コントローラはIntelロゴ入りのSilicon Motion製、NANDはSK hynix製。市販はされておらず、めずらしい選択肢だと言える。
メモリはSamsungの「K3RG2G2 QBMMGCJ」が使われている。こちらは1チップで4GBの容量を実現したLPDDR4だ。本機ではこれを2チップ搭載することで8GBの容量を実現している。基板上にはeMMC用と思われるパターンもあるが、部品は未実装だった。
プロセッサ用の電源制御ICは、ロームの「BD2670MWV」が使われている。もともとApollo Lake向けに開発されたチップのようだが、Gemini Lakeにも利用できるようだ。プロセッサが要求する全電源系統を8mm角のチップ1つに集約しているため、周辺の部品点数を38%、実装面積を33%削減できるという。そのため本機も電源部は比較的シンプルである。
ユニークなのは、ミニD-Sub15ピンの出力を実現するために、Analogix製のDisplayPort 1.2→アナログRGBコンバータの「ANX9833」が使われている点。筆者としては、むしろDisplayPortをそのまま出力する実装してくれたほうがありがたかったが、あえてこの部品を採用してミニD-Sub15ピンに変換しているということは、どこかの市場のニーズへの対応なのかもしれない。
また、基板上にマイクを装備しているため、別途マイクが不要なのも面白い。おそらくCortanaの利用を考慮しての実装だと思われるが、放置しておくボイスチャットや電話会議用マシンとしても利用できそうだ。
このほかGigabit EthernetのトランスフォーマーにはJWDの「SG24301G」を採用。SDカードコントローラはRealtekの「RTS5170」(USB 2.0接続)、オーディオコーデックにはRealtekの「ALC269」、無線LANモジュールにはIntelの「3165D2W」、スーパーI/OにはITEの「IT8987E」が使われている。
ヒートシンクは、単純な厚めのアルミ板であったが、Celeron N4100の放熱には十分。PCMark 10ベンチマーク中のCPU最高温度は77℃で頭打ちとなった(室温19℃の環境)。
内部は、ポート部に静電気対策用と思われる導電性のテープが貼られていたり、無線LANモジュールとアンテナ部のコネクタに補強用のボンドが入っていたりと、堅牢性にも配慮した丁寧な作りで好感が持てる。
メモリもストレージも十分だが、性能に過度な期待は禁物
それではベンチマークで実際の性能を見ていこう。本機は標準でWindows 10 Home 1903がプリインストールされているが、1月9日時点までのすべてのパッチを当て、1909にアップグレードしたうえでベンチマークした。液晶にはアイ・オー・データ機器の「EX-LDGCQ271DB」(WQHD)を接続してテストしている。
比較用に、同じCeleron N4100を搭載したCHUWIの「MiniBook」(Celeron N4100搭載版)、およびGPDの「GPD Micro PC」の結果を追加してある。
機種名 | HeroBox | MiniBook(N4100) | GPD Micro PC |
---|---|---|---|
CPU | Celeron N4100 | Celeron N4100 | Celeron N4100 |
メモリ | LPDDR4-2133 4GB×2 | LPDDR4-2133 4GB×2 | LPDDR4-2133 4GB×1 |
ストレージ | SATA SSD 180GB | eMMC 128GB | SATA SSD 128GB |
OS | Windows 10 Home 1909 | Windows 10 Home 1809 | Windows 10 Home 1803 |
PCMark 10 score | 1,855 | 1,727 | 1,519 |
Essentials | 5,068 | 4,617 | 4,177 |
App Start-up Score | 5,389 | 4,543 | 4,519 |
Video Conferencing Score | 5,202 | 4,801 | 3,846 |
Web Browsing Score | 4,644 | 4,515 | 4,196 |
Productivity | 2,781 | 2,784 | 2,309 |
Spreadsheets Score | 2,936 | 3,159 | 3,036 |
Writing Score | 2,635 | 2,454 | 1,757 |
Digital Content Creation | 1,231 | 1,090 | 987 |
Photo Editing Score | 1,441 | 1,060 | 1,028 |
Rendering and Visualization Score | 805 | 832 | 679 |
Video Editing Score | 1,611 | 1,470 | 1,381 |
3DMark | |||
Fire Strike | 436 | 428 | 321 |
Graphics score | 468 | 466 | 355 |
Physics score | 3,578 | 3,900 | 2,711 |
Combined score | 155 | 146 | 106 |
Sky Diver | 1,725 | 1,345 | 1,183 |
Graphics score | 1,615 | 1,228 | 1,108 |
Physics score | 2,765 | 3,292 | 2,313 |
Combined score | 1,638 | 1,154 | 966 |
Cloud Gate | 3,354 | 3,432 | 2,515 |
Graphics score | 3,845 | 3,768 | 2,795 |
Physics score | 2,318 | 2,617 | 1,863 |
Ice Storm Extreme | 15,683 | 17,104 | 12,341 |
Graphics score | 14,293 | 15,119 | 11,500 |
Physics score | 23,779 | 30,473 | 16,589 |
ドラゴンクエストX ベンチマーク | |||
最高品質(仮想フルスクリーン、1,920×1,080ドット) | 1,130 | 1,129 | 1,338(720p) |
標準品質(仮想フルスクリーン、1,920×1,080ドット) | 1,409 | 1,428 | 1,838(720p) |
Cinebench R20 | |||
CPU | 471 | 553 | 未計測 |
HeroBox | - | MiniBook(N4100) | GPD Micro PC | |
---|---|---|---|---|
バージョン7.0.0 UWP x64(1GiB/1回) | バージョン6.0.1 UWP x64 (500MiB/1回) | |||
Seq1M Q8T1 Read | 556.08 | Seq Q32T1 Read | 139.6 | 551.2 |
Seq1M Q1T1 Read | 439 | 4KiB Q8T8 Read | 18.85 | 18.85 |
RND4K Q32T16 Read | 297.07 | 4KiB Q32T1 Read | 18.15 | 140.2 |
RND4K Q1T1 Read | 14.25 | 4KiB Q1T1 Read | 11.93 | 11.93 |
Seq1M Q8T1 Write | 390.46 | Seq Q32T1 Write | 117.8 | 173.6 |
Seq1M Q1T1 Write | 346.69 | 4KiB Q8T8 Write | 14.18 | 174.1 |
RND4K Q32T16 Write | 299.81 | 4KiB Q32T1 Write | 15.52 | 109.3 |
RND4K Q1T1 Write | 49.82 | 4KiB Q1T1 Write | 12.92 | 57.06 |
OSのバージョンとベンチのバージョンが異なるため、厳密には公平な比較ではないが、HeroBoxはおおむね良好なスコアを残した。ストレージがIntel製であることによるアプリ起動速度の優秀さに加え、メモリがデュアルチャネルのため、GPD Micro PCのようにとくにGPUを中心としたプロセッサのフル性能が引き出せないといった状況を回避しているためと思われる。
ただ、普段メインストリームクラスのPCを使い慣れているユーザーからして、HeroBoxは「快適」だと言えない部分もあるのは確かだ。たとえばWebブラウジングをするだけにしても、動画コンテンツが入ってくると若干もたつくし、YouTubeで「ビデオを全画面表示」のボタンを押しただけでも、1秒ほど待たされる。また、裏でWindows Updateが走っていたりすると、OS全体のレスポンスがかなり悪くなる。このあたりは、たとえCoreプロセッサの最下位と比較しても、体感差として現れやすい。
もちろん、本機を購入する大半のユーザーはその差を理解していると思うが、「メモリ8GBでストレージ180GBだから、サブ機としては十分だぜ!」と思って購入すると、思いのほか性能のギャップがあることに面食らうかもしれない。
用途いろいろ。スティックPCの代わりにも
先述のとおりHeroBoxの性能は限定的だが、ファンレス、2.5インチベイでストレージ拡張可能、そしてマイク内蔵と、ユニークなポイントが多く、サブ機にならずとも用途はかなり広い。
たとえば、一時期流行った“スティックPC”に比べれば明らかに高性能で、実用的だと感じた。スティックPCのファンレスモデルは静かだが、性能が低くストレージ容量も限界があったため、買ってみて数カ月間使ったものの、度重なるWindows 10のアップデート作業に疲れ、結局今は運用していないユーザーも少なくないはずだ。
一方、ファンつきモデルはある程度高性能だが、思いのほかうるさく、常時起動しておけず結局運用を諦めたユーザーもいると思われる(かくいう筆者もその1人)。よって、本機はそれらの代わりとなる可能性を秘めている。もちろん、スティックPCより設置スペースが必要だが、大画面TVの近くならHeroBoxが置けるスペースは十分にあるだろう。
また、2.5インチストレージが内蔵できるのを利用し、いま比較的安い大容量のSSDと組み合わせ、簡易な無音NASとして利用するのも良い。本機はWindowsのほかにLinuxのサポートも謳われているため、スキルのあるユーザーはNASを構築してみるのも一興だ。ちなみに筆者は、レトロゲームをいろいろインストールしてプレイするマシンとしての活用を考えている。