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Snapdragon 850搭載のArm版Windows 10 2in1「Yoga C630」の使い勝手を検証

レノボ・ジャパン「Yoga C630

 レノボ・ジャパンは、CPUにSnapdragon 850、OSにArm版Windows 10を採用する2in1「Yoga C630」を、4月19日に発売した。LTEモデムを標準で内蔵し、常時接続が可能な「Always Connected PC」に対応するとともに、最大約18.6時間の長時間駆動を可能としており、優れたモバイル性能が特徴となっている。

 今回は、ハード面をチェックするとともに、Arm版Windows 10採用ということで、通常のWindows 10モバイルと比べてアプリ利用時の動作がどう違うのかもチェックしたい。すでに発売中で、実売価格は156,380円前後。

Yogaシリーズとしてオーソドックスなデザイン

 ではまず、Yoga C630の外観からチェックしよう。Yoga C630は、Arm版のWindows 10搭載2in1 PCだが、外観はIntel CPUが使われている通常の2in1とほぼ同等だ。

ディスプレイを開いて正面から見た様子。Yogaシリーズとしてオーソドックスなデザインだ
天板。Yogaのロゴもひかえめで、シンプルな印象
正面。高さは12.5mmと、2in1としてはかなりの薄型筐体となっている
左側面。ディスプレイを閉じた状態では、前方が斜めに切り取られたようなデザインとなっている
背面
右側面
底面。フットプリントは306.8×216.4mm(幅×奥行き)と、13.3型2in1PCとして標準的なサイズだ

 2軸ヒンジを採用し、液晶ディスプレイが360度開閉する、Yogaシリーズおなじみのスタイルの2in1だ。筐体はフラットで、ディスプレイを閉じた状態では前方が斜めに切り取られたシャープなデザインを採用。天板にはYogaのロゴが配置されているが、目立つものではない。筐体カラーはメタリック調のアイアングレーで、シックかつ落ち着いた印象となっている。Yogaスタイルということで、クラムシェル/スタンド/テント/タブレットの4形状で利用可能だ。

クラムシェルスタイルだけでなく、スタンド、テント、タブレットと4形状で利用できる

 サイズは306.8×216.4×12.5mm(幅×奥行き×高さ)。フットプリントは13.3型ディスプレイ搭載の2in1として標準的だが、12.5mmという薄さはなかなかのもので、薄いブリーフケースなどへの収納性に優れる。それに対し重量は、公称で約1.25kg、実測では1,190.5gと、やや重い印象だ。2in1ではクラムシェル型のモバイルPCに比べるとどうしても重量が増えてしまうが、できればもう少し軽量化を突き詰めてもらいたかった。

重量は実測で1,190.5g。もう少し軽いと、より魅力が高まったように思う

フルHD表示対応の13.3型液晶を搭載

 ディスプレイは、フルHD(1,920×1,080ドット)表示対応の13.3型液晶を搭載している。パネルの種類はIPS。視野角は十分に広く、クラムシェルスタイルからタブレットスタイルまで、どの形状でも申し分ない視認性が確保されている。

 発色は、ディスプレイ表面が光沢処理となっていることもあって、非光沢液晶に比べると赤などが鮮やかに表示されるという印象だ。広色域液晶に比べると全体的におとなしいが、このクラスの2in1としてほぼ標準的な発色性能で、写真の表示や映像コンテンツの視聴なども不満がない。ただし、光沢液晶ということで外光の映り込みはやや気になる。

フルHD表示対応の13.3型液晶を搭載。パネルはIPSで、十分広い視野角が確保されている
表面は光沢仕様となっており、鮮やかな発色を実現。ただ外光の映り込みは少々気になる

 2in1仕様ということで、ディスプレイ表面にはタッチパネルを搭載する。タッチパネルは10点マルチタッチに対応しており、軽快なタッチ操作が可能だ。

 また、Windows Ink対応のスタイラスペン「Active Pen」が付属しており、そちらを利用したペン入力にも対応している。2,048段階の筆圧検知をサポートするとともに、ペン先への追従性も申し分なく、軽快なペン入力が可能だ。ただし、ペンは本体に収納できないため、持ち運びが若干不便だ。

付属のスタイラスペン「Active Pen」。10点マルチタッチ対応のタッチ操作に加えて、このActive Penを利用したペン入力もサポートしている
Active Penは2,048段階の筆圧検知に対応。追従性も申し分なく、滑らかなペン入力が可能だ

キーボードは配列にやや難ありも打鍵感は良好

 キーボードは、キーの間隔が開いたアイソレーションタイプのキーボードを採用している。主要キーのキーピッチは約19mmのフルピッチを確保。ストロークは実測で1mmほどとかなり浅い印象だが、適度な硬さとしっかりとしたクリック感がある。

 個人的には、もう少しストロークが深く、柔らかめのキータッチが好みではあるが、ストロークの浅さのわりには打鍵感は良好で、まずまず軽快なタイピングが可能だった。また、キーボードバックライトも内蔵するため、暗い場所でのタイピングも快適だ。

アイソレーションタイプのキーボードを搭載
主要キーのキーピッチは19mmフルピッチを確保
ストロークは1mmほどと浅いが、適度な硬さとしっかりとしたクリック感で、打鍵感は良好だ
キーボードバックライトを内蔵しており、暗い場所でも快適なタイピングが可能

 ただ、一部キー配列にはやや疑問が残る部分がある。というのは、Enterキー付近やスペースキー左右など、一部キーがほぼキーの間隔を置かずに配置されているためだ。これは、英語配列のキーボードから、一部キーを分割して日本語化しているためと思われるが、それらキーの操作性にやや難ありという印象だ。

 実際に、BackSpaceキーを押したつもりが「¥」が入力されるといったことが何度かあった。また、カーソルキー上下の配置も気になる部分。このあたりは、慣れでどうにかなる部分かもしれないが、できればThinkPadシリーズのキーボードに近いものを採用してほしかった。

Enterキー周辺の一部キーは、英語配列をベースにキーを切り離して日本語化しているため、キーがすき間を置かずに配置されている点が気になる
スペースキー左右の無変換と変換キーも、スペースキーを分割して配置している

 ポインティングデバイスは、クリックボタン一体型のタッチパッドを採用。パッドの面積がかなり広く、ジェスチャー操作にも対応。Yoga C630ではタッチ操作にも対応しているため、タッチ操作と併用で、さらに軽快な操作が可能という印象だった。

ポインティングデバイスはクリックボタン一体型のタッチパッドを搭載。パッドは大きく、軽快な操作が可能だ

下り最大1.2GbpsのLTE対応ワイヤレスWAN機能を標準搭載しeSIMにも対応

 Yoga C630は、LTE対応のワイヤレスWAN機能を標準で搭載しており、常時接続が可能な「Always Connected PC」に対応している。

LTE対応のワイヤレスWAN機能を標準で搭載

 ワイヤレスWAN機能の通信速度は、下り最大1.2Gbps、上り最大150Mbps。実際の通信速度は、利用する通信キャリアによって変わってくるが、申し分ない速度を確保できると言っていいだろう。

 対応バンドは、FDD-LTEがBand 1/2/3/4/5/7/8/12/13/14/17/18/19/20/25/26/28/29/30/32/42/43/46/48/66、TDD-LTEがBand 38/39/40/41、WCDMAがBand 1/2/4/5/8。LTEの対応バンドが非常に多く、SIMロックフリーとなっているため、国内、海外いずれでも常時接続でのインターネットアクセスが可能だ。

 対応SIMはNano SIMで、左側面のSIMトレイに装着して利用する。実際に、NTTドコモのSIMを装着して利用してみたが、まったく問題なくデータ通信が可能だった。

左側面にSIMトレイを用意。対応SIMはNano SIMで、SIMロックフリーとなっている

 また、eSIMにも対応している。設定メニューを見ると、SIMスロットは「SIM1」と「SIM2」が選択可能となっており、SIM1がNano SIMスロット、sim2がeSIMとなる。

 eSIMでは、Windows 10の「モバイル通信プラン」に対応しており、日本ではKDDI、GigSky、Ubigiの3つの事業者のデータ通信サービスが選択できる。また、QRコードなどを利用してeSIMのプロファイルを手動で登録することも可能なので、そのほかの事業者のデータ通信サービスも利用可能だ。

Nano SIMだけでなく、eSIMにも対応。SIM2がeSIMとなる
eSIMはWindows 10の「モバイル通信プラン」に対応。日本ではKDDI、GigSky、Ubigiのデータ通信サービスが選択できる
eSIMのプロファイルは手動でも登録できる

CPUはSnapdragon 850を採用

 冒頭でも紹介しているように、Yoga C630はIntelやAMDなどのx86/x64ベースのCPUではなく、ArmベースのQualcomm製SoCであるSnapdragon 850を搭載している。

SoCにQualcommのSnapdragon 850を採用

 それに合わせ、OSはArm版Windows 10を採用。OSは出荷時にはSモードに設定されており、購入後に無償でSモードを解除してWindows 10 Homeに、また有償でWindows 10 Proへと変更可能となっている。メモリはLPDDR4X-3733を4GB搭載しており、増設は不可能。内蔵ストレージは128GBのUFS 2.1となる。

 通信機能は、先に紹介したワイヤレスWAN機能に加えて、IEEE 802.11ac準拠無線LAN(2×2)とBluetooth 4.2を搭載。センサー類は、ジャイロセンサー、加速度センサー、近接センサー、GPSを搭載する。

 外部ポートは、左側面にワイヤレスWAN用SIMカードスロットとUSB 3.0 Type-C、右側面にオーディオジャックとUSB 3.0 Type-Cをそれぞれ用意。USB Type-CはいずれもUSB PDに対応しており、付属ACアダプタなどを接続して給電および内蔵バッテリの充電が可能だ。USBはType-Cが2基のみだが、USB Type-A変換ケーブルが付属しており、そちらを利用すれば一般的なUSB機器も問題なく利用できる。

左側面にSIMカードスロットとUSB 3.1 Gen1準拠USB Type-C×1を配置
右側面にはオーディオジャックとUSB 3.1 Gen1準拠USB Type-C×1を配置。電源ボタンもこちらに配置している
USB Type-C Type-A変換アダプタが付属

 生体認証機能は、右パームレストに指紋認証センサーを搭載。このほか、ディスプレイ上部中央に720p対応Webカメラを搭載するが、こちらは顔認証機能には対応しない。

右パームレスト部に指紋認証センサーを搭載
ディスプレイ上部中央には720p Webカメラを搭載

 付属ACアダプタは、接続部がUSB Type-Cとなった、出力45WのUSB PD対応のものを採用。ACアダプタ自体のサイズはまずまずコンパクトだが、付属電源ケーブルがやや太いこともあって、電源ケーブル込みの重量は実測294.5gと重めである。

ACアダプタはUSB PD対応で、左右いずれのUSB Type-Cポートにも接続し利用できる
ACアダプタの重量は、付属電源ケーブル込みで実測294.5gだった

x86アプリも問題なく利用できるが、動作の重さを感じる場面も

 Yoga C630は、SoCにSnapdragon 850を採用している点が大きな特徴だ。そして、x86/x64ベースのCPUを搭載する一般的なWindows PCと比べて、性能面にどういった違いがあるのか、かなり気になる部分だろう。

 Yoga C630に採用されているWindows 10は、Snapdragon 850に内蔵されるArmベースCPUの命令セットに合わせた設計となっている。また、Yoga C630のArm版Windows 10は、標準ではSモードで動作しており、Microsoft Office Home & Business 2019などのプリインストールされているアプリも基本的にMicrosoft Store版となっている。

 とはいえ、Microsoft Store版のOfficeも、デスクトップアプリ版同様にデスクトップでウィンドウ表示で利用でき、複数のアプリも同時に利用可能なので、ブラウザやOfficeなどの利用だけであれば、意識しなければ通常のWindows 10とほぼ同様の感覚で利用できる。

プリインストールのMicrosoft Office Home & Business 2019はストアアプリ版だが、ウィンドウ表示で複数同時利用も可能なので、デスクトップアプリ版とほぼ同じ感覚で利用できる

 ところで、Sモードのままでは、ユーザーはMicrosoft Store経由で入手できるUWPアプリしか利用できないが、無償でSモードを解除してWindows 10 Homeにするか、有償でWindows 10 Proへとアップグレードすれば、デスクトップアプリをインストールし利用可能となる。

 ただし、Yoga C630でOSをWindows 10 Home/Proにしたからと言って、すべてのデスクトップアプリが利用できるわけではない。Arm版Windows 10には、x86ベースのWin32アプリをArmベースのCPUで動作するようにリアルタイムにバイナリ変換しつつ動作させる機能が用意されるが、x64ベースのWin64アプリのバイナリ変換機能は用意されない。つまり、利用できるデスクトップアプリはArmネイティブアプリもしくはWin32アプリのみとなる。

Sモードを解除し、Windows 10 HomeまたはProにすれば、Win32デスクトップアプリをインストールし利用可能となる

 実際のアプリの動作について、まずはSモードの状態でチェックしてみた。WebブラウザのEdgeは軽快に動作し、Webアクセスはまったく不満がなかった。また、Win32アプリとなるExcelやWordなどは、起動はやや時間がかかるかな、という印象を受けるものの、起動後のテキスト入力などはとくに重さを感じることなく利用でき、こちらもほぼ不満なく利用できた。Sモードでは、利用できるアプリこそかぎられるが、動作に大きな問題はなさそうだ。

 ところで、Arm版Windows 10を利用する上で、デスクトップ版Win32アプリがどのように動作するかをチェックしないわけにはいかないだろう。そこで、Sモードを解除してWindows 10 Homeとし、いくつかアプリをインストールし利用してみた。

 普段筆者が利用しているテキストエディタやメーラーなどは、起動にはやや時間がかかるという印象だが、起動してしまうと動作が重いと感じる場面はほとんどなかった。しかし、Photoshopは写真データ(JPEGデータ)の読み込みや編集作業、データの保存など、どの作業もかなり動作が重いという印象だった。メモリが4GBしか搭載されていないという部分も大きく影響しているとは思うが、5枚の写真を開くだけでも20~30秒かかるといった感じでは、さすがに常用は厳しそうだ。

 デスクトップ版Win32アプリが動作するという点は、汎用性という意味で重要な部分だが、この部分にあまり大きな期待はしないほうがよさそうだ。

Photoshopも問題なく利用できたが、動作がかなり重く常用はかなり厳しい印象だ

 なお、念のためいくつかのベンチマークソフトを実行してみた。以下に結果を掲載しておくので、参考までに見てもらいたい。

GFXBench(Windows 10 Sモードで実行)
PCMark 8(Windows 10 Homeで実行)
CINEBENCH R11,5(Windows 10 Homeで実行)
CrystalDiskMark 6.0.1(Windows 10 Sモードで実行)

 続いてバッテリ駆動時間を検証してみた。Yoga C630の公称のバッテリ駆動時間は、最大約18.6時間(JEITAバッテリ動作時間測定法 Ver2.0での数字)とされている。

 それに対し、WindowsはSモードのままで、省電力設定を「バランス」、バックライト輝度を50%に設定し、無線LANを有効、SIMを装着せずワイヤレスWANは有効の状態で、本体内に保存したフルHD MP4動画を連続再生したところ、約16時間9分の駆動を確認した。

 公称には届いていないものの、この駆動時間なら1日の外出時にバッテリ切れになる心配はほとんどないはずだ。合わせて、SIMを装着し常時接続とした場合でも、10時間は問題なく確保できるものと思われる。省電力性に優れるSnapdragon 850らしく、バッテリ駆動時間に関してはまったく不安がないと言えるだろう。

ネイティブアプリの充実に期待

 Yoga C630を実際に利用してみて感じたのは、x86/x64 CPU搭載のPCと比べて、いい意味でも悪い意味でも大きな違いが感じられない、というものだった。確かに絶対的な性能に違いはあるものの、CPUのアーキテクチャの違いをユーザーが意識することなく利用できるという点から、完成度の高さが十分に感じられる。

 その上で、LTE対応のワイヤレスWAN機能を内蔵し常時接続を実現つつ長時間の駆動が可能という点は、モバイルPCとして大きな魅力となるだろう。

 とはいえ、やはりWin32アプリを利用する場合の動作の重さは、どうしても弱点となってしまう。すでにArm版Windows 10向け開発ツールは配布されており、ネイティブアプリの開発も進んでいることと思うが、現状ではまだネイティブアプリの数が少なく、Win32アプリの利用を余儀なくされる場面が多い。しかし、そのWin32アプリの動作の重さは、やはり競合に対する大きな弱点となってしまう。

 それでも、WebアクセスやOfficeアプリの利用といった、比較的動作の軽い用途での利用が中心であれば、現状でも大きな不満なく利用できる。そのため、常時接続を行ないながら長時間のバッテリ駆動が可能なビジネスモバイルを探している人であれば、十分に満足できるだろう。その上で、今後ネイティブアプリが充実してくれば、Yoga C630の魅力も大きく高まっていくはずだ。