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深遠なる黒!! 富士通の4K HDR有機ELノートPCで、映画や音楽を思い切り楽しんでみた

有機ELディスプレイ搭載でHDR対応の「AH-X/D3」で映画を視聴

 富士通クライアントコンピューティング株式会社(FCCL)から、15.6型ノートPCの新モデルとして発売された「AH/D3シリーズ」(税別直販価格13万円弱から)。その最上位モデルの「AH-X/D3」(同25万円前後)は、なんと有機ELディスプレイを搭載している。もちろん、解像度は4K(3,840×2,160ドット)でHDRにも対応。VESAの定める有機ELパネル向けHDR対応認証規格「DisplayHDR 500 True Black」をクリアしている。

 CPUはCore i7-9750H(6コア/12スレッド、2.6~4.5GHz、UHD Graphics 630)で、メモリは8GB。ストレージは1TB NVMe SSDと、かなりのハイスペックとなっている。光学ドライブは、UHD BDとBD XLに対応したBlu-ray Discドライブで、スーパーマルチドライブ機能もサポートする。

 そして、スピーカーはオンキヨーと共同開発したステレオスピーカーを内蔵し、ヘッドフォン出力はハイレゾ音源に対応。このように、UHD BDソフトの再生をはじめ、多彩な動画配信サービス、ハイレゾ音源や音楽配信サービスを高画質、高音質で楽しめる強力なAV機能を備えたモデルだ。

スピーカーはディスプレイとキーボード面と間にある
UHD BD対応の光学ドライブを搭載

 昔に各社が販売していた“テレパソ”や“AVパソコン”とは少々異なるものの、かなりAV用途を強化したモデルとなっている。そんなAV機器としての実力を検証するため、筆者に声がかかった。というわけで、ここではAH-X/D3のオーディオ・ビジュアル機器としての実力をチェックしていく。

画面は高精細。人感センサーで有機ELの焼き付きを防止

AH-X/D3

 外観は普通のノートPC。しかし、画面が黒い! 筆者の自宅に届いたコンパクトな梱包を開けてみると、AH-X/D3が姿を現した。見た目は今風のノートPCだ。サイズ感としてはA4ファイルサイズという感じで、よりコンパクトで軽量なモデルが主流となったいまではやや大きめに感じる。

 インターフェイスとしては、USB 3.1 Type-C、USB 3.0×2、USB 2.0、HDMI出力、マイク・ラインイン/ヘッドフォン・ラインアウト兼用端子(3.5mmステレオミニ)、Gigabit Ethernet、IEEE 802.11ac無線LAN、Bluetooth 5.0などで、このほかにSDカードスロットも備える。ノートPCとしてはかなり充実した装備だ。

天板はグレーよりもネイビーブルーに近い
底面は革素材風に仕上げてある
左側面
右側面
無線マウスが付属
ACアダプタは大きめ。出力は約100Wだった
LEDを使った無線LANの状態などの通知機能
Webブラウザや独自のサポートユーティリティなどを立ち上げるショートカットボタン

 4K解像度の画面はなかなか精細だし、非常に色が豊かな印象だ。これはもちろん有機ELパネルの実力だ。画面に顔がくっつくくらいに近づいても画素が見えないし、カメラのレンズで拡大してみると、有機EL TVとは画素配列などが異なっていることがわかる。

 有機ELパネルの製造メーカーは明かされていないが、15.6型というサイズからも薄型TV用パネルとは違う、スマートフォンやタブレットなどで使われている中〜小型パネルを大画面化したものだろう。発色の良さ、コントラスト感の良さは有機EL TVとほぼ同様の印象だ。PC用のディスプレイとしては、応答速度が速いので残像感が極小というのも大きな特徴になるだろう。

壁紙のチューリップにマクロレンズで寄ってみた。高精細なためプリントされた写真のように見える

 ただし、アイコンや文字の表示は、ドットバイドットの表示では小さすぎて見るのがつらい。出荷時の設定ではアイコンや文字を250%の拡大表示になっていた。これでフルHD画面のモデルに近い感覚で使える。動画や画像の表示などはドットバイドットで表示できるので、UHD BD再生や高解像度フォトの表示なども問題なく行なえる。

 キーボードもテンキーつきのフルキーボードとなっている。ストロークは浅めながらもカチっとした感触があり、使い心地は良い。たくさんのキーが筐体の横幅一杯に詰まっている感じはあるが、狭苦しい感じはなかった。AVに強いノートPCとは言っても、一般的な作業などもしっかりとこなせるだろう。

キーボードはホワイトLEDで光る

 大きく印象が異なるのが、黒基調となったUI(ユーザーインターフェイス)のデザインだ。これは、出荷時の設定で黒基調のものが選ばれており、OSの設定で一般的なデザインに切り替えることもできる。黒を主体としたデザインは、いかにもAV用途の機器のようで好ましく感じた。

 実際は、同じ画面を長時間表示していると焼き付きという現象が起こりやすい有機ELの特性に合わせたデザインだ。しかも、ディスプレイに内蔵されたカメラなどを使った人感センサーを備えており、人が画面に向かっていないときはディスプレイ照度を最低に落とし、画面の前に人が戻ると照度を復帰させる機能も持っている。

ディスプレイの上部にあるカメラ。人感センサーもあり、人がいないとディスプレイの照度を自動的に下げる

 こうした工夫で、有機ELの焼き付き対策が施されている。もちろん、これで焼き付きの心配はなしというわけではないが、少なくとも電源を入れっぱなしのまま放置してしまうような、ついついやってしまいそうなミスは防げるだろう。

設定を呼び出し、ディスプレイ周りの設定を表示したところ。ウィンドウの表示は黒地に白文字の表示となる

 ディスプレイとサウンド周りの設定を確認してみたが、HDRにきちんと対応し、HDR表示とSDR表示での画面の明るさの調整なども行なえる。サウンドの設定では、内蔵スピーカーとヘッドフォン出力についての設定ができ、OSが備える立体音響「Windows Sonic for Headphoe」も選べる。

サウンド周りの設定画面。設定項目などはWindows 10のもので配色以外は同じだ
Windows HD Colorの設定。ディスプレイのHDR対応の状態がわかるほか、HDR使用の切り替えができる
Windows HD Colorの設定2。HDR10映像は、での映像の見え方を調整できる
Windows HD Colorの設定3。SDRコンテンツの見え方の調整。明るめの映像と暗めの映像でどちらも見にくくならないようにする。

ハイレゾ音源の音楽再生でスピーカーとイヤフォンを試す

オンキヨーと共同開発したスピーカーを搭載している

 まずは内蔵スピーカーおよびヘッドフォン出力の音質をチェックしてみた。ハイレゾ音源を保存したUSBメモリをセットし、エクスプローラーからファイルをダブルクリックすると、「Grooveミュージック」が起動した。これが出荷時の設定だろう。再生アプリは好みもあるので、自分がこれまでによく使っているアプリをインストールして使ってもいい。

Grooveミュージックの設定画面。音楽再生に関する各種の設定が行なえる
再生中の画面。画面はシンプルで、下部にはプレイリストが表示される構成。こちらもOSに合わせた画面デザインだ。

 「ゴジラ : キング・オブ・モンスターズ」のサントラ(48kHz/16bit FLAC)を再生してみると、さすがに低音の伸びは不足するものの、個々の音はクリアで帯域バランスも整っている。オンキヨーと共同開発したスピーカーの出来も良いが、AH-X/D3にはDiracの音質補正技術も盛り込まれている。

 Diracをよく知らない人もいるかもしれないが、スウェーデンの音響技術会社で、モバイル機器や自動車、劇場などの音響設計や調整のためのソリューションを提供している。自動車ではBMWやベントレー、ボルボ、ロールスロイスといったメーカーに技術提供をしているし、プロオーディオの世界でも、日本のパイオニアをはじめ、データーサットやバルコ、dtsといった業務用映像機器メーカー、セータデジタルやアーカム、ストームオーディオといった海外のオーディオメーカーにもその技術が採用されている。とくにコンシューマ向けの技術では高精度な音響補正技術が注目されており、周波数特性を整えるだけでなく、位相特性までも補正する技術を持つ。

 こうした優れた補正技術を組み合わせることで、キーボードの上にあるスピーカーから音が出ている感じはなく、画面から音が出ているような自然なステレオ音場を実現している。音質的にもクセっぽさはないし、オーケストラによる力強い演奏もきめ細かく再現するし、男性のパワフルなコーラスやかけ声も、力強く響く。

 このほか、女性ボーカルも透明感のある高音域を澄んだ音色で聴かせてくれるし、発音も明瞭だ。ハイレゾ音源などを存分に楽しむならば、よりしっかりとした外部スピーカーなどを組み合わせたほうがいいのは当然だが、内蔵スピーカーとしては十分な実力だと思う。

 なお、さまざまな音源で試してみたが、出荷時設定の「Grooveミュージック」では、192kHz/24bitのWAV、FLAC音源の再生まで可能だった。一方で、DSD11.2MHz音源の再生はできなかった。DSD11.2MHz音源は流通するソフトの数も少ないのであまり気にする必要はないが、そういった音源まで幅広く再生するならば、対応する再生アプリを新規に追加しよう。

イヤフォン端子は本体の右側面に用意されている

 続いてはイヤフォン出力だ。テクニクスのEAH-TZ700をつないで聴いてみたが、「ゴジラKOM」の雄大な低音もなかなかしっかりと出る。S/N比も優秀でオーディオ出力周りの回路もきちんとした出来であることがわかった。

 イヤフォン出力ならば、映画などのサラウンド音声を立体音響(ヘッドフォン用バーチャルサラウンド)で聴けるので、迫力ある音も含めてヘッドフォンやイヤフォンを使えば、より本格的な音で楽しめる。

UHD BDで視聴

内蔵光学ドライブに「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」の国内版UHD BDをセット。最新のUHD BDソフトも再生可能だ

 今度はいよいよUHD BD再生だ。ここではUHD BD版の「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」を再生してみた。本作はHDR10のほか、ドルビービジョンにも対応したソフトだが、本機はドルビービジョンには非対応なので、HDR10方式での再生となる。ドルビービジョン非対応というとやや物足りないかもしれないが、UHD BDソフトでの標準はHDR10方式で、HDR10に対応していれば必ずUHD BDソフトはHDR再生ができるのであまり心配はいらない。

Corel WinDVD UHD BDの画面。再生時の操作などは下部に表示されるコントロールパネルで行なう
アドバンス設定では、オーディオ/ビデオの設定が行なえる。オーディオでは、ヘッドフォンまたはスピーカーが選択可能。接続機器によってはサラウンド出力もできる
アドバンス設定のビデオでは、画質に関する設定が行なえる。ただし、UHD BDの再生時には操作ができなかった
Corel WinDVD UHD BDの環境設定。オーディオ/ビデオの再生時設定やハードウェア支援機能の使用を選択できる
Corel WinDVD UHD BDの環境設定。全般の項目では、プレーヤーとしての動作設定などを選択できる。

 再生はプリインストールされたDVD/BD再生アプリの「Corel WinDVD UHD BD」を使用した。UHD BD対応の光学ドライブは、ディスク読み込み時の動作音やシーク音は少々耳につくが、再生がはじまってしまえば回転が安定し、ノイズは小さくなる。

 ただ、PC内のファンノイズと同レベルなので、気になる人もいるかもしれない。ディスクドライブも冷却のためのファンノイズも音量自体は小さいのだが、多少動作音が少々高周波成分を多めに含んでいるので耳につきやすい。このあたりは、ノートPCとしては十分な静粛性だと思うし、これ以上の静粛性は難しそう。気になる場合はヘッドフォンなどを使うといいだろう。

 再生がスタートすると、画面が消え失せる。視聴時に部屋を真っ暗にしているせいもあるが、本編スタート直前の黒画面がまったく見えない。そこに、映画会社のロゴマークが浮かび上がる。こうした吸い込まれるような真っ黒の再現は有機EL TVでは見慣れているが、ノートPCの画面で黒がまったく光らないというのは、また違った驚きがある。

UHD BDを再生している状態。上下の操作バーの表示は再生操作中のみ表示され、操作を終えると自動で消える

 映画の序盤で、ゴジラを追跡していたモナークの面々が海底基地でゴジラと遭遇するが、暗闇に近い海底で、奥からゴジラが姿を現す場面が迫力たっぷりだ。ゴジラのクローズアップも、黒一色のゴツゴツした体表が立体的に描かれ、その奥に光る眼光の鋭さがより迫力を増す。

 「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」は暗いシーンが多く、暗部の再現性がよくないディスプレイだと見にくいことも多いのだが、本機の黒の再現や暗部の階調性は見事なものだ。とてもノートPCの内蔵ディスプレイとは思えない。15.6型のサイズは決して大画面とは言えないが、映像の密度が高いのでぐいぐいと画面に寄って見たくなってしまう。

 ちょっと気になったのは、キーボードのLED照明だ。映画鑑賞など、全暗の環境で使うときにLED照明はありがたい。暗いシーンは本当に真っ暗になるので、キーボードの文字が見えないからだ。しかし、再生中も照明がつきっぱなしなのはちょっと困った。確認してみると、[Fn]+[Space]キーでLED照明のオン/オフができるのがわかった。これならば、必要なときだけキーボードのLED照明を使えるので、映画鑑賞などでは存分に活用してほしい。

キーボードのLED照明は[Fn]+[Space]キーでオン/オフできる

 もう1つ気になったのは、プリインストールされた「Corel WinDVD UHD BD」では、再生中に画質調整などが行なえないこと。とくにHDRの作品では、作品ごとに明るさやコントラストなどを調整しないと見えにくいことがある。それに対応できないのは少々気になる。これは有償の製品版などにアップグレードすれば、使えるようになるかもしれない。

 とはいえ、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」については、暗いシーンでの黒の再現性や階調表現で不満を感じることはなかったし、キングギドラが稲妻のような光線を発するときの輝きもHDRらしい高輝度感が表現されていた。ソフト側、あるいはOS側で輝度やコントラストを自動調整していると思われるが、特に不満は感じなかった。AVマニア的には画質調整機能が使えないと心配にはなるが、それほど気にしなくても、十分に良好なバランスで最適な映像が楽しめるようになっている。

 「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のほか、暗いシーンの多いタイトルもいくつか見てみたが、いずれも暗部の再現性などはしっかりとしていた。このあたりは、「DisplayHDR 500 True Black」の規格がしっかりとしており、ソフト側での対応がしやすいのかもしれない。

 有機EL TVと比較した印象では、黒の再現性や暗部の階調性の差はほとんど感じない。昼間の明るいシーンでの画面全体の明るさ感がやや不足するようにも思うが、画面自体が小さいのであまり気にならない。もちろん、明るい光の再現、晴れた空の太陽光なども真っ白にならず、うっすらとした青と強い太陽の輝きをきちんと描く。燃えさかる炎の赤やオレンジ、黄色、白といった色の変化もきちんと描いている。

 実際のところ、気になるのは絶対的なサイズが有機EL TVと比べれば小さいというくらいしか、不足を感じるところがなかった。逆に言うと、15.6型というサイズの有機EL TVは存在しないので、個室で映画を見るといった使い方には最適。

 あるいは、写真の加工やイラストレーションの作成など、アートワークで使いたい人にも適していると思う。フルキーボードなので操作性も不満はないので、HDR写真を含めて高解像度写真を現場でモニターでき、忠実度の高い画質で作業ができるというのは、プロやセミプロのカメラマンにとっては頼りになる道具と言えるかもしれない。

UHD BDだけじゃない! Netflixも4K HDRで楽しめる

 4Kコンテンツは動画配信サービスでも楽しめるようになっている現在、UHD BDの再生に対応するだけでは十分ではない。Netflixでの動画も試してみたが、4K ULTRA HDのコンテンツやHDRコンテンツの視聴ができた(4Kコンテンツが視聴できるプランの契約が必要)。

 Netflixのアプリ(薄型TVなどを含む)は、接続された機器や再生環境を把握しており、4K HDR対応の環境でないと、4Kコンテンツを選択できない。オーディオに関しても、5.1チャネルやDolby Atmos音声のタイトルは対応した環境でないと選べない。

 ここで、Netflixで4Kで配信されているタイトルを検索してみたが、いずれも、きちんと4KやHDRで再生できた。非対応なのはドルビービジョンのタイトルのみのようだ。また、音声も5.1チャネルはもちろん、Dolby Atmosも選択できた。ヘッドフォン再生によるバーチャルサラウンドが対応しているためだろう。

 これはもう、家庭用の機器で言えば、ほぼ最新鋭のホームシアター環境に匹敵する。AV機器としての機能性の高さを考えると、25万円からの価格が安いとさえ感じるほどだ。

「マルコ・ポーロ」の情報表示画面。この作品はドルビービジョンのタイトルなのだが、HDRタイトルとなっていた。音声は5.1ch
「ブレードランナー2049」の情報表示画面。こちらはULTRA HD 4Kで音声は5.1ch。新しい映画作品も4K画質で見放題というのはすごい
マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ出演で話題のNetflixオリジナル映画「アイリッシュマン」。こちらはHDRで、音声はなんとDolby Atmos

有機ELの採用で、新たな活躍の幅が広がったノートPC

 今回視聴したノートPCの「AH-X/D3」は、オーディオ・ビジュアル好きにはなかなか気になる製品だ。映画や音楽、写真などの鑑賞や制作・加工という使い方は、一般ユーザーにはぜいたくな用途かもしれないが、プロフェッショナル、セミプロにとってはかなり魅力的だし、用途を限定すれば有機ELの焼き付きの問題も最小限にできるだろう。

 ただ、WordやExcelで仕事もしつつ、たまに映画なども高画質・高音質で、となると焼き付きなどの心配は気になるところ。個人的には性能的にも十分なのでゲームを思い切り楽しみたいところだが、ゲーム用で使用するとなると焼き付きはかなり不安だ。

 このように、ユーザーをはっきりと限定するモデルだと思うが、それでもあえて有機ELディスプレイを採用モデルを発売したFCCLは大英断だと思う。こういうモデルが出てくることで、PCディスプレイとしての焼き付きの問題への対策も進むと思うし、有機ELパネル採用ディスプレイの投入が進む可能性がある。

 個人的にも、旅行や出張で持ち運ぶこともできるノートPCで有機EL画質を楽しめるこのモデルは、持ち運べるサブシステム的な意味で真剣に購入を検討してしまったほど。非常に個性的で、注目度大のモデルだと思う。