Hothotレビュー
4万円台からの8型UMPC、「CHUWI MiniBook」を試す
2019年6月28日 11:00
GPD Technologyの「GPD Pocket」を筆頭に、中国のメーカー間で近年再び盛り上がるUMPC市場。ここに対し、コストパフォーマンスを追求したタブレットやPCの製造を得意とする老舗のCHUWIが参入する。その第1弾が、先日クラウドファンディングサイトのIndiegogoで出資を募りはじめた「MiniBook」だ。
MiniBookには2種類のSKUが用意される。1つ目はベーシックモデルで、SoCにGemini Lakeで知られるCeleron N4100を搭載し、メールアドレスを早期登録することで25%割引が適用され、399ドル(約44,000円)の出資で入手できる。もう1つはプレミアムモデルで、CPUにAmber Lakeで知られるCore m3-8100Yを搭載。こちらは499ドル(約55,000円)の出資で入手可能だ。いずれも台数限定で、前者は100台、後者は200台となっている。
今回、Celeron N4100を搭載したモデルを入手できたので、試用レポートをお伝えする。
サブにちょうどいいCeleron N4100モデル
GPD Technologyが2017年に投入した初代「GPD Pocket」は、SoCにAtom x7-Z8750を搭載し、5~6万円前後のお手軽価格でUMPC市場に新たな風を吹き込んだ。しかし2018年に入ってONE-NETBOOKが低価格な「OneMix」を投入すると、次モデルである「GPD Pocket 2」はCore m3プロセッサを搭載して高性能路線で差別化を図る。そして今年(2019年)、両社とも8型以上のモデルを相次いで投入し、実用性の高さを訴求するようになった。
GPDもOneMixも主力は8万円以上であるが、5~6万円の価格レンジ用にCeleron 3965Yを搭載したモデルを用意している。MiniBookはこの価格帯に入り込むかたちの製品となり、Celeron N4100搭載モデルが430ドル~449ドル(クラウドファンディング価格)、Core m3-8100Y搭載モデルが530ドル~599ドル(同)と、比較的お手軽だ。
いずれもクラウドファンディングでの価格とはいえ、製品発売時もほぼ同等の価格で提供されてきたCHUWIの過去の実績からするに、実売価格も大きな乖離はないだろう。そのなかでもCeleron N4100搭載モデルは5万円を切るのは確実であり、実用的なメインマシンよりも、趣味のサブマシンとしてほしいユーザーに受け入れられやすい価格帯だ。
サイズはOneMix 3に肉薄してしまうが、本機ならではの特徴も
気になるのは、製品の性格上もっとも近いと思われるライバルのOneMixシリーズとの差異だろう。そこで7型のOneMixと、8.4型のOneMix 3を並べて比べてみた。
7型のOneMixとの差異は明らかで、MiniBookのほうが二回りほど大きく見える。液晶は7型から8型へと大型化しており、画素密度はOneMixが323dpiであるのに対し、MiniBookは283dpi。同等のスケーリングにおいてはMiniBookのほうが大きく見える。実際、OneMixで200%のスケーリングを行なったさいのコンテンツの実寸は、MiniBookの175%スケーリングとほぼ同等だ(約161dpi相当になる)。
一方のOneMix 3と比較すると、奥行きはほぼ同じながら、幅は3mmしか違わない。これはOneMix 3のほうがアグレッシブに左右狭額縁設計を採用しているからである。ただ、狭額縁だからといってOneMix 3のほうがすべて優れているかというと、そういうわけではない。
まず、MiniBookの左縁にはWebカメラが埋め込まれている。よって、Webカメラを用いて知人と連絡するさいに便利だ。次に、MiniBookは主要なアルファベットキーで19mmというフルピッチを確保したキーボードを搭載しており、標準的なキーボードとあまり変わらない操作感を実現している点もポイント。さらに言えば、日本語配列モデルも用意しているので、国内のユーザーには嬉しいところだろう。
細かい点だが、MiniBookには180度以上開くと自動でタブレットモードに切り替わる(Continuum)センサーを搭載している。これもOneMixが2in1であるにもかかわらずシリーズを通して搭載してこなかった機能である。
さらに細かい使い勝手の面で言うと、MiniBookは画面上部のフチ部分にゴムを装着している点は評価したい。これによって画面を閉じたときもキーボードとのあいだにわずかな隙間が生まれ、キーボードに残った指の油脂が画面についてしまうことを防いでいるのだ。
また、8型ながらスピーカーがステレオである点にも驚かされる。音質自体はあまり良いとは言えないのだが、動画を再生するさいにしっかり本体中央から音が聞こえるのは違和感がなく良いと感じた。
ただ、いまのところペンについてのアナウンスはない。少なくとも試作機にはそのようなデバイスは見受けられず、実装される可能性は低い。よって、ペンを使いたいユーザーはいまのところOneMixしか選択肢がないだろう。
また、本機への充電はUSB Type-Cから行なえるものの、12V以上のUSB PDに対応する必要がある。実際の製品にも12V/2AのACアダプタが添付されていた。試しに5Vの電源につないでみたが反応はなかった。この点はGPD Pocket 2とOneMix 3に一日の長がある。
そのほかざっくり使ってみてわかった相違点を以下にまとめてみたので、合わせて参考にされたい。はっきり言って現段階ではどの機種も一長一短であり、決定打に欠けるというのが正直なところ。
機種 | MiniBook | OneMix 2S | OneMix 3 | GPD Pocket 2 |
---|---|---|---|---|
光学ポインタ | 特徴なし | Fn押下でスクロール | ポインタ自体が押下可能 | |
USB充電 | 12V以上 | 12V/2.5A以上 | 5V以上全対応 | |
スピーカー | ステレオ | モノラル | ||
指紋センサー | 電源ボタン組み込み | あり | なし | |
主要キーピッチ | 19mmフルピッチ | 16mm | 18.2mm | Q列:16.5mm/A列:17mm/Z列:15.5mm |
画面へのキーボード跡付着対応 | ゴム足 | くさび形の隙間 | なし | |
ファン静音モード | なし | あり | ||
M.2スロット | SATA(Celeron)/NVMe(Core m3) | なし | NVMe(Sは非搭載) | なし |
2in1機構 | タブレットへの移行を検知、キーボード自動無効化 | キーボード自動無効化 | キーボード自動無効化 | なし |
キーバックライト | デフォルトで常時オン、タブレット移行で自動オフ | なし | デフォルトでタッチ時に20秒間オン、タブレット移行でもオフにはならない | なし |
ペン対応 | なし | Goodix | Microsoft Pen Protocol | なし |
キーボードの完成度は随一
筐体デザイン的には、CHUWIの2019年モデルの全体的な共通のコンセプトを踏襲。ガンメタルの落ち着いた色合いをベースに、電源ボタンを赤いラインで囲む独特な雰囲気のものとなっている。天板はOneMixシリーズより丸みがあり、手によく馴染む。GPD PocketとOneMixを見てもとくに反応がなかった妻も、MiniBookには「かっこいい」という評価を下した。
さて本機で特徴的な主要部19mmフルピッチのキーボードだが、使い勝手がいい。GPD Pcoket 2のような各列が歪なキーピッチでもなければ、OneMix 2/3のようにQの列とAの列が半キーずらしの位置関係になっていることもない(つまり本来の位置関係である左から4分の1ずらしの関係に近い)。アルファベットの配列については、文句のつけようがない。実際にタイピングしていても、戸惑うことは一切なかった。
カギカッコなど一部の配列が数字から上の列に配置されているほか、「,」、「.」、「/」が詰められ、「;」と「"」がカーソルキーの上に配置されている点は、OneMix 2と共通している。この点は慣れが必要だろう。
やや気になったのは液晶の輝度調整ファンクションキーで、Fn+Tabが明るく、Fn+ミュートが暗く、なのである。つまり、“より明るく”が左側で、“より暗く”が右側なのだが、これは逆に配置すべきだろう。なんせその隣の音量調節が、左側が“より小さく”、右側が“より大きく”だから、なおさらだ。
ちなみにOneMix 3ではInsertキーを省いたが、MiniBookの英語配列モデルではPrintScreenが省かれている。筆者的には、省くならInsertにしてほしかったというのが正直なところだが、日本語配列モデルではPrintScreenは用意される(代わりに右Shiftを省略)。一方で、Q列とA列の位置関係保持のため、利用率がかなり低いCaps Lockキーを省いてFn+Aキーとしたのは、なかなかの英断だと思う。
キータッチはやや硬めだがしっかりとしたクリック感があり、タイピング音が比較的静かなのもいい。「GPD Pocket 2、OneMix 2、OneMix 3、MiniBookのなかでどのキーボードを選ぶか」と言われたら、筆者はMiniBookに手を挙げたいところだ。
先述のとおり本機にはマニュアルでファンの回転数を抑える機能はない。ただ、冷却機構がかなり洗練されているほか、Celeron N4100の温度上限が105℃と高いほか、そもそも発熱も少ないことから、ベンチマーク中でも温度が74℃がピークで、ファンの回転数が上がることはなかった。
よって、負荷時にファンの風切り音が大きくなって不快になることはなかったのだが、アイドル時でもファンの軸音が気になった。静かな部屋では、GPD Pocket 2/OneMix 2および3以上に気になる音質だった。ただ、筆者が入手したのは試作機のため、製品版では改善される可能性はある。
試作機ベースだが、重量は実測658gと公称の662gより若干軽かった。ちなみにOneMix 3は公称値が659gで、試作機の実測が670g。重量感的には両モデルであまり差異はないと言える。
デュアルチャネルメモリで期待以上の性能
最後にベンチマークを実施して性能を見てみたいと思う。先述のとおり今回入手したのはCeleron N4100モデルなのだが、実際のIndiegogoでの出資を見るかぎりCore m3-8100Yモデルのほうが人気のようだ。そちらは、性能的にはGPD Pocket 2に近いと予想される。
実施したベンチマークは「PCMark 10」、「3DMark」、「ドラゴンクエストX ベンチマーク、「CrystalDiskMark 6.0.1 UWP x64」、「CINEBENCH R20」。比較用にOneMix 3の結果と、以前計測したGPD Pocket 2(Core m3-7Y30搭載版)およびGPD Micro PCの結果を掲載する。
機種名 | MiniBook | OneMix 3 | GPD Pocket 2 | GPD Micro PC |
---|---|---|---|---|
CPU | Celeron N4100 | Core m3-8100Y | Core m3-7Y30 | Celeron N4100 |
メモリ | LPDDR4-2133 4GB×2 | LPDDR3-1600 4GB×2 | LPDDR3-1333 4GB×2 | LPDDR4-2133 4GB×1 |
ストレージ | eMMC 128GB | NVMe SSD 256GB | eMMC 128GB | SATA SSD 128GB |
OS | Windows 10 Home 1809 | Windows 10 Home 1803 | ||
PCMark 10 score | 1727 | 2670 | 2317 | 1519 |
Essentials | 4617 | 6157 | 4886 | 4177 |
App Start-up Score | 4543 | 7336 | 5033 | 4519 |
Video Conferencing Score | 4801 | 5705 | 5183 | 3846 |
Web Browsing Score | 4515 | 5578 | 4473 | 4196 |
Productivity | 2784 | 4889 | 4495 | 2309 |
Spreadsheets Score | 3159 | 6069 | 5413 | 3036 |
Writing Score | 2454 | 3939 | 3733 | 1757 |
Digital Content Creation | 1090 | 1718 | 1538 | 987 |
Photo Editing Score | 1060 | 2134 | 1873 | 1028 |
Rendering and Visualization Score | 832 | 1007 | 899 | 679 |
Video Editing Score | 1470 | 2360 | 2164 | 1381 |
3DMark | ||||
Fire Strike | 428 | 758 | 621 | 321 |
Graphics score | 466 | 836 | 699 | 355 |
Physics score | 3900 | 3168 | 3251 | 2711 |
Combined score | 146 | 268 | 204 | 106 |
Sky Diver | 1345 | 2484 | 2532 | 1183 |
Graphics score | 1228 | 2399 | 2480 | 1108 |
Physics score | 3292 | 3189 | 3028 | 2313 |
Combined score | 1154 | 2338 | 2334 | 966 |
Cloud Gate | 3432 | 4237 | 4007 | 2515 |
Graphics score | 3768 | 5600 | 5297 | 2795 |
Physics score | 2617 | 2288 | 2164 | 1863 |
Ice Storm Extreme | 17104 | 24133 | 14570 | 12341 |
Graphics score | 15119 | 23336 | 13629 | 11500 |
Physics score | 30473 | 27415 | 19216 | 16589 |
ドラゴンクエストX ベンチマーク | ||||
最高品質(仮想フルスクリーン、1,920×1,080ドット) | 1129 | 2631 | 1942 | 1338(720p) |
標準品質(仮想フルスクリーン、1,920×1,080ドット) | 1428 | 3243 | 2446 | 1838(720p) |
CrystalDiskMark 6.0.1 UWP x64 (500MiB/1回) | ||||
Seq Q32T1 Read | 139.6 | 1425.9 | 192.2 | 551.2 |
4KiB Q8T8 Read | 18.85 | 348.1 | 27.82 | 306.8 |
4KiB Q32T1 Read | 18.15 | 265.9 | 29.8 | 140.2 |
4KiB Q1T1 Read | 11.93 | 36.9 | 12.3 | 25.08 |
Seq Q32T1 Write | 117.8 | 420.3 | 116.1 | 173.6 |
4KiB Q8T8 Write | 14.18 | 297.5 | 53.79 | 174.1 |
4KiB Q32T1 Write | 15.52 | 197.7 | 53.76 | 109.3 |
4KiB Q1T1 Write | 12.92 | 73.29 | 37.69 | 57.06 |
Cinebench R20 | ||||
CPU | 553 | 531 | 未計測 | 未計測 |
結果を見ると、期待以上のスコアを残していることがわかる。さすがにNVMe SSD搭載のOneMix 3やSATA SSD搭載のGPD Micro PCほどストレージ速度が高速でないため、アプリの起動といった処理が遅いのだが、メモリがデュアルチャネルであることが奏して、ビデオや3Dグラフィックス周りで同じCeleron N4100を搭載するGPD Micro PC以上の結果を残した。
また、CPUの演算性能にスコアが左右される3DMarkのPhysicsテストやCinebench R20では、Core m3-8100Yを搭載したOneMix 3以上の成績を残している点にも注目したい。処理にもよるが、実コア2つで仮想4スレッドのCore m3よりも、実コアが4基存在するCeleron N4100のほうが高い性能を発揮する場面もあるわけだ。
MiniBookはメモリがデュアルチャネルとなっているため、Celeron N4100の性能をフルに引き出している。CPUのマルチコア絶対性能を重視するのであれば、MiniBookのCeleron N4100モデルも選択肢として入れておきたい。
気になるバッテリ駆動時間だが、高パフォーマンス電源設定、輝度50%、キーボードバックライトオフ、無線LANがオンの状態で、6時間36分駆動した。このクラスに共通して言えることだが、「1日の連続作業は厳しいが、外出先でちょっと使う程度ならまったく問題ない」レベルだと言えよう。
激化するUMPCの市場争い
もともとGPD一社が独占していたビジネス向けのUMPC市場だが、ONE-NETBOOK、TopJoy、そして今回のCHUWIの参入でいよいよ戦国時代に突入した。そのCHUWIのUMPCデビュー第1弾を飾るMiniBookは、UMPCの要であるキーボードについてよく研究されている印象がある。キーボード目当てでUMPCを選ぶなら、MiniBookはかなり有力な候補となる。
弱点は、8.4型のOneMix 3とあまり変わらないサイズと重量、そして5VのUSBで充電ができない点。これを除けば現時点でもっとも完成度の高いUMPCだと言える。
ちなみにMiniBookは日本向けのオリジナル構成として、メモリ16GB、ストレージが512GBの「ネオ版」がIndiegogoで用意されている。製品を入手するための最小出資額は英語キーボード配列が629ドル、日本語キーボード配列が630ドルだ。今回CHUWIより、この英語キーボード搭載ネオ版のPC Watch読者向けの10ドル割引適用URL(15台限定)を頂いたので、興味があるユーザーはぜひ検討してほしい。