Hothotレビュー

7万円ちょいのモバイル2in1としてヒット作の予感。10.8型「MiniBook X」を試す

CHUWI MiniBook X

 CHUWIの「MiniBook X」は、世界初となるパンチホールの10.8型ディスプレイを搭載したモバイル2in1だ。価格は619ドルで、日本円にして約7万1,000円となっている。なお現在、クーポンコード「MBX70」を入力すると70ドル引きとなり、549ドル(約6万4,000円)となる。今回サンプルを入手したので、レビューをお届けしたい。

 世界的な半導体不足に加え、近年中国のPCの品質が上がってきたこともあって、エントリー向けのCPUを搭載していても高価格化が進んでいる。また、UMPC自体も主流が5.5型~7型から8型~10型クラスへシフトしている。

 MiniBook Xは、先代にあたる「MiniBook」(Gemini Lake版)から価格も画面サイズも大きくなっていて、まさにこの市場の流れを踏襲しているわけだが、13~14型クラスと比べればまだまだ小さく、高性能化や大画面化は実用面でプラスに働くことが多く、気になっているユーザーは多いだろう。早速見ていこう。

競合製品が少ない10型前後のクラス

 10.8型というサイズは、いわば10型前後の類とはなるが、実はこのクラスの競合はほとんどない。有名なところで言えばパナソニックの「レッツノートRZ」シリーズと、One-Netbookの「OneMix 4」辺りだろう。ただ、実際にMiniBook Xを手にして「近いな」と感じたのは、レッツノートRZの方だった。OneMix 4はもう少し小さいからだ。

 ちなみにスペック上でのMiniBook Xの本体サイズは244×166.4×17.2㎜(幅×奥行き×高さ)となっており、レッツノートRZ8の250×180.8×19.5㎜(同)よりやや小さい。ただ重量は公称で899g、手元に届いた機材での実測は946gとなっており、これはRZ8の750g~780gと比べて重い。ファンレスで大型のヒートシンクを内蔵しているのに加え、アルミニウム合金筐体を採用しているゆえだろう。

【表】競合とのサイズ/重量比較
モデル本体サイズ重量
MiniBook X244×166.4×17.2mm899g(実測946g)
レッツノートRZ8250×180.8×19.5mm750~780g
OneMix 4227×157.3×11~17mm769g(実測772g)
本体重量は実測946g

 とはいえ、1㎏超えのモバイルノートと比べれば、まだまだアドバンテージはある。さすがに細身のメッセンジャーバッグには入らないが、女性が使う手提げかばんなら難なく入るサイズ。小型のノートPC、特にレッツノートRZシリーズのようなサイズが好みのモバイラーなら、しっくりくるサイズだとは思う。

 アルミニウム合金筐体を採用していることもあり、剛性は非常に高い。また、シャーシの加工精度もなかなかのものであり、天板、液晶面、キーボード面ともにエッジが効いている。パームレストのエッジもやや鋭利で、手のひらを置くと少し痛いが、この辺りは筆者手持ちのRazer Blade Stealthと共通で、デザインとのトレードオフだ。

本体天板はシンプルなデザイン
本体底面
天板のCHUWIロゴの主張がやや強い

2,560×1,600ドット表示の“気持ちいい”10.8型液晶

 本機に採用されている液晶は2,560×1,600ドット表示対応の10.8型で、左上にパンチホール式のカメラを備えている。また、四隅も丸められており、いわゆるタブレット用液晶のようだ。特に説明はないのだが、おそらくHuaweiの「MatePad Pro」のものと共通と思われる。発色は鮮やかで、動画再生や写真鑑賞用途ではかなり美しく映える。標準でスケーリングは200%などに設定されているが、100%に設定しても文字の可読性は高い。ノートPC全体で見ても、本機の液晶は高い水準にあると言えるだろう。

 気になる部分といえば、やはりパンチホールだろう。Androidベースの端末なら、パンチホールの部分は通知バーになっていて、メーカーが出荷時にパンチホールを避けるようOSをカスタマイズできるのだが、Windowsでは普通にデスクトップや、アプリのUIが表示されてしまう。

 結論から言えば、スケーリングが200%の状態なら、ほとんどパンチホール周囲部分の表示から、ある程度パンチホールの下に何が隠れているのか推測できる。150%でもギリギリOKだ。しかし、125%や100%の状態だとほぼわからず、アプリによっては、最大化した際に最左端のツールバーやメニューバーが隠れてしまう。当然、マウスカーソルもその下に隠れることになるので、操作が困難になる。

左上のパンチホール。Windowsでは考慮されないため、デスクトップにフォルダなどを配置できてしまう。ちなみにカメラから角の方にかけてはタッチセンサーも未搭載のようだ
四隅もラウンド形状となっているが、あまり気にならないだろう
スケーリングが150%以上だと問題はないが、100%などだとメニューやツールバーのアイコンがカメラの後ろに隠れることも

 せっかく見やすい高解像度ディスプレイを搭載しているので、筆者としては、アプリのウィンドウ最大化を避けつつ、デスクトップにはダミーフォルダかファイル、もしくはいっそ隠してもいいフォルダを置いておくことをおすすめするが、スケーリング150%でもこのクラスとして情報量は十分に高く許容範囲だと言えるので、好みに合わせてカスタマイズすることをおすすめしたい。

 ちなみに、本機の液晶は動画鑑賞に向くと述べたが、動画再生でパンチホールが邪魔にならないか気になるユーザーもいるだろう。結論から言えばその用途ではほぼ心配無用である。本機のアスペクト比は16:10なわけだが、YouTubeやNetflix、Amazon Prime Videoのコンテンツのほとんどは16:9より横長であり、パンチホール部分にかぶることはない。

 余談だが、液晶はデフォルトではポートレート表示のようで、ソフトウェアによって画面を回転させることでランドスケープ表示させている。加えて、解像度の下限は1,152×864ドットとなっており、1,024×768ドットや800×600ドット、640×480ドット表示はサポートしていないので、これらの解像度にしか対応していない古いゲームをプレイしようとすると、「DirectXを初期化できませんでした」といった類のメッセージを見ることになる。

2,560×1,600ドット表示対応でアスペクト比16:10の10.8型液晶。表示品質はかなり高い

よくまとまっているキーボードとタッチパッド

 液晶の美しさも素晴らしいのだが、キーボードとタッチパッドの使い勝手も上々だ。

 キーボードは、配列こそ英語なのだが、ファンクションキーが独立していて、Fnキーとのコンビネーションが不要である点は高く評価したい。特に日本語入力で、すぐにカタカナにしたい、すぐにアルファベットにしたいといった場合に有用だ。音引き(ー)もしっかり0の横にあり、大カッコ([と])もキーピッチこそ狭くなっているが「P」の横にある。本機を使い始めてすぐに慣れることだろう。

 キーピッチは17㎜確保されていて、小さいノートに慣れているユーザーならタッチタイプは難なく行なえる。配列が特殊ではないのでなおさら馴染みやすい。キーストロークはこのサイズにしてはかなり深めだ。キータッチはやや硬め、戻りがやや遅いといった印象だが、しっかりとしたクリック感があり、確実にタイピングできる。

 静音性も高く、静かな環境での利用でも気にならないだろう。さらに、キーバックライトも搭載されており、Fn+F5キーでバックライトオフ/暗/明の3段階に調整可能。暗所でのタイピングも十分に可能だ。小型PCの中では、トップクラスのキーボードの完成度だと思う。

キーボードは英語配列だがクセがあまりなく、小型ノートに慣れているユーザーならすんなりタッチタイプできる
キーピッチは約17mm確保されている

 一方タッチパッドはサイズこそ小さいのだが、滑りがとてもよく、長時間使っていても苦にならない。複数本の指によるジェスチャーもサポートしており、3本指を置くスペースも十分に取られている。入力回りについてはよく考えられている印象だ。

タッチパッドは約82.5×46mm(幅×奥行き)と、この画面サイズにしては頑張っている。表面の滑りはとてもスムーズ

 当然、液晶はタッチをサポートしているほか、別売りのMicrosoft Pen Protocolに対応した「HiPen H7」によるペン入力もサポートする点が特徴。HiPen H7は4,096筆圧レベルをサポートしており、単6形乾電池で駆動する。なお、単6形乾電池は入手性が悪いため、Micro USB充電に対応したHiPen H6を購入して使う手もある。

HiPen H7による入力。H7は単6形乾電池を利用するので、Micro USB充電のH6の方が便利に使えるだろう

インターフェイスは割り切りが必要

 本機のインターフェイスは、右側面にUSB 3.1 Type-Cを2基搭載している。このうち手前の1基は「フル機能搭載」とされており、ディスプレイ出力と充電、データ転送が可能。奥はディスプレイ出力はできないが充電とデータ転送は行なえる。ちなみにスペックにはないが、奥のポートは実測10Gbps、手前のポートは実測5Gbpsの転送が可能であった。

 なお、公称ではUSB PDにより最大45Wの給電に対応するとしているが、付属のACアダプタは12V専用で2Aで24Wなので、これでギリギリ賄える範囲といったところ。別売りのUSB PD対応ACアダプタ(最大100Wや65W対応品)での実測はほとんど25W前後で推移し、ピーク時に33Wに達した。本機のために45W対応タイプを買うのもいいが、このところ30W対応の小型USB PDのACアダプタが多くなっているので、それらを使えば、付属のものよりコンパクトに持ち運べ、十分に性能を発揮しつつ充電できるだろう。

右側面はUSB Type-C×2。うち手前の1基はディスプレイ出力も兼ねる。付属のACアダプタは奥の方に挿すよう指示している
付属のACアダプタは12V/2A専用のUSB Type-C。丸形コンセントへの変換プラグも付属

 ちなみに、左側面は3.5㎜ステレオミニジャックのみとなっている。つまり、本機には標準のUSB Standard-Aポートがないというわけだ。マウスなど使う場合は、必然的にUSB Type-Cに対応したものか、Bluetooth接続のものを選択することになる。もっとも、本機は画面タッチ、タッチパッド、ペン(別売りだが)の3種類に対応しているため、個人的にはあえて外付けのマウスを使わなくても十分だと感じた。

 構造的には液晶が360度回転する2in1であり、クラムシェルノートに加えタブレットとしても使える。液晶を180度以上開くとキーボードが無効になり、タブレットモードに移行することができる。Gセンサーも入っており、向きに応じて画面を回転させられる。

 この構造ゆえ、電源ボタンは右側面USB Type-Cポートの手前についている。2in1ではタブレット形状のまま使われることを想定しているため、キーボード面ではなく、側面電源ボタンを設ける設計自体さほど珍しくないかもしれないが、本機はデフォルトで押下後すぐにサスペンドに入ってしまう設定のため、「本体を持ち上げようとしたらサスペンドに入っちゃった」ということが試用中何度かあった。設計が難しいかもしれないが、レッツノート同様手前にあるとよかった。

液晶が360度回転し、タブレットとしても利用できる

 本機は底面に多くの吸気口、左側面に排気口のようなものを備えているが、ファンレス設計である。大型の銅製ヒートシンクの採用によって実現しているという。このため動作中は無音だ。静かなタイピング音と相まって、深夜家族が寝ている横での仕事や、図書館での利用も周囲に迷惑をかけることはないし、動画鑑賞などの際にノイズがないのはうれしいポイントだろう。余談だが、この通気口の構造なら、将来的にファン付きにしてCoreプロセッサを搭載した上位版も期待できそうだ。

左側面は3.5mmステレオミニジャックのみ。通気孔もあるが、ファンレス構造

 ファンレスで気になる熱だが、本体底面奥のほうに熱が集中している印象。Cinebench R23計測中に温度を計測したところ、表面温度はTとYキーの間が最高で41℃、底面が吸気口付近で48℃ぐらいあった。さすがに負荷継続状態では机に置いて作業すべきだろう。ただ、普段の作業をしている限りではそこまで発熱はしないし、例え負荷時でもパームレストに熱が下りてきて不快になることはないので大丈夫だ。

アイドル時のキーボード面の温度分布
アイドル時の底面の温度分布
Cinebench R23実行時(10分後)のキーボード面の温度分布。数字キー中央は熱くなるが、パームレストの温度上昇は抑えられている
Cinebench R23実行時(10分後)の底面の温度分布。通気孔付近は48℃を超えるが、それ以外は比較的穏やかな印象だ

Kaby Lake世代のCore m3に肉薄する性能

 最後に性能を見ていきたい。本機に採用されているプロセッサはJapser LakeのCeleron N5100で、4コア4スレッド、ベースクロック1.1GHz、最大のBurstクロックは2.8GHz。長年低価格ノートに使われていたGemini Lakeからアーキテクチャが大幅に刷新されており、クロックあたりの処理能力が向上している。加えて最大クロックもN4100の2.4GHzから向上しているので、性能は期待できる。

 そのほかのスペックは、LPDDR4-2400駆動のメモリが12GB、ストレージが512GBのSATA SSDなどとなっており、Celeron搭載PCとしては頭が一つ抜け出ている仕様となっている。一般的な用途で不満を覚えることはないだろう。

 今回はベンチマークとして「PCMark 10」、「3DMark」、「ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ オフィシャルベンチマーク」、「ドラゴンクエストX ベンチマーク」を利用した。比較用にCore m3-8100Yを搭載した8.4型UMPC「OneMix 3」を用意した。

MiniBook XOneMix3
CPUCeleron N5100Core m3-8100Y
メモリ12GB8GB
SSDSATA 512GBNVMe 256GB
液晶2,560×1,600ドット表示対応10.8型2,560×1,600ドット表示対応8.4型
OSWindows 11 HomeWindows 10 Home
PCMark 10
PCMark 10 score24172609
Essentials58146066
App Start-up Score60677279
Video Conferencing Score57795762
Web Browsing Score56065324
Productivity34254643
Spreadsheets Score30345265
Writing Score38674096
Digital Content Creation19251713
Photo Editing Score24092131
Rendering and Visualization Score12961011
Video Editing Score22862334
3DMark
Time Spy Score257300
Graphics score227265
CPU score10731245
Night Raid Score23813094
Graphics score28123399
CPU score12752054
Fire Strike Score757725
Graphics score830811
Physics score38762841
Combined score265250
Wild Life Score16721659
ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク
1,280×720ドット標準品質(ノートPC)24521764
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト
1,280×720ドット標準品質45624389

 まずはPCMarkだが、以前に西川氏がレビューしたY11 Plusと同様、従来のGemini Lake版Celeronの1,600~1,700台から大幅に向上し、2,417とOneMix 3に肉薄するスコアになった。各項目をより詳しく見ていくと、中でもProductivityのSpreadsheets Scoreが約半分程度で大差がついているが、Digital Content CreationについてはVideo Editing Score以外で勝っている。物理4コアあるCeleron N5100のほうが総合性能は高いが、1コアあたりの性能はCore m3に及ばないといったところだろう。

 その一方で3D周りの性能はCore m3とほぼ同等である。Celeron N5100に搭載されているGPUは最新のXeではないが、Ice Lakeと同世代のものとなっており、Core m3に搭載されているものより2世代新しい(Gen11)。16EUという限られた数ではあるのだが、Core m3に拮抗する性能が出せるのは評価に値する。もっとも、最新の3Dゲームをバリバリプレイできる性能ではない点は注意したい。

 実際の使用感としては、Core m3-8100Y搭載のOneMix 3に似ている。一般的なWebブラウジングやテキスト処理、画像処理ではそこまで不満を覚えることはない。ソフトウェアのインストールやWindows Updateの際に、やや遅さを感じる程度であった。

 なお、バッテリ駆動時間は、液晶輝度を30%に設定した状態で、PCMark 10のバッテリテストを実施したところ、残量5%になるまで3時間58分を記録した。公称の最大8時間とはやや乖離が大きいが、PCMark 10は実際の利用時間をほぼ反映しているため、実際も4時間前後の駆動になると思われる。もっとも、近年はカフェであってもコンセントを利用できるところが多くなっているし、先述の通り軽量なUSB ACアダプタを一緒に持ち運べば良いので、あまり問題にならないだろう。

愛着が持てるユーザーに最適

 冒頭で述べた通り、MiniBook XのライバルはレッツノートRZシリーズまたはOneMix 4だ。RZシリーズが既に終息になっていることを踏まえると、事実上OneMix 4だけがライバルとなる。OneMix 4は第11世代Coreを搭載しているため、MiniBook Xはそれと性能を比べると低く重量も100g以上重いのだが、その代わり価格も半分以下のため、性能はそこまで求めないが、コストパフォーマンスを追求するユーザーにとって良い選択肢だ。また、液晶がやや大きい分、キーボード配列にも余裕がある。全体の質感としても決して引けを取らず、外出先で十分威張れるデザインとなっている。

 MiniBook Xはコンパクトでありながら実用性が高いため、常に手元に置いておきたいデバイスとして愛着が持てる。7万円で購入できるサブマシンとしてはスペックも高く、十分頼りがいがある。この原稿もすべてMiniBook Xを使い、家や外出先で書いているのだが、特にストレスなく使え、出張でもこれ1台で記事の編集や執筆が任せられそうだ。パワーユーザーのセカンドマシンとしてヒット作になりそうな製品である。