Hothotレビュー
手のひらサイズの超小型プリンタ「RICOH Handy Printer」を試す
~重量315g、垂直面にも印刷できるモノクロのインクジェットプリンタ
2019年5月7日 12:59
リコーの「RICOH Handy Printer」は、さまざま場所への印刷が可能な、手のひらサイズの超小型プリンタだ。アプリ上でテキストを入力し、印字したい位置に本体を載せて横に動かすことで、プリンタに通らない紙や布などに、インクジェット方式での印刷が行なえる製品だ。
発表以来ネットで大きな話題となったこの製品、実売5万円台とそこそこ高額とはいえ、過去に存在したこのクラスのハンディプリンタは基本的に業務用で、個人ユースを想定した製品はほぼなかったこともあり、個人で興味を持って購入しているユーザーも少なくないようだ。
今回はメーカーから実機を借用できたので、なにができてなにができない製品なのか、具体的にどのような用途に使えるのかをチェックしていく。なお専用アプリ「Handy Printer by RICOH」は本稿執筆時点ではAndroidアプリのみがリリースされており、本稿ではそれを用いてレビューを行なっている。
片手で持って動かす超小型インクジェットプリンタ
まず外観と構造を紹介しよう。筐体を横から見た面積は121×81mm(幅×高さ)で、官製はがき(148×100mm)よりもふたまわりほど小さく、一方で厚みは46mmとそこそこある。大雑把にたとえるならば「縦にしたハガキの束をつかんで横に動かす」というのが感覚的に近いように思う。重量は約315g、スマートフォンおよそ2台分ということで、片手でも十分に持てる。
プリントヘッドを搭載した底面はインクヘッドカバーで覆われており、使用時に取り外す仕組みだ。この底面にはスライドレバーがついており、カバーを取り外すときにこれをどちらにスライドさせているかによって、直線的な移動(テキストやバーコード向け)か、あるいは上下左右の自由移動(画像向け)かを選択できる。
インクカートリッジは顔料インクを採用している。カラーは黒一色で、インクジェット方式のモノクロプリンタという扱いだ。将来的にカラー対応製品が出てくる可能性はあるだろうが、まずは今回のモデルがきちんと売れなければ、事業的にも先の展開はしにくいだろう。個人的には、ハードウェアを新しく用意しなくてはいけない4色カラーのモデル以前に、赤一色のカートリッジなどはニーズがありそうだと感じた。
アプリで入力したテキストを簡単印刷
利用にあたっては、まずAndroidデバイスに専用アプリ「Handy Printer by RICOH」をインストールした状態で、本体の印刷ボタンを長押しし、Bluetoothのペアリングを実行する。完了すると、アプリの画面でテキスト/QRコード/画像のいずれかを選び、それを本体に送信して印刷できるようになる。
では試しにテキストを印刷してみよう。アプリのメニュー画面を開き、テキスト/QRコード/画像のなかからテキストを選択し、印刷したい文言を入力。続いて「印刷」をタップし、枚数を指定して実行すれば、プリンタにデータが送信される。プリンタは自走式ではないので、画面の指示にしたがって、本体を手で持って動かしてやる必要がある。
位置合わせはややコツが必要
実際に試してみて感じるのは、まず「位置合わせが難しい」ことだ。製品ページには「本体側面と、印刷ガイドが交差するところ」が起点と説明されているが、それが具体的にどこを指すのか、またフォントサイズの変更時や縦書きの場合はどうなるのか、やってみなければわからないというのが正直なところだ。
というわけで、検証してみた結果が以下のとおりだが、印字はガイドのちょうど「左上」が起点となって印刷され、フォントサイズを変更した場合も左上を基準に拡大/縮小される。縦書きの場合も、ガイドの「左上」が基準になるようだ。
ただし、こうした基準位置がわかっていても、ミリ単位での印刷位置の調整は難しい。印をつけた紙や方眼紙を使って狙ったところに印刷できるよう練習したり、紙の下にカッティングマットを敷いてズレないようにする対策を施しても、5mm程度のズレは起こりうる。そうした特性を踏まえて用途を逆算したほうがよいだろう。
もう1つ、画像の印刷についてもチェックしておこう。画像は、デバイス内にある画像ファイルを指定すればよく、操作方法はテキストと変わらないのだが、複数行に分割して印刷することが、テキストと大きく異なる。
具体的には、ヘッダが通過する位置をずらしながら左→右、右→左へと移動させるのだが、インクが重なったり、あるいはスキマが発生したりと、微妙なズレはどうしても発生する。ベタ塗りではなく間隔が粗い点描などでは違和感も少ないが、いずれにせよ本製品の特性に合わせて絵柄の側を選ばなくてはならず、実用性はいまいちというのが正直な感想だ。
なにができてなにができないか
本製品は非常に汎用性が高く、使い方もユーザーの創意工夫にゆだねられる部分が大きい。そうした意味では、本製品でなにができるのかに加えて、なにができないのかも知っておくことが望ましい。ここでは本製品で「できること」と「できないこと」を、理由とともに見ていこう。
まず「なにに印刷できるか」だが、本製品が顔料インクを使用したインクジェット方式であることを知っておけば、おのずと特性は理解できる。つまり家庭用インクジェットプリンタと同じで、コピー用紙よりもインクジェット専用紙のほうがクオリティは上がる。またインクジェット印刷に対応したCD-ROMなどにも対応する。
一方で、フィルムやセロハンテープなどは、インクを弾くので印刷が行なえない。段ボールへの印刷はできるが、段ボールに封をしているガムテープには印刷ができない。このあたりはまさしくインクジェットプリンタの特性そのままだ。
また、布への印刷は、不可能ではないが、目の粗い布はインクが乗らないことに加えて、布の上を一定のペースで動かすのが難しく、印刷時に本体を布に押し付けすぎると、布が引っ張られて縦横の比率がおかしな文字が印刷されてしまう。また布の素材にもよるが、洗濯するとインクが落ちてしまう(後述)。
つまり、印刷できるか否かはあくまで素材によるので、インクが乗りさえすれば紙や布以外、たとえば壁紙などでも印刷は可能だ。バンクシーよろしく街中のあちこちに落書きをして回る用途にも使えるかもしれない(落書きは犯罪である。念のため)。
もう1つ「印刷時の条件」についても、知っておいたほうがよい。本製品での印刷には、印字部の下に一定の余白が必要になる。ヘッドの下にある光学センサーレンズが印刷面を読み取る必要があるためで、具体的には、印字の基準となるガイド左上を起点に、その下に45~50mmの余白が必要だ。
このほか、印刷する部分をヘッドが完全に通過しなくてはいけないので、本体の移動方向、つまり横書きだと右側に障害物がある場合も、本体がそれ以上移動できなくなり、印刷がストップしてしまう。たとえば(そうした用途があるかは不明だが)段ボール箱の内側になんらかの印刷を行なう場合、端まで印刷するのは難しい。
一方で、印刷面については自由度が高く、積み上げた段ボールの側面など、垂直面にも印刷が行なえるのは、本製品の強みだろう。また本体をひっくり返し、天井面に印刷することも可能だ。
ちなみに本製品はバッテリで約2時間の駆動が可能だが、本体側面にある充電用USBポートから給電を行ないながら使うこともできる。同じ内容を大量に印刷する場合などは、バッテリの減りを気にせず利用できるこの使い方のほうが便利そうだ。
具体的にどんな用途に使えるか
以上を踏まえて、具体的にどんな用途に使えるか考えてみよう。
「既存のプリンタでは印刷できず、手書きもなるべく避けたい」用途として真っ先に思いつくのは、祝儀などの宛名だろう。まさに本製品の用途としてはおあつらえ向きだが、台紙中央への垂直の印字を一発で決めるのは、かなりの練習を必要とする。
とくに祝儀袋のように、ミスをすると買い直しなどのコストが発生する場合は、事前の練習は欠かせない。台紙が動かないよう、テープで仮止めするなどの工夫も必要だろう(メーカーはカッティングマットに乗せることを推奨している)。
同じ理由で、封筒などの郵便番号の枠内に、ずれないように郵便番号を印刷するのは、かなり難しい。位置合わせの問題に加えて、アプリ側に文字間隔を調整するメニューが用意されておらず、半角スペースを間に入れて調整しなくてはいけないのもネックだ。
一方で差出人や宛名の印字のように、厳密な位置合わせが必要ない印字は、本製品向きと言っていいだろう。相手のメールの署名欄から住所をコピーしてそのままアプリに貼り付ければ、手入力すら不要だし、いったんアプリに登録しておけば、いつでも呼び出して使える。専用封筒を発注するほどでもない小ロットの印刷は、まさにおあつらえ向きだ。
ただし、封筒の裏面、折り目の段差にローラーがひっかかる場合があるのと、段差の部分はインクがうまく乗らないので、注意する必要はある。複数行の印刷にも対応するが、2行目以降の位置がずれると不格好なので、こちらもやはり事前のテストは欠かせない。
同じく業務用途では、段ボールなどへのバーコード印刷や、管理ラベルの印刷はお手の物だ(バーコードの印刷には同社サイトで公開されているSDKが必要)。連番を印刷する機能もあるので、印字しながら在庫の個数をカウントすることもできる。
なおQRコードについては、一辺のサイズが最大12.7mmまでと、1行で印刷できるサイズに抑えられている。おそらく2行以上に分けて印刷すると読み取りの精度が下がって使いものにならないためだろう。実質的には、名刺などに追加でQRコードを入れる用途くらいではないだろうか。
兄弟姉妹が多い家族で、肌着などに名前を書く用途に使えると便利そうだが、前述のように布の素材を選ぶのと、印刷時に横方向に変倍がかかりがちなのがネックだ。また素材にもよるが、洗濯を繰り返すとじょじょに消えていき、1~2回の洗濯でほぼ見えなくなることもある。
ただし洗濯が不要か、もしくは洗濯の頻度が少ない用途であれば、使いみちはある。たとえば、上履きに名前を書く場合や、あるいはコスプレや学芸会の衣装、スポーツイベントなどで単発で使うゼッケンのように、1回使ってそれっきりになる用途であれば、役立つこともありそうだ。
余談だが、ちょっと変わったところでは、肌への印刷もできてしまう。強くこすればすぐに取れてしまうほか、石鹸水で洗い流せば簡単に落ちてしまうレベルだが、なにかしら使いみちはあるかもしれない。ちなみに同社のFAQでは肌へのプリントについてはっきりと「できません」と記されているので、あくまで非推奨ということになる。
汎用性は抜群、価格なりの価値はある一品
以上のように、単に印刷するだけならば誰にでも簡単に扱える一方で、位置合わせなど特性を理解してしっかりと使いこなすには、相応の慣れが必要になる製品だ。
とくに複数行の印刷や画像印刷など、すでに印刷済みの行と位置を合わせての印刷は難易度が高く、これをマスターするには、とにかく数をこなすのが手っ取り早いだろう。本製品の使い方をいち早くマスターした人が、ハンディプリンタ要員として社内で引っ張りだこになる(酷使されるとも言う)光景が目に浮かぶようである。
競合と呼べる製品はあまり見当たらないが、強いて挙げればラベルプリンタだろう。本製品であれば、わざわざラベルに出力して貼りつけるという二度手間をかけなくても直接印刷でき、見栄えもよい。また直接印字できない素材であっても、インクジェットプリンタ用のラベルに印字してから貼り付ければ、実質的にラベルプリンタの代替にもなる。そうした意味で、汎用性は非常に高い。
ともあれ、しっかり使い込んでモノにしさえすれば、5万円台という価格なりの価値は十分にあり、一家に1台、オフィスに1台あるときわめて便利だろう。過去のハンディプリンタとは似ているようでまったく異なる製品ゆえ、今後ユーザーの手でどのような用途が生み出されるのか、じつに楽しみである。入手した人は、今回紹介したような特徴も踏まえつつ、自分なりの使い方を探してみてほしい。